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異世界といえば魔法? いいえ答えは化学物質です

yosi16

異世界で化学者になって何が出来るんですかね

 スキル公開が終わった後、俺たちはそれぞれ城内にある部屋に案内された。どうやら一人一室ずつ渡してくれるらしい。ちなみに女子と男子は正反対に位置するらしい。ぶっちゃけ当然である。

「ユウイチ様のお部屋はこちらになります」

 と、ようやく俺の番が来た。案内人に扉を開けられ入ってみると、そこには明らかに高そうな椅子やベッド、絨毯があり、内装自体も洒落たシャンデリアや清潔感溢れる壁紙にフローリング、テレビ画面越しでしか見たことのないような風景がそこには広がっていた。

「何かあればそちらの呼び鈴の方を鳴らしていただければすぐに対処いたします。それではごゆっくりお過ごしください」

 案内人はそう言い残し、ドアを閉め立ち去って行った。

 案内人が立ち去って行ったのを確認した俺は倒れるように椅子に座った。本当ならせっかくの機会ということで城内を見て回りたいところだったが、そんな暇は今の俺にはない。全く考えなければならないことが多すぎるのがいけないのだ。

 まず一つ目、この世界の魔王がどれくらい強いのかということ。飯島はああ言ったが俺には魔王討伐なんてものが達成できるとは到底思えない。今の俺たちは能力が付加されただけの一般高校生、それこそまんまライフルを持たせられた幼稚園児でしかないのだ。そんな連中が訓練された兵士たちでも歯が立たないような相手に勝てるはずがない。

 二つ目は本当に元の世界に帰れるのかということ。国王はああいったが、あれが本当とは限らない。そりゃ帰れるかどうか聞かれて無理です、なんて答えたら士気がガタ落ちして魔王討伐どころの話じゃない。方便の一つや二つ付きたくなるのも当然というものだ。

 そして最後、三つ目。化学者ってなんだよと言いたい。あの後俺の能力を聞いた木内は微妙そうな顔をし国王に聞きに行くことを提案、そして彼女の言う通り国王の下に向かい問いただしてみると、

『聞いたことがないですのう……』

 という返事が返ってきただけ、下手をすると俺以上に困惑していたまである。当然馬鹿トリオに言うと面倒なことになるのは目に見えていたため、特に何も言わず部屋に戻ってきた次第である。

 さて、折角もらったスキルなのだから少し確かめてみようか。思い浮かべた化学物質をMP1で生成する能力だっけか。ならまずは塩辺り思い浮かべるか。目を閉じてイメージを浮かべる。すると、

「嘘だろ……」

 俺の掌には本当に白く細かい結晶のようなものがが存在していた。恐る恐るなめてみるとしょっぱい。つまり本当に俺は塩を出してしまったということになる。ここまで来るとだんだんと思考は金銭面の方に走り出す。例えば金、もしこれが出せればいくらでも資金調達が可能であり、つまるところ一人でも生きていけるようになる。だが、

「あれ? なんでだ?」

 先程と違って何も出ていない。失敗したかと思い試しに何度か念じてみても出せない。別の物ならと思い白金と銀と銅を立て続けに想像するも一つも出ない。

「…………」

 調べてみる必要があると思った俺は色々と実験をしてみたところ、

・単体を出すことは出来ない。出せるものは化合物
・1MPで出せる量には上限が存在する

 という二つの事実が確認された。いや任意の化学物質じゃなくて化合物じゃねぇかと突っ込みたくなったがそこは割愛。これで金や白金を手に入れることは確実に出来なくなったものの、塩酸等が作り出せることは確認できたのでまぁ物理法則が一切通らない相手がいなければ平気だろう。

 そんな時ドアがコンコンと叩かれる音がした。

「ユウイチ様、お食事の時間でございます」

 もうそんな時間なのか。一旦俺はスキルの確認をやめ、返事をするとそのまま部屋から出た。



 予想通りというか食事会場は城内の大広間だった。まぁそうでなければ40人も入らないだろうし妥当だろう。さて、適宜座って勝手に食べていいらしいし俺も適当なとこ座ろうかな。

「浅野君! こっちこっち!!」

 俺が席を探していると、遠くの方から俺を呼ぶ声が聞こえた。声のする方を見てみると木内が思いっきり手をぶんぶん振っているのが見えた。周囲からの視線が痛いが、行かないとまた大声で呼ばれさらに面倒な事態になることは目に見えているため、とりあえず彼女の方に行くことにした。

「ここ取っといたよ~」

 そう言って自分の右隣の席を指さした。彼女のこういう気づかいはとてもありがたいのだが、問題は彼女を取り巻く環境である。

「やぁ浅野君。君はもうどこか行ったかい?」

 そう俺にフレンドリーに聞いてくる男はお察しの通り爽やか系イケメン飯島である。結局木内のような人気者は確実にクラスの中心になってしまうため、同じようなクラスの中核メンバーとどうしても接点が多くなる。別に俺も飯島が嫌いというわけではない、というより特に嫌うような性格をした奴でもないんだが、はっきり言おう、このメンバーと一緒にいると俺の異物感が半端じゃない。いくら当人たちが気にしないと言っても俺は気になるのだ。だが彼らは完全に善意で動いているため当然そんなことを言うことも出来ず、俺にできることはただ笑ってやり過ごすだけである。

