支配してもいいですか?

taxi

転生




 気づいたら果てなく続く白い空間にいた。
 前後左右、上下までもが白く平衡感覚すら薄れてしまい、俺は自分が浮いてるような感覚に陥る。
 夢か? とも思ったが思考はスッキリとしていて、体感する浮遊感も妙に現実臭い。

 「ひいらぎ 神威かむいさんですね?」

 背後から小鳥のさえずりのような甲高くも美しい声が聞こえてきたため思わず聞き入ってしまう。
 はっ、として視線を背後へと向けるとギリシャ神話に出てきそうな神々しい美女が佇んでいる。凛々しいくもどこか愛らしい顔立ちとそれを引き立てるような彫刻的と女性的を兼ね備えた体。まさに絶世の美女と言っても差し支えのない女性が俺に問いかけていた。

 「ああ、そうだが。これはどういう事なのだろうか?」

 女性の質問に答えた俺は疑問を女性にぶつける。俺のあまりにも冷静な対応に女性は少し目を白黒させた後、現状の説明を始めた。

 「神威さんは死んでしまいました。原因は私が落とした落雷に打たれた事です。周辺を確認せずに落としてしまった私の責任です。申し訳ございませんでした」

 長く艶やかな黒髪を垂らし洗練されたお辞儀をしている女性。そのお辞儀からは申し訳なさが滲み出ており、本当に反省していることが伺える。
 しかしながら、そもそも俺に死んだという実感はなく謝られても何も感じない。それどころか感謝すらしているのだ。

 「……いや、構わない。大した人生でもなかったしな」

 俺は今の気持ちを満面の笑みを浮かべて答える事で女性に気にしないでと言外に伝える。笑顔など慣れてないのでかなり引きつった笑みになっていると思うが。
 だが、俺の発言に悲しそうな顔をして顔を伏せると小さな声で何かを呟いた。

 「…………んねぇ……か……ぃ」

 消え入りそうな声だったので聞き取れなかったが、あまり効果がなかったみたいだ。逆に酷くなった気がするのは気のせいだろうか?

 「それよりも死亡報告だけか? それ以外に何かあるんじゃないのか?」

 もし死亡報告だけならこんな所に呼ぶ筈がない。顎に手を当てていると落ち着きを取り戻した女性は本題を話し出した。

 「それなのですが、神威さんには異世界に転生してもらおうとこの空間に呼んだのです。魔法やスキルが存在する世界なのですが最近、魔物の数が増加傾向にありまして強い能力を持った人の数が圧倒的に足りないのです」

 そうか、その世界に神の力で強化した異世界人を送り込み世界のバランスを保とうとしているのか。話が見えてきたぞ。

 「そこで、才能溢れる方々に1つだけ強力な力を与えて転生させようと思ったのです。その1人が神威さんあなたです。で、早速ですがどうでしょうか? 異世界で俺強えぇしたくありませんか?」

 その・・1人か。って事は他にもいるのか転生した人間が。多分、この説明で断られた事が無いのだろう。女性は次の説明をする気でいる様だ。

 「興味ない。だから他を当たってくれ」

 女性がその大きな瞳をパチパチと何度も瞬きさせる。予想外、と言わんばかりの表情でこちらを窺う女性に俺は何か? と首を傾げてみた。

 「えっ! 何でですか? 転生したくないんですか? したいですよね! ね!」

 「あ、ああ」

 その女性は先程までの凛とした雰囲気は何処へやら、俺に肉薄し転生を強要してくる。その迫力に思わず頷いてしまったのは許して欲しい。
 俺が転生する事に承諾すると、女性は喜びを頬に浮かべる。

 「……仕方ありませんね! 承諾してくれた神威さんには2つの力を与えましょう! 特別ですよ?」

 機嫌が良いのか女性はチート能力を2つもくれるらしい。ただ俺はそんなに乗り気でもないので別にどうでも良いのだが。どうしようか、と目を閉じているとある考えが浮かんでくる。

