支配してもいいですか?

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勇者side 日常の終わり、非日常の始まり




 「……お兄ちゃん」

 学校の休み時間。私は思わず愛しい人を思い浮かべ、儚げな声を漏らす。

 すると、そんな空気知らん、とばかりにその少女のを親友であるまいがその発言に対し冷やかしにくる。

 「うわぁ、出たよ〜ブラコン美月。いつもお兄ちゃんって呟いてるよね〜」

 
 嘘! 口に出ちゃってた! 最悪〜穴があったら入りたい。
 体が燃えるように熱く火照り、今にも消え入りそうなくらい体を縮める。
 ううう、と少しうねり、そうなった原因の一つである親友を見据えると反撃とばかりに言葉を返す。

 「う、うるさい。仕方ないじゃない! 好きなものは好きなんだもん。そう言う舞は(・)光輝さんのこと好きじゃん!」

 「なっ! にゃにぃを言っているのよ! それにもし光輝が近くにいて、聞かれたらどうするのよ!」

 私が反撃をしたところ舞は分かりやすい反応をした後、そんな訳無いじゃない! と言う、だが顔を真っ赤にしているため全く否定しきれて無い。
 思わぬ反撃を受けてワタワタと落ち着きのない親友の頰をつつきながら意地悪い笑みを浮かべる
 そんな女々しくも下らない話をしていると私達の近くに、今まさに話題の人物が来た。

 「何の話をしているんだい?」

 「ひゃあ!」

 舞が可愛らしい悲鳴をあげる。私は声がした方に視線を向けると爽やかな笑顔を振りまく義兄あにの姿があった。

 「光輝……今の話……聞いてた?」

 舞が少しビクビクしながら義兄に問う。舞と義兄は幼稚園の頃からの幼馴染らしく、舞は小さい頃からずっと義兄の事が好きなのだと言う。
 ところが、義兄はいくらアピールしても鈍感過ぎてちっとも気づいてくれず、その事をよく舞がボヤいている。

 そんな回りくどい事しないで告白すれば良いと思うのだが、それは恥ずかしいみたいで、好意を気づいてもらえるのを待っているようだ。


 舞がモジモジと人差し指をつき合わせ、潤んだ瞳で義兄を見つめていると、義兄は首を傾げて、聞いてないけど何の話をしていたんだい? と言葉を放つ。
 その言葉を聞き、舞は机にうつ伏せになり、良かった〜、と脱力した。その姿には先程までの真剣な雰囲気はなく、ぐで〜ん、と何処かで見た卵のキャラのようになっている。

 状況を把握出来ない義兄はあはは〜、と少し困ったような笑顔でこちらを見て来た。どんな状況? と目で訴えて来ているのだが、私は親友のために黙秘する。

 こんな事で今までの関係がギクシャクしても意味ないもんね!

 心の中でそう思い、舞が回復するのを待つ。しかし、舞はそのままずっと動かなかったため授業開始のチャイムが鳴ってしまった。私は慌てて次の授業の準備をし始める。

 「じゃあ、僕は自分のクラスに帰るよ」

 「あっ、はい。また後で光輝さん」

 私がそう答えると義兄は、兄とは呼んでくれないんだね、と少し目を伏せながら呟く。私はそれを聞かなかった事にし、自分の席に座る。

 兄か……。

 その言葉にあの人を思い出す。思い出す度に胸が苦しくなり、会いたいという衝動に駆られる。でも、今どこにいるかも分からない上に、彼は私を避けている節があるため会いに行く勇気が出ない。


 ねぇ、お兄ちゃん。どこにいるの? 

 私は誰にも届かないと知りながら心中で儚げに問いかける。













 キーンコーンカーンコーン♪
 キーンコーンカーンコーン♪

 6時間目終了のチャイムが校内に鳴り響く。眠りから目を覚ます者、授業からの解放から奇声を上げる者、直ぐに家に帰る準備をする者、それぞれが自分本位に動き出す。
 私はと言うと、教卓においてある配布物を配り、黒板の字を消し、掃除に取り掛かる。所詮は優等生な私だが別にやりたくてやっているわけではない。ただ誰もやらないから、やる事が他にないから、やれば誰かが助かるから、など自己犠牲主義なだけである。






 「……よし!」

 やる事を全てこなし、完璧だ! と思うまで掃除をしていたら夕暮れ時になっていた。
 開いた窓から聞こえるサッカーボールを蹴る音、野球のバットを素振りしている時に発する風切り音、校庭の外周を走っている陸上部の掛け声が教室を打ち付けるように響く。

 「おわった〜〜?」

 「うひゃあ!」

 窓から見える夕焼けに少し黄昏ていたら背後から声が聞こえ、思わず変な声が出てしまった。ため息をこぼし、後ろを振り返ると舞がニヤニヤと口角を上げ、目を細めている。そのまた後ろには義兄の姿もあり、少し申し訳無さそうな顔をしているのが見えた。

 「ふふ、三月もそんな可愛い声出すんだ〜」

 もう……舞ってば子供なんだから!

 私は舞のおでこにデコピンを食らわす。あうっ、と言いながら仰け反った。舞は体制を立て直し私を恨めしそうに見てくる。目の端には涙を溜めており、ノーマルな男子が見ればイチコロであろう、あざとさと可愛さを含んだ親友の姿がある。そんな私達のやり取りに苦笑いを浮かべ静観する義兄。

 それは、なんの変哲も無い日常。目的も目標もなく過ぎて行く日々。地球上の大半の人が送るものであり、誰しもが当たり前のように感じるものである。
 当然、私もこれからもこんな生活が続くのだと思っていた。








 そろそろ帰ろうか、と義兄に言われ同意した私達は鞄を持って教室を出ようとする。


 ピカッ


 足下からもの凄い光の煌めきを感じ、思わず目を閉じる。閉眼する瞬間、舞と義兄が発光する陣の様なものに囲われていたのが見えた。2人は驚き、というより何が起こっているのか分からず、呆然としていた。

 私は先程、見て記憶した2人の位置を目指して手を伸ばす。幸いな事に教室の扉を出る直前だったため2人とも手の届く距離にいた。そのため、私の手は2人の肩に触れ、離れない様にこちらに引き寄せる事に成功。
 成功はしたのだが……私の足下にも発光する陣があり、そのまま光に飲み込まれた。




 その日、私の……私達の日常が終わった。










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