支配してもいいですか?
王都での夜
「ーーまぁ、前々から少しおかしいなと思ってたんだ。妙に自信家だし、貴族でも無いのに字も読めるし、それに実力があるのに誰にも仕えてないという事から、推測はしてた」
鑑定で見たから、なんて事は言えないので適当な理由を述べて俺はこの場の回避を試みる。転生者2人組は今の説明で納得したらしく、何かの重荷が降りたような顔をしている。
恐らくは転生者である事で俺が2人を拒絶すると思っていたのだろう。そんな事は万が一にも、いや億が一にもないと言うのに。
ただ、この王都に来た目的と転生者であるという事は何の因果関係があるのだろうか? 転生者と言う事実を告白するのは別にレグルスの街でも出来たはず。
しかし、馬車での発言を顧みたところ、転生者である事と王都に来た事は何かしらの関連性がある事が分かる。さては、まだ別の秘密があるのだろうか?
「で、王都に来た目的は何だ? 俺にはどうも転生者と王都に来るという事に関連性を見出せないのだが」
そもそも考察しようにも情報が足りなさ過ぎて、考えても無駄だと踏んだ俺は、未だ安堵の中にいる2人に問いかける。しかし、その答えは問いかけた2人とは全く別の方向から返ってきた。
「王都で『会合』があるからさ!」
俺は声のした方向に振り返ると、そこには昼間に出会った3人組がいた。
もちろん、筋肉むきむきの方じゃなく俺達と同じくらいの年齢の3人組の方だぞ?
「会合?」
「そう! 会合さ! おっとその前に自己紹介しとこうか! 俺は桐沢 蓮二。趣味は体を動かすこと。因みに俺も転生者なんだ。よろしくな!」
レンジはそういうと俺に手を出してきた。握手を求めているのだろうか? 俺はとりあえずレンジと握手をし、端的に自己紹介を済ます。
「カムイだ」
俺の自己紹介が終わると、レンジの後ろにいた2人も渋々ながら俺の前に顔を出した。2人共違う理由だろうが、少年の方は俺を睥睨している事から昼間の事を良く思ってない事が分かる。ボブカットの少女の方はただ単に人と会話するのが苦手なだけだろう。
「同じく転生者の宮本 颯太だ。言っとくが、俺はお前に感謝なんかしてないぞ! 俺ならあんな奴らなんて簡単に倒せたんだ!」
「ちょ、ちょっとソウタ君。助けて貰ったのに失礼だよ。……あっ、私は三好 莉亜と言います。……転生者です。そのギルドでは助けてくださり……ありがとうございました」
最初から俺に敵対心剥き出しのソウタ。それを諌めようとするリア。性格は全然違うが、所々リンタとカレンに似ている気がする。まぁ、そんな事より『会合』について話を戻そう。
「で、『会合』というのはどんなものなんだ?」
「んーなんて言えば良いのか、簡単に言うと転生者や召喚された勇者様方とのパーティかな?」
俺の問いにはレンジが答えた。
なるほど、転生者達のパーティか。
「ん? それって何の意味があるんだ?」
「いや、正確には色々な国の王族や貴族、それに加え有力商人や高ランク冒険者達も来るらしい。目的としては魔王を倒すための顔合わせみたいな感じらしいな。もちろん、パーティに参加したら絶対魔王を倒すために協力しなければいけないわけじゃない。転生者達の多くはこの世界で自分と同じ環境の奴等と会いたいとかじゃないか?」
またしてもレンジが答えてくれた。中々良い奴だなこいつ。
【……我が主様ながらチョロいな】
ルシファーの呆れたような声を聞こえてくるが、無視を決め込む。何だろう? ルシファーはいつもため息ばかりをしている気がする。
【そうさせているのは主様だけどな】
そうだろうか? まぁ、それはともかく今は会合の事についてだ。とりあえず己の中に燻る疑問を問いかける事にした。
「ん? そう言えばその会合ってのはいつやるんだ?」
「えっ! カムイお前そんな事も知らなかったのか! 明日だぞ? それに顔合わせみたいなものと言っても歴としたパーティには変わらないから、正装で行かなければ行けないんだぞ!」
俺はその言葉を聞いた瞬間、向かい側の席で口笛を吹いている2人を睥睨する。俺の視線に気づいた2人はビクッとした後、誤魔化すように俺に微笑んで来た。
「だ、大丈夫よ! 今日の昼にカムイ用のスーツを買って来たから! そ、それにカムイに合わせてフード付きのものなのよ!」
俺の視線に耐え切れなくなったカレンが慌てふためきながら、既にスーツを買っている事を告げた。
いや、何で俺のサイズが分かるんだよ。絶対推測だろ。それにフード付きのスーツって何? 
