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異世界といえば魔法? いいえ答えは化学物質です

yosi16

塩素を使いましょう

「おおお!! 体が軽いぞ!?」

 貧民街に来た俺たちは住人全員を一か所に集めた。そしてその中から体調の悪いというものを自己申告制で前に呼び出し、愛梨のヒーラーの能力で次々と回復させていった。彼女の能力は相変わらずの効果を誇っており、200人は優に超えていた患者たちをわずか30分足らずですべて回復させてしまった。

「ふぅ~、さすがにちょっと疲れちゃったかな」

 200人全員の回復を終えた愛梨の顔からはちょっとどころではないレベルの疲労が窺える。少し焦り過ぎたか。俺は一旦彼女をおぶった。

「ちょっ!? 急すぎるって悠一君!?」

 背中でバタバタ暴れて動いてくれるので一瞬手を放しかけるが、なんとかこらえる。そのまま歩き、大木の前で彼女を下した。日差しも強いしいつまでもあそこに座らせてても体力を失うだけだ。

「ここで少し休んどけ」

 彼女はようやく俺の意図を理解したらしく、

「あ、うん……。ありがと……」

 若干俯いたまま大木にもたれかかる愛梨。おとなしく休んでくれたことを確認した俺は次の作業に移るために戻った。

「さて、今度はあなた方の家一軒一軒を見て回ります。特にみられて困るようなものはありませんよね?」

 俺がそう尋ねると一瞬顔を見合わせていたが、皆同意していた。ふむ、ならいいだろう。

「では今から私は貧民街の方に入ります。皆さんは今から私が戻ってきて30分経つまでは、これより先には絶対入らないようにお願いします」

 住人たちにそう言い残し、俺はそのまま街に入って行った。



「始めるか」

 貧民街に入った俺はすぐさまスキルを使用。ただしこれはかなり危険な物質なので出来るだけ息を吸い込まないように注意する。そしてスキルを使用しながら家の中、町の中をひたすら練り歩く。家の中は汚れが天井まで到達していることも珍しくもなく、そうすると手を上に掲げなければならないので割と真面目にひやひやものである。

 そして6時間を過ぎたころ。ようやく作業が終わった。流石に3000人以上が住んでいるというだけはあってざっとでもかなりかかってしまった。行きがけに持ってきた地図が無ければ下手すると迷っていたかもしれない。

「それでは今から30分だけお待ちください。そしたらお戻りいただいて構いません。それでは我々はここで失礼します」

 彼らは俺の意図が全く分かっていないらしく呆然としていたが、説明している暇はない。愛梨たちを連れ、そのまま城に向かって歩き出した。

「ねぇねぇ。こんなに長いことなにしてたの?」

 帰り道、愛梨はそんなことを聞いてきた。先ほどまで休んでいたおかげか、疲労の方はだいぶ回復しているように見える。

「っと。なにしてたか説明しないとな」

 俺は再びスキルを行使、先程まで使用していた期待を生成した。が、俺がさっきまで出していたオレンジ色の気体を出した瞬間、愛梨は鼻をつまみ、

「ちょっと何なのよそれ! なんかすっごい変なにおいするんだけど!!」

 あまり出し続けるのはよろしくないので、すぐにスキルを停止する。

「二酸化塩素だよ。名前ぐらいは聞いたことあんだろ」

 二酸化塩素、常温常圧時だとオレンジ色で刺激臭のする気体、主にカビの除菌などに使われる物質。身近にあるものを例に挙げるならば、除菌用スプレーとかだろうか。と、そんな感じで意外と主婦はこれのお世話になっていたりするのだが、

「だがこの物質に頼るのはあまりよろしくない」

 俺の言葉に愛梨は不思議そうな顔をし、

「なんで? カビ除菌できるならいいじゃん。臭いが気になるとか?」

 そうじゃないと俺は首を横に振る。そしてとても端的にその理由を述べた。

「この物質有害なんだよね。毒ガスに使われてたくらいだし」

 直後俺の頭が前後ろに思いっきり揺さぶられた。揺さぶっているのは当然愛梨である。

「キミ何やってんの!? え!? 毒素ばら撒くって馬鹿なの!?」

「落ち着け落ち着け! 除菌に使われてる時点で使いようによっては毒素にならないのは自明だろうが!」

 それを聞いた愛梨はようやく襟首を離してくれた。俺も息を整え説明を再開した。

 そもそも二酸化炭素は第一次世界大戦時に毒ガス兵器として使われているほど毒性が強く、その毒性は単純計算で塩素の四倍以上の強さを誇るとさえ言われている。ただしこれはあくまでもガス室等高濃度の場合である。俺のスキルで多少空気中に放出した程度じゃそこまで強い毒が充満することはないだろう。

 何より最低でも30分置いている以上既に俺が出したガスは空気中に拡散している。もしその程度でも大惨事になるならば毎年数十名くらい温泉で死者が出ているだろう。硫化水素だってそこそこ毒性は強いのだから。

「正直キミの知識が一体どこから来てるのか私は知りたいよ……。ってことはキミの目的はカビを除菌してこの一帯の住居の衛生を保つってこと?」

「半分正解で半分外れ」

 彼女の言う通り俺の目的はカビを除菌して衛星を保つこと。しかしそれは住居の話ではない。

「ここらの住居は希望者を除いて取り壊しにする。んでもってそこにプレハブを建てて少しずつ振興事業を進める」

 取り壊す際に衛生環境が悪いとカビの胞子が飛び散り、もしそこに新しい建物を建てても劣化が早くなるだけでこれでは意味がない。開拓にはまず土台作りが必要なのだ。

「ん? でも土台作りはいいとして資本は? プレハブと言ってもこれだけの人数分用意すると考えると……」

 その通り。厄介なのは建築費用だ。しかしその点に関しては問題ない。

「まぁその件については俺に任せておけ。何と言ってもそれが俺の真骨頂だしな」

 言いながら俺は頭の中で明日以降の計画を立てるのだった。

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