支配してもいいですか?

taxi

勇者side これからのこと






 「この部屋でございます勇者ミツキ様。夕食の時間にはまたお呼びしますので、その時までここで待機していて下さいませ」


 ガチャ


 「……はぁ」


 ボスンッ

 私専属の侍女が部屋を出て行くと私は大きなため息をつきベットに横たわる。フカフカのベットが私の疲れた精神を癒していく。


 あの後、色々と説明を聞いてたから疲れちゃった。私、ずっと優等生モードをオンにしていたから、精神的な疲労が半端じゃないのよね。


 はぁ、それにしても勇者とか冗談じゃない! 確かに、みんながやらないのなら私が勇者となりましょう。
 しかし、別に私でなくとも良いならば率先してやる気にはならないーー

 ーーそういって断りたかったけど、出来なかった。


 だって、リリシアが潤んだ瞳で乞うように見つめてくるのだもの。必要とされるのならば力になりたい、それが私の生き甲斐がいだから。


 それに……もう誰も失いたくない。


 だから、私の出来る限り勇者として役目をまっとうする。そのためにも、さっき教えてもらったことを復習しなきゃ!

 まぁ、人族、獣人族、森精種は置いといて、1番重要なのはやっぱり魔族。

 私達の敵、魔族アスラは人族と容姿はほぼ一緒。だけど、魔物を操る力を持ち、魔力、身体能力共に非常に高い種族。

 そして、その魔族を従えているのが『魔王』。圧倒的な魔力と強大な力を持つ人族の、いや世界の敵。

 私達の召喚理由は、魔王を倒し世界を救うため。




 義兄こうきさんと舞が魔王を倒すため勇者になる事を了承した事もあって、勇者になる事を了承した私だけど、やはり今でも不安や迷いがある。
 それもそうだ、だって地球とは違う法律や価値観、文化などがいつ私達に牙を剥くかも分からない。地球と同じような感じで過ごしてたら、大切な人を失うかもしれないのだ。


 とてもではないが、これを楽観視する事は出来なかった。まぁ、楽観視してる人が2名いるのだが……でも、だからこそ私だけは慎重にならなければいけない。2人が危険な時にいつでも手助けできるように。



 私はいつか来るであろう苦難を乗り越えるため、己のすべき事を認識し、いつその時が来ても良いように記憶に留めておく。










 ♢

 トントン

 「夕食の準備が整いましたので、お迎えにあがりました」

 「分かりました。すぐに行きます」

 ガチャ

 迎えに来た侍女の呼び掛けに答え、私は部屋を出る。すると、それを確認した侍女は王城の長い廊下を歩き始めた。おそらくは、彼女について行けば食事処に着くのだろう。そう思い、私は彼女の半歩後ろを歩く。


 「……ミツキ様は……その……どう思っているのですか?」


 半歩先の侍女がおずおずと口を開いた。その声は少し震えていて、罪悪感を孕んでいる。
 ここからでは侍女の表情を見る事は出来ないが、彼女の表情は暗く陰っていることだろう。
 彼女が責任を感じることはないと言うのに、そこまで彼女が罪を意識している事が妙だった。しかし、問われたならば返答しなければ失礼に当たるため私は今、己の内で燻っている気持ちを彼女にぶつける。


 「勇者召喚ですか? そう……ですね、正直に言うと不安で仕方ないです。でも、私がやらなければ結局違う人が同じ事をやらなければなりません。そうならないために私は勇者に、人々の希望になりましょう」


 「そうですか……でも、決して無理はなさらないでくださいね」


 そう言うと、侍女は失礼します、と一言告げてどこかに行ってしまった。私が不思議に思っていると、ようやく彼女がいなくなった理由に気づく。もう食事処についていたのだ。
 そしてまた奇妙な事が起きた。先程まで果てしなく続いていると思われた廊下はおぼろげにかすみ、こちらも侍女のように幻が如く消えたのだ。
 今では、この食事処の入り口からでも私の部屋が視認できる。


 どういう事? さっきまで私は幻を見ていた? なら、さっき私を案内してくれた侍女は……誰?


 この不可思議な現象について思考していると背後から何者かの気配が接近して来た。先程の侍女の件もあり、警戒度マックスだった私は思わず、振り向きざまに拳を繰り出していた。

 ドスッ

 鈍い音がした。

 「かはっ……ううぅ、痛い。何するのよ〜美月!」

 「あっ、ごめん! 」

 どうやら、舞がただ私を驚かそうとしてただけみたいだ。舞は私の渾身の一撃を喰らい、お腹を抑えてうずくまっている。その瞳の端には大粒の涙があり、私を恨めがましそうに睥睨へいげいしている。


 まぁ、そうなるわよね。いや、ホント反省してます。いや、でもあんな事起こった後だったから仕方ないわよね! 全ては、そう! あの奇妙な侍女の所為よ!


