第四話「リベンジした」

俺は、メイドのイヴと二人でソフィ家の道場にやって来ていた。
俺が外出するとき、身の安全を考え、誰かと一緒じゃなければ外出できない。
俺の両親は、仕事で手が離せなかったため、一番親しいメイドのイヴと一緒に来たというわけだ。

道場に入ると、ウィリアムの門下生達が稽古に励んでいた。

前世の記憶の中には、剣道場というものがある。
あそこは、臭かった。防具をつけて練習をしているため、汗の臭いと湿気でひどく居心地が悪かった。
ちなみに、剣道部に入っていたという訳ではない。帰宅部だ。
そんな剣道場の臭いが一瞬頭を過ったが、ソフィ家の道場は、汗の臭いが全くと言っていいほどしない。
風魔法で空気を循環させて換気してるのだろう。異世界クオリティだ。

門下生達は、胴着を着て稽古をしている。
剣道で使ってるような防具をつけている者は誰一人いない。
やはり、剣聖であるウィリアムが指導してるだけあって皆、剣のレベルは高い。
その中には、ソフィの姿もあった。
他の門下生より身長が一回り小さいので、よく目立つ。

ソフィは、俺に気付くと、稽古を中断し、笑顔でこちらにやってきた。

「こんにちは。アレク、今日はどうしたの？」
「ソフィと試合をしようと思ってな」
「試合？剣の？」
「いや、違う。お互い変顔をしあって、相手を笑わした方が勝ちという試合だ。これを、にらめっこと言ってだな..」

俺がナイスボケをかましていると、ソフィは真顔で興味なさそうに聞いている。
これが、異世界のジト目というやつか。かわいいじゃないか。

「冗談だ。今日は、ソフィと剣を交えたくてやってきた」
「嬉しい。また、前みたいにボコボコにされないことを祈ってる」
「まぁ、せいぜい怪我は、させないでやるさ」
「私の心配？」
「ああ、ソフィはか弱い女の子だからな」
「安心して、私はアレクより強い」
「それは、やってみるまで分からないぜ？なにせ、あれから2年経ってるんだからな」
「じゃあ、早くやろう」
「おう」

俺とソフィは、道場の半分を使わせてもらい、試合をすることになった。
ルールは、簡単だ。相手に一太刀入れた方が勝ちだ。
魔法さえ使わなければなにをやってもいいというルールだ。
前回もこのルールでやった。

審判としてウィリアムがしっかりと試合を見てくれることになった。
木剣を持ち、俺とソフィは向き合う。
門下生達の声が聞こえてくる。

「おい、お前どっちが勝つと思うよ」
「ソフィちゃんに決まってんだろ。あの子は、天才だ。五歳児の実力じゃねえよ」
「違いねえ。同年代の子にソフィちゃんが負ける姿は、想像できんわな」

門下生達が言うようにソフィは、五歳児ではありえないレベルで強いだろう。
三歳のときで、めちゃくちゃ強かったのだ。2年経った今弱いはずがない。
だが、俺には剣術に関する知識と2年間鍛えてきた技がある。
リベンジしに来たのに、負けるとなっちゃかっこがつかない。

「よーし、お互い準備はいいか？」
「ああ」「うん」
「よし、試合開始！」

試合開始早々、ソフィは、すごい勢いで俺に突きを放ってきた。
良い踏込みだ。
俺は、半身をずらしてソフィの突きをよける。
ソフィは、驚いた顔をしたが、すぐに俺から離れる。
突きの後は、隙が出来やすい。そのため、ソフィはすぐに俺から離れたのだ。良い判断だ。

「今のでアレクがすごく強くなってるのが分かった。次からは本気で行く」
「ああ、本気でこいよ。勝つのは俺だからよ」

ソフィは、木剣を両手で持ち、上段、下段、右、左と剣を振る。
俺は、一つ一つの振りを見て、分析して正確に受けた。
速いな。そして、重い。
ソフィの剣は、手数が多いが、力が弱いというわけでもなく一振り一振り力を入れきっている。
ソフィの外見や正確に似合わず、超攻撃的なスタイルをとっている。

3分ほど、俺はソフィの剣を捌いた。
ソフィの表情には、段々と疲れが出てきている。
勝負ごとにおいては、自分が弱っていることを見せるのは悪手だ。
常に自分が強者であること。自分が有利であること。そう相手が思ってしまうように立ち回ることが重要だ。
そろそろ反撃に出るとしよう。

俺は、ソフィの剣を受けたあと、俺はソフィが反撃できないように剣を入れ、ソフィの左に回り込み攻撃をしかける。
ソフィは、それに反応し右に逃げる。
俺は、距離が空かないように追い、攻撃の手を止めない。

ソフィが俺の剣を受けた。その瞬間に俺は剣を押した。
ソフィはバランスを崩し、少し後ろに下がる。
俺は、その隙にソフィの首元に木剣を持っていった。

「はい、俺の勝ち」
「...はぁはぁ」

ソフィは、息を切らしながら俺を見つめる。
次第に目に涙の粒が溜まりだす。

「うえええええええええええん」

ソフィは、足を崩して泣きだした。
あちゃー、やりすぎたか？今は、5歳の外見をしてるとはいえ、大人げなかっただろうか。

「おいおい、驚いたなこりゃ...」
とウィリアムは言う。
門下生達も驚きは隠せないようで

「うおお、ソフィちゃんが負けたー！？」
「俺達のソフィちゃんんんん！！」
「あのガキ、俺達のソフィちゃんを泣かせやがって....許さん！！」

ここの門下生は、ソフィを好きすぎではないだろうか。
普通にキモい。
気持ち悪がってる俺に、ウィリアムは近づいてきた。

「最近の子供は、どうなってんだ？化け物しかいねえじゃねえかよ」
「悪いな。ソフィ泣かせてしまって」
「別にいいさ。あいつは、同年代、年上にだって負けたことなかったのさ。ここにいる門下生の何人かだって、ソフィに負けてる。いい経験だったさ」

あれだけ強いと、中々負けないってのも分かる。まぁ、そうなんじゃないかと確信してたが。
ソフィは、勝ちが続いても天狗になるようなタイプではない。
今、泣いてるのは単純に悔しいだけなのだろう。

「そう言ってくれると助かる」
「てか、アレク。お前、生意気になったなー。3歳のときは、かわいかったのに」
「うるせえよ。今でも十分かわいいだろ」
「まぁ、否定はできない」


そんなやり取りを行い、ソフィを泣き止ます。
泣き止むのを条件に今度ソフィに字を教えてあげることになった。


リベンジも達成できたし、時間も時間なので帰ることにした。
ウィリアムは、門下生達の指導があるので、見送りはソフィ一人だけだ。

「アレク、今度会うときは字を教えてね」
「ああ、仕方ないから教えてやる。それじゃあな」
「バイバイ」



帰宅途中、夕暮れの街をイヴと一緒に歩く。
そろそろ店の準備が出来始めた酒場からおいしそうな料理の匂いが漂ってくる。
この街は夜を迎えようとしている。

「アレク坊ちゃんは、とてもお強いのですね」
「ん？まぁ、女の子に負けっぱなしってものなぁ」
「ふふ、ご立派です」

イヴと談笑をしながら、家に向かう。
動いた後は、お腹が空く。
今日の夕食は、何だろうか。