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チート無しクラス転移〜〜Be chained(ベチーン)〜〜

キズミ ズミ

三章 18話 『凍てつく死と暖かい生』






 打つ手の無くなったオレは、それでも鎖に巻き取られ、内臓に強烈な負荷をかける。

 もはや曲芸飛行でも何でもない。殺虫剤を撒かれて無様に逃げ惑うハエの様相だった。

 ーーー心の奥の方に、ピシリと亀裂が走った。

「ハ、ハハ・・・・・・」

 こんな状況なのに、笑いがこみ上げてきた。多分、顔は未だかつてないほど情けない表情をしていると思う。

「ミツキぃ!!たす、助けてくれぇ!し、死ぬッ!ころされ、殺されるぅ!!」

 天地の区別がつかない。涙が上へ上がっていっているから、落下中何だろうけれどーーー・・・。

「ひ、ひぃぃ!!来るなぁッ!!ああぁあ『黒鞭』ぃ!!!」

 グングン接近して来るベンガドラムに金切り声を上げて、オレは再度、切り札を振りかざす。

 避けられた。どころか、今振ったのは『黒鞭』じゃない。ただの鈍色の鎖だ。

「ハッ・・・!ハヒュッ!ハヒュッ!グウ・・・ゴブッ!!」

 オレは鎖を斜め上に放った。落下の位置エネルギーがズンッと重く身体にのしかかって頭から血の気が失せた。オレはまた鎖を伸ばす。

 ベンガドラムをスレスレで躱すと百メートル近くも先の虚空に繋がった鎖に、ボロボロの身体を預けた。

「あ・・・ッ!ゴッ、ヴロォォォッ!!!」

 空中で吐瀉物を撒き散らした。だけじゃない。身体中の穴から様々な水滴が噴出されていた。

 オレはもう何度目か、中空に投げ出される。虚空に向かって鎖を伸ばす。中空に投げ出される。虚空に向かって鎖を伸ばす。中空に投げ出される。虚空に向かって鎖を伸ばす。中空に投げ出される。虚空に向かって鎖を伸ばす。中空に投げ出される。虚空に向かって鎖を伸ばすーーー。

