支配してもいいですか?

taxi

いきなりの王都






 「ヒィィ〜、来ないで! 殺さないでぐだざぁいぃ。グズっ」

 「きゃあああ、嫌だ、まだ死にたくない」

 「く、くるなぁー。それ以上近付けば魔法を打つぞ!」

 いつだってそうだ。□はいつだって畏怖され、避けられる。何もしてないのに、ただ強いだけなのに、ただ美しいだけなのに、世界の『悪』とされてしまった。

 理不尽な世界。無情な世界。だから、□は最大限、己に課せられた役に徹しようと思う。それが、世界の望む結果ならば受け入れよう。


 でも、もし……□に違う役割を与えてくれるものが現れるならば、□はどうするのだろうか? 

 きっと……










 夢を見た。
 とても残酷で、不条理な夢を。
 その夢は人々の世界の醜さを示すかのような、吐き気をもよおす夢だった。


 ただ、なぜかその夢は他人事とは思えなかった。




 ゴトンゴトンッ

 ……ん? 何だ、どうも寝心地が悪い。地面は固いし、揺れている。

 不思議に思い、もやがかった思考を叩き起こし、辺りを見回す。すると、そこにはあり得ない光景が広がっていた。

 馬が俺の乗っている馬車を引いているのだ。いや、この世界では普通の事なのではあるが、あり得ないのだ。

 だって、昨日俺が寝たのは《小鳥の宿り木亭》のベットなのだから。それが一転、起きたら疾走感溢れる馬車の上だ。

 「あら、やっと起きたのカムイ。叩いても起きないから、馬車に運ぶのには苦労したわ」

 「……カムイさん、どんだけ寝てるんですか? 僕たちと同じ・・時間に寝て起きるには遅すぎますよ?」

 俺が起きるとそれに気付いたカレンとリンタが話しかけてきた。俺は唖然とし停止していた思考を巡らし、とりあえず現状を把握する事に徹する。

 「……で、どういう状況だ?」

 早々に諦めたが……

 「王都に向かってるわ!」

 相変わらず要領の得ない説明をするカレンを差し置いて、リンタに目線を向けて説明を求める。

 「王都に行くのには理由があります。ですが、まだカムイさんには話せません」

 「……ごめんなさい。カムイには王都に着いたら教えるわ」

 リンタは淡々としているのに対し、カレンは申し訳なさそうにこちらを見てくる。俺は2人の様子を観察しながら、どのような目的なのかを考察し、どの様な事態に遭遇しても対処出来るようにしとく。

 【仲間外れとは……なんとも寂しいなぁ、主様よ】

 そうでもないさ、仲間外れなんて良くあることだろ? それに俺に言えない理由なんて想像つくしな。

 【……であるか。達観しておるな……早過ぎるほどに】

 ハハッ、そうかもしれないな。

 ルシファーとのたわいない会話をし、王都までの時間を過ごす。他の2人は、黙り込んで何かを考えている様子なため、話かけようにも気後れしてしまい、話しかける事が出来ない。

 多分、王都に行く目的も転生者関係なのだろう。2人は俺が転生者という事を知らない。だから、その事を伝えるのに難航しているのだろう。
 誰だって、己の秘密や異常性を他人に明かすのには勇気がいる。しかし、なぜ2人はお互いに転生者である事を知っていたのか? そこに疑問が生じる。

 いや、確かリンタは自己紹介をした時、フルネームで自己紹介をしていた。その日の夜に2人で話しあっていたのも、転生者であるという秘密を共有していたのか。

 【む? 転生者というのはそれ程珍しくもなかろう? 何故なにゆえにそこまで悩む必要がある?】

 そうなのか? つまり、あの2人はその事実を知らないという事なのか?

 【そういうことになるな……それとも、大切な人には知られたくない……とかな】

 それはないな。俺が2人と一緒に行動したのは10日程度だ。そこまで大切にされる覚えもないしな。


 【……それならよいのだがな】








 「着きましたよ」

 馬車を引いている御者から声がかかる。
 どうやら、王都に着いたらしい。道中は至って平穏で盗賊はおろか、魔物にすら出会わなかったほどだ。

 【魔物にすら出会わんとなると逆に不吉であるな。そう思わんか? 主様よ】

 確かにな。なんかこう、嵐の前の静けさ的な何かの前兆の様に思える。まぁ、俺の勘だがな。少なくとも、異常事態が発生しつつある事は確かだろう。


 【まぁ、その時は余が力を貸してやらなくもない。ま、ゆえあってほとんど力を貸せんながな。魔族や竜と出会わん限り足りるであろう】


 いや、他人が解決出来る場合は関与しない。労力の無駄だし。それに力は貸さなくていいさ、俺にとって力など無用の長物だ。

 【ほほう、我が主様ながら傲慢だな。いや、よいのだぞ? そうやって見栄を張る者が余に力を求め乞う姿はどんな娯楽にも代え難い愉悦ゆえつゆえにな】


 ところで、竜は何となく分かるが魔族と言うのはどんな奴らなんだ?

