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チート無しクラス転移〜〜Be chained(ベチーン)〜〜

キズミ ズミ

三章 1話 『疲弊した略奪者』



  
「ーーーよしっ、質問9、ソレは肉食ですか・・・?」

 オレは神妙な面持ちでマドリにそう問うた。

 心臓は早鐘はやがねを打ち、額には薄く汗が張っている。

「いえす」

 通算、9回目の質疑応答、既に頭の中で想定される生物の全貌は固まっており、しかし捻くれ者のマドリの事だからと、オレは一層気を引き締めて続く最後のクエスチョンをマドリに投げた。

「質問10、ソレは二足歩行で犬の顔をしている生物ですか?」

「いえす」

 ーーー勝った、コレは勝ったぞ。

 生物であり、陸上生物であり、哺乳類であり、身近な存在ではなく、オレは見たことがなく、森に生息し、人を襲うことがあり、ミツキの持ってる本の物語にも出てくる肉食でかつ二足歩行の犬面人身の生物。

「答えはーーーコボルトだ!!」

「ブッブー、残念。狼人族ウルフィンでしたー」

 マドリは唇をすぼめてピラリと紙切れに書かれていた文字を開示する。

 紙切れには確かに狼人族ウルフィンと書いてあって、オレは嘆息を漏らした。

「な・・・っ!?いやいやいや!どう考えてもコボルトだろ!狼人族ウルフィンの頭は狼だぞ!!」

「犬の原種は狼でしょ?」

「そうだけどなぁ!!」

「はいバッツゲーム、バッツゲームっ」

 ・・・ぐぬぬ、納得がいかない。そもそもこの『異世界限定10の質問ゲーム』を考案されてからと云うものオレは全く勝ち星を挙げられていない。

 『異世界限定10の質問ゲーム』と云うのは文字通り、最初に出題者が異世界特有の単語を頭に思い浮かべ、解答者は10回の質問の内にその異世界単語を想定し、当てなければならない。

 ちなみに、異世界知識の輸入経路はミツキがコルドバを出るとき、大量に買い込んだ伝記や神話やフィクション小説である。

「ミツキィ!マドリのヤツ酷いんだよ!あんなひっかけ問題ずるいよなぁ!?」

 客観的に見て、女の子に、それもかなりの美少女にイジメられて涙目で親友に泣きつくオレの様子はかなりエッジの効いた軟弱者に映るだろうが、構うもんか。

 と、それまで本を読み続けていたミツキは手元からオレに視線を移すと薄く笑みを浮かべて。

バッツゲーム、バッツゲーム」

「うわあぁぁ!!ミツキが裏切ったぁぁ!」

 なんてこった。オレはいつのまにか孤立無援の四面楚歌状態だったらしい。



 ーーーコルドバを出発して、8日が経った。

 退屈は人を殺す、と云う言葉があるように、最近のオレたちは暇を持て余し、その間、この世界の雑多な知識を吸収する事に大体の時間を費やした。

 おかげで知れたことは沢山ある。あるのだが、何故か100年に一度の周期できているらしいオレたち、つまり冥護人について知れたことは一つも無かった。

 いや、厳密に言うならば確かにあったのだが、依然、自分たちの存在に自問する事は多い。


「じゃあ勝負に負けたミキオには罰としてカミングアウトをしてもらいましょう!どうぞっ!」

「オレが何回負けたと思ってんだ、風邪ひくくらい赤裸々に語ったつぅの!!」

 小学校の時の苦い初恋の思い出や修学旅行でテンションゲージを振り切ったが故の醜態、その他諸々、墓場まで持っていくつもりだった機密事項の数々を話し尽くしたオレは、失うものなど何もないほどに素寒貧だった。