 心の中で必死に言い訳するも、それが舞に伝わるわけもなく、舞はまだ鋭い目線を私に送ってくる。謝ったから、許してはくれるだろうが、文句の1つくらい言いたいのだろう。私はそれを甘んじて受け入れなければならない。というか、それで済むなら安いもんだ。

 しかし、私の予想通りにはいかなかった。いい意味で。なんと舞が笑いながら、そういう事もあるよね〜、と私を慈しむような目で見て来たのだ。


 おそらくだが、突然の異世界召喚に私が神経質になっていると思っているのだろう。だからこその先程の行動であり、私に気遣うようにしてくれているのだ。そう思うと、私の視界は段々とボヤけ、前を見る事もままならなくなってきた。


 そんな顔を見せたくはなかったので、舞から視線を逸らし、足早に食事処の中に入っていく。そんな私を見て舞はまたも微笑みながら私の後についてくる。
 私は潤んだ瞳を乾かすと親友に感謝の言葉をかける。


 「…………………ありがとね」

 「ん〜? なにが〜〜? 」


 舞は、無駄に語尾を伸ばしてとぼける。その言葉にすら私を気遣うような意が感じ取れる。これも親友である私だからだろうけど。


 「いや、何でもない! ただ感謝したかっただけ! 」


 素直じゃない親友に、私も少し笑みがこぼれる。
 私達がそんなやりとりをしていると、先に着いていた光輝さんとリリシアが私達に近づいて来た。


 「ふふ、なにやら羨ましいですね! 私には友と呼べる存在がいませんから妬けちゃいますわ」

 リリシアのその言葉に私達は、頭の上にはてなマークを浮かべ首を傾げる。

 「なに言ってるんですか? 私達、もう友達じゃないですか」

 「そうですよ!」

 私の言葉に舞もすぐさま同意する。リリシアは嬉しそうな表情で破顔した。その後は夕食をとったり、一緒に談笑したりもした。
 談笑をし終えると、リリシアは険しい表情になり、私達のこれからの事について話し始めた。


 「まずは、3日後にグリシャ王国で帝国の『勇者』様と皇国の『聖女』様と面会。また、グリシャ王国で転生者の方々や有力貴族の方々とのパーティもします」


 「えっ! 転生者? ってもしかして僕らと同じ世界の人たち?」


 舞が驚きの声を上げる。それもそうだ。私だって、驚きのあまり口が半開き状態なのだから。


 「ええ、そして現在確認されている7人の魔王を倒す協力を要請します」


 「え〜〜! 魔王って7人もいるのぉ!」


 リリシアの度重なる衝撃発言にまたしても舞が反応する。いや、舞が大声で驚くのも無理はない。だって、舞だけでなく、私と光輝さんまで驚きすぎて声も出ないのだから。


 な、7人? 嘘でしょ? 魔王は途轍とてつもなく強いんでしょ? それが7人もいるなんて……


 「いえ、確かに魔王は強大な敵ですが、勇者様が成長すれば魔王なんて目じゃありません。…………ステータスと唱えてみて下さい。そこに勇者様方のスキルや魔法が記載されてますので。ステータスオープンと唱えれば他人に見せる事も出来ます。もし差し支えなければ、お見せしていただければと」


 「「「ステータスオープン」」」

 3人が一斉に唱える。







 《名前》   カンバラ   ミツキ

 《年齢》   16

 《種族》   ヒューマン

 《職業》   勇者・聖剣使い

 《レベル》   1

 《状態》   良好

 《魔法》   氷・雷

 《固有魔法》   神聖(攻撃)

 《スキル》   剣術lv1・魔法剣 lv1・軽業lv1・身体能力上昇lv1・縮地lv1・我慢lv1

 《固有スキル》   断罪ジャッジメント・【不屈】

 《加護》   女神リエルの加護

 《称号》   不屈の勇者・恋する乙女・自己犠牲主義・天才・熾天使ガブリエルのあるじ・不屈なる者

 スキルポイント・0









 《名前》   カンバラ   コウキ

 《年齢》   16

 《種族》   ヒューマン

 《職業》   勇者・聖槍使い

 《レベル》   1

 《状態》   良好

 《魔法》   火・光

 《固有魔法》   神聖(補助)

 《スキル》   槍術lv1・棒術lv1・身体能力上昇lv1・防御力上昇lv1・魔貫lv1

 《固有スキル》   【正義】

 《加護》   ???

 《称号》   正義の味方・勇者・熾天使ミカエルのあるじ・鈍感な色男

 スキルポイント・0









 《名前》   セイジョウ   マイ

 《年齢》   16

 《種族》   ヒューマン

 《職業》   勇者・魔道士

 《レベル》   1

 《状態》   良好

 《魔法》   水・風・土

 《固有魔法》   植物

 《スキル》   杖術lv1・棒術lv1・魔力増強lv1・魔攻上昇lv1・魔力操作lv1

 《固有スキル》   透過の瞳

 《加護》   ???

 《称号》   勇者・恋する乙女・心優しき者・見通す者

 スキルポイント・0






 「流石は勇者様方! ……パーティが終わり次第、王城で訓練を開始しましょう」


 嬉しそうに頰を緩めてリリシアは私達にパーティ後の事について相談してくる。私達はそれに了承すると、各々が自分の部屋に戻り眠りにつく。


 そして、翌朝3日後のグリシャ王国のパーティへといざなわれる。そのパーティで事件が起こるとは知らずに。










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