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ストーリーテラー

ユキ

2話 実は結構、おしゃべりなんですよ

「ここが僕の探偵事務所さ」

 喫茶店から出た僕は、菅野君を連れて僕の事務所を案内していた。街の中心部から歩くこと30分、にぎやかな街並みから少し離れた、寂れた場所に僕は事務所を構えていた。依頼人がここに来ると大体、なぜこんな場所に?という疑問からかあたりをきょろきょろと見まわすことが多いのだが、菅野君は喫茶店の時から表情一つ変えずに黙ってついてきていた。

「君はあまり驚かないんだね」
「まぁ、そうですね」

 何の気なしに聞いた僕の質問に、彼は初めて少し考える表情を浮かべてそう答えた。僕は特に気にすることもなく、事務所に入るように菅野君を促した。

「ミニマリストなのですか?」
「いや、別にそういうわけではないよ。寝る時くらいしか利用してないし、あと……お金がね。」

 自分で言うのもなんだがこの部屋にはあまり生活感がない。デスクが一つに依頼人が来た時のためのソファーと机、あとはコーヒーメーカーとカップが数個置いてあるくらいだ。探偵事務所と言ったらこういうものだろうという自分の妄想と願望であまりものを置いていないんだ、なんて恥ずかしくて言えるわけもなく、お金がないと嘯く僕をやはり彼は無表情でそうなのですか、と首肯した。
間の抜けた空気を変えようと、おほんとわざとらしくせき込むと、自分用のビジネスチェアーに腰を下ろし僕は無理やり話題を戻した。

「それではさっそく話を進めていくけど、君……菅野君は僕の助手になりたい、ということでいいのかな?」
「はい」

 短い返事の後、少し沈黙が続いた。ここまでの会話で何となくわかったが、菅野君は聞かれたこと以外、必要以上に会話をしないのだ。しかし僕はそんな彼の無口な、よく言えば落ち着いた雰囲気に好感が持てた。

「……そういえば飲み物も出さずに悪かったね。コーヒーは好きかい?」
「ええ。あまりお気になさらず」

 そう言う彼の前にドリップしたばかりのコーヒーを差し出すと、僕は答えを促すように質問を重ねた。

「君はどうして僕の助手になろうと?それとも僕の、ではなく探偵の助手になりたかったのかな?」
「前者です。ここに来る前に立ち寄った街で春寺さんの噂をお聞きしまして。私もいろいろな場所を転々としていたのですが、噂を聞いて興味が湧いたのでこの際、この町で身を固めようかとおもいましてね」
「噂ってのは……いったいどういう?」

 少し嫌な汗が頬を伝う。噂なんてものにろくなものがないことは、今までの経験上理解していた。自分に関する噂なんてものには、特に。
 コーヒーの湯気越しに彼の無表情な顔が見え隠れして、少し不気味だ。

「殺人がかかわるところには必ず現れ、警察の捜査が進む前に事件を解決していく。警察の方たちが、あいつはWork thief仕事泥棒だとか、Mary Sue完璧超人だとか、いやな顔をしながら教えてくださいました」
「そ、そういえばそんな呼ばれ方をしていた気もするね。あはは。」

 僕はごまかすようにコーヒーをがぶりと飲み込み、熱さと苦さに顔をしかめた。居住まいを正し、彼の目を見つめる。

「……まぁそれは昔の話だよ。探偵なんていっても今どきは探し物が大半で、人や猫を探したり、なくしものを見つけたり、雑用係みたいなものさ。それでも君は僕の助手になりたいのかい?」

 そう言った僕の眼前に彼は無言で手を伸ばし、僕も彼の意図を察し、伸ばされた手を握り返す。

「よろしくお願いします」
「……君は本当に無口だね」

 僕はそのあとの彼の言葉に少し面食らった。
 それが冗談なのか本気なのか、そんな矛盾めいた状況に少し苦笑いするのだった。

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