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異世界といえば魔法? いいえ答えは化学物質です

yosi16

元凶潰しに行きます

 作戦が見事成功に終わったその夜、村中は喧騒に包まれていた。あの後傷ついた戦士たちは木内がヒーラーのスキルで回復させたためすっかり元通りになり、戦の体力を持て余した男たちを中心に現在祝勝会が行われている。正直そんなことをしている場合があるなら早くここから逃げた方がいいとは思ったが、村人たちが喜んでいる姿を見るとそういった配慮はむしろ無粋に思えた。

「すっかり英雄だね浅野君!」

 いつの間にかすぐそばまで来ていたらしい、木内が嬉しそうに話しかけてきた。俺には何故お前が上機嫌なのかさっぱり分からない。それに何より俺はただのんびりとしたいだけ、英雄になんざなりたくもない。

「またまたそんなこと言っちゃって~」

 今度は肘で小突いてきた。絡み方が完全に酔っ払いのそれである。……いやこいつまさか本当に酔っぱらってるのか? よく顔を見てるとほんのり頬が赤く染まってるし少し息が荒い。目はトロンとし、極めつけは

「どうしらの~? 顔になんかついてるら?」

 明らかに呂律が回ってない。この女完全に有罪ギルティである。俺はため息をつきたくなるのをぐっとこらえて彼女に付き合うことにした。

「悠一~、悠一~」

 頭が回らなくなってきたのかひたすら俺の名前を連呼しだす木内。頑張って付き合おうとも思ったが、これはもう寝かせてしまった方がいいだろう。これ以上起こしておくと、下手すれば彼女は今晩黒歴史を作ってしまいかねない。というかその可能性がかなり高い。

「はいはいわかったわかった。とりあえずもう寝ろ木内。話なら明日いくらでもしてやるから」

 が、今までのご機嫌な様子から一転、急に彼女は不服そうな表情をした。寝ろと言われたのがそんなに気に障ったのだろうか。そんなことを考えると、彼女の人差し指がビシッという音を立ててこちらの鼻先をとらえる。そして、

「愛梨!!」

「は?」

 思わず素で聞き返してしまった。何を言いたいのかさっぱり分からない。だが彼女は理解してもらえなかったことにより一層腹が立ったらしく、

「呼んでって言ってるの!! 名前!!!」

 唐突過ぎて意味を理解するのに少し時間を要した。しかし俺が理解しようとしている間にも、彼女は畳みかけるようにまくしたてた。

「大体さぁ、私から言いだしたこととはいえ今の私と君は一緒に旅を続ける仲なの。いわば運命共同体なわけ。なのにどうしてお互い相変わらず苗字なの? 距離あり過ぎない?」

 どうやら彼女は信頼関係の薄さに疑問を持っているらしい。まぁ確かに他人行儀感はあったかもしれない。お互い旅を続けるうえで名前すら呼べない関係性ってなんだという彼女の主張ももっともだ。だが忘れることなかれ、つい数日前までの俺はクラスでもカースト底辺に位置していた典型的な陰キャキモオタ野郎なのである。はっきり言って異世界で生きていくよりも女の子の下の名前を呼ぶことの方が遥かに難易度が高い。

「むぅ……」

 しかし彼女の様子を見るに言わなければと話が先に進みそうもない。仕方なく俺は覚悟を決めた。一度深呼吸をする。そして、

「わ、わかったよ。あ、ありり」

 噛んだ。どもる上に噛むとかなんかもう踏んだり蹴ったりだった。真面目に泣きたい。が、彼女はそれでよかったらしく再び笑顔になり、

「んー、45点!!」

 そう言うとそのままこちらにしなだれかかってきた。立て続けにリア充イベントがわが身に振ってきたおかげでもうパニック寸前である。とりあえず目の前のことから処理しようと、一度愛梨を引きはがそうとすると、

