異世界といえば魔法? いいえ答えは化学物質です
新たな場所を目指して
『貿易!?』
貧民街から帰ってきた俺は急いでこの国のまとめ役をかき集めた。この間税施行の時もこの面々で会議を行ったが、今回の議題は打って変わって金策についてである。かつて愚王が頭のいかれた税徴収をしてくれたためか、この国の財産はほぼ尽きかけていた。このままではプレハブを建てるも何もないということで、俺は財を国外にも求めることにした。だが、
「無茶ですぞ国王!!」
俺が貿易を提案すると大臣の一人が大声を上げた。意味が分からない。どうして無茶なのだろうか。貿易という手段は国家の財源確保のためによく用いられる手段だと思うのだが。
「わが国には現在貿易に出せるものがありませぬ!! ここ数年この国は全ての産業において最低水準を誇っているのですぞ!? それを貿易をすればいいなどと!!」
思った以上に事態は深刻だったようだ。彼は机を思い切りたたきそう主張した。その拍子に水が机にこぼれたがそんなことを気にしている場合ではない。さて、どうしたものかな。俺が貿易の方法について考えていると、
「おい! どうするつもりだ!」
何やら周りが騒がしい。見てみれば先ほど水をこぼした大臣がおろおろしていた。何かあったのだろうか。
「す、すみません!!」
「すみませんで済む問題じゃないでしょう!? これでは資料を置くことが出来ないではありませか!!」
何を騒ぎ立ててるのかは分からないが誰も水を処理しようと動こうとしない。俺は一つため息をつき、そばにあるメモ用紙を取って、こぼれた机の前に立った。
「王……? 一体何を……?」
何をじゃない。見ればわかるだろうに。そして俺はそのまま紙をこぼれた部分に近づけ、そのまま水気をふき取った。
「こぼれたなら拭き取ればいいだけだろ」
全くもって騒ぐ理由がない。だが、
「な、成る程そんな手が……」
「なんて画期的な……。確かにこれなら問題なく水気を取れる……」
それを見た大臣たちは目を見開いていた。どうやら水をふき取るという文化はないらしい。いやそんなことはどうでもいい、今はまず貿易を……、
「いや、待てよ」
そうだ。この世界になくて俺たちにあるもの。それは元居た世界での常識。さっきの水の一件もそうだが根本的にこの世界では常識が欠落している場合が多々ある。そう考えれば貿易に使えるものは自ずと見えてくる。
「化学物質だ」
俺にあってこの世界にないもの、それは化学物質の生成能力。そもそも向こうの世界である程度化学の知識のある俺でも一から化学物質を作れと言われたら無理だ。元から化学的知識のないこの世界にそのノウハウがあるとは思えない。つまり、
「よし、それでは今から近隣諸国へいって化学物質を売り込んでくる。お前たちには俺たちがいない間留守番をしていて欲しい」
俺がそう言うと再び大臣たちから悲鳴が上がった。今度は一体なんだ。
「なりませぬ!! 王自ら出向くなどそんな危険な真似は認められませんぞ!!」
先と同じくくだらないことかと思っていたら、今回は至極まっとうな理由だった。が、たとえそうであってもこの策は俺がいなければ成り立たない以上、俺はどうやっても旅に出る必要がある。事実突き付けて丸め込むか。
「まぁ俺なら平気だ。なんせ城攻めでこの国の騎士を全滅させた男だぞ? その辺の奴にはまず負けることはない。それにいつまでたっても常識的なことばかり言っていたら事態は好転しない、それくらいわかるだろ?」
今度は大臣たちが黙る番だった。彼らも多少リスクを冒さなければこの国に未来がないことは理解しているのだろう。そして彼らの反応を見た俺はここぞとばかりにダメ押しをする。
「何、今回の旅は愛梨とリィンを連れて行くつもりだし心配いらねぇよ」
