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チート無しクラス転移〜〜Be chained(ベチーン)〜〜

キズミ ズミ

三章 19話 『肉が燃え尽きようとも』




異形を成すビーストファクト

 唱えた瞬間、心の最奥に収まっていたナニカが破裂した。

「ヴアぁぁぁぁああぁあッッ!!!!」

 ナニカとは、恐らくオレの天稟てんぴんの制御装置のことだろう。

 歯止めを失った内なる『鎖』は臓物を荒らし、肉を掻き混ぜ、皮膚を突き破って存在を主張する。


 ーーー異形いぎょう

 異形、異形異形異形異形異形異形異形異形異形異形異形異形異形異形異形異形異形異形異形異形異形異形異形異形異形異形異形異形異形異形異形異形異形異形異形異形異形異形ーーー・・・・・・。

 世界の定義が狂いだす。かたちを無くし始めて久しい身体。

 恐れ、避け続けてきた惨状の全てが、今オレの全細胞を蹂躙している。

「ズオォオォォォオオォォオオ!!」

 ベンガドラムは鎌首を後ろに引くと、口内に漆黒の恒星を生み出した。

 飽和し、変色した莫大な魔力の破滅竜の息吹ドラゴンブレス

 相対するはーーー。

「『鎖竜さりゅうーーーファイアドレイクゥゥゥゥゥ』!!!』」

 既にオレは、オレじゃない。鎖を操って成した姿は、竜の威容。

 ベンガドラムに勝るとも劣らない鎖の竜。それは単に大きさだけでなく、息吹ブレスの威力でも、だ。

 息吹ブレス同士が衝突し、拮抗ーーー否、爆散する獄炎ごくえんに対し、鎖の息吹ブレスは物質的質量に任せてベンガドラムに押し寄せる。

 依然として炎を吹き散らすベンガドラムの口内を、鎖が蹂躙して、行き場の無くなった炎はーーー。

 ボゥンッッ!!!

 低周波な爆音を伴って、ベンガドラムの脳漿のうしょうが飛び散った。

 しかし、直後それらの肉片は煙とともに消失し、結果としてベンガドラムは傷一つない体に再生する。

「ゔァァァァァァあぁぁぁッッ!!!」

『ズオォオォォォオォォオォォ・・・・・・』

 辺りの塵が俄かに巻き上がった。ベンガドラムは黒紅色の鎌首をもたげ、両翼をたわませると大地を飛び立つ。

「行かせ・・・ねぇよッ!!!」

 再び身体が変貌する。うごめいて、蠢いて、蠢いている。その威容は、蟲の王。

「『鎖蟲さちゅうーーーコキュートス!!』」

 節足動物の脚を模した8本の鎖は飛行するベンガドラムの身体に巻きついて、再び大地に叩きつけた。

 小さく苦鳴をあげるベンガドラム。そこには平時とは比べ物にならないほど大きな隙が出来ている。

「細胞の一片も残らず、砕け散れ」

「・・・『大鎖猿王たいさえんおうーーーヴァーリンッッ!!』」

 身に纏う全ての鎖のサイズが、爆発的に膨張した。それは単に討伐対象が『人』から『人外』へと移行した事のみを意味している。

 オレの天稟の切り札は『破壊力の加速度的上昇』・・・・・・。

 我ながら、天稟のチープさに呆れる。だからこそかつてのオレ・・・・・・は早々にこの力を見限ったんだろうがーーー。

「うおぉおぉぉぉおおーーーーーーッッ!!」

 踏み込んだ大地一帯を破砕しながら、猛然とベンガドラムへひた走る。

 既に振り上げている拳はあと一瞬もしないでベンガドラムの肉を切り裂き、骨を砕く。黒紅竜はまだ身動きの取れない状態にある。

「ーーーーーーーーー勝った・・・!」

 勝ちを確信し、口の端が歪む。狙い違わず、地に伏したベンガドラムの頭蓋を、何の変哲も無い・・・・・・・オレの拳が捉えたーーー!!


 ーーーグチ・・・・・・ッッ!!


