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異世界といえば魔法? いいえ答えは化学物質です

yosi16

旅の準備をしましょう

「テントや非常食みたいな必需品はOK、後は衣類だけか」

 王から資金等をもらった後、俺たちは城下町に来ていた。目的は勿論旅の準備である。確かに地図や資金は貰ったとはいえ、それだけでは旅は出来ない。常に予想外の事態が起こることを視野に入れなければならないのだ。

「それよりお前いいのか? 旅は馬車とかでもできるんだぞ?」

 俺は隣にいる木内に再度聞く。本来であれば木内がついてくることになった時点で徒歩での旅は諦め、馬車か何かを使って移動するプランに変更する予定だったのだが、

「何度も言ってるじゃん。私は浅野君に勝手について行くんだから君も好きなようにすべきなの。そうじゃなきゃ対等じゃないでしょ?」

 と言って譲らない。こうなるとテントだけで生活して宿屋には泊まらないというプランは何が何でも話せなくなった。流石に女の子にとって風呂に入れない日が続くというのは厳しいものがある。となると資金を稼ぎながら旅を進めなくてはならないのだが、さてどうしたものか。

「ねぇねぇ、服屋そこにあるよ。入ってみよ?」

 んーそんなことでいつまでも悩んでいても仕方がないか。とりあえず俺は旅の方針を後回しにして、木内について行くのだった。


「はいいらっしゃーい!」

 店に入るとまず目に付いたのは真っ白なワンピースだった。色こそなかったものの模様などはかなり繊細に作りこまれているらしい。

「あ、見て! あれ可愛い!!」

 そう言うと木内はすぐに飛んで行ってこれまた白いホットパンツを持ってきた。確かに似合いそうではあるが値段の方はどうなのだろう。

「十ガロンか。王様から貰たのが一万ガロンだからまぁ平気だろ」

 そう言うと彼女は嬉しそうに抱きかかえた。自分の金ではないけどこうも嬉しそうにしてくれると買ってよかったと思える。

 と、そこで不意に俺は違和感を覚えた。

「あの、店員さんすいません。ここって白い服しか売って無いんですか?」

 街を歩いているとき俺がまるで病院にいるかのような感覚に襲われたのは、あまりに景色が白ばかりだからだったのか。となるとこの世界ではとにかく白いものが流行っているのだろうか。すると、

「いえ、こちらに魔物の毛皮からがありますよ」

 とのこと。なんということだ。俺は衝撃のあまり空を仰いだ。この世界では白い服が流行っているのではなく、単純に着色するという文化がないということか。これには隣にいた木内もかなり呆然としていた。ん? おかしいぞ。だとしたらなんで王様たちは普通の色の服を着ていたんだ?

「あのすいません。国王が赤い服などを着ているのを目にしたのですがそいったものは……」

 どうやら木内も気になったらしく、俺より先に聞いていた。が、

「申し訳ありませんが、あれは金糸等を使用した大変高価なものとなっております。当店ではそういったものは用意しておりませんのでご要望にお応えするのは難しいかと……」

 つまりこの世界の物は全て自然色で染めるという文化はないらしい。仕方ないかとあきらめる俺の視界の端にとある店が映った。待てよ、ひょっとしたらいけるかもしれん。

「ちょっと待ってろ」

 そう言って俺はスキルによりとある物質を生成、そしてそれをバケツの中に放り込み同時に水を入れる。

「ん? これって……」

 木内は俺が何をしているのかに気付いたようだ。まぁ俺たちの世界では結構有名なものだからな。何が反応しているのかは案外知られていないが。

「んじゃあやるか。 おいアンタ何色が好きだ?」

「え、じゃあ青で……」

 青か。俺は今度は白い粉末を生成し、それを中に入れ、

「ちょっとこれ貰うぞ」

 そう前置きして店内にあったTシャツも同時に放り込んだ。俺の行動に店員は一瞬目を向いたが、しかし取り出したTシャツを見て再度驚いた表情になった。

「どうやって……」

 驚くのも無理はない。何故なら俺が取り出したTシャツは青色に染まっていたからだ。が、これ実はそんなに難しい話ではなかったりする。

「アントシアニンだよ。こっちでは聞きなれないワードかもしれないけどな」

 アントシアニン、主にベリー系に含まれる要素であり、視力回復や白内障予防等目に関する効能が有名なのだが、実は目以外にもメタボ予防や花粉症対策などその効能は多岐にわたる。

 と、まぁアントシアニンの概要はこんな感じだが、今回着目すべきはそれらではなく、アントシアニンの性質の一つ、phによる色の変化の方である。

「アントシアニンってのは酸性やアルカリ性のものに溶かすと色を変化させるって特徴を持っててな。よく小学生が適当な水溶液加えた時の紫キャベツ溶液の色彩変化を夏休みの実験課題にしているが、これは紫キャベツにアントシアニンが含まれているために起きる反応だ」

 さっき野菜市を見てこの方法を思いついた。この世界に紫キャベツが売っているのかは知らないが、元となるアントシアニンや青色に変化させるための重曹だけなら作ることは可能だ。

「成る程……、着色ですか……。考えたこともありませんでした……」

 店員はしばらくの間考え込み、そして

「こちらをもらってもよろしいでしょうか? その代わり5着までならただで構いません」

 俺たちは顔を見合わせた。こんな好条件断るはずもない。

「ではそれでよろしくお願いします」

 こうして俺たちは六十ガロンほど浮かせることに成功するのだった。





「にしてもびっくりだよね~。着色って文化がないなんてさ」

 服屋を後にした木内はそんなことを口にした。

「そうか? 俺はそうは思わないけどな」

 すると彼女は不思議そうな顔をしてこちらを覗き込んできた。…………少し近すぎるような気がするがまぁいいだろう。

「王様の服の話を持ち出したとき金糸を使ってるって言ってたことを覚えてるか?」

 こくりと頷く木内。まぁ質問したのは彼女だし、普通なら覚えているだろう。重要なのは憶えていることではなく金糸を使っているという言い方をしたことだ。

「王様の服は赤や金など様々な色から成り立っていた。にもかかわらず着色の発想がないってことは、この世界には最初から色のついた素材が存在しているということに他ならない」

 もしそういった色付きの素材が無ければ、俺たちの制服を見て誰も驚いた表情を見せないというのはあまりに不自然だ。なんせ制服には黒以外にも緑、紺など様々な色が使われているのだから。

「あー……、私たちの世界だと元から純粋な赤とか緑とかの素材はなかったもんね……」

「そういうこと。人間ってのは最初からあるものには一切興味を示さないくせに、無いものはかなりの労力払ってでも見つけ出そうとするからな」

 それに魔王の侵略のせいで余裕がないというのもあるのだろう。贅沢は心の余裕がなければしようとも思えないだろうし。

「俺が旅をしようと考えた理由もそこにある。折角呼び出されたのに何も経験せずただ魔王退治して帰るなんて馬鹿らしい」

 不謹慎と言われるかもしれないが、これが俺の考え方だ。曲げるつもりは一切ない。しかし木内は一切俺を責めるような表情は見せず、むしろ楽しそうに、

「うん、だと思った。そんな君だから私は……」

 私は? 一体なんだろうか。だが彼女は答えの代わりに舌を出し、

「そこから先は自分で考えなさい!」

 そう言って笑うとそのまま町の外まで駆け出して行った。

「おいちょっと待て!」

 そして同時に置いて行かれないよう俺も走り出す。こうして俺たちの旅はようやく幕を開けるのだった。

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