支配してもいいですか?

taxi

遭遇





 【主様よ、1つ聞きたい事があるのだが良いか?】

 ん? 何だ? 

 【主様よ。ここはどこなのだ?】

 そう言われて、辺りを見渡すと狭く薄暗い路地にいた。足下には食いかけの食べ物が捨てられており、その近くには蝿が群がっている。当然ながらこの場所には誰も居ない。

 なぁ、ルシファー。

 【何だ? 主様】

 ここはどこなんだ?

 【それは余が知りたいくらいだ】

 そうか…………………

 【そうだ…………………】

 2人で頷きあうと少し間を置いて叫んだ。

 「【迷った〜〜!】」

 見事に重なり合う声は共鳴し、この閑散とした路地に響き渡る。しかし、ずっと叫んでるわけにはいかないので、頃合いを見て歩き出す。もちろん、口を閉じた後だが。
 すると、俺達の前に1つの人影が見えた。道に迷っている俺達は、人影が見えるとすぐさま大通りへの行き方を教わろうとその人影に詰め寄る。あちらもこっちに気付いたようで、軽く会釈をして来た。見た感じだと、気品の良い少女のようだ。

 「……悪いが、俺達・・は道に迷ってしまってな、良ければ大通りまで案内してくれないか?」

 【む、主様よ! 余は主様の中にいるのだから此奴に見えるわけなかろう。故に、俺達ではなく俺であろう?】

 しまった。さっきまで会話していたからてっきり2人でいる気分になってたよ。まぁ、恐らくは大丈夫だろう。あっちも聞き間違いかな? くらいに思ってくれるさ。

 案の定、少女は不思議そうな顔をした後、どこか納得したような顔をして、紅く魅惑的な唇を動かした。

 「あら? 貴方達も? 実は私達・・もなの?」

 ん? 聞き間違いだろうか? 今、目の前の少女も私達・・って言ったような。

 不思議に思い少女をまじまじと見て見たが、やはり1人だけだ。つまりーーそう言う事なのだろう。

 その結論に至った俺は警戒心を最大まで引き上げ、再度目の前の少女の容姿や重心を観察する。また、それと並行して鑑定もしてみるーー何? 出来ないだと? どういう事だ? それから何度も試してみるもあえなく失敗。
 渋々ながら鑑定する事は諦める。

 鑑定以外の分析で分かった事は、彼女が銀髪紅眼の美少女であり、背丈は150センチほどと言うことだけだ。鑑定・・出来ないという事を除けば普通の少女。
 だが、鑑定が使えない時点でおかしい。いや、正確にはスキルが使えないと言った方が適切だ。

 常時発動型のスキルは大丈夫なのだが、『絶対鑑定』などの臨時発動型のスキルは一切合切いっさいがっさい使用できない。

 「……何者だ?」

 「ふふふ、そう熱くならないで。敵意はないから。本当に私達も迷子なのよ? ただ貴方が私に魅了・・されなかったから興味を持っただけだから。だって、初めてなんだもの? 私に見惚れない人族・・なんて」

 そう言って少女はその容姿からは想像もつかないほどの妖艶な笑みを浮かべ抱き付いくる。俺は咄嗟のことで動く事が出来ず、為すがままになってしまう。


 「……くっ! 離れろ!」

 俺はこのままじゃ危険な気がして、即座に少女を己から引き剥がす。そうすると、少女はキョトンと不思議な顔をして首を傾げる。

 「えっ、嘘でしょ? これで落ちないオスがいるなんて……ふふ、ふふふふ。何かしらこの内側から燃えるような気持ちは。不思議ね、怒りとも闘争心とも違うわ。そう言えば貴方、お名前は?」

 「……カムイだ。お前は?」

 素っ気なく答えると、少女はまたしても妖しい笑みをこぼし、その名を言う。

 「アワリティアよ。カムイには特別にティアって呼ぶ事を許すわ? 光栄に思って良いわよ? この私を名前で呼んで良いのは今のところカムイだけなのだから。あら、寂しいけれどそろそろ時間だわ。また逢いましょう、カムイ」

 チュッと投げキッスをしたティアは俺に別れを告げると一瞬にして視界から消えた。

 【また厄介な奴に好かれたな……主様よ】

 ティアを知っているのか?

 【いや、先程の少女は知らんがスキルを使えなくする空間といい、あの妖しい雰囲気といい、ティアとやらの中にいる奴には見当がつく。だが、まだ確実とは言えない故に正体は言わないでおこう】

 そうか。別に良いさ、推測だが俺も心当たりがあるからな。



 ……ところで、結局ここはどこなんだ?

