チート無しクラス転移〜〜Be chained(ベチーン)〜〜
三章 12話 『亜人国家ゼンハー』
「べ、ベンハーさん、どういう事っスか!?」
あからさまに喫驚しているオレに対し、ベンハーさんはどこかキョトンとしている。
オレが冥護人であるという衝撃のカミングアウトした、否、ゴロードによってされた今、しかし衝撃の渦中にいるのはオレだけだった。
「いえですから、ミキオさん方が冥護人である、というのは前から知っておりました」
「な、なんで!?」
「ミキオさん方、主にミキオさんですが、客室でそのように仰っているのを何度か耳にしたので」
全身の血が足の先に急降下していく感覚に襲われた。要するに青ざめたわけだ。
「そんな・・・!聞こえてたのかよ・・・」
「というより、マラケシュ村まで行きたい、という旨の依頼をミツキさんから頂いた時すでに、自らが冥護人である事を知らされておりましたが」
「・・・!!?ミツキ、ミツキィ!?」
視界がにわかに暗転して、雷がほとばしった。衝撃に次ぐ衝撃。ミツキは何考えてんだ!?
「なにぃ?ミキオ」
長身痩躯の体を緩慢に動かして、切れ上がった怜悧な目元にスジの良い鼻梁の男、更に言えばオレの大親友であるミツキがコチラに来た。
「ちょ、ちょ、ベンハーさんにオレ達がゴニョゴニョ・・・人だって事バラしてたのか!?」
「まだ自分が冥護人だって隠しているのか」
「そう言えば確かに面と向かって冥護人関連の話はしていませんでしたね。それも知っている前提の事だと思っていましたが」
オレはミツキに内緒話よろしく耳打ちしている横でベンハーさんとゴロードは肩をすくめていた。
「あぁ、そうだぁ。ごめんね。言うの忘れていたよぉ」
「いやいやいや、そう言う問題じゃなくね!?オレらってこの世界じゃ割とギリギリな存在じゃねぇの!?」
「あぁ、それも言うのを忘れてたぁ」
「何だよそれ、つまりどう言うーーー」
「お話の最中、申し訳ありませんが一つ、よろしいでしょうか?」
「ベンハーさん・・・!何スか?今ちょっと色々立て込んでまして」
「いえですから、長くなりそうですので直接ご覧になった方が早いでしょう」
「・・・・・・?」
ベンハーさんは一つ息を吸うと、帽子を脱いで瞑目した。やがて眉間を起点にして、徐々に彼の肌は毛皮に覆われていく。
「うぉ・・・!すげぇ・・・!」
オレは感嘆混じりの吐息を漏らした。こう言う光景を見て、やはりオレは異世界に来たんだと言う実感を得る。
「・・・・・・・・・。既に存じていると思いますが、改めて」
目の前の、灰色の獣人はくすんだ緑の瞳をコチラに向け、研ぎ澄まされた爪を手の中に丸め込むと胸の前にあてがい、優美な動作で頭を下げた。
「コルドバからマラケシュ村までの御者を務めさせていただいております。狼人族のベンハーです。道中至らぬ点がございましたら遠慮なく仰って下さい」
「・・・・・・!!」
狼の体、しかし二足で立っていて、その振る舞いは明らかに人間のそれそのものだった。
オレはそんな倒錯的な、というか地球の常識の範疇にない光景に、目をシパシパさせる。
「ミキオ、ランドソールでは、冥護人は嫌われ者だって、前にボクは言ったよねぇ?」
「あ、あぁ。だから絶対に人には言うなって・・・」
「うん。『人』には言っちゃダメなんだ」
「『人』には・・・?もしかして、人族にはって事か!?」
あぁぁ!!合点がいった!てかそれはミツキの説明が悪いような気もするが。
この世界初心者のオレにとって、その言い回しは世界中の存在を指しているのかと思ってしまった。
否、地球と違って、この世界には多種多様な知的生命体が存在する。
それは例えばコボルトだったり、狼人族だったりする。
「亜人族は冥護人に寛容な種族でねぇ、例えば南の大陸、亜人国家ゼンハーでは冥護人に対する保護条例まで存在するんだよぉ」
「そ、そうなのか・・・?」
オレがにわかには信じがたい、と言うような表情をしていると、ゴロードがフーッと息を吐き出した。
「亜人国家ゼンハーか・・・。懐かしいな」
「ゴロードさん、行ったことあるのか?」
「と言うより、そこから逃げてきたのさ。オイたち、ゴロード一味は元々その国で奴隷だった」
「・・・・・・!奴隷!?」