「ん~……、悠一~……。すー……すー…」

 思いっきり寝息を立てていた。彼女が完全に眠ったことを確認すると、今までの疲れがどっと押し寄せてきた。

「あの、すいません。どこか寝れる場所ってありますかね?」

 このままでは休息も何もない。そう考えた俺は寝床の確保を優先することにした。もしなければなけなしの気力を振り絞ってテントを設営することも覚悟していたのだが、幸い集会所が開いてるためそこで寝ることが出来るとのこと。ここは村人たちのお言葉に甘えさせてもらおう。俺は相変わらずすやすやと気持ちよさそうに寝息を立てる愛梨を引きずりながら、歩いて行った。

「よいしょっと!」

 集会所に着くとそのまま彼女の体を横たわらせる。女の子を硬い地面に直に寝かせ続けるのもどうかと思い、下に寝袋を敷きようやく一息ついた。俺の記憶はそこで途絶えている。



「ん? んん?」

 目を開けると光が差し込んできた。周りを見渡すも見慣れない風景が広がるばかり。そこまで来てようやく昨晩の出来事を思い出す。どうやら俺はあのまま寝てしまったらしい。隣を見ると相変わらずきう……、愛梨は眠っていた。こちらの世界に来てからの疲れもあるだろうし、無理に起こすのも可哀想だったのでそっと自分の荷物を片付けそのまま外へ出た。

「あ、おはようございます! 昨日は本当にありがとうございました!! あなたがいなければ今頃どうなっていたことか……」

 集会所を出てすぐのところでまとめ役の男と遭遇した。やたらかしこまっているがそんな風にされるとかえってやりづらい。話題を変えよう。

「いやそれは……。えっと、そうだ。そういえばあの兵士たちが隣国から送り込まれたものだと仰られてましたが、それは一体どこから?」

 男はそれでようやくまだ脅威が去っていないことを思い出したらしく、少し憂鬱そうな表情になった。だがこれについては自覚してもらわなければ困る。次の機会があったらおそらく俺たちが助けることは出来ないだろうし。

「アデル公国です……」

 男は重々しく口を開いた。にしてもアデル公国、どこかで聞いたような……。

「ここから東へ進むとすぐに見つかりますよ……。あの国は近隣諸国からも評判が悪く、地位を上げ財を蓄えるためならどんな手段も厭わない。たとえ国民が苦しもうともお構いなし、もうどうすればいいか……」

 って完全次行く予定のところじゃねぇか。これはもう行き先そのものを変えるしかない。彼は多分もう一度助けてくれることを望んでいるのだろうが、生憎俺にその気はない。だってもう厄介ごとに巻き込まれる気しかしないのだ、誰が好き好んで苦難に立ち向かっていくものか。何度も言うが俺は英雄なんてものに興味はないのだ、そんなものは飯島がなればいい。と、そう思っていた時期が俺にもありましたよ、ええ。

「行こうよ」

 突如としてその場に透き通った声が響く。男にとってみればその声は天使の声にすら聞こえたかもしれないが、俺にとっては最早悪魔の声でしかない。

「次の行き先だし丁度いいじゃん。行こ?」

 声の主、愛梨は可愛く首をかしげているが、今回ばかりははいそうですかとはいかない。というか行かせない。

「あのなぁ……。今回はたまたま上手くいったが、次もまたどうにかなるとは限らない。いいか? これはゲームじゃないんだ。ゲームオーバーはすなわち死を意味する、それが分からないお前じゃないだろ? だから……」

「大丈夫キミならできるよ」

 しかしこちらが最後まで話し終える前に、彼女はそう断言した。一体その自信はどこから出てくるのだろうか。

「私は悠一君が誰よりもすごいことを知ってるもの。だからきっと次も大丈夫。もし一人じゃ難しいなら私もついてる。だから、ね?」

 相変わらず一切根拠がないが、ここまで言わせてしまった以上もう後には引けない。俺は一度深くため息をつき覚悟を決めた。

「成功する保証はない。それだけは肝に銘じとけよ?」

 最後にもう一度念を押すと、彼女は嬉しそうに頷いた。そして俺の手を取り、

「うん!! 短い間でしたがお世話になりました!!」

 そう言うとそのまま俺の手を引っ張って進み始める。俺は彼に会釈をし、そのまま彼女とともに次なる地を目指して出発する。行き先は圧政都市アデル公国、そこで一体何が待ち受けているのか、今の俺には知る由もない。

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