異世界といえば魔法? いいえ答えは化学物質です
迷走
「それではごゆっくり」
マリアはそう言って深々と頭を下げると、そのまま来た道を引き返していった。俺は一応本当に去ったかを確認、それから少しだけ部屋を物色する。盗聴器のようなものがないか確認するためだ。理由は簡単で作戦会議を行うとき、まず一番最初に警戒しなければならいのは相手に会話の内容が筒抜けになる事だからだ。現状信用できるのが愛梨、リィン、シルヴィアの三名しかおらず、マリアが味方かどうかも定かではないので、彼女に知られることは出来る限り避けたかった。
そして盗聴器を探し始めてから三分経ったころ、俺はあることに気が付いた。
(あれ? この世界の盗聴器ってどんな形なんだ?)
自分で言うのもなんだが間抜けにもほどがある。せめて道中にでも盗聴のやり方くらいシルヴィアに聞いておくべきだった。こちらの世界は向こうの世界と違い電話もテレビもエアコン無ければコンセントもない。代わりにあるのは何の用途で使うのか分からないやけに丸い物体や、注ぎ口がないポットのようなものなどなど仕掛けられやすい場所が一切分からない。
それにもし仮にテーブルとかベッドの下とかそういうところに隠されていたとしても、形状が分からなければ全くもって意味はない。間違って別のものを下手に取り外そうとすると壊して弁償とかそういう事態にもなりかねないので、完全に八方ふさがりになってしまった。
「ねぇねぇ、ちょっとお屋敷散策してみ………………そんなとこで頭抱えてうずくまってどしたの?」
「自分の浅はかさに呆れて机と同化してるだけだからほっといて…………」
「いや余計不安になるんですけど!?」
「だから机の下にもぐってたわけね。成る程」
あの後本気で愛梨に心配された俺は何とか取り繕おうとしたものの誤魔化すことに失敗。とりあえず盗聴器を恐れた俺は庭に出て目的を話すことにした。ちなみにいやそれ盗み聞きされたら意味なくねと思う人もいるだろうが、盗聴器+盗み聞きの可能性がある来客室と盗み聞きの可能性しかない庭ならまだ庭の方がマシだと判断。これで聞かれていたらもう仕方がないと割り切るしかない。
「でもどうするの? 私たち二人だけだから別に庭でもいいかもしれないけど、流石に四人も庭に出て集まってたらおかしくない?」
その通り。四人で部屋に集まるくらいならシルヴィアを狙う者に警戒される程度で済むが、庭になんか集まったら警戒される以前にそもそも目立ちすぎて作戦会議も何もできない。
「筆談とか?」
「そのやり方は一度考えたが……」
確かに筆談は有効な方法だが、しかし一つだけ気になっていることがあった。
「この世界で日本語を書いても意味は通じるのか?」
確かに人と話せる相手の言葉の意味が分かる、そして書いてある字は日本語ではなくとも読めるといったことから、今まで買い物などで不自由な思いをしたことはなかった。つまり俺達はこの世界の文字を読んだことはあっても書いたことはないのだ。
「ちょっと待ってそれおかしくない? だって君税金施行したとき板か何かに書いてたよね?」
「ああ、だからあの時も書いたのは俺じゃない」
あの時も会議の時もそうだが俺は文字は全て部下に書かせていた。日本語が本当に通じるかどうかわからないし、通じなければ二度手間のため書くのを放棄したのだ。面倒くさがらずにこの時書いておけばよかったと思うが後悔先に立たず、今回そのツケが回ってきてしまったというわけだ。
「うーん困ったねぇ……」
「いやそんなのびのび言われても困るんだが……」
打つ手のなさに二人そろって頭を抱えてしまう。こうなったら日本語で通じるか一か八かで試してみるしかないか……。
「お二人ともどうされましたか? 何かお困りのようですが……」
ふと声がした方を見ると、そこにいたのはリィンだった。ん? リィン? ちょっと待てよ、もしかしてこれは……。
「なぁリィン、お前文字って書けるか?」
「なんか凄い勢いで馬鹿にされたんですけど!!??」
聞かれたリィンはとても心外そうな顔をしているが、その反応をしているということは文字が書けるということか。ならば、
「お前に一つ頼みがある。今から俺が言うことを文字に起こしてほしい」
「ええ!? そんな事言われましても……。そこら辺は父に聞いてみませんと……」
話を聞いたシルヴィアは思いっきり予想通りの反応をしていた。まぁ国王でもないのに決定権があるはずはなかったが、話をつけておいても損はない。というか愛梨、リィン、うわぁみたいな顔するんじゃない。これはあくまで作戦であり、シルヴィアのためにやっていることなのだ。断じて弱みに付け込んでいるわけではない。