「うーん・・・。まぁ確かにそうだね。しょうがない、ミキオは一回戦敗退って事で」

「なんだよ一回戦って。何回戦までやるつもりだ」

「飽きるまで♪」

「・・・そうね。他にやる事ないからね」

 コルドバからマラケシュ村への道のりは大体10日ほどだと聞いたので、単純計算であと2日。

 この馬車移動でわかった事だが、漫然と時間を過ごすのは体感で数倍ほど時間が遅く感じられる。

 8日ともなれば完全に手持ち無沙汰で過ぎ行く暇を享受していた。

「ミツキの本も全部読み終えちったしなぁ。まぁ、面白い本は何度読んでも面白いんだけど」

 ボヤきつつ、オレは傍に置いていた本のページを適当に開いた。

「あ、『来訪者たち』だよね、それ。ワタシもその本すっごく好きだよ」

「分かるわ。内容も普通に面白いしな。あと特に、主人公たちが他人とは思えないんだよ」

「ドンピシャだよね。最初見たとき驚いたよ。主人公が冥護人だ、なんてさ」

 そう。そうなのだ。この本の主人公はなんとビックリオレたちと同じ境遇の人だった。

 地球から異世界に飛ばされて、持ち前の詐術だけでランドソールを渡り歩く人間のお話だ。

 ただ一つ、オレたちと決定的に違う点があるとすれば、この主人公は天稟を持っていない、と云う奇をてらった設定なのだ。

「あと、同じ作者さんで『勇者ばっかり』も良かったなぁ。魔王のEXANイグザンが最期に側近を庇って死ぬシーンとか、泣いちゃったもん」

「M・ミラーさん、か。ミツキ、この本大分年季入ってるけど、いつぐらいに出版されたんだ?」

「ーーー大体200年前だよぉ」

「古っ!?ものっ凄い骨董品こっとうひんじゃんこれ!」

 日本で言えば夏目漱石の『こころ』を軽く超えるくらいの年数を人々に読まれてきたわけだ。

「でも、そんな昔に書かれた本が未だに読まれて、面白いねって言ってもらえるってなんかステキな事だよね」

 いつになく熱を帯びたマドリの物言い。ふとマドリの顔を見ると長いマツゲに縁取られた大きな目はどこか遠くを見ていた。

「何ミキオ、人のことジロジロ見て」

「ん、いや、マドリのくせにマトモな事言ったなぁって」

「むぅ、ミキオに言われたくないしっ!いつかワタシもこんな小説が書きたいなぁっておもっただけだよ!」

 頰を膨らませて憤慨ふんがいの雲を頭上に浮かべるマドリにおざなりな謝罪をした後ーーー

「・・・・・・ッ!?」

 乗っていた馬車が急停止して、オレたちは慣性の法則に従ってたたらを踏んだ。

「なんだ!?ベンハーさん、どうしたんスか!?」

 オレは仰天したままでキャビンと御者台をつなぐ小窓を開けた。

「・・・ミキオさん、申し訳御座いません。ココらのアルディア奇岩地帯は他と比べて比較的安全な道な筈だったのですが・・・!!」

 小窓越しに聞こえるベンハーさんの声は平時の落ち着いたそれでは無く、焦燥のみが輪郭を伴って響いていた。

 オレはその声音に言い知れない緊急性を感じて、急停止した馬車から外に飛び降り、御者台に駆け寄った。

「・・・っと、ベンハーさん、どうしたんスか」

「真っ赤な鉢金はちがね、狼の首に巻かれたハチマキの屋号。A級の賞金首、『滅ぼしましら』ゴロードの一味です・・・!」

 ベンハーさんは砂煙の晴れない前方を凝然と見つめていた。

 オレもベンハーさんの視線を伝うように前方に注意を向ける。

 ーーーと、砂煙の中から、何人、否、何十人もの人影が現れる。

 皆一様にどこか正気ではなく、生気すらも吸い取られた後の様な顔で、呻く様にこちらに問いかけた。


「メシだ、メシを寄越せ・・・!!さもなくば死ね」









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