 「【…………】」

 ただでさえ薄暗い空気がその問いにより、ますます鬱々たる空気になっていく。そして、その路地には俺の足音しか響かなかった。








 カツンカツン

 甲高く響き渡る足音。その足音には喜色が滲んでいる。

 【嬉しそうね。そんなにの事気に入ったのかしら? 今までどんなモノ・・にも興味を示さなかった貴方が】

 「ええ、だってそそるじゃない。私にこれっぽっちも興味を持たない男なんて」

 【ウフフ、まさか貴方が恋をするなんてね】

 「……ちょっ! そ、しょんなんじゃないんだから! 言葉に気をつけなさいアスモデウス・・・・・・! そ、そうね。この感情はどちらかといえば面白そうな玩具を見つけた様な嬉しさ? なのかしら? そうよ! きっとそうなの。この私がたかが人族に惚れるなんてあり得ないわ」

 【照れちゃって、ウフフ。あら、楽しい恋バナタイムも終了みたい】

 「だ、だから恋バナなんかじゃ……でも、確かにこんな事してる場合じゃないみたいね」

 そう言って、【色欲】の魔王であるアワリティアは目の前にある巨大な扉を開く。

 そう、ここは魔王会議に使われる未知の場所。使っている本人達ですら正確な位置を知り得ない謎の領域。
 ただ分かる事はこの扉の向こう側は、ヴァルハラこの世界とは別の世界に繋がっているという事だけ。


 ♢



 ここはグリシャ王国の首都であるグリシャの酒場。
 そこは騒然としていて、活気に溢れている。しかし、とある一角ではもはや別世界と思えるほど暗く陰鬱な雰囲気が漂っていた。


 「……あ、あのねカムイ。さっきのは私達が悪かったし、後から気づいたんだけどカムイが私達の事を守ってくれていた事も知ってる。だから、ごめんなさい」

 そう言ってカレンは謝ってくるが、その隣にいるリンタは不貞腐れたようにプイッと明後日の方向を見ている。その事をカレンが咎めているが、それでもリンタは言う事を聞かない。

 まぁ、別に謝罪が欲しいわけじゃないから良いんだけどな。

 「別に良いさ、俺の方も何も説明せずに悪かったな」

 本心ではないが、とりあえずこの場の空気をほぐすためにこちらも謝罪をする。

 お互いに謝罪を述べた事で話が終わったと思った俺は席を立とうと足に力を込める。だが、まだ話は終わってなかったらしくカレンが慌てて俺を椅子に抑えつけてきた。

 痛い痛い痛い。 抑えつける力強い過ぎだろ!

 カレンの抑えつける力が思いの外強く、思わず手を払いそうになった。だが、直前で踏み止まりカレンの手を優しくどかす。

 「……で? 次は何の話だ?」

 肩の痛みが和らいぐと、そう言ってカレン達に話を促す。

 「その……私達が馬車で話があるって言ったじゃない? その事なんだけど……えっとね」

 やはり、その件か。
 俺は2人の秘密を明かした時のリアクションを考える。大袈裟に驚いた方が良いだろうか? はたまた、知ってました風にいこうか? どうすれば良いんだろうか。

 【何となく察していた風に演じれば良いのではないか? 別にこの時期に転生者など珍しくもないからな】

 時期・・? 

 「私達……その、転生者なの」

 ルシファーの発言を不思議に思い問おうとしたーーのだが、それと同時にカレンが転生者であると言う告白をした。俺は、慌てて思考を停止して意識を外界へと向ける。

 「ん? ……………あ、ああその事か。何となく気付いていたぞ?」

 妙な間が空いてしまったが、まぁ許容範囲だろう。そう思って、カレンの反応を確認する。

 「えっ! ええぇぇ!」

 すると、俺の答えが予想外だったのかカレン悲鳴の様な声が酒場に鳴り響く。周りの人々は、なんだなんだとばかりに俺たちへと視線を向けてくる。

 しかし、視線を集める原因となった当の本人はその事を気にもせず、こちらをジッと見つめている。

 恐らくは聞きたい事があるのだろう。だが、聞きたい事が多過ぎて何から聞けば良いか戸惑っているって感じだろうか?

 「……どう言う事か、説明してくれますよね?」

 しばらくカレンと視線を交差していると、痺れを切らしたのか、リンタが俺に問う。


 その言葉に俺は深く頷き、その合間に即興で転生者2人組に説明する内容を精査するのであった。












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