支配してもいいですか?

taxi

迫真の演技




 今は昔。それは戦乱の世と呼ばれた時代。その時代は数多の魔王が出現し、それを倒すため奮闘する勇者やその仲間達が世界各地を駆け巡っていた時代。


 その勇者は、この世界最初に召喚されたリエという女性だった。勇者リエの実力は尋常ではなく、彼女は空間を操ったり、何もないところから物体を生み出した。その圧倒的な能力で、あと1人の魔王を残して、全ての魔王を駆逐したと言われている。

 そして、その時代最後にして最強と呼ばれた魔王ギンを討伐するため世界を巻き込んだ戦争が起きた。

 多くの苦難を乗り越え、やっと魔王ギンの討伐に成功した勇者一行。しかし、その中には勇者リエはいなかった。

 彼女は魔王ギンとの戦いで力を使い果たし、そのまま深い眠りついたのだと伝えられている。


 のちにこれを『聖戦』と呼ぶ。


 だが、著者である私、クルトゥシュはこの伝承に違和感を感じた。はて? これは私だけに感じるのだろうか? 他の誰に言っても何一つ肯定されない。最早、作為的なモノすら感じるほどに。


 故に私は調べてみようと思う。
 この世の全てを。
 この世の仕組みを。

 例えそれが……世界のことわりに、神の意に背いたとしても。


 



 ♢


 パタンッ

 本はそこで終わっていた。
 俺は、今日の夜にある会合までの時間を首都グリシャ内にある王立図書館で時間を潰していた。

 ん? 昨日の夜の出来事はどうなったかって? それはもう怖いほどにみんなすっぱり忘れてくれてるよ。そっちじゃない? あー眷属の話か。
 あれはとりあえず影に詰めた。何度か這い上がって来たけど。力づくで押さえつけたら、もう出てこなくなったよ。少なくとも当分は出てこないとは思う。
 まぁ、都市内に居るときに出て来たらそれこそ大騒ぎになるので、影に潜んでくれていた方が都合が良いのだ。


 それにこの世界での精霊殺害って重罪らしく、攻撃するだけでも死刑に近い刑が課せられるらしい。つまり、殺してはしてはいないものの攻撃した事がバレたら俺がヤバイのだ。だから、あの精霊が俺になつき、俺が攻撃した事を言わないように調教したら外に出してやるつもりだ。


 面倒ごとから逃げた訳ではないぞ? 決してそれはない。うん。

 ともかく、終わった事だ。過去を振り返るよりも今の方が大事である。ので、俺は今夜の会合の予習として、この世界での礼儀作法や勇者や魔王の歴史を読んでいたのである。

 先程の資料は著者クルトゥシュの『聖戦の謎』。それ以外は、著者不明の『嗚呼ああ、偉大なる主神オーディン』という重度の信者が書いたと思われる本と『傲慢なる堕天使ルシファー』というものだった。

 前者には、主神オーディンがこの世界の創造主である事とどれだけ偉大であるかを唱えた、所謂いわゆる聖書と呼ばれるものだ。何教かは知らないが、恐らくはこの世界の大半の人々が信仰しているのではないだろうか?

 後者は偉大な熾天使してんしが傲慢にも神と己を同列と考えた挙句、反逆するという事件を起こし、最終的には天界に居る天使の3分の1と共にに堕天使へと堕ちたルシファーの事をしるしたものであった。

 他は礼儀作法の本とかも読んでみたが、地球の礼儀作法と大差なかったためそこまで必要としなかった。


 そろそろ時間だろうか?






 王立図書館で様々な本を読みながら過ごし会合までの時間を潰しだ俺は、今読んでいた本を閉じ出口から外に出る。確かそこに迎えの馬車が止まって居るはずだ。
 事前に俺が王立図書館に行く事を伝えておいたため集合場所も必然的に此処ここになってしまった。

 すると、そこには豪華な馬車が止まっていた。明らかに場違い過ぎる馬車に、近くを通った人は目を見開いている。

 まさかあれか? いやいや、流石にそれはないだろう。まぁ、他に見当たらないからとりあえずアレに乗るか。

 俺は違うとは思いながらも、豪華な馬車に乗車し、馬車内のふかふかな椅子……というよりも、ソファーっぽいものに座る。









 「姫様! いけません姫様。何処の誰に狙われているかも分からない状況で……」

 「止めないでレイム。私は勇者様に会わなければならないのです」

 「いけません。私はあなた様を王直々の命令により預かっておりまするゆえに、あなた様の安全を第一に考えなければならないのです。だから……あっ、姫様!」

 しばらくして何やら外が騒がしくなってきた。それと同時に馬車に誰かが入って来たようだ。入って来たのは、華麗なドレスに身を包んだ少女であり、恐らくは先程、従者らしき人と口論になっていた何処かの国の姫様なのだろう。因みに銀髪ロング で整った顔立ちをしている。……なんだろう? 何処かで見た顔だな。

