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ストーリーテラー

ユキ

3話 実地研修

とりあえず彼が僕の助手になることは決まった。僕に助手ができるのは初めてで少しうきうきしているが、気取られるわけにはいかない。恥ずかしいからである。
 一度ごほんとわざとらしく咳ばらいをし、彼に向き直る。

「さてじゃあ、さっそく仕事の話を」

 しようじゃないかと言いかけた時、事務所のドアをたたく音がした。

「失礼します。ここが春寺探偵事務所でよろしいのでしょうか……?」
 
 ドアを開けて入ってきたのは、杖を片手に持ったご老人だった。歳は……60歳くらいだろうか?少し悲しげな表情で、心なしか顔の堀が深く見える。僕の考え通りなら、おそらく……

「何かお探しでしょうか?」

 そういうと相手の男性は少し驚いたような顔をして、首を縦に振った。

「よくわかりましたね。まだ要件を話していないのに」
「僕も探偵を始めて長いのでなんとなくわかるのですよ。外出をするには小さすぎる手提げ袋とそこから少しはみ出しているビニール袋。右手についた汚れと足についた動物のものらしき体毛を見るに、散歩している途中に犬を逃がしてしまったのではないですか?」
「さすがです。噂には聞いていたのでもしかしたらと尋ねてみましたが、ここにきて正解だったみたいですな」

 ふんっ、と鼻を鳴らし菅野君にドヤ顔をして見せたが、やはり彼からの反応はなかった。少しだけ寂しい。
 落ち込んでいる僕を尻目に、菅野君が話を進めようとしていた。

「その犬とはぐれたのはいつ頃ですか?」
「つい数十分前くらいの出来事です。私が散歩をしていたら車が飛び出してきまして。幸い車急 ブレーキをかけたのでぶつかることはなく怪我もなかったのですが、私が尻もちをついた隙に犬が逃げ出してしまいまして、いやはや、恥ずかしい限りです」

 後頭部を掻きながら恥ずかしそうに下を向くご老人は入ってきた時よりも少し元気になっているようだ。きっと頼れそうな探偵で安心したのだろう。ふふん。ん?
 落ち込んだりにやけたりしている僕を珍しくいぶかしげな顔で見つめていた菅野君の顔が気づけば鼻先数センチの距離まで近づいていた。

「依頼、受けますか?」
「あ、あぁ。ちょうどいい、探偵の実地研修と行こうじゃないか。」

 割と端正な顔立ちだなぁなどと考えつつ、顔をそらした僕は机に置いてあったコーヒーをごくりと飲み干し、やはりその苦さに顔をしかめるのだった。

 



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