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異世界といえば魔法? いいえ答えは化学物質です

yosi16

レイラン王国へ

「ホーリーアタック!!」

 愛梨の拳が猪型の魔物に炸裂する。そしてそのまま魔物は木に激突した。動かないところを見るともう死んだか。

「んーイマイチ強い魔物出てこないなぁ……」

 魔物を倒したというにもかかわらずどこか不満げな愛梨。正直気持ちは分からないでもない。折角強くなっても敵が弱いのでは強くなった意味がない。だが同行しているリィンは信じられないようなものを見たのか、目を見開いていた。

「嘘……。黒き悪魔を一撃で……」

 黒き悪魔? そういや名前だけ聞いたことがあったな。確かここらへんで出るモンスターの中では最上位の強さを誇るって話だったが。となるともうこの辺りに相手になりそうな魔物はいないのか。

「やっぱり始まりの街から近いだけあって魔物のレベルも低いのかな?」

 いやそんなRPGみたいな話があるかとは思ったが、よくよく考えてみるとステータス制の時点でRPGっぽいし、ひょっとしたら進めば進むほど魔物の強さが上がっていくのかもしれない。

「まぁいいや。そろそろ暗くなってきたし今日はこの辺りで野宿するか」

 アデル公国を出発して5時間、俺たちはようやく野宿の場所を決め、そしてそこにテントを張った。後は先ほど倒した黒き悪魔とやらの皮を剥ぐだけだ。

「よし、剥いだ後は任せたぞ」

 そう言ってリィンをこちらに呼ぶ。食材さえそろえばあとは彼女の出番である。やっと彼女の得意分野が来たからか、嬉しそうに笑いながら、

「ハイ! 頑張ります!!」

 そうはっきりと答えるのであった。




 本日の夕飯は道中で集めた木の実のスープに、先ほど倒した黒き悪魔のソテーだった。流石に手慣れているというだけあって、旅の最中だというのにかなり豪華なものが出来ていた。

「リィンちゃん流石だねぇ……。今度教えてもらおうかな」

 敗北感に苛まれているのか体操座りで遠い目をしている愛梨。いや、彼女の名誉のためフォローしておくと、別に愛梨は料理が下手というわけではない。ただなんというのだろう……、そう、彼女の作る料理はすごく男らしいのだ。肉を丸焼きにして塩と胡椒ぶっかけてハイ終わりみたいな。というか多分普通の家事スキルしかなければそうなってしまうし、それが出来るということは最低限の女子力はあると言える。

 比べてずっとリィンはあの爺さんの世話をしてきたらしいし、家事スキルも比較的高かったりする。だから別に愛梨が悲観することはないのだが、同じ女子として来るものがあるらしい。この辺り女子は複雑である。

「あ、ハイ! 私でよければ喜んで! そう言えばユーイチさん、この調味料どこから出したんですか? 出発時点では持っていなかった気がするのですが……」

 そう言えばリィンには愛梨の能力は説明していても俺の能力は説明していなかったな。とりあえず俺は簡単に彼女に自分の持つスキルの説明をした。すると、

「え!? それならもう莫大な利益が入ること間違いなしじゃないですか!! 調味料が無限に出せるならそれだけでも重宝されますよ!?」

 どうやらこの世界では塩や胡椒と言ったものはかなり貴重らしい。とすると、

「ひょっとして、下手な化学物質よりこの世界にない調味料の方が重宝するんじゃないか?」

 俺がずっと悩んでいたのはそこだった。もし仮に化学物質を生成したとして使い道が分からなければ、あるいはその化学物質の危険性が分かっていなければ無用の長物になってしまう。だが、もし調味料が重宝する世界なら話は簡単になる。料理を作って出す、それだけで事足りてしまうからだ。ならばもうやることは決まったも同然だ。