あの後すぐリィンに言った通りの内容を書いてもらった俺は、夕飯後自分の部屋に来てもらうようシルヴィアに言っておいた。勿論筆談が出来るのはリィンとシルヴィアの間のみであり、一応リィンに想定しうる質問とそれに対する回答を教えておいたものの割と不安は残る。まぁ他に策がないからどうしようもないと言えばどうしようもないし、その辺りはもうリィンを信じるしかない。
と、そこまではよかったのだが、そこでもう一つ新たな問題が発生した。そう、話す内容をどうしようかということだ。もし仮に盗聴されていたとして、筆談により会話の内容がバレなくても会話が無かったり宙を滑るような会話をするのは流石にマズイ。内緒話の内容を勘繰られる可能性があるからだ。故に俺が取った策は一つ、別の内緒話を同時進行で進めてしまうことだった。
「いや、出来ればお前の顔の利く相手だけで頼みたい。無論難しいのは承知の上だが」
間に立ってくれる人間はこちらに友好的であるほどありがたい。それだけで説得のしやすさが大分変る。友好的な人間が外交の場面でこちらのマイナス側面を挙げることは稀だからだ。
「わ、分かりました……。やれるだけやってみます」
よし、言質を取った。これでアデルの経済面の方も何とかできるかもしれない。後はシルヴィアを守ることに尽力すればいい。
「それじゃあ頼む。呼び出して悪いな」
「いえ、それでは失礼します」
そういうとシルヴィアはそのまま自分の部屋に戻って行った。
「ユーイチさん、私もそろそろ戻りますね」
「ん、ああ。今日はありがとな。じゃあまた明日」
そしてリィンも自室へと戻り、後には俺と愛梨だけが取り残された。にしても明日からシルヴィアの護衛やらなきゃならないし、本来の目的であるアデルの経済的復興が保証されたわけでもないしでやる事が山積みだ。未だ終わる目途が立たない未来にため息が出る。
「あのさ、悠一君一つ聞いてもいいかな」
果てしない未来に参っていると、愛梨から急に声をかけられた。
「別にいいけど……」
なんだろう。やけにかしこまってるし結構重要なことなのだろうか。いや待て、ひょっとしてこんなことならクラスの連中といた方がよかったとか、リィンがいるし自分いらないよねとか言い出すんじゃなかろうな? 愛梨のヒーラー能力は非常に役に立つし、地味に家事も出来る。というかそもそもリィンより体力あるしここでドロップアウトされたら戦闘完全に俺一人である。
どんどん悪い方向に転がっていく想像に一人冷や汗を垂れ流していたが、彼女の質問はまるで予想とは異なっていた。
「悠一君って最初の目的なんだっけ?」
思考が停止した。最初の目的? 愛梨は一体何が言いたいんだ?
「いや何ってそりゃぶらぶら旅して色々見る事だろ」
「じゃあ魔王討伐に参加しなかった理由は?」
? やけに迂遠な物言いばかりするな。
「そりゃお前、勝てるか分からないし身の丈に合ってないし……」
そしてそこまで言ったところでようやくハッとした。俺は一体何をしている……?
「そうだ……。俺はこういうのが嫌だから旅をするって……」
基本的に俺は自分勝手で快楽主義だ。他人に流されるのもあまり好きじゃない。自分を極悪人と思ったことはないが、あの村の時もリィンを助けた時も愛梨の頼みが無ければ動いてこなかったはずだ。なのに今はどうだ。アデルの王を仕方なく一時的にやり、誰もやらないから改革をし、どうしようもないから貿易経路を確保する、これが周りに流されていないというならなんだというのだ。
「多分君がそうやって抱え込むようになっちゃったの私の我が儘のせいなんだよね……。だから私自身責任を少し感じてたというか……」
ばつが悪そうに目をそらす愛梨。だが別に彼女が悪いわけじゃない。彼女の場合至極まっとうなことをしていただけだ。だから俺は彼女の頼みを聞いていた時はここまでどんよりとした疲労感を感じたことは一度としてなかった。むしろ彼らから感謝や称賛されるのはとても心地がよかった。
だからだろうか、俺は身の丈に合っていない王様なんてものになろうとしたのは。自分でも気づかぬうちにあさましい感情が自分の首を絞めていたのだろうか。
その日俺は愛梨が帰った後も寝付くことが出来ず、結局一睡も出来ぬまま翌朝を迎えることになるのだった。
マリアはそう言って深々と頭を下げると、そのまま来た道を引き返していった。俺は一応本当に去ったかを確認、それから少しだけ部屋を物色する。盗聴器のようなものがないか確認するためだ。理由は簡単で作戦会議を行うとき、まず一番最初に警戒しなければならいのは相手に会話の内容が筒抜けになる事だからだ。現状信用できるのが愛梨、リィン、シルヴィアの三名しかおらず、マリアが味方かどうかも定かではないので、彼女に知られることは出来る限り避けたかった。
そして盗聴器を探し始めてから三分経ったころ、俺はあることに気が付いた。
(あれ? この世界の盗聴器ってどんな形なんだ?)
