チート無しクラス転移〜〜Be chained(ベチーン)〜〜

キズミ ズミ

三章 13話 『星空の悪意』




 時間は少し遡る。それはゴロードの子分たちが揃って復調ふくちょうした直後の事だ。

「おらぁ!踊るぞ野郎どもッ!!」

「うおぉおぉぉぉおおおおぉおっっ!!」

 顔に大きな十字傷が刻まれた男、ネクストが先導して、子分たちを焚きつけた。

 子分たちは皆、酒気を帯びているわけでも無いのにまるで酩酊めいていした様子だった。

「え!?ちょ、ここで脱ぐんですか!?」

 男の群れの中、1人困惑している白銀のツインテール。

 淡青色の瞳は大きく開かれて、その整った顔をわずかに赤らめている美少女は、マドリである。

「脱がなきゃ踊れねぇだろうがよ、違うかマドリちゃん!」

「違うと思いますけどぉ!?」

 ついには腰巻き一丁になった子分たちは鍛え抜かれた肉体を惜しげも無く大気に晒し、晴れがましく笑った。

「ゴロードさんにしごき抜かれたこの身体、今この瞬間の為だけにある!!」

「うおぉおぉぉぉおおおおぉお!!!」

 ノリが男子校だった。元が男の子のマドリ。しかしどうやらメンタル的な所では現在、女の子の思考に準拠している様である。

 それ故に、眼前の半裸集団を見ているマドリの視線はどこか冷たい。

「・・・?あの、皆さんの背中のソレ、何ですか?」

 子分たちの背中には一様に、奇妙な焼印が刻まれていた。

 その一端がマドリの目に留まり、絶好調な子分たちの踊りとやらに水を差してまで尋ねる。

「ん?おぉこの焼印か。これはーーー」

「奴隷の証・・・・・・?」

 子分の1人が踵を返し、マドリに焼印が全て見えるようにした。

「あれ?なんだ知ってんじゃねえの。マドリちゃん」

「あれ?ワタシなんでこの焼印が奴隷の証って分かったんだろ・・・?」

 マドリの問いかけから答えようとした子分は、しかし他ならぬマドリに出鼻をくじかれて唇を尖らせた。

 しかし、マドリの胸中は当惑と疑問が渦巻いていた。あるいは焦燥でもあった。

 マドリは、確かにその焼印の示す意味を知っていた。事実、口をついて出たのだ。

 しかし、その出典が、知識のオリジンが明瞭としなかった。いつかどこかで、間違いなく知った事。忘れてはいけない事。

「ーーーーーーーーーーーー」

 呼気が熱い。心臓が肋骨を突き破って出てきそうなくらい強烈に脈打っていた。

 身体が火照ってきて、血が眼球の奥を圧迫している感覚を覚える。

「ーーーはぁッ、はぁッ、はぁッ、はぁッ・・・・・・!!」

 知れず、息が上がっていた。ノドが灼けついて、口内はカラカラだ。途端、尋常じゃないメマイに襲われてーーー。

「・・・・・・ッッ!!?マドリちゃん!?おい、大丈夫か、おい!!!」

 遠い所で子分の野太い声が聞こえた気がした。

 感覚の鈍化した世界で1人、マドリはその意識の一切を無明の彼方へと引き渡した。


ーーーーーーーーー


「奴隷の焼印を見せた直後に、倒れたんですねぇ?」

「あ、ああ・・・。すまねぇ。考えてみりゃ俺たち全員に回復魔法をかけたんだ。魔力切れでしんどかったろうに、考えてやれなかった・・・!」

 力なく地面に背中を預けている意識不明のマドリのかたわらにはミツキが居た。

 そしてその横にはゴロードの子分たち、皆、どこか後悔するように視線を落としている。

「魔力切れ、ねぇ。マドリは抜きん出て魔力量が多いし、魔法効率も天才並みだから、それは考えにくいなぁ」

「だったら、何だってんだ・・・!?マドリちゃんに何かあったら、俺たちは・・・!!」

 悲痛な表情で、子分たちは原因を探るミツキの冷然とした横顔に心情を垂れた。