「そういえばもうあんた達はどうするか決めた?」

 積極的に話しかけてくる飯島に笑顔と差しさわりのない言葉で対応していると、ちょうど目の前に座っている、飯島ファミリーの一人である雪村沙織からそんなことを聞かれた。

 飯島ファミリーというのは飯島を中心に構成されたメンバー、飯島亮、木内愛梨、雪村沙織ゆきむらさおり綿貫清四郎わたぬきせいしろう夏目恵理なつめえりの五名を指す。このうち飯島と木内以外をざっと説明すると、深窓の令嬢っぽい風貌をした飯島の幼馴染が雪村、先程から無口で食事をしているが基本は暑苦しい男綿貫、そしてギャルっぽい風貌の世話焼きおかん夏目、といった感じである。なお雪村は深窓の令嬢っぽい風貌をしているだけでその性格はむしろヤンキーに近い。

「何にするってのは?」

 雪村の質問の真意がつかめずに聞き返すと、

「あーそういや説明してなかったねぇ。まぁ端的に言うと亮に従うかどうかってことだよ」

 俺の質問に答えたのは雪村ではなく夏目だった。にしても飯島に従うとはどういうことなのだろうか。少し状況を整理していると、俺がよくわかっていないことを察したのか夏目は続けて説明してくれる。

「いやほら、亮一人で突っ走っちゃったからじゃん? 他の人の意見聞かずに魔王討伐するって言いだして。でも多分魔王討伐なんて怖いことしたくないって人も結構いるだろうし、強要するのはよくないから明日討伐メンバーと非討伐メンバーに希望制でわけることにしたんよ。で、非討伐メンバーはこの城内にとどまってもいいし、外の世界に観光に行くもよし、自由に動いていいってことにしたってわけ。ちなみに恵ちゃんが掛け合ってくれたおかげでもう国王の了承済みだから安心して平気よ」

 これにはさすがの飯島も苦笑いしていた。魔王討伐を宣言したとき全く周りを見ていなかったというのは奴も自覚しているところなのだろう。

「それ踏まえたところであんたたちはどうするわけ?」

 ん? あんた達っていうのはどういうことだろうか。俺以外にもこの中でまだどっちにするのか決まっていないやつがいるのだろうか。てっきりここにいる全員魔王討伐に参加するものだとばかり思っていたが。まぁ気にしても仕方ないか。

「とりあえず俺は非討伐組だな。身体能力が高いわけでもねぇし」

「成る程ね。ってことはもう一人は決まったようなものだし聞かなくてもいいか」

 そう言うと雪村は視線を俺の左隣に移した。俺もつられてそちらを見ると、そこには何故か少しそわそわした木内の姿があった。

「で、非討伐組ってのはわかったけどよ。この城に残る感じ? それともどこか行く当てでもあるのか?」

 いつの間にか飯を食い終えたらしく、綿貫が会話に参加してきた。ちなみに綿貫が他の面々と比べやけに話し方に壁がないのは、共通の趣味を持つ同志として普段からよく話しているからである。まぁコミケでばったり遭遇したのが始まりだったりするのだが、本人のイメージダウンも著しそうなので絶対に口外はしない。

「そうだな……。幸い俺のスキルは生きていく上で困らなそうなものだし、適当にぶらぶら旅でもしようかと」

 まだプランは決まらないものの、とりあえず今考えている案を口にすると、左から何かを落とした音が聞こえた。音のする方を向くと、そこには目から光彩を失い、何やらぼそぼそとつぶやく木内の姿があった。

「…………そで……? ……て……く……ない? ……にお……たり……よ……? ……き……よね?」

 何を言っているのか全く聞き取れないが、虚ろな瞳と相まって計り知れない狂気を感じる。もうなんか一種のホラーである。

「あ、あはは。じゃあそろそろ出ようか。食べ終わったことだし」

 飯島が明らかにヤバそうな木内の姿を見て、どうにか事態を収束させようと場を取り仕切った。女子二名はその後すぐに木内の両脇を抱え、何やら平気だからとかきっと何とかなるからとかよく分からない励ましをしながら引きずって行った。そして引きずられている最中も虚ろな目でぼそぼそ言い続ける木内が本当に怖い。残された俺は同じく残された綿貫に、

「なぁ、俺なんかしたか?」

「自分で考えろボケ。まぁ今回に限れば仕方ないがとりあえず俺は木内が不憫でならない」

 普段物事をはっきり言う男がやけにはぐらかしたのはかなり気になったが、考えても答えがさっぱり出ないのでそのまま俺は部屋に戻り明日に備えて睡眠をとるのだった。

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