案の定、カレン達が購入したというスーツは俺のサイズに全くと言って良いほど合っていない。とりあえずパーティには今の姿のまま出る事にした。
何でも、冒険者は別に正装に着替えなくてもいいらしい。流石に見すぼらしい姿は駄目らしいが、ある程度清潔性を保っている服装であれば大丈夫なのだとか。
「……あとは、貴族や王族に対しての礼儀作法とか食事マナーとか? もし王族なんかの気分を害したら打ち首もあり得るからな」
「それは大丈夫だ。他にはないのか?」
「他はーー」
♢
「ーーそうか、ありがとう」
「いや、大した事じゃないさ! 会合の説明も終わった事だし、俺らはもう宿に帰るよ。じゃあまた明日な!」
酒場の入り口で手を振るレンジ達に俺も軽く手を上げる。大分、明日の会合について話し込んでしまった。カレン達は先に宿に向かったが、俺はどうしようか。
このまま宿に帰って寝るのも良いが、宿には帰らずどこかの空き地で魔法の練習したいという気持ちもある。
【余は魔法の練習をするべきだと思うがな。明日の会合とやらでどんな奴がいるか分からん故に】
……確かに。気に食わないという理由だけで突っかかってくる輩もいないとは限らないしな。それに予測不能の事態に陥った際、使える手札が多いに越した事はない。
思い立ったが吉日、俺はマップを行使して王都内の人目につかない空き地を探した。すると、丁度近くに人目に付かなそうな空き地を発見した。俺はすぐさま空き地へと向かい魔法の練習を始める。
ここでは火魔法は色々と危険なので、闇魔法と時空魔法を中心に発動しているのだが、時空魔法はまだ使った事がないため様々な方法で探り探り発動していく。
「……こうか? いや、こうやって……いやいや、うーん? 上手くいかない」
【ふむ、中々苦戦しているようだな主様よ。どれ、余が教授してやろう。暫し待て主様よ。実体化する故に】
ルシファーはそう言うと、俺の目の前に一瞬にして現れた。その姿は、青白い月光に照らされて幻想的な美を醸し出している。
こうして見るとつくづく綺麗だと思う。まぁ、外見などただの仮面でしかないのだが。人の本質の最たるは人格、つまり『心の美しさ』だと俺は思っている。
半ば虚な俺の視線を受けたルシファーはこちらを見て余に惚れたか? などと世迷言を言ってきた。
「……大丈夫だ。それはない。ただ、外見は美しい、そう思っただけさ」
【うむ、あくまでも外見はか……。ここも深く追求しない方が良さそうだな。うむ、それは置いとくとして、現在余がやるべきは固有魔法の使用法の教授であろう? 本題に戻らせてもらうぞ】
「構わない。別に話を変えた訳でもないしな。それで、肝心の固有魔法はどうやって発動させるんだ?」
俺の問い掛けにルシファーは得意げな笑みをこぼし、説明を始めた。
【うむ、固有魔法とはその者独自の魔法であり、その者以外は使えぬ特別な魔法の事である。故に魔法と固有魔法では能力に雲泥の差が生まれるのだ。また消費する魔力まで大きくなる。それに加えて、固有魔法は繊細な魔力操作を必要とする。故に、ただの魔法とは発動するための難易度も感覚も違うと言う事だ】
「……それは分かった。で、どうやってやるんだ?」
【そう焦るでない主様よ。確か主様はある者の魔法を見て魔法の使い方を学んだと言っていたな? であらば、主様には理論的に説明するより、実演した方が良いだろう。故に、今から余の固有魔法を1つだけ見せてやろう】
そう言うと、ルシファーは俺から離れた。
【我、闇に堕ちし者、我、光遮る者、汝魔力を糧とし深淵をもたらさんことを『深淵なる世界』】
ルシファーが発した呪文により、空き地全体が揺らめき始める。感覚は曖昧に、空間は朧げになっていく。次第に地を照らしていた月光も消え、何もなかった空き地は全身を締め付けるような寒さと共に薄暗い場所へと変わった。
そこはまさに死者の世界の如く。
【ふふん、どうだ主様よ。これが余の固有魔法『深淵魔法』である。この『深淵なる世界』でさえ『深淵魔法』の力の一端に過ぎん。ところで、主様よ。固有魔法の使い方は理解したか?】
俺は唖然としていて声も出ない。
いやいやいや、嘘だろ。
そんな表情を見てルシファーはまたも誇らしげに胸を張る。
「……お前」
【ん? 何だ主様よ。今更余の凄さに気付いたのか?】
俺は途轍もなく驚いている。それはもうこれ以上無いほどに。
ルシファーの魔法は空き地だけに留まらず、その近くの住宅地まで影響を及ぼしているのである。しかし、俺は別に魔法の影響力に驚嘆した訳では無い。
確かにルシファーの魔法の凄さは認める。認めはするが、俺が真に驚いたのはーー
ーー後のことを考えないルシファーの馬鹿さ加減である。
「……ルシファーお前。……こんな事……こんな事したら、大騒ぎになるだろうが〜〜 ︎」
地獄へと化した空き地に俺の怒号が響き渡った。
どうも作者のtaxiです。
最近は忙しくてなかなか投稿出来ませんでした。
次の話はもう少し早く投稿出来るよう頑張ります!
コメント
某県民ソノイチ
いつも、楽しみにしてます!