自分で言うのもなんだが間抜けにもほどがある。せめて道中にでも盗聴のやり方くらいシルヴィアに聞いておくべきだった。こちらの世界は向こうの世界と違い電話もテレビもエアコン無ければコンセントもない。代わりにあるのは何の用途で使うのか分からないやけに丸い物体や、注ぎ口がないポットのようなものなどなど仕掛けられやすい場所が一切分からない。
それにもし仮にテーブルとかベッドの下とかそういうところに隠されていたとしても、形状が分からなければ全くもって意味はない。間違って別のものを下手に取り外そうとすると壊して弁償とかそういう事態にもなりかねないので、完全に八方ふさがりになってしまった。
「ねぇねぇ、ちょっとお屋敷散策してみ………………そんなとこで頭抱えてうずくまってどしたの?」
「自分の浅はかさに呆れて机と同化してるだけだからほっといて…………」
「いや余計不安になるんですけど!?」
「だから机の下にもぐってたわけね。成る程」
あの後本気で愛梨に心配された俺は何とか取り繕おうとしたものの誤魔化すことに失敗。とりあえず盗聴器を恐れた俺は庭に出て目的を話すことにした。ちなみにいやそれ盗み聞きされたら意味なくねと思う人もいるだろうが、盗聴器+盗み聞きの可能性がある来客室と盗み聞きの可能性しかない庭ならまだ庭の方がマシだと判断。これで聞かれていたらもう仕方がないと割り切るしかない。
「でもどうするの? 私たち二人だけだから別に庭でもいいかもしれないけど、流石に四人も庭に出て集まってたらおかしくない?」
その通り。四人で部屋に集まるくらいならシルヴィアを狙う者に警戒される程度で済むが、庭になんか集まったら警戒される以前にそもそも目立ちすぎて作戦会議も何もできない。
「筆談とか?」
「そのやり方は一度考えたが……」
確かに筆談は有効な方法だが、しかし一つだけ気になっていることがあった。
「この世界で日本語を書いても意味は通じるのか?」
確かに人と話せる相手の言葉の意味が分かる、そして書いてある字は日本語ではなくとも読めるといったことから、今まで買い物などで不自由な思いをしたことはなかった。つまり俺達はこの世界の文字を読んだことはあっても書いたことはないのだ。
「ちょっと待ってそれおかしくない? だって君税金施行したとき板か何かに書いてたよね?」
「ああ、だからあの時も書いたのは俺じゃない」
あの時も会議の時もそうだが俺は文字は全て部下に書かせていた。日本語が本当に通じるかどうかわからないし、通じなければ二度手間のため書くのを放棄したのだ。面倒くさがらずにこの時書いておけばよかったと思うが後悔先に立たず、今回そのツケが回ってきてしまったというわけだ。
「うーん困ったねぇ……」
「いやそんなのびのび言われても困るんだが……」
打つ手のなさに二人そろって頭を抱えてしまう。こうなったら日本語で通じるか一か八かで試してみるしかないか……。
「お二人ともどうされましたか? 何かお困りのようですが……」
ふと声がした方を見ると、そこにいたのはリィンだった。ん? リィン? ちょっと待てよ、もしかしてこれは……。
「なぁリィン、お前文字って書けるか?」
「なんか凄い勢いで馬鹿にされたんですけど!!??」
聞かれたリィンはとても心外そうな顔をしているが、その反応をしているということは文字が書けるということか。ならば、
「お前に一つ頼みがある。今から俺が言うことを文字に起こしてほしい」
「ええ!? そんな事言われましても……。そこら辺は父に聞いてみませんと……」
話を聞いたシルヴィアは思いっきり予想通りの反応をしていた。まぁ国王でもないのに決定権があるはずはなかったが、話をつけておいても損はない。というか愛梨、リィン、うわぁみたいな顔するんじゃない。これはあくまで作戦であり、シルヴィアのためにやっていることなのだ。断じて弱みに付け込んでいるわけではない。
あの後すぐリィンに言った通りの内容を書いてもらった俺は、夕飯後自分の部屋に来てもらうようシルヴィアに言っておいた。勿論筆談が出来るのはリィンとシルヴィアの間のみであり、一応リィンに想定しうる質問とそれに対する回答を教えておいたものの割と不安は残る。まぁ他に策がないからどうしようもないと言えばどうしようもないし、その辺りはもうリィンを信じるしかない。