「・・・・・・は、ぁ?」

 ベンガドラムの頭蓋が砕ける、痛快な破裂音は聞こえなかった。代わりに、素手でベンガドラムの鱗を殴ったオレの拳の壊れる音が、虚しく響いた。

「ズオォオォォォオォォォォオッッ!!」

 体勢を立て直したベンガドラムは真っ赤に染まった、怒りに染まった瞳を向けた。

 途端、横から四肢が爆散するほどの衝撃が奔る。ベンガドラムがそのしなやかな尻尾を鞭の如く振るったのだ。

「ン、ぐぅぉぼ・・・ッッ!!?」

 左方の岩壁にぶち当たって、脳みそが盛大に混ぜかえされた。巻き上がった土煙なのか、目玉が潰されたのか分からないが辺りは真っ暗だ。

 真っ暗・・・?否、明かりが近づいてきている。無明の闇を割いて、世界を埋め尽くさんばかりの赤が迫ってくる。

「ぁ・・・・・・・・・?」

 視界が真っ白に染まった。眼球の水分は一瞬で蒸発し、酸素が世界から失われた。渦中にいるオレの皮膚はただれ、肉は灼かれ、臓物は煮え繰り返って骨は瓦解した。

 ーーー昔、ミツキに聞いたことがある。筋肉は熱を通すと急激に収縮する。だから焼死体はみんなバキバキに骨折しているんだそうだ。

 ベンガドラムの息吹ブレスが終わった。だけど身動き一つ出来ない。自然、ボクシングのファイティングポーズみたいな状態で硬直していた。

 このポーズは、別に『まだ戦える』という意思表示じゃない。熱変性を起こした筋肉が収縮した結果だ。


 ーーーよう、やっぱお前にゃまだ早かったか。


 まぶたを閉じている訳じゃないのに、あの8ミリで投射した様な文字が見えてきた。まぁ、閉じるまぶたは既に溶けてしまったんだけど。

『どういう事だ。ベンガドラムにトドメを刺すって瞬間、いきなり天稟が無くなったんだが・・・?』

 口周りの肉はほとんど無くなって、もう話す事は出来ないけれど、オレは心の中で8ミリに問うた。

 ーーー拒絶反応ってやつだろ。お前の技は人間が使うにゃ無茶だったって事だ。

『ふざけんな。残してきたマドリはどうなる?』

 ーーー殺されるだろうな。まぁ、当然の如く。

『そうならない為に、力を貸してくれるんじゃなかったのかよ・・・!!』

 ーーーならなくなかったんだろ?力及ばず、悪かったな。

『・・・ッ!もう、いい。元々、誰とも知らねぇヤツに頼ったオレがバカだった』

 ーーーはン、じゃ、どうするって?硬直する事でやっと人間の形保ててるだけの焼死体が、何できるってんだ。

「人の形なんて、どうでもいい・・・ッ!!」

 黒焦げの焼死体が、声にならない呻き声をあげた。足を無理やり一歩踏み出し、断絶した関節の辺りから身体が砕けた。

 もう一歩、もう一歩、焼死体は覚束ない足取りで、たしかに歩を進めていく。



ーーーーーーーーーー


「グルルルルルルルルゥ!ガアゥ!」

 2匹の狼は、眼前にそびえる黒紅竜に強い威圧を孕んだ声をぶつけた。

「ーーーーーー・・・・・・」

 無論、狼の威嚇など、ベンガドラムはまるで意に介さない。とは言え、伝説の竜は今、ムシの居所が悪かった。

「ズオォオォォォオォォォォオオオッッ!!」

 先ほどベンガドラムが焼き殺したミキオの姿が、ベンガドラムの脳裏にこびりついていた。

 決着がつく直前のミキオは、正しく難敵と言って相違ない相手だったとベンガドラムは認めている。

 そんな相手に、自分は息吹ブレスという方法で、不完全燃焼な決着をした。してしまった。その事に、ベンガドラムの気は晴れないでいた。

 自分が強さを認めた相手は、必ず自らの牙で殺す。それがベンガドラムの決まり事だった。

 しかしベンガドラムは息吹ブレスでミキオを殺した。

 何しろただの人間を、脅威とまで感じてしまったのだからーーー。

「う、うぅん・・・・・・?」

 ベンガドラムの咆哮によって、マドリは深い眠りから目覚めた。目をこすり、あたりを見渡すとーーー。