愛梨の異常なまでの強さは既に国中の知るところとなっていた。たった一人で騎士たちに稽古をつけ、挙句本気の彼らと戦っても汗一つかくことなく倒してしまうのだから、町の話題にならないはずがない。彼らも当然そのことを知っていたようで、
「ま、まぁそれなら」
そう言ってようやく彼らを納得させることが出来た。であればもう後は話すことはない。
「よし! ならそろそろまとめに入るが俺たちの出発は明日の早朝! お前たちは見送りに来る必要はないがその代わり留守を任せた!! それでは本日の議会はこれにて解散とする!!!」
そう言い残し、俺はそのまま旅の支度を始めるため、一人自室に戻るのだった。
翌朝、外は雲一つない快晴であり旅の始まりにはぴったりの陽気だった。がらにもなく気分が高揚しているのが分かる。というか元々旅をする予定だったのが一体どうしてこうなったのか、自分のせいとはいえさっぱり分からない。
「全くもう、ホント急すぎない? 昨日の夜中に帰ってきていきなり旅をするって言われた時は正気を疑ったよ」
と、どこか不満げな愛梨。正直申し訳ないとは思っている。
「あ、あはは……」
今回はリィンもかばえないのか苦笑いを浮かべていた。
「まぁ決まっちゃったものは仕方ないか。それよりも行き先は?」
割とワガママ押し付けたにもかかわらず根に持たない辺り流石は愛梨である。彼女にはいずれどこかできちんとお礼をしようと心に決め、俺は地図を取り出す。
「ここから南東に行くとかなりデカい商業国があるらしい。今回の目的地はそこだ」
俺が指さす先にあるのはレイラン王国という国。この世界でも有数の商業国。こことパイプをつなげられればアデル公国の財政難の何割かは解消することが出来る。それにこの手の商業国は通常他国とのつながりも強く、上手くいけば恩恵にあやかることも出来るかもしれない。
「さてと! それじゃあそろそろ行きますか!! 目指すはレイラン王国だ!!!」
そして俺たちは新たな地へと一歩ずつ踏み出していくのだった。
貧民街から帰ってきた俺は急いでこの国のまとめ役をかき集めた。この間税施行の時もこの面々で会議を行ったが、今回の議題は打って変わって金策についてである。かつて愚王が頭のいかれた税徴収をしてくれたためか、この国の財産はほぼ尽きかけていた。このままではプレハブを建てるも何もないということで、俺は財を国外にも求めることにした。だが、
「無茶ですぞ国王!!」
俺が貿易を提案すると大臣の一人が大声を上げた。意味が分からない。どうして無茶なのだろうか。貿易という手段は国家の財源確保のためによく用いられる手段だと思うのだが。
「わが国には現在貿易に出せるものがありませぬ!! ここ数年この国は全ての産業において最低水準を誇っているのですぞ!? それを貿易をすればいいなどと!!」
思った以上に事態は深刻だったようだ。彼は机を思い切りたたきそう主張した。その拍子に水が机にこぼれたがそんなことを気にしている場合ではない。さて、どうしたものかな。俺が貿易の方法について考えていると、
「おい! どうするつもりだ!」
何やら周りが騒がしい。見てみれば先ほど水をこぼした大臣がおろおろしていた。何かあったのだろうか。
「す、すみません!!」
「すみませんで済む問題じゃないでしょう!? これでは資料を置くことが出来ないではありませか!!」
何を騒ぎ立ててるのかは分からないが誰も水を処理しようと動こうとしない。俺は一つため息をつき、そばにあるメモ用紙を取って、こぼれた机の前に立った。
「王……? 一体何を……?」
何をじゃない。見ればわかるだろうに。そして俺はそのまま紙をこぼれた部分に近づけ、そのまま水気をふき取った。
「こぼれたなら拭き取ればいいだけだろ」
全くもって騒ぐ理由がない。だが、
「な、成る程そんな手が……」
「なんて画期的な……。確かにこれなら問題なく水気を取れる……」