 この短い間に、マドリは子分たちの精神的支柱の様な地位を確立しているようだった。

 マドリの心配とは別に、オレはその手腕に脱帽していた。すっげぇなマジで。

 どうやってこの血の気の多そうな世紀末連中の心を氷解させたんだろうか。

 マドリをおもんばかる子分たちの面持ちはまさに姫に仕える臣下みたいな。

 盗賊サーの姫。なにその新ジャンル。どっちかって言うと姫は放ったらかしで腐女子湧きそうな感じ。

 とか益体も無い事を妄想している横で、ミツキがマドリの容体を調べている。

「生命魔力と魔法魔力が体の中でゴッチャになってる。あぁ、原因はこれかぁ・・・!嫌な予感はしたんだよねぇ」

「・・・どういう事だよ、ミツキ」

 得心した様に頷いたミツキは、間延びした口調ながら、しかしその瞳には焦燥が宿っていた。

「話は後、ミキオ、取り敢えずマドリを連れて馬車に戻るよぉ。早くこの場所から離れないとぉ」

「は!?何だよ、いきなり過ぎるだろ。そりゃ、オレたちはマラケシュ村まで急いでるけどさ・・・」

「そんな事じゃない。ボクたちは今、狙われているんだ。多分、すぐ来る。せめてゴロードさんたちを巻き込まない様にーーー」



『ズオォォオオオォォォォ・・・・・・!!!』



 地獄の底から吹き上がってきた様な、腹の奥まで響く暴力的な低周波が辺りに席巻した。

 一瞬、息が詰まった。絶対的強者の気配を肌で察したからだ。

「なんだ今の!うなり声か!?」

「・・・・・・遅かった様だねぇ。見つかった。けれど、この気配は・・・?」

 にわかに戦慄が走るオレと、これから始まる事を予見している様なミツキが同時、気配の発せられている方向、天空を仰いだ。

 直上に映るのは、切り立った岩壁、そしてその遥か上に鮮やかな青を流し込んだ蒼穹そうきゅうが広がっていた。

 平易な、変わりばえのしない光景だった。オレがそう認識した瞬間、直前までの暴虐的な気配は跡形もなく霧散した。

「誤認魔法・・・!!油断した。ミキオ、岩壁から離れて!!」

 ミツキの言葉がオレの脳に伝わるより一瞬速く、真横に広がっていた崖が崩壊した。

 ーーーズガアアァァァンッッッ!!!

 鼓膜が張り裂けんばかりの轟音と共に、岩壁を突き破って現れた漆黒の巨躯。

「なんだァ・・・!!風で見えねぇ!!」

 衝撃波、暴風が変則的にあちらこちらでトグロを巻いて辺りの岩や地面を掘削くっさくする。

 その場にいたゴロードたちは皆、暴風に吹き飛ばされ、しかしオレは咄嗟に超常を解放ーーー。

「う、おぉおおおぉぉおおぉ!!?」

 略式的な大嵐に全身揉みくちゃにされながらも、オレの鎖はマドリをグルグル巻きに、そしてオレ自身を吹き飛ばされない為の命綱として機能した。

 ゲリラ的嵐が弱まり、ようやく目を開けられる様になった。自分の身体の至る所から血が滴っているのを確認する。

「づぅ・・・ッ!!痛っってぇ・・・!」

 風の刃は極めて鋭く、オレの身体の深くまでその傷は刻まれた。ふとマドリを見る。

 人差し指の延長線上で、安らかに呼吸しているマドリに傷は一つも付いていない。

 瞬時の状況判断でマドリを鎖でグルグルに保護した事は功を奏した様だ。ひとまずマドリの無事に安堵して、眼前をキッと睨む。

 必然、漆黒の巨躯と目があった。圧倒的存在感と絶望的体格差を兼ね備えたその魔物の正体、それはーーー。


「ーーードラゴン・・・・・・っっ!!」


 















コメント

  • KK

    続きが気になります!更新楽しみにしてます^ ^

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