「愛梨、これから向こうの料理をリストアップしたものを作るから、一つ一つ作れるものと作れないものに分けてくれ。それを見てこれからの行動の指針を決める」

 言い終わるや否やリスト作成のためテントにいったん戻ろうとすると、突然遠くの方から女性の悲鳴が聞こえてきた。

「なんだ?」

 恐らく森の奥の方に誰かいる。それもかなりまずい状態みたいだ。

「愛梨、リィンを頼んだ。ちょっと出かけてくる」

 俺の言葉に二人が頷いたのを確認し、そのまま悲鳴が聞こえた方向に向かって走り出した。恐らく真っ直ぐ進めばたどり着くはずだ。

「こ、来ないで!!」

 しばらく走り続けていると、一人の女性が何かにおびえるように、一歩ずつ後ろに下がっているのが見えた。何におびえているのか分からず彼女の視線をたどると、その先にいたのは全身に入れ墨を掘った男だった。男の身長は2mを超えているようにさえ見える。男はまるで獲物を狩るような目つきで女性に近づいている。ただの盗賊というわけではなさそうだ。

「おいおい、そんなに怖がらないでくれよお嬢ちゃん。おじさんだってあんまり怖がられると傷つくんだぜ? なーに安心しな。雇い主から命は取らないように言われてんだからさぁ」

 言いながらも一歩一歩着実に近づいている。これはとっとと出て行った方がいいな。

「おい、いい加減にしろ。その子怖がってんだろうが。なんだかよくわからんがしつこい男は嫌われんぞ」

 そのまま俺は男と女性の間に割って入り、その瞬間女性は俺の後ろに隠れるようにしがみついてきた。が、男は一切笑みを崩さない。体格差があり過ぎる相手など取るに足らないとでも思っているのだろうか。だとしたら随分と舐められたものだ。

「おいおい先にレディーを口説いてんのは俺だぜ? 大方坊主も口説きに来たんだろうが順番くらい守ったらどうだ?」

 口説く、ねぇ。明らかにそうは見えないが男はややオーバーにそう言った。この男には誤魔化す気がないのだろうか。

「てめぇ誤魔化す気ねぇだろ。猿でももうちょいマシな誤魔化し方するぞ」

 男は俺のそんな挑発も鼻で笑い、

「この期に及んで実力の差が分かってねぇみてぇだな。いいか坊主、俺とお前の差は何も体格だけじゃねぇ。俺には決定的な特殊能力がある」

 特殊能力? それがコイツの自信につながっているのだろうか。瞬間移動? あるいは時間停止か? 考え込む俺をよそに男は話を続ける。

「聞いて驚け坊主、俺の能力は対象を指定し声を聴かせることで相手を死に至らしめるってものだ。わりぃが万に一つお前さんに勝ち目はねぇ」

 はぁ……、予想以上にどうでもいい能力だった。確かにそれが奴の自信につながるのはわかるが、その程度なら何の問題もない。

「ならやって見ろよ。殺せるものなら殺してみやがれってんだ」

 言いながら俺は行動を開始、奴が息を吸い込むのが見える。そして、そのまま奴は俺の目の前で口をパクパクさせた。

「なぁ知ってるか? 耳ってふさげば聞こえないんだぜ?」

 奴の表情が驚愕に染まった。よもやこうも簡単に対策を取られるとは思っていなかったのだろう。確かに男の能力は脅威だった。しかしそれはあくまでネタがバレてない場合に限って、自分からばらした時点で大したことのない能力に成り下がってしまう。

 まぁお陰様で俺も両手を使えなくなってしまったわけだが、それでももう俺の勝ちだ。男は驚愕のあまり放心状態にあるみたいだし、そのまま俺は練習の成果をここで出してみることにした。

「スプラッシュ」

 次の瞬間奴の頭上3メートルの位置に塩酸を生成、そして脳天めがけて落とした。当然ぼーっとしている男に防ぐ手立てはなく、奴は頭から塩酸を浴びることとなった。

「_________!!!!!!!!!?????????」

 耳をふさいでいるため声は聞こえないが、絶叫を上げているのが分かる。そして男はそのまま高濃度の塩酸の海に溶けて行った。

「存外大したことなかったな」

 もう聞こえてはいないだろうがそう言い残し、俺は元来た道を引き返すのだった。

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