 俺が乗車して来た少女を凝視していると目が合った。少女はパチクリと大きな瞳を瞬きさせると、目をこすり始めた。

 「あれ? おかしいです。私は幻でも見てるのでしょうか? いるはずのない場所に人がいるのですが」

 そう少女が問いかけると、従者らしき人も馬車に乗って来た。

 「姫様。そんな事あるはずもな……い……ありましたね」

 交差する視線。俺は今頃、乗る馬車を間違えた事に気付いた。確かに多少おかしいとは思っていたが、深く考えずこの馬車に乗った過去の自分を殴りたい。

 「ど、どうも」

 俺はとりあえずそう言うしかなかった。逆にそれ以外に何を言えばいいんだ? ……いや色々あるな。テンパり過ぎて自分の行動を支配コントロールしきれない。

 あっ、剣を突き付けられた。

 こんな事で殺されるのも嫌なので、腰に装備している剣を下に置き、両手をあげる。

 「貴様、何者だ! この方をグリシャ王国第一王女リリィ様であると知っての所業か! ま、まさか……貴様! 先日、Bランクの冒険者パーティを殺害した者か! 早くお逃げください姫様!」

 ええええ!?

 どうやらテンパっているのは俺だけじゃなかったみたいだ。てか、幾ら何でもテンパり過ぎだろ。こっちは武器を捨ててるんだぞ? 
 百歩譲ったとして、殺すつもりでもわざわざこんな人通りが多い場所で殺すはずもないだろうに。

 「落ち着いてレイム。もし殺そうとしていたならば武器を下に置いて降伏のポーズをとるはずないですもの」

 剣先を震わせながら突き付けているレイムをリリィが諌める。落ち着きを取り戻したレイムは少し……いや、かなり顔を赤く染めて恥ずかしそうに剣を鞘に収めた。

 その様子を見て俺は安堵の息を吐く。だがそれも一瞬の事。直ぐにここに居た理由を問われたらどうしようか、という問題が俺の頭を悩ませる。

 「ゴホン! ……よくよく考えればそうですね。では何故、この馬車に乗っているのですか?」

 案の定レイムはここに居た理由とその経緯を聞いてきた。

 誤魔化すか? だが、別に王女暗殺を企てていた訳でもないし、ここは正直に馬車を間違えたと言った方が良いだろう。ただ、俺はこの世界の事をよく知らない。
 もしかしたら王族やそれに準じる階級の貴族の馬車に断りも入れず乗っただけで死刑などという法があるかもしれない。

 考えろ俺! この状況を打破する理由を!

 む? そもそも待てよ? 何故、この国の王女がこんな所に居るんだ? しかも、先程レイムの言葉を振り返ってみると命が危険だの何だのとほざいていた。それに、先日Bランク冒険者パーティを殺した者とも言っていたが、それが王女と何の関わり合いがある?

 友人? それはない。恋人? それもない。護衛? 何の? そう言えばリリィは勇者に会わなければならないと言っていた。

 今晩、勇者に会える場所

 『会合』

 そうか! つまり、リリィ……いや王女様とでも呼ぼうか。王女様は今夜の会合に参加するためBランクの冒険者パーティを護衛につけていた。しかし、先日何者かに殺害され、己に危険が迫っている事を察知。だが、それでも今夜の会合に参加しなければならない重要な用件があると。そのために新しく冒険者を雇おうと冒険者ギルドに掛け合っていたという事か? それなら辻褄があう。

 この推測が合っているならば、何とかなるかもしれない。もし間違っても最悪逃げればいい話だ。ただ、俺の特徴が書かれた手配書が世に出回る事になるだろうが。まぁ、顔を見られてないし何とかなるだろう。

 そう思い俺は嘘だとバレないよう平坦かつ抑揚のない声を用い、訝しげに見てくる王女とその従者に説明する。

 「私はただ冒険者ギルドにて貴方様がお困りであると聞き及んだため、今夜の会合で貴方様の護衛をさせていただきたく思いここに馳せ参じました。一端いっぱしの冒険者である私がこのような事をするのは不敬に当たるのは承知の上であります。ですが、これも全て敬愛するリリィ様のためにございます。どうか、私に貴女様を守る盾となる事をお許しください」

 これでどうだろうか? これでも演技力には自信がある。上手く騙せると良いのだが。

 俺の心配とは裏腹に、リリィとレイムは俺の虚言を鵜呑みにしている。どうやら、俺の推測が的中したようだ。2人の間でヒソヒソと言葉が交わされている。俺を護衛につけるか決めているのだろう。

 少しすると、2人は会話をやめて王女様リリィが俺に近寄ってきた。それと同時に薄ピンク色の唇を震わせ、俺に護衛任務を命ずる。

 「良いでしょう。貴方にこの私の守護を任せます!」

 「ハッ! あり難き幸せ」

 そう言うと俺は剣を腰にさし、晴れて王女様の護衛となった。ホッとした反面2人の愚直すぎる人柄に申し訳なさを感じる。

 僅かな罪悪感を感じながらも俺を乗せた馬車は会合が行われる王城へ刻々と近づいていく。








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