チート無しクラス転移〜〜Be chained(ベチーン)〜〜

キズミ ズミ

二章 18話 『月下美人は男』




顔がモヤで覆われた、というか顔がモヤそのものなオッさんが銭湯に出ていってから、大分時間をあけてオレは銭湯を出た。

外に出ると火照った体を乾いた風が冷やし、ブレザーの襟を搔き合せる。

既に太陽は西の地平線に沈み、代わりにオレが知るソレよりも遥かに大きいサイズの月が満点の星空にかかっていた。

「随分長風呂しちったな、ミツキが待ちぼうけてなけりゃ良いけど」

オレは頭を掻くと雑踏に溶け込んで宿屋に向かった。

と、しばらく歩いていると見覚えのある屋台が見えて腹が鳴った。

「オバちゃん、串揚げ3つちょうだい」

「はいよ」

オレは手元の銅貨を数枚差し出すと串揚げを受け取った。

歩きながら、串揚げをパクつく。

最終的に入浴中、オレが飲んだ牛乳の総数はビン15個。

正直、飲みすぎた感が否めず、腹がタップンタップンいう。

オレが串揚げを買ったのは大体数時間ぶり2回目。

話の流れで委員長と喫茶店に行く道すがら食べて、その美味さに舌を巻いた。

クセになる塩気が食欲をそそり、イメージ的にビールが飲みたくなる味だ。

勿論、ビールを飲んだ事は無いし、オレは生涯アルコールを摂取しないと心に誓った。

そんなオレの決意も、全てひとえにどこかの口の軽い委員長のお陰だ。

ふいに今日起こったことを振り返ると、オレは図らずも顔をしかめた。

ーーー今日は色んなことがあった。

起床直後に頭を抱え、例の痴態を委員長に流布されたことを知り、縄に括られ雷に怯え、よくわからんオッさんに別れ際恫喝された。

・・・マジで憑かれてるんじゃねぇのってくらい濃い1日を送っているのな、オレ。

そう言えば、この世界で初めて北村ホナミに会った時、意味深な微笑みを向けられて「マーメイド・・・」と呼ばれた。

アレってもしかしなくてもオレのアダ名だよね?

何?確かに酒の勢いで『一人版人魚姫』演じたけれどもオレのアダ名まさかマーメイドになった?

無意識に漏れるため息にフタをする様にオレは串揚げをくわえる。

太陽が沈んだにもかかわらず、コルドバのメインストリートは人通りが多い。

軒を連ねている屋台は店頭のあちらこちらに灯をともし、バックグラウンドに聞こえる人々の声は活気にあふれている。

「街がこんなに明るいのにあんなに星が見えるのか。・・・もしかしてもっと暗いとこに行ったらもっと綺麗に星が見えんのかな」

ボソリと独りごちたたわ言だが、オレは俄然、正真正銘の満点の星空を見てみたくなった。

「どっか、暗いとこ無かったっけ?」

歩きながら思案すると、条件に合う場所がヒットした。

「宿屋の裏、確か土手だったよな。あそこなら人気も無いし寝そべりながら星空を見れるかも、だな」

思い立って、オレは宿屋の横を通り抜け土手を目指した。

とは言え、ミツキが宿屋で待ってくれているだろうから、あくまでサッと見てサッと帰ろう。


ーーーーーーーーーーーーーー


「うっわーーー・・・。マジでスゲェ、プラネタリウムかよ・・・!」

土手道に着くやいなや天を仰ぐと、宝石が散りばめられたみたいな星々が澄んだ夜空を覆っていた。

淡く輝く月は水晶玉を思わせるほど大きく、荘厳な光を放っている。

穏やかな風が吹く仄暗い土手の上で、静まり返った空間いっぱいに白い月光が降り注いでいた。

水音がして、月の光が川面でチラチラと砕けている。

草木の葉も地面も静謐な空気さえも、銀色の膜を貼りつけた様に神秘的に瞬いていた。

ただ単純に嘆息して、時の感覚を忘れる。

思えば異世界に来てから、初めて純粋に感動したかもしれない。

どこかで張り詰めていた警戒の糸は切れるでもなく、心地よく緩み、いつまでも見ていたい気持ちに押される。

同時に、その星空が何時か、何処かで見た光景に重なって強烈なデジャヴに襲われた。

あれはまだ地球にいた時、横に居たのは、ミツキだった。

ーーーあの時、オレはなんて言ったっけ・・・?