 「それって別にスキルや魔法じゃ無くても良いのか? 例えば装備とか容姿とか」

 「容姿はダメですが装備は大丈夫です。……何故でしょうか?」

 女性は小さな声で能力は要らないんですか……能力はとブツブツ言いながら不満そうにしている。
 最早、先程までの神々しさが消え失せている女性に俺はため息を吐く。

 「なら才能を消してくれないか?」

 「それは出来ません。それではあなたを殺しに行かせるようなものです」

 「じゃあ、80パーセント封印してくれ」

 「それなら良いですが、強力な装備に付与して渡します。そうすればいざという時に元の状態に戻れますから。それでなければ許可しません」

 これ以上は譲歩しない、とばかりに女性は声を張り上げた。仕方ない、とその提案に乗る。
 ここで妥協しなければややこしくなりそうだったからだ。

 「今から装備を作りますがどんなものがいいですか?」

 「黒いフード付きコートに黒い片手剣。それと黒いズボンに運動しやすい黒い靴。後、封印はフードを脱いだら解除出来るようにしてくれ」

 「わかりました。……クリエイト」

 女性がそう唱えると何も無かった所から黒い装備一式が出現した。いや、作り出されたと言った方が適切だ。
 出来立てホヤホヤの装備にすぐ着替えると2つ目の願いを言う。因みに俺が着替えている時の女性は顔を両手で覆っていた。時折チラチラと指の隙間から見ては顔を赤くしていたが。

 「そういえば、スキルや魔法ってどうやって見るんだ? まずそれを教えてくれ。その後に2つ目の願いを言おう」

 「ステータスと唱えれば目の前に水晶版のようなものが出てきます。そこにスキルや魔法などの個人情報が記載されています」

 「……ステータス」

 そう唱えてみると目の前に水晶版のようなものが現れた。
 女性の言う通りだな。そこに書かれているものを読んでみる。



 《名前》   ヒイラギ   カムイ

 《年齢》   16

 《種族》   ヒューマン

 《職業》   支配者

 《レベル》   1

 《状態》   良好(封印中)

 《魔法》   火・闇

 《固有魔法》   時空

 《スキル》   剣術lv1・鑑定lv1

 《固有スキル》   最適化

 《異能》   支配(封印中)

 《加護》   女神リエルの封印

 《称号》   封印されし者・絶望を知る者・天才という名の化け物・王の器

 スキルポイント・1000

 種族の欄があるという事は多種多様な知的生命体が存在する世界なのか。それと職業が支配者ってどういう事だよ。他は……まぁ、異世界モノの書籍で目にしたことのある感じだな。
 後、加護の欄に女神リエルの封印とあるが、この女神リエルというのは目の前にいる女性の事なのだろう。
 称号も色々と言いたい事はあるが敢えてスルー。スキルポイントというのは何だろうか? 推測だがこれを貯めるとスキルを習得出来たり、強化出来るのではないか。

 ステータスを見た後に改めて2つ目の願いを考えてみるが中々良い案が浮かんでこない。

 うーん、どうしようか? 別に最強になりたい訳でも女性にモテたい訳でもないため何を叶えて貰うか再度考える。

 「…………俺の鑑定のレベルを最大にしてくれ」

 俺が2つ目の願いを女神に言うと女神は有り得ない、とばかりに目を見開いた。
 許せ、悩んだ末にそれしか思いつかなかったのだ。ま、まぁ……鑑定はレベルが高い方が良いし、悪い選択ではないと思う。……のだが、女神の残念そうな顔を見るとこちらが悪いみたいに思えてくる。

 女神やめろ! その顔! 謎の罪悪感が湧いてくるからやめろ! せっかく用意したのにみたいな顔やめてくれ!

 俺の心の声が聞こえたのか女神の表情は真顔に戻った。せっかく用意したのに、とか小声で呟いていたが、俺は無視を決め込む。

 「……はい、鑑定のレベルを最大にしました。今なら3つ目のーー「それより、まだ何かあるのか?」ないです」

 俺が女神の言葉を遮り問いかけると、女神は目を潤ませて泣きそうになっている。まるで、残業したのに給料が大して上がらなかったサラリーマンのようだ。

 「今からあなたを異世界《ヴァルハラ》に転生させます。転生地点はグリシャ王国・辺境都市レグルスの近く」

 女神から噴出する大量の何かを感じ、少し身構えてしまう。おそらく、あの噴出する何かが魔力と呼ばれるものであろう。そして、俺の足元には俺を中心とした魔法陣が現れる。
 だんだん意識が薄れていき遂には目を開ける事すらままならなくなっていく。

 最後に視界に映ったのは息子を慈しむ母のような女神リエルの姿だった。その姿に懐かしさを感じたのは気のせいだろうか?

 俺は妙な安心感に包まれながら異世界へと旅立った。









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コメント

  • 某県民ソノイチ

    応援してます!
    すみませんが自分のもどうぞ一読み下さい!

    0
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