 【む? 興味あるのか? そうだな、容姿や体型は普通の人族と対して変わらん。しかし、魔力が多く、身体能力もズバ抜けておる。1番厄介なのが、魔物を操る力を持っているということだ。たまに魔物を率いて人族の街を襲う事もあると聞く】

 人族はなぜそんな奴らと敵対しているんだ?

 【それは……余にも分からん】

 そうか。案外、根が深いのかもな。





 話はガラリと変わるが、目の前に見える王都は色々と凄まじい。何が凄いって、先ず壁が高い。それに門の前に並ぶ行列がとても長いのだ。
 その行列は正に、新しく発売される高性能PCをいち早く手に入れようと躍起になる客の様だ。


 少し懐かしさを覚えながらも、あの時の苦労を思い出すと憂鬱な気分になる。しかし、何もすることが無いので、自分達の番になるまでひたすらに待つ。







 ザッと2時間ほどだろうか? やっと門の前にたどり着いた俺達は、門番に冒険者カードを見せ、王都グリシアの内部へと入る。しかし、王都の門とは伊達ではない。
 なぜなら、門の入り口から出口まで100メートルほどあるのだ。一瞬、驚きのあまりボーっと突っ立っていたのだが2人は、というよりカレンは気にせず歩き続けている。リンタは驚きながらもカレンについて行っているって感じだ。

 「まずは、宿を取るわよ!」

 「でも、どこの宿にすればいいんでしょうか?」

 「……そ、そんなの勘よ! 勘!」

 門の中を移動する途中転生者2人組が、頭の空っぽそうな会話をしているのが見えた。このままだと、まともな宿に泊まれそうにないので、俺は2人の会話の間に割って入る。

 「……冒険者ギルドに紹介して貰えばいい」

 俺が発言しても2人は会話を止めない。もはや俺は居ない者扱いのようだ。
 ならばこのまま、このパーティ(仮)からフェードアウト出来ないだろうか?

 【主様よ、その者らに主様の声は聞こえとらんぞ? ないしは、主様に話掛けられておるとも思っとらん】

 ん? なぜだ?

 【なぜ? って、……10歩後ろに歩いているからに決まっておろう。そんな位置から話かけられるとは思わんだろ……普通】

 やっぱり、そうだよな。いけるかと思ったのだが……仕方ない。もう少し近づいて話すか。
 先程まで話しかけにくい雰囲気だったからな。

 【……それに怖気付いたと?】

 そういう訳ではない。俺が怖気付くわけないだろ。この感情を言葉に表すなら、戸惑いとか緊張とかだ……おそらく。

 【ハァ……大して変わらんと思うがな】

 ルシファーの納得いかなそうな言葉をスルーし、転生者2人組に少しずつ近づく。俺が近づいて来た事に気付いた2人は、少し気まずそうにしながら、こちらを伺っている。

 「その……宿の件だが、冒険者ギルドに紹介して貰えば良いんじゃないか? 確か、ギルドは宿の予約案内もしてくれるとか……なんとか」

 【うーむ、煮え切らん奴だな】

 違う。少し……そう! ほんの少しだけ人と接するのが苦手なだけだ。

 俺の弁解が通じたのか、ルシファーはフッと笑い何も言わなくなった。

 ふふ、少し馬鹿にされた感は否めないけど、まぁいいや。は寛大だからね。許してあげるよ。

 【む? 口調が変わっておるぞ?】

 やばい、ルシファーのせいで少し傲慢さがうつったかもしれない。気を付けねば。
 まぁ、仕方ない部分もあると思う。なぜなら心の中に誰かいるというのはどうにも気が休まらないのだ。お陰で、少し素が出てしまったしな。


 まぁ、今の俺にとっての素がどれ・・なのかも分からないが……


 俺が深いため息を吐くと、隣にいた転生者2人組は不思議そうな顔をしてこちらを見て来たが、すぐに何事も無かったように王都の冒険者ギルドを目指す。

 気を取り直すと、少し遅れて俺も歩き出す。

 だが、この時の俺はこの王都であんな事が起きるなんて想像すらしていなかった。










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