奴隷。これもまた、現代の地球、少なくとも日本ではあり得ない概念だった。
「おぅ、背中の焼印、見るか?あの国じゃぁ、人族の奴隷は生き物の扱いを受けねぇ。だから逃げ出したんだよ」
ゴロードの瞳の奥で、仄暗い感情が渦巻いていた。どこか自嘲的に薄く笑むゴロードはベンハーさんに言葉を向ける。
「それにしても、人族の国、とりわけこのリマリア王国に亜人がいるなんざ随分珍しいな」
「・・・そうでしょうね。アッシも妻と子ができるまではこの国に長くいるつもりはありませんでしたから」
「ふん、妻子のため、ね。オイはてっきり、カムリを殺しにきたのかと思ったぜ」
「その言葉。アッシでなければ殺されても文句は言えませんから、気をつけて下さいね」
「・・・・・・・・・」
ベンハーさんとゴロードはにらみ合ったまま、数秒。やがてゴロードがツイと目を逸らして参ったように頭を掻いた。
「あー、すまねぇ。どうにも亜人は好かないんだ。ついムシャクシャした。失言だったよ、許してくれ」
「・・・いえ、あの国の奴隷の扱いは、決定的に人族との軋轢を生むものだと分かっておりますので」
「・・・ミツキ、今の、どう言うことだ?カムリを殺しにきたって」
「世界最強、『王前四腕』の1人、『搏撃卿』のカムリ、は、前に説明したよねぇ」
「あぁ、なんだっけヨロイを着てて、鋼鉄卿とかも呼ばれてるアイツだろ?」
大分記憶があやふやだった。
そう言えばその説明を受けた直後だったと思う。オレが銭湯であのメチャクチャ怪しい顔面モヤ男とエンカウントしたのは。
「まぁ、そのカムリはねぇ、詳しい事は省くけど、とにかく亜人たちからとても嫌われているんだぁ。この国での冥護人のように。いや、それ以上にね」
「だからこの国の英雄であるカムリを暗殺する為に亜人国家ゼンハーから度々亜人が密入国するんだぁ」
「なるほど。要するにカムリってものっそい嫌われてんのな」
他国から暗殺者が来るレベルで憎まれてるって、よっぽどの事をやらかしたのだろうか。
「てかミツキ。お前ベンハーさんが亜人だっていつ知ったんだ?」
「あぁ、それはアッシも疑問でした。どうやらミツキさんはアッシに依頼を持ちかけた時からその事に気付いていたようですし」
ミツキは如才ないヤツだ。もしオレがバカして冥護人だとバレても問題ない人選をしたんだろう。
しかし疑問だった。一体どこで、何故ベンハーさんの正体を知ったんだろう?
「・・・それはーーー」
「ーーー大変です!!」
ミツキが怜悧な瞳を一層細めて口を開けた瞬間、ゴロードの子分の1人が焦り顔で駆け寄ってきた。
「ま、マドリちゃんが・・・!!マドリちゃんが意識を失ってーーー」
ゴロード
年齢・・・30代後半
身長・・・176cm
趣味・・・酒盛り、子分への戦闘指南
友人・・・子分たち
備考
A 級盗賊団ゴロード一味を束ねる親分。
浅黒く、ややたるんだ顔に短く切った赤黒い髪。瞳は黒く、釣り針の様なかぎ鼻。
身体は中年男性とは思えないほど引き締まっておりとりわけ腕の筋肉は女性のウエストほどある。
幼い頃に両親に売られ亜人国家ゼンハーで奴隷としての屈辱的な少年時代を過ごす。
主人の悪虐な振る舞いに耐えきれず、奴隷仲間数人で国外逃亡を画策し、その道中で亜人の貴族を殺し、指名手配された。
計画成功から少しして自分の様な奴隷を解放させてやろうと思いたち、不当な扱いを受けている奴隷たちを次々と仲間にしていった。
武器はもっぱら大斧で百戦無敗を誇り、いつからか『滅ぼし猿』と呼ばれるA 級賞金首に。
貴族の屋敷を襲撃して奴隷を奪っていく、という事以外に彼の余罪は無いので奴隷反対派の市民たちからはどこか義賊の様に思われていた。
子分同士が結婚し、子どもが生まれた事を契機に荒々しい盗賊稼業から足を洗い、アジト近くで平和に暮らそうと思っていた矢先、マッチメイカーの襲撃にあい、命からがら逃げてきた。
ちなみに、作者が事前に書いた三章プロットにはコイツの存在どころか盗賊とのエンカウントは全く書いていなかったのでまさかこんなに長引くとは思っていなかった。
書いてて思ったけどゴロードのキャラ設定ヴァルドに激似じゃね。兄貴分的なキャラとか。
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