と、そこまではよかったのだが、そこでもう一つ新たな問題が発生した。そう、話す内容をどうしようかということだ。もし仮に盗聴されていたとして、筆談により会話の内容がバレなくても会話が無かったり宙を滑るような会話をするのは流石にマズイ。内緒話の内容を勘繰られる可能性があるからだ。故に俺が取った策は一つ、別の内緒話を同時進行で進めてしまうことだった。
「いや、出来ればお前の顔の利く相手だけで頼みたい。無論難しいのは承知の上だが」
間に立ってくれる人間はこちらに友好的であるほどありがたい。それだけで説得のしやすさが大分変る。友好的な人間が外交の場面でこちらのマイナス側面を挙げることは稀だからだ。
「わ、分かりました……。やれるだけやってみます」
よし、言質を取った。これでアデルの経済面の方も何とかできるかもしれない。後はシルヴィアを守ることに尽力すればいい。
「それじゃあ頼む。呼び出して悪いな」
「いえ、それでは失礼します」
そういうとシルヴィアはそのまま自分の部屋に戻って行った。
「ユーイチさん、私もそろそろ戻りますね」
「ん、ああ。今日はありがとな。じゃあまた明日」
そしてリィンも自室へと戻り、後には俺と愛梨だけが取り残された。にしても明日からシルヴィアの護衛やらなきゃならないし、本来の目的であるアデルの経済的復興が保証されたわけでもないしでやる事が山積みだ。未だ終わる目途が立たない未来にため息が出る。
「あのさ、悠一君一つ聞いてもいいかな」
果てしない未来に参っていると、愛梨から急に声をかけられた。
「別にいいけど……」
なんだろう。やけにかしこまってるし結構重要なことなのだろうか。いや待て、ひょっとしてこんなことならクラスの連中といた方がよかったとか、リィンがいるし自分いらないよねとか言い出すんじゃなかろうな? 愛梨のヒーラー能力は非常に役に立つし、地味に家事も出来る。というかそもそもリィンより体力あるしここでドロップアウトされたら戦闘完全に俺一人である。
どんどん悪い方向に転がっていく想像に一人冷や汗を垂れ流していたが、彼女の質問はまるで予想とは異なっていた。
「悠一君って最初の目的なんだっけ?」
思考が停止した。最初の目的? 愛梨は一体何が言いたいんだ?
「いや何ってそりゃぶらぶら旅して色々見る事だろ」
「じゃあ魔王討伐に参加しなかった理由は?」
? やけに迂遠な物言いばかりするな。
「そりゃお前、勝てるか分からないし身の丈に合ってないし……」
そしてそこまで言ったところでようやくハッとした。俺は一体何をしている……?
「そうだ……。俺はこういうのが嫌だから旅をするって……」
基本的に俺は自分勝手で快楽主義だ。他人に流されるのもあまり好きじゃない。自分を極悪人と思ったことはないが、あの村の時もリィンを助けた時も愛梨の頼みが無ければ動いてこなかったはずだ。なのに今はどうだ。アデルの王を仕方なく一時的にやり、誰もやらないから改革をし、どうしようもないから貿易経路を確保する、これが周りに流されていないというならなんだというのだ。
「多分君がそうやって抱え込むようになっちゃったの私の我が儘のせいなんだよね……。だから私自身責任を少し感じてたというか……」
ばつが悪そうに目をそらす愛梨。だが別に彼女が悪いわけじゃない。彼女の場合至極まっとうなことをしていただけだ。だから俺は彼女の頼みを聞いていた時はここまでどんよりとした疲労感を感じたことは一度としてなかった。むしろ彼らから感謝や称賛されるのはとても心地がよかった。
だからだろうか、俺は身の丈に合っていない王様なんてものになろうとしたのは。自分でも気づかぬうちにあさましい感情が自分の首を絞めていたのだろうか。
その日俺は愛梨が帰った後も寝付くことが出来ず、結局一睡も出来ぬまま翌朝を迎えることになるのだった。
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