大事な事だった筈なのに、その記憶は堅固な檻に閉じ込められていた。

でもきっと、平時より早いビートを刻むこの脈拍に関連している。

胸をつく感傷に身をやつしていると、誰かのすすり泣く声が聞こえてハッと我にかえった。

土手道を降りた先、川の縁の方に誰かがうずくまっているのが見えた。

「誰だろ、泣いてる、のか?・・・アレ、よく見たらあの人ウチの学校のブレザー着てね?」

ブレザーを着ているという事は、つまり冥護人、オレのクラスメイトの筈だ。

薄暗がりの中、泣いているクラスメイト。

近づいて泣いている訳でも尋ねたかったが、後ろ姿から判断するに、多分女子だ。

何というか、彼女いない歴イコール年齢のオレが傷心の女子を慰められるのか、という葛藤がオレの心を苛んだ。

女子に歩み寄るのを憚られていると、風に乗って涙交じりの声が聞こえてきた。

「う、うぅ、いきなりこんな世界に放り込まれてさぁ・・・、それでどうにかできる訳無いじゃん・・・」

「クラスメイトに仲良い友達は居ないし、居心地が悪くて逃げてきたけど失敗だったかなぁ・・・」

「みんな、ワタシのこと探してくれてるかな、探す訳無いよね・・・、ワタシ、嫌われ者だし・・・」

自嘲が含まれたボヤキに、オレは身につまされた。

が、未だ踏ん切りがつかない。

むしろ彼女は今一人にして欲しい筈だ、オレが出て行っていいのか?という疑問が頭をよぎる。

「結局、つまらない人生だったなぁ。次生まれ変わるなら、人の長所を見つけられるような人気者になりますように・・・」

女子はおもむろに立ち上がり、目の前の川にザブザブと入っていった。

今の文言は、遺言という事で相違ない。

つまり、今彼女がしようとしているのは、いわゆる入水自さーーーーー。

「踏みとどまれえぇーーーー!!!」

オレは土手を駆け下りて、声の限り叫んだ。

女子は驚いた様相でこちらを振り返る。

「加藤、ミキオ・・・・・・?」

まるで幽霊でも見るかの様に震えた声で名前を呼ばれた。

月明かりに反射して淡い光芒を纏った彼女の銀髪は2つに括られ、一点の曇りもない淡青色の瞳。

あどけなさと艶然が同居した倒錯的な美しさにほぅ、と息が漏れた。

まるで見返り美人図の様なポーズでオレをまっすぐ見つめるその女子。

場の荘厳な雰囲気と相まって、幻想的な絵画の世界に迷い込んだ錯覚をした。

有り体に言って、テレビに出てくる女優やアイドルも含めて、その女子は、オレが今まで見た女性の中でブッチ切りに可愛い。

ただしーーーーー

「えっと・・・誰?」

クラスメイトであるはずの彼女に、オレはまるで見覚えが無かった。

眼前の女子は足を水に浸けたまま、口をもにゅもにゅさせると、

「・・・久しぶり、鏡山マドリ、です」

「はあぁ!?」

紛れもなく、鏡山はオレのクラスメイトだ。

美の神の祝福を受けた様な、街を歩けば10人が10人振り返る、鏡山は誰もが羨む容姿をしていた。

ただ、鏡山はその恵まれた容姿から考え付かないほどの毒舌家なのだ。

意図してかどうかは知らないが、鏡山は人の神経を逆なでするのが滅法上手い。

精緻で儚げな、見目の良い顔貌も、彼の悪癖の前では逆にマイナスのファクターとして働く。

そのため鏡山は、クラスメイトから距離を置かれた、いわば残念イケメンなのである。

・・・鏡山はイケメンなのだ。少なくとも、オレの記憶では。

Men、男だ。

しかし眼前の、鏡山マドリを名乗る人物は、豊満な胸が衣服を押し上げており、目のやり場に困る美少女。

「別人っつーか性別変わってるけど!?」

どちらの鏡山も顔貌は完璧に近い造形であることに変わりないが、あまりに記憶と食い違う。

「そんなのワタシは知らないって!異世界きたら急にこうなってたの!」

鏡山(?)は白銀の絹髪を揺らすと前のめりになってそう言った。

「オレの知ってる鏡山の一人称は『ワタシ』じゃないぞ!」

「アレ?ワタシ、ワタシって言ってる?ーーーーー言ってるし!?」

鏡山(?)は淡青色の瞳を大きく見開いてノリツッコミみたいなことをした。

ワタワタと忙しく手を動かす鏡山(?)を胡乱な眼差しで睨め、閃いた。

「クエスチョン1、2年の一学期、期末テストの後オレの平均点を見た鏡山は何と言ったでしょうか?」

「え?ワタシなんか言ったっけ?全く覚えてない・・・」

本当に思い当たらないらしく、鏡山(?)はアゴに手を当てて考える素振りを見せた。

この美少女が鏡山で無いのならいいが、もし本当にオレの知る鏡山マドリ本人であったならオレは声を大にして言いたい。

ーーー覚えて無いのかよ!オレあの時言われた言葉にちょっと傷ついたんだけど!?

ーーーーーーーーーーーー

それは、今から数ヶ月ほど前の事だった。

数日前記入した回答用紙が赤ペンでおびただしい量のバツをつけられて返ってきた。

「全9教科、合計平均20点・・・」

まぁ、有り体に言ってやっちまった。

前回、合計平均18点で親から物凄く叱られた経験を全く活かさず、オレは悲劇を繰り返した。

数時間後、親(鬼人化)に目から火が出るほど叱られるのかと思うと頭を抱える。

と、オレの席の隣に座っている鏡山が、机に伏せったオレの肩を突き、

「ミキオさ、お前すっごいバカだよな。俺の一生のうちにとる不正解の数を、ミキオこのテストだけで凌駕してんじゃね?」

相変わらずの鏡山クオリティにやはり辟易するが、恨めしげに鏡山の顔を睨むと整い過ぎた容姿に言い知れない虚無感が湧いてきて 閉口する。

目を逸らした先に、鏡山の答案が並んで開かれている。

先ほどの鏡山の発言も、さもありなんと思ってしまうほど、赤で書かれた数字は高かった。

と、まぁ、こんな一幕だが、この次のテストで鏡山を見返すために猛勉強して成績を跳ねあげた。

が、学年トップクラスを誇る鏡山には敵わなかったのだが。

余談だが学年トップはミツキだ。

全教科100点満点とか、ふざけてるだろ。


ーーーーーーーーーーーーーー


「うーん、ギブ〜。答え教えて?」

鏡山(?)は手を上げて脱力した様に息を吐いた。

・・・え?これ答え言うの?

うわぁ、なんか自分で問題出しといてなんだけどめっちゃ気恥ずかしい。

「・・・その、オレが平均点にじゅ・・・20点でな、で、鏡山がーーーーー」

言い終わっても鏡山は釈然としない感じでクビを捻っていた。

「うーん、やっぱり記憶無いや。それ、ワタシだったっけ?」

「鏡山くