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チート無しクラス転移〜〜Be chained(ベチーン)〜〜

キズミ ズミ

三章 16話 『破滅しろ』






 先駆けとなったゴロードの子分、十字傷の巨漢、ネクストが跳躍。ベンガドラムの翼、付け根に肉薄したその時ーーー。

 ーーーザシュッ・・・・・・!!

「・・・ぅ?、ガアァァアアアァ!!!」

 ベンガドラムの鱗が鎌の様な形に盛り上がって、迫り来るネクストの右腕を切り落とした。

 噴水の如く流れる鮮血と脳を灼く熾烈しれつな激痛を知覚した直後ーーー残る左腕をベンガドラムに突き立てた。

「・・・・・・ッッ!!?」

 ベンガドラムに一瞬の当惑が走る。拳固の威力はたかが知れている。しかし、片腕を失ってなお戦意を喪失しない人間は全く珍しかった。

 ネクストは苦鳴を噛み殺し、口の端を歪ませる。

 ベンガドラムは自らの心が沸くのを感じていた。一方的な殺戮は飽きていた。やはり殺すなら狩り甲斐のある獲物に限る。

 嬉しいことに、伝説と呼ばれた自分に臆さず飛び込んできてくれるのは彼1人ではない。

 自分を脅かす存在は、彼に追随して10数人。誰も彼も、諸手に何も持たず。ヨロイも纏わず。

「ズオォオォォォォォォオォ!!」

 ベンガドラムは星空を閉じ込めた様な、濡れた漆黒の瞳を見開く。喉の奥にある火焔袋から業火が吹き出した。

 それは眼前の人間を正当な敵と見なしたが故のモーション。破滅をもたらす決意表明だった。

「一斉にかかれェェェーーー!!!」

 一目で300度以上も見渡せるベンガドラムの広い視野に、ゴロードたちが映らない角度は、無い。

 空気を穿ち、鋭さを帯びる鉄拳。五月雨の如く降り注ぐ拳は、ベンガドラムに届く前に持ち主を失った。

「グオォォォォ・・・・・・ッッ!!」

 ベンガドラムの鱗から、何十本もの鎌がヌラリと姿を現していた。ソレら全てに、鮮血が滴っている。

 腕を切り落とされた者、身体を切り裂かれ、背骨で間一髪繋がっている者、片目の光を失った者など、ベンガドラムの一合の攻撃だけで、辺りは地獄絵図だった。

 致命傷じゃない者は居ない。どころか、この時点で数分後の全滅は確実とまで言える。

 しかし、死んでなかった。彼らの眼は、紛れもなく頑健な闘志を象徴していた。

 ーーー悪くない。ベンガドラムは、破滅に塗りつぶされる思考の隅で、そう思っていた。

 生命の脈動、生死の分水嶺、身に余る闘志の発露と決死の特攻。

 これこそが醍醐味だろう。こんな時間を過ごせるのなら、自分をこの世界に召し上げた・・・・・・・・・・・・あの女にも感謝を述べるべきだろうか。

「オッ!オッ!オッ!オッ!!」

 ゴロードは二の腕から先の無くなった患部に力を込め、強引に止血すると脂汗の滲む顔貌でベンガドラムを睨みつける。

「オッ!オッ!オッ!オッ!オッ!!!」

 ゴロードから始まった短音は子分たちに伝播し、共鳴する。

 一所ひとところに集まった男たちは絶えず、己を鼓舞するように気迫みなぎる面持ちで短音を合わせる。

 途端、魔力の流れが変わった。個人では微弱な量の魔力が、しかし大勢の男たちによって中心にいる男、ゴロードに集約されていく。

 魔力の質は悪い。ただ量が尋常じゃない。魔力の総量は個人の才覚と比例する。しかしもっと根本的には、生命力も魔力に定義されている。

 いかに魔法の才能が薄弱であろうとも、極論、生命魔力から魔力は捻出ねんしゅつ出来る。

 子分たちが文字通り、命を削ってゴロードに託した魔力。いかにゴロードが魔法の素人でも、これ程のお膳立てが有れば或いはーーー。

 ダクダクと流れ続ける血の量はおびただしく、出来上がった大きな血溜まりの中、ゴロードは大きく地団駄じだんだ踏んだ。

 血が舞って、子分たちの肌を赤く染め上げる。赤は気合の入る色だった。

 ベンガドラムが動いた。鱗から形成された数十本の鎌の切っ先を男たちに向ける。

 同時、ゴロードは口元を不敵に歪ませた。そのまま、声高に魔法を唱える。

「喰らいやがれ!男ゴロード、全身全霊一世一代の大魔法だッ!!!」

 失われた右腕を、ベンガドラムの方に突き出した。

「『第三位階ゴルヴァーーー焔王の滅却掌ウゥルカーヌスッッ!!!』」

 誇大な詠唱は残響となり、尾を引いて虚しくその場に響いた。

「ーーーなんちゃってな」

 魔法の才能ゼロのゴロード。加えて今しがた唱えた魔法は破滅級ルインクラスの極大魔法。出せるわけが無かった。

 ーーー出すつもりも無かった。

 虚仮威こけおどしだと気づくのに、ベンガドラムは刹那の時間を要した。逆に言えばその間、ベンガドラムは、最も気を散らしているのだ。

狼人族ウルフィンの兄ちゃん!託したぞォ!!!」

「ーーー託されました・・・!」

 ベンガドラムの死角を縫うように、灰色の獣人が鬼気を研ぎ澄ませる。

「・・・・・・・・・ッッ!!!」

 ベンガドラムが己の油断を悟った時、鱗から延びる数十本の鎌は失われていた。

「グルルルルルルアアァァァ!!!」

 本能の解放。伝説の竜を斬獲ざんかくする糸口を見つけるや、ベンハーは身もすくむうなり声をあげた。

「ズオォオォォォォォオオオォォ!!」

 ベンガドラムは猛攻の間隙かんげきを待っていた。迎撃さえ出来れば、一発でも攻撃が当たれば眼前の獣人は地を這いずるのみの存在になる。

 そう考えている間に、ベンガドラムの片翼が身体と切り離された。

 噴出する漆黒の血液。再生するとはいえ、僅かに動揺が走る。ベンハーの動きが更に鋭くなっている気がしたのだ。

 否、ソレは確信に変わる。縦横無尽じゅうおうむじんに空間を飛び回り、その絶爪を振りかざすベンハーの後から、銀閃の軌跡ができていた。

 それは残像ではなく、目で追うことは叶わない。無意識下にのみ認識できる幻の軌跡。

 ベンハーの灰色の獣毛は、ベンガドラムを切り裂き、爪が血を吸うたびにまばゆい銀の光沢を帯びていく。

 破滅竜、ベンガドラム。かつては世界を滅ぼした伝説の竜。しかし、相手も伝説の亜人族、狼人族ウルフィン。本来その力は奇襲によって最も輝く。

 ベンハーはゴロードたちの協力により、機先を制する、という最大のアドバンテージを獲得した。

 これで破滅竜との絶望的実力差は悲観するほどでは無くなる。

 ただ、まだ足りない。ベンハーの爪では、いくらベンガドラムの鱗を削ぎ落とせても、命脈を断つことは叶わない。

 だからもう一つ、ゴロードたちには協力してもらった。

 ベンガドラムの、魔力を感知する鋭敏な感覚が警鐘を打ち鳴らしはじめた。

 白銀の獣人との攻防の最中、伝説の竜をして、恐ろしいと言わしめるレベルの尋常じゃない魔力が蓄積され続けている。

 ベンガドラム遅まきに悟って、先ほどまでゴロードたちの居た場所に目を向けた。

 血溜まりの上に立っていたのは、線の細い、怜悧な瞳の少年だった。

 ただし、今の彼を見て薄弱な存在だと断ずるほどベンガドラムの感覚は鈍っていない。

 彼、ミツキの周りには、もはや可視化出来るほど濃密で膨大な魔力の奔流が表れている。

 どれほどの才を持っていても、こんなに短時間でここまで魔力をかき集めることは不可能だ。

 いや、あの場所。そう言えばあの血溜まりは少し前まで魔力がゴロードに集約されていた所だ。

 ゴロードの周りに集められた魔力は、しかしベンガドラムの注意を引くためだけの虚仮威しだと思われたが、もう一つ、意味があるのだ。

「スウゥゥゥゥゥウウウゥゥゥ・・・!」

 ミツキは大きく深呼吸をする。使われないままその場所にわだかまった魔力の全てを取り込んで、その域・・・にまで辿り着いた。

 それは人為を超えた、神為。ベンガドラムは知る由もないが、例の、大嵐ゲイルロードが霧散してからずっと、ミツキは己の天稟てんぴんをフル稼働していた。

 その名も『世界から魔力を汲み上げる能力』。

 自分の魔力容量限界まで、世界から魔力を『無尽蔵』に供給できる能力。ミツキの本来の能力・・・・・だ。