「も、いーか・・・・・・」

 どれだけ鎖を伸ばしても、どれだけ身体に負荷をかけても、ベンガドラムは付かず離れずの一定の距離でオレについて来る。

「・・・ッッ!!殺せよぉ!!早く、早くオレを殺せェッ!!もういいから!もう分かったから!!頼むから殺してくれぇ!!!」

 自暴自棄になって、四肢を投げ出した。精神が磨耗して、気がおかしくなりそうだった。

 冷え冷えとした空気に晒されて、オレの身体は急速に冷え込んでいく。死の温度だ。

「あつッ・・・!?」

 絶望の水底に沈み、凍てついていくオレの身体、特に首筋あたりから温かいナニカが伝った。

 首を巡らせると、温源はマドリだった。

 依然として意識はなく、オレと同様に体温はこの冷気が吹き飛ばしてしまっているようで唇が真っ青に染まっている。

「マドリ・・・?そう言えば、背中にかついでたんだっけ・・・」

 ベンガドラムへの逃亡に忙しく、マドリが背中に居たことを忘れていた。

 有り体に言って、今の温もりはマドリの吐瀉物としゃぶつだった。別に今が初めてという訳でもないらしい。

 ふと背中に意識を巡らせると、気づかなかっただけでこれ以前にも幾度となくオレの背中で撒き散らしてくれた・・・・・・・・・感触がする。

 普段ならば忌避するところではあるが、事ここに至って、それは蒼白の身体で、それでもオレを生の方へと引っ張っていてくれようとするマドリからのエールの様に感じた。

 吐瀉物の温もり、それは生命の温度だった。

「ーーーーーーーッッ!?」

 突風が吹いて、オレの身体をフワリと包み込んだ。

 魔力という概念に乏しいオレだけど、今の突風には、確かにミツキの魔力を感じた。

 固まった心が、かじかんだ精神が暖かく解きほぐされていく。

 胸を突いて去来するのは、ポカポカした友達との思い出だ。

「ーーーゲロで元気取り戻すって、なんか変態くさいな、オレ」

 口の端がほころぶ。力がみなぎる。

「サンキュな、マドリ、ミツキ。オレさ、なんか今、なんでも出来そうな気がするんだ」

 ベンガドラムが迫る。夜空を閉じ込めた様な瞳は愉悦に染まっていて、ギザギザの牙を剥き出しにしている。

 オレの四肢の一つでも噛みちぎって、更に絶望させようとしているのだろうか。

 さっきまでのオレなら絶叫してた。だけど、今は友達がいる。温もりがある。

 オレはベンガドラムを正面に、瞑目めいもくした。よく集中すると身体中に温かいものが駆け巡っている事に気がつく。


 ーーーよう、やっと感じたかよ。


 突如、まぶたの裏に、8ミリで投射した様な文字が浮かんできた。


 ーーー呼びませ。そうすりゃお前は、誰より強ぇ。


 不思議な事だが、この文字に不審な感じはしなかった。なんなら親しみ深いまである。

「ーーーーーーーーー」

 オレは薄く目を見開くと眼前まで来ていたベンガドラムへ右手を差し出す。

 オレの魔力が五臓六腑を駆け抜けて、指先から迸る。


「『???の雷撃トニトルス』」


 ベンガドラムとの間に発生したのは、五感全てをつんざく一筋の迅雷だった。

 視覚をしっし、聴覚をろうし、嗅覚を消失し、触覚を射殺し、味覚を忘却する雷霆らいていの調べ。

「ズオォオォォォオォォオオォ!!!?」

 窮鼠きゅうその思わぬ反撃、完全に虚を突かれたベンガドラムの鼻先に雷撃が直撃した。

「ハッ!どうだベンガドラム!初めて本当に距離を取ってやったぜ!!」

 思えば、ベンガドラムはその気になればオレなんかすぐ殺せていた。

 それをしなかったのはベンガドラムの嗜虐しぎゃく心、それが今回、盛大に裏目った訳だ。笑わずにはいられない。

 まぶたの裏の文字は不満げだったが、オレは胸のすく思いだ。

 万感の思いが到来するまま、オレは雲を突き抜けた。

 今、上空何千メートルだろうか。人生で一回はスカイダイビングをしてみたいと思ったことがあるが、こんな形で叶うとは思わなかった。

 眼下に広がる土地は雄大で、ベンガドラムがちっぽけにすら思えてしまう。

 不思議だ。心に余裕があるだけでこんなにも世界が輝いてみえる。






 ーーー出来る限り身体に負担がかからない様に注意して、オレは大地に膝をついた。

 下に地面があると言うだけで安心感は歴然たる違いだ。

 脚が震えてうまく立てないので、四足で這ったまま着地点を離れる。

 どこか分からないが、ココは崖の上だ。奥には森が広がっていて薄暗く、どこか不気味ではある。ーーーが、これから襲来する破滅竜に比べれば遥かにマシだ。

「ゴメンなマドリ。随分、無理させちまった。あーあ、唇もこんなに紫になって、オレってホントにロクでもねぇ」

 背中から伸びる鎖で固定していたマドリを森の入り口に横たわらせるとマドリの頬に触れた。

 暖かい。地上に戻って体温も取り戻した様で、心から安堵した。

「グルグルグルゥ・・・ッ!」

「・・・・・・ッ!?」

 森の奥から獣のうなり声が聞こえた。薄闇の中から這い出て来たのは2匹の狼。どこかで見覚えがあった。

「お前ら、ゴロードのトコの狼か・・・!?」

 数十分前まで敵だったこの狼たちだが、ゴロードの子分たちと同様に食料を与えたらコイツらはスッカリ懐いた。

「・・・クゥーン、クゥーン」

 オレを見るや甘えた声音で鳴き、毛皮をすり寄せてくる狼たち。

「なんでココに居るんだ?ゴロードに、オレを追えって命令されたとかか?」

「ーーーウォウ」

「・・・そか。ありがとな。ありがとついでに、頼みがある。マドリを護っててくれないか?」

「ーーーウォウ」

「いい子だ」

 狼をひとしきりクシャクシャしてやった。脚の震えは止まっていた。

 2本の足でスックと地面に屹立きつりつすると、崖の方に歩いていく。

「ーーーーーーーーー」

 正味、狂った平衡感覚は少しも改善されていない。身体もボロボロだし、服が酸っぱくさい。

 オレは服を脱ぎ捨てるとパンツ一丁になる。温かい日差しとそよ風が直に当たって気持ちいい。

 オレはまぶたを閉じて、瞑目した。すると再びあの8ミリが流れてくる。


 ーーーよう、お前。さっきの『???の雷撃トニトルス』ありゃ本領の2%パーも出てねぇぜ。


「・・・なんかそんな気はしたよ。つって、アレが限界だけどな。もう微塵も魔力が残ってねぇ」


 ーーークッハハハ。最初はそんなもんだ。言っとくけどよ、今のお前じゃベンガドラムにゃ勝てねぇぜ?


「今のオレじゃ無理だ。無理無理だ。知ってる、思い知った。でもまだ奥の手があるだろ」


 ーーー奥の手ね。あるよ。スッゲェのがさ。ただ、ビビリのお前に手が出せるかな。


 それはゴロードとの会話での事。そこで吐露した感情は決して嘘ではない。

「ああ、オレはビビリだよ。ずっと怖がってきた。そんなオレだから、ビビリのオレにビビっちまった」

「そんなオレだから、護りたい友達を見つけられた。お前の力、余すトコなく全部貸してくれ。例え潰れても構わないから、今だけ、オレはアイツを超えたい」


 ーーーイイぜ。貸すわけじゃねぇけどな、なんたってお前の力だ。バッチリ決めてこい。


 長い瞑目が終わり、まぶたを開けた。すぐ目の前にベンガドラムが羽ばたいている。

「よ、待ってくれたのか、ベンガドラム。見かけによらず良いとこあんなお前」

『ーーーキサマノ、ミニマトウ、トーシ、ガ、メニミエテ、カワッタ』

「・・・ッ!?お前、喋れたのか。トーシ、闘志ね。自分じゃ分かんないけれど、うん」

 術を知った。人の道を外れる未知への鍵を受け取った。あとは身を委ねるだけ。解号はーーー。

「『異形を成すビーストファクト』」













 三章18話にして、未だ1%もストーリーが進んでいない小説があるらしい。


 










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