もう一つの片思い
2話 幼稚園=つまんないとこ
それは13年前に遡る。
13年前。俺は5歳、華恋は3歳。まだ幼稚園児だった頃の話だ。
俺たち園崎家は親の転勤が多く、今回も父親の仕事の都合で引っ越すことになった。
「今度は長く居れそうなの?礼治もそろそろ小学生になるし、華恋も幼稚園に入るし。今後のこと考えないと。」
母親は父親に転勤のことを聞き、子どもたちの将来のことまで考えていた。
父親は母親に言われて、「それもそうだな。」というだけだった。
「ねえ、ねえ、お兄ちゃん。」
妹の華恋は、俺の袖を引っ張って聴いてくる。
「ヨウチエンって何?華恋、どこかに行くの?」
華恋の素朴な質問に俺は淡々と答えた。
「つまんないとこ。」
華恋は?を頭の上に浮かべて、頭を左右にふって「つまんないとこってどこ〜?」と笑いながら歌っていた。調子に乗って、フラフラする妹に俺は頭をチョップした。
(あ!やりすぎた・・・)
頭にチョップをくらった妹は頭を押さえ目に涙を浮かべた。
「う、うえーん!!」
大粒の涙を目からこぼし顔を真っ赤にして妹は泣き叫んでいた。
そして案の定、妹は大泣きし母親に助けを求めた。
「わーん!痛いー!!ママ〜!!お兄ちゃんが〜!」
わんわん泣く妹を抱っこして「よしよし。痛いの、痛いの、飛んでいけ〜。」と母親はあやしていた。
(あんなんで飛んで行くわけないだろう・・・。)と内心思った。
ツーンとする俺を母は「お兄ちゃんなんだから、優しくしなさい」と叱りつけた。
(知るか!変なとこに行こうとする華恋が悪い。それに嘘をついた訳じゃない。)
俺自身、幼稚園は正直言ってつまんないところだった。
訳も分からず「行事だから」と言って、大人の良いように動かなきゃならないのが苦痛だった。運動会、お遊戯会、芋ほり、遠足とか、まあいろいろあった。
だから俺は、じっとしていることが好きだった。
「礼治君は大人しいね。何やっているの?」と幼稚園教諭に問われてもそっぽを向いてボーっとしていることが多かった。
一人でボーっとして何が悪い?と俺は思ったが、周りと違うからと言って偏見されることはしょっちゅうあった。
その度俺は幼稚園に居づらかった。園児や園児の母親たち、先生にまで変な視線がこっちを見ているような違和感を覚えた。
「礼治君、何しているのかしら?」
「礼治君、みんなと溶け込もうとしなくって」
「発達障害なんじゃない?」
「変わっているわよね。」
いろんな人が好き勝手にさまざまな意見が出る。だが、こういう時こそ母親は強い。
「礼治は、先生方が心配することはないと思います。ただ、一人でいることが好きなだけだと。家に帰っても本を読み、時にはテレビを見たりしていますし。発達においても、普通だと思います。礼治と話しても意思疎通がしっかりできております。ちゃんと礼治と話をすればそういった誤解は解けると思います。家の手伝いだって出来ますよ。」
そういうとある先生が、「そういえば」と口を開いた。
「この前、紙芝居の読み聞かせをしたとき、ななちゃんがお腹が痛いと言っていたらしく、私も気付かなかったのですが、礼治君が私の袖を引いて「あの子お腹痛いって」って教えてくれたことがあります。」
たったその一人の発言であっという間に俺の評価は上がった。
「周りをよく見ているのね、礼治君。」
「ほんとはいい子なのね。」
「変な誤解をしていたのは私たちだったのね。いろんな子がいて当たり前なのに…。」
「ごめんなさい。礼治君。」
その後俺のことを変にいう人はいなくなった。
良い環境になったと思ったら、「引っ越しが決まった」とまた0からのやり直し。
「「「「礼治君、遠くに行っても元気でね!ずーっと忘れないよ!」」」」
幼稚園に行った最後の日にみんなにそう言われ色紙をプレゼントされた。「ありがとう」と俺は言うが、(どうせ忘れるくせに)と内心どこか冷めていた。
だから、幼稚園はつまんないとこが俺にとっての正当な答えだった。