「ーーー研ぎ澄ましたる槍の速さで、遠くかなたへ飛ぶように、風よ、飛び行け速やかに、地の拡がりに従って・・・・・・・・・」

「破滅しろ。破滅竜」

「『第五位階ゼピュローーー巨王の太刀嵐アパルクティアス!!!』」

 人の身ながら、人域を超えた英雄と呼ばれる者たちの限界、災害級テンペストクラスの大魔法を超えてーーー

「ズオォオォォォォォオオオ・・・・・・ッッ!!!!」

 ベンガドラムは己の死期を悟り、怨嗟じみたうなり声をあげた。

 膨大な魔力が圧縮し、濃密下されすぎて空間が軋み声を上げる。

 半径100Km分の魔力を、カミソリよりも薄く、鋭く、無数に形成し、ベンガドラムの周り全ての空間に設置する。

 それは一瞬のこと、極風の刃がの断罪竜を、断首し、断翼し、断頭し、断命した。

 ーーー正真正銘、破滅級ルインクラスの極大魔法は、破滅竜を細胞ひとつ残らず鏖滅おうめつした。

「勝った・・・・・・のか?さ、再生とか・・・・・・」

 ゴロードが恐る恐る呟いた。かつてベンガドラムが存在したその一箇所は、窪みがあるだけの虚しい空間だった。

「・・・・・・か、勝ったーーーーーー!!!!!」

 男たちが快哉かいさいをあげる。失った両腕を天に突き上げてーーー崩れ落ちた。

「・・・・・・・・・ッッ!!ミツキさん!早く回復魔法を!!」

 銀色の獣人、ベンハーが子分たちに駆け寄って、その緊急性をミツキに訴える。

 とは言え、分かりきっていることだ。これはミツキも、ベンハーも、男たちだって。

 ショック死しなかっただけ彼らは勇敢だった。しかしこれは避けられないこと。血を失いすぎた。

 回復魔法の天才、マドリならば或いは助けられたかも知れない。しかしこの場には居ない。そしてミツキはーーー

「ボクは、回復魔法が使えない」

「そんな・・・ッ!彼らが居なければベンガドラムは倒せなかった!それなのに、それなのに・・・!!」

 打ちひしがれるベンハーの白銀に煌めく獣毛が風に散っていき、人間の様に戻る。

 露わになった顔には毛の上からでは分かりずらかった苦痛の表情が示されている。

「ーーーーーなんだ。わざわざおっとり刀で来てやったのに、もう終わったのか」

 不愉快そうな舌打ち混じりの声が、聞き馴染みのない低い声が2人の耳朶じだをうった。

「知らん、知らん、知らん、知らん、知らん」

 倒れ伏すゴロードとその子分の顔を順繰りに指差していく。

 白いスーツに、黒いワイシャツを着た長身痩躯の男だ。顔は判別できない。真っ白な中折れ帽を目深に被っているからだ。

「な、なんですかあなたは・・・!?」

 死闘の直後に現れた余りにも奇妙な男。自然、ベンハーは詰問する様な声音になる。

「銀の獣人。お前も知らん。話しかけるな。邪魔だから」

「な・・・・・・ッ!?」

 ぞんざいにあしらわれた事より、自分の正体を見られた事に驚いた。

 もしもこの白スーツがベンハーの亜人族だと衛兵に告発すれば、密入国者のベンハーはこの国に居られなくなる。

 しかし白スーツはそんな事気にも留めない様子で子分たちの顔をそれぞれ見ていく。

「あの、どちら様ですか?申し訳無いですが、ボクたちをいつから見ていたか教えてもらってもーーー」

 ミツキが白スーツに話しかけると、白スーツは気づいたようにミツキに指先を向け。

「知ってる」

「お前は、知ってる顔だな。安倍ミツキと言ったか。俺を呼び出したあの女に聞いてきた」

「呼び出した?あの女?」

「ふん。一番最初に名を名乗っておこう。もっとも、重複ちょうふくさせるほど大した名前でもないが」

 恐らくは、『一番最初』と、『名を名乗る』の二つの重複した意味の言葉を使って、自分を謙遜したのだろう。死ぬほど分かりづらい。

「俺は縁田えにしだと云う。絶縁の縁に田園の田で縁田えにしだ。今日この時をもって、人生で2度異世界召喚された男だ」





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