それを見た大臣たちは目を見開いていた。どうやら水をふき取るという文化はないらしい。いやそんなことはどうでもいい、今はまず貿易を……、
「いや、待てよ」
そうだ。この世界になくて俺たちにあるもの。それは元居た世界での常識。さっきの水の一件もそうだが根本的にこの世界では常識が欠落している場合が多々ある。そう考えれば貿易に使えるものは自ずと見えてくる。
「化学物質だ」
俺にあってこの世界にないもの、それは化学物質の生成能力。そもそも向こうの世界である程度化学の知識のある俺でも一から化学物質を作れと言われたら無理だ。元から化学的知識のないこの世界にそのノウハウがあるとは思えない。つまり、
「よし、それでは今から近隣諸国へいって化学物質を売り込んでくる。お前たちには俺たちがいない間留守番をしていて欲しい」
俺がそう言うと再び大臣たちから悲鳴が上がった。今度は一体なんだ。
「なりませぬ!! 王自ら出向くなどそんな危険な真似は認められませんぞ!!」
先と同じくくだらないことかと思っていたら、今回は至極まっとうな理由だった。が、たとえそうであってもこの策は俺がいなければ成り立たない以上、俺はどうやっても旅に出る必要がある。事実突き付けて丸め込むか。
「まぁ俺なら平気だ。なんせ城攻めでこの国の騎士を全滅させた男だぞ? その辺の奴にはまず負けることはない。それにいつまでたっても常識的なことばかり言っていたら事態は好転しない、それくらいわかるだろ?」
今度は大臣たちが黙る番だった。彼らも多少リスクを冒さなければこの国に未来がないことは理解しているのだろう。そして彼らの反応を見た俺はここぞとばかりにダメ押しをする。
「何、今回の旅は愛梨とリィンを連れて行くつもりだし心配いらねぇよ」
愛梨の異常なまでの強さは既に国中の知るところとなっていた。たった一人で騎士たちに稽古をつけ、挙句本気の彼らと戦っても汗一つかくことなく倒してしまうのだから、町の話題にならないはずがない。彼らも当然そのことを知っていたようで、
「ま、まぁそれなら」
そう言ってようやく彼らを納得させることが出来た。であればもう後は話すことはない。
「よし! ならそろそろまとめに入るが俺たちの出発は明日の早朝! お前たちは見送りに来る必要はないがその代わり留守を任せた!! それでは本日の議会はこれにて解散とする!!!」
そう言い残し、俺はそのまま旅の支度を始めるため、一人自室に戻るのだった。
翌朝、外は雲一つない快晴であり旅の始まりにはぴったりの陽気だった。がらにもなく気分が高揚しているのが分かる。というか元々旅をする予定だったのが一体どうしてこうなったのか、自分のせいとはいえさっぱり分からない。
「全くもう、ホント急すぎない? 昨日の夜中に帰ってきていきなり旅をするって言われた時は正気を疑ったよ」
と、どこか不満げな愛梨。正直申し訳ないとは思っている。
「あ、あはは……」
今回はリィンもかばえないのか苦笑いを浮かべていた。
「まぁ決まっちゃったものは仕方ないか。それよりも行き先は?」
割とワガママ押し付けたにもかかわらず根に持たない辺り流石は愛梨である。彼女にはいずれどこかできちんとお礼をしようと心に決め、俺は地図を取り出す。
「ここから南東に行くとかなりデカい商業国があるらしい。今回の目的地はそこだ」
俺が指さす先にあるのはレイラン王国という国。この世界でも有数の商業国。こことパイプをつなげられればアデル公国の財政難の何割かは解消することが出来る。それにこの手の商業国は通常他国とのつながりも強く、上手くいけば恩恵にあやかることも出来るかもしれない。
「さてと! それじゃあそろそろ行きますか!! 目指すはレイラン王国だ!!!」
そして俺たちは新たな地へと一歩ずつ踏み出していくのだった。
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