チート無しクラス転移〜〜Be chained(ベチーン)〜〜
コラボ章 8話 『ミツキ=イレギュラー(?)』
「それにしても、随分沢山いたよね〜」
原の傍らに座る光希が、辺りの惨状を見渡して嘆息混じりにそう言った。
「ーーーそうだねぇ。木霊ザルがいくら群れで生活するっていっても、この規模の大群は異常、としかねぇ」
同調し、ミツキは肩をすくめる。
ーーー未だ奮闘の熱気がわだかまる戦場跡地。
360°、どこを見ても切り刻まれた木霊ザルの骸が横たわっており、大地に突き刺さった無数の剣がそんな彼らの墓標のようにも感じる。
ふと、ミツキは疲れ果てて寝ている原に視線を移した。
全身に返り血を浴びて凄惨な有様だが、見た目ほどの傷は負っていないはずだ。
しかし、ある程度の手傷はあちらこちらに散見できる。
「ねぇ、ミツキ、ミツキって回復魔法使えたりする?」
光希の問いかけに、ミツキは首を横に振った。
「申し訳ないけど、まるっきり門外漢なんだぁ。マドリが居れば良かったんだけどねぇ」
例えばここがランドソールであったなら『司る能力』で何とかなったのだが、生憎とここは異なる異世界である。
「第一、木霊ザルの様子、少しおかしかったよね〜」
「あぁ、最初、いきなり襲いかかってきた時とかねぇ」
ーーー木霊ザルは、本来好戦的な魔物では無い。
仲間を殺された時こそ牙を剥くが、逆に言えば仲間を殺さない限り、木霊ザルは比較的無害な魔物の筈だ。
とはいえ、森の中で両断した木霊ザル以後はやや成り行きな感は否めないが、そもそも前提がおかしい。
「おかしいと言えば、ジャイアントの含有率もケタ違いだったかなぁ」
「うーん、元々レアな魔物だし、木霊ザル500に対して1匹辺りが相場だった筈だよね〜?」
目算だが、この場にジャイアントらしき屍は数十匹以上ある。
「・・・森中の木霊ザルたちが一堂に集結して、しかも半狂乱状態。その仮定条件を満たす可能性として最も高いのはーーー」
紡いだ言葉は中途で途切れ、光希が再び口にする事は無かった。
口にする必要が無かったのだ。
『答え』が、自分から姿を現したのだから。
絶句し、空を仰ぐ光希を睥睨する鋼鉄の魔物。
言葉を失った光希の代わりに、ミツキは口を開いた。
「自分たちの生活領域を侵す脅威が現れたとき・・・」
すなわちーーー
「ーーー鉄人形が、出た」
ーーーーーーーーーーーーー
背の高い木々が立ち並ぶ森の中、その魔物は肩から上が突出してしまい、遠近感が狂いそうになる。
天を摩するが如きその巨躯はゴテゴテした鈍色の鋼に覆われ、太陽光でギラギラと輝いている。
頭部は右側面から左側面へ細く漆黒が渡っており、その真ん中に赤く光る玉がギョロギョロと動き、眼下のミツキたちを無機質に睨む。
「ミツキッ!ダメだ、ボク達じゃ鉄人形には歯が立たない。逃げよう!!」
放心状態から脱した光希は意識のない原をおぶってミツキに逃走を促した。
「ーーーボクらはもう見つかってるからねぇ、逃げてもすぐに追いつかれる。それなら迎え撃つよぉ」
「迎え撃つ・・・!?それってどういうーーー」
困惑顔の光希とは対照的に、ミツキは至極落ち着いた表情だった。
普段の冷然とした細目を更に細めて、ミツキは一息に、世界を変質させた。
「『ガルヴァ・ゲイルロード』」
先ほど、原の獅子奮迅の奮闘の渦中、世界から『汲み上げ』続けていた魔力の全てを、今、解き放った。
短く詠唱したのは、第1位階の付加魔法付き、災害級の大魔法。
述べた刹那ほど後、巻き起こるのは、突風に置換された膨大な魔力。
突風は更なる突風を伴って暴風と成り、やがて不可視の刃へと至る。
暴風は大地を削りながら鉄人形を目指し、そして、着弾。
『グ、ギ、ガガガガガガガガガッッ!!』
風と呼ぶには脅威になり過ぎたその刃は鉄人形の装甲をズタズタに引き裂いていく。
鉄人形に内蔵されていた様々な部品は逆巻く風によって煽られ、やがてその全てが蒼天へと送り出された。
「あの、鉄人形が、一瞬で・・・!?」
木霊ザルの死体も風に吹き飛ばされ、すっかり閑散としてしまった平野の中央で、光希は戦慄を隠せなかった。
「うん。コレがボクの天稟。あ、ミキオとマドリには秘密にしといてねぇ。今言うのはーーー『物語的』じゃないからさ」
人差し指を口元に当てて微笑むミツキに、光希はわずかに恐怖し、しかしどうにか腕の戦慄きを制した。
「うーん、ミッション通り鉄人形を倒したわけだけど、何も無し、かぁ。てことは、鉄人形は複数いる、って事かなぁ」
「・・・1つ質問、いいかな〜。ミツキ」
普段よりもいくらかトーン低めに、光希は問うた。
「ん、何?」
「もしかして、ミツキがその気になれば、木霊ザルだって、それこそミッションの鉄人形だってーーー?」
「うん。ものの数じゃ無いだろうねぇ」
「ーーーッ!だったら!」
「それじゃあ、意味が無いんだぁ」
ミツキが今、どんな表情をしているのか分からなかった。
光希はただ、自分たちを護る為に必死になって戦った親友だけに視線を注いでいた。
「さっきも言ったけれど、それは『物語的』じゃ無い。原ちゃんがやるから、ミキオがやるからそれは紡がれるんだ」
「ボクみたいなイレギュラーじゃ、介在する余地があるはず無いんだ」
それは絞り出したような、ともすれば弱音。
光希はハッとして、後方に佇むミツキを見上げた。
「・・・質問はもういいかな。じゃあ、ミキオたちを探しに行こうかぁ」
ミツキがどんな顔をしていたのか、逆光の所為で分からなかったし、直後、プイと顔をそむけたので結局分からずじまいだったが、光希はなんだか微笑ましくなった。
「・・・そうだね〜。あ、でもまた森を進んで魔物に襲われたらどうしようかな〜。原ちゃんも寝てるし、困ったな〜」
「・・・・・・もしかして、ねだってる?」
ミツキが半眼で光希を睨みつけるも、光希はどこ吹く風だ。
「さぁ〜。でも、もしラクチンにミキオたちと合流出来る裏ワザがあればいいな〜って」
「さっきまで怖がってたクセに、ワッザとらしい演技しちゃって・・・」
「何のことかな〜。それに、『地』、出ちゃってるけど大丈夫〜?」
光希の指摘にミツキは口元を押さえ、顔を紅潮させながらしばし光希とにらみ合いをする。
やがてーーー
「・・・・・・はぁ、分かったよ。・・・分かったよぉ。やってみるから、絶対にミキオには内緒にしててねぇ」
「約束するよ〜。で、何をする気なの〜?」
「もう一回、あの霧を呼び寄せてボクたちを転移させてもらう。そして目が覚めたら目の前にはミキオたちって作戦」
「そんな事出来たんだ〜。もしかしてあの『コラボ企画』ってヤツの主催者もミツキなの〜?」
ミツキは首を横に振る。
「・・・違うよぉ。だから霧を呼び出せるのかも不透明。だけどやってみる価値はある」
「その心は〜?」
「こんな事を考えそうなヤツは1人しかいないし、出来るヤツも1人しかいない」
ミツキは言葉を続ける。
「普段は敵対している『アイツ』も今回の件に関しては利害が一致するわけだし、もしかしたら、ねぇ」
「その元凶さんって人はーーー?」
「なんて事ない。強いて言えば『神さまの神さま』ってお方さぁ。ーーーじゃあ、やるよ」
ミツキが宣言し、そして瞑目する。
するとみるみるうちに霧が辺りに発生して、光希たちを包んでいった。
刻々と近づいてくる気配を感じ、そしてやはり耳元で誰かが囁いた。
「ーーー『コラボ企画』」、と。
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