13年前。俺は5歳、華恋は3歳。まだ幼稚園児だった頃の話だ。
俺たち園崎家は親の転勤が多く、今回も父親の仕事の都合で引っ越すことになった。
「今度は長く居れそうなの?礼治もそろそろ小学生になるし、華恋も幼稚園に入るし。今後のこと考えないと。」
母親は父親に転勤のことを聞き、子どもたちの将来のことまで考えていた。
父親は母親に言われて、「それもそうだな。」というだけだった。
「ねえ、ねえ、お兄ちゃん。」
妹の華恋は、俺の袖を引っ張って聴いてくる。
「ヨウチエンって何?華恋、どこかに行くの?」
華恋の素朴な質問に俺は淡々と答えた。
「つまんないとこ。」
華恋は?を頭の上に浮かべて、頭を左右にふって「つまんないとこってどこ〜?」と笑いながら歌っていた。調子に乗って、フラフラする妹に俺は頭をチョップした。
(あ!やりすぎた・・・)
頭にチョップをくらった妹は頭を押さえ目に涙を浮かべた。
「う、うえーん!!」
大粒の涙を目からこぼし顔を真っ赤にして妹は泣き叫んでいた。
そして案の定、妹は大泣きし母親に助けを求めた。
「わーん!痛いー!!ママ〜!!お兄ちゃんが〜!」
わんわん泣く妹を抱っこして「よしよし。痛いの、痛いの、飛んでいけ〜。」と母親はあやしていた。
(あんなんで飛んで行くわけないだろう・・・。)と内心思った。
ツーンとする俺を母は「お兄ちゃんなんだから、優しくしなさい」と叱りつけた。
(知るか!変なとこに行こうとする華恋が悪い。それに嘘をついた訳じゃない。)
俺自身、幼稚園は正直言ってつまんないところだった。
訳も分からず「行事だから」と言って、大人の良いように動かなきゃならないのが苦痛だった。運動会、お遊戯会、芋ほり、遠足とか、まあいろいろあった。
だから俺は、じっとしていることが好きだった。
「礼治君は大人しいね。何やっているの?」と幼稚園教諭に問われてもそっぽを向いてボーっとしていることが多かった。
一人でボーっとして何が悪い?と俺は思ったが、周りと違うからと言って偏見されることはしょっちゅうあった。
その度俺は幼稚園に居づらかった。園児や園児の母親たち、先生にまで変な視線がこっちを見ているような違和感を覚えた。
「礼治君、何しているのかしら?」
「礼治君、みんなと溶け込もうとしなくって」
「発達障害なんじゃない?」
「変わっているわよね。」
いろんな人が好き勝手にさまざまな意見が出る。だが、こういう時こそ母親は強い。
「礼治は、先生方が心配することはないと思います。ただ、一人でいることが好きなだけだと。家に帰っても本を読み、時にはテレビを見たりしていますし。発達においても、普通だと思います。礼治と話しても意思疎通がしっかりできております。ちゃんと礼治と話をすればそういった誤解は解けると思います。家の手伝いだって出来ますよ。」
そういうとある先生が、「そういえば」と口を開いた。
「この前、紙芝居の読み聞かせをしたとき、ななちゃんがお腹が痛いと言っていたらしく、私も気付かなかったのですが、礼治君が私の袖を引いて「あの子お腹痛いって」って教えてくれたことがあります。」
たったその一人の発言であっという間に俺の評価は上がった。
「周りをよく見ているのね、礼治君。」
「ほんとはいい子なのね。」
「変な誤解をしていたのは私たちだったのね。いろんな子がいて当たり前なのに…。」
「ごめんなさい。礼治君。」
その後俺のことを変にいう人はいなくなった。
良い環境になったと思ったら、「引っ越しが決まった」とまた0からのやり直し。
「「「「礼治君、遠くに行っても元気でね!ずーっと忘れないよ!」」」」
幼稚園に行った最後の日にみんなにそう言われ色紙をプレゼントされた。「ありがとう」と俺は言うが、(どうせ忘れるくせに)と内心どこか冷めていた。
だから、幼稚園はつまんないとこが俺にとっての正当な答えだった。
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