「うっ、ひゃあぁああぁぁっ!!?ド、ド、ドラゴンっ!?」

 マドリは弾かれたように後ずさり、目と口を全開にする。

「・・・・・・キサマ、ノ、キシ・・ハ、ワガキバ、ヲ、オソレズ、ヨクタタカッタ」

「・・・ど、ドラゴンがしゃべ・・・っ!?て、キシ・・・。騎士?」

 現在の状況がまるで分からないマドリは、ベンガドラムの一挙一動に戦々恐々としている。

「それって・・・ミキオの、事ですか・・・?」

「・・・アイタイスルニ、フサワシイアイテダッタ。ケイケイニ、コロシテシマッタ」

「殺した・・・?ワタシが気絶してる間、ミキオは戦ってたの?」

「シカリ」

「・・・・・・そんな」

 今更どうしようもない無力感がマドリを襲った。全身の力が抜けると、どこまでも絶望の底に落ちていく感覚がして、その場にペタンと座り込んでしまった。

「・・・セメテ、クルシマズニ、コロシテヤル」

 虚脱状態のマドリを見下ろすベンガドラムの目は細められ、口の端から炎がたぎった。

 ゾアっと、空間から水気が失せた。肌の表面が乾燥し、走馬灯を見るに十分すぎる時間が経過する。

「ーーーーーーきぉ」

 マドリが数瞬後の死を確信した刹那ーーー!

 ーーージャラララララッッ!!!

 鎖を掻き鳴らし、マドリとベンガドラムの狭間に黒い物体が乱入した。

「ーーー嘘・・・っ!?み・・・きお・・・?何、その身体・・・・・・」

 マドリは眼前の黒い物体を見て、愕然とした。全身を鎖で固定してやっと瓦解しないでいるその体。

 満身創痍なんて言葉じゃ、もはや生ぬるい。回復魔法使いのマドリをして、生きているのが信じられないくらいだと思わせるに十分すぎる負傷だ。

「黒・・・焦げて、腕は炭化たんかしてる・・・?それに左脚・・・太ももから先が無くなって・・・!?」

 マドリの持つ全魔力を投じたところで、ミキオがもはや助からないのは自明だった。

「ーーーーーーーーーぁ、」

 マドリが見ているのは、ミキオだと思われる黒い物体の背面だ。もっとも、こうなってしまっては裏表区別つかないだろうが。

 しかし確かにミキオの口から、か細く、嗚咽じみた声が聞こえた。

「ぉぇうーーーぁあぅぅぉう」


『ゴメン。遅くなって』


「えぅぅぁ、ぉぅあぇぅ・・・」


『絶対に、助けるから・・・!』


 うめき声にしか聞こえないその言葉に、強い意志を孕んだミキオの言葉が重なって聞こえた。

「ミキオ・・・。なんで、そんなになって、そこまでして・・・・・・」

 チリ・・・、と、毛先の焦げる音が聞こえた。放射された獄炎はほど近いところまで迫っている。

「ーーーーーーーーー」

「ミキオぉぉぉぉぉおぉおおっっ!!」

 灼熱がミキオを飲み込まんとするその刹那ーーー否、永遠に、その時は訪れなかった。

 ミキオの鼻先で『停止』したソレは、空間に固定されたようにその猛威を留まらせた。


「アルルがニンゲンを助けるだなんて、一回死ななきゃ出来ないことですわね」


 どこか自嘲じみた、それでいて透き通った声がマドリの耳朶じだを打った。

「あ、なたは・・・・・・?」

 いつの間にか、パーティから抜け出してきた様な華やかなドレスを見にまとった華奢な少女がマドリの横に立っていた。

 喉の辺りの筋肉が痙攣して、上手く喋れないでいるマドリに、ドレスの少女はオッドアイの目を向ける。

 赤と青の双眸が、マドリの淡青色の瞳と交錯する。直後、ドレスの少女は口をへの字に曲げて不快感をあらわにした。

「・・・あなた、マドリ、とか云う名前でしたっけ。ニンゲン風情にアルルの力を見せるのは、非常に、極めて、すっご〜〜〜っっく!遺憾いかんなのですがーーー!!」

「お姉様の頼みですので、アルルも妥協します。あなたを生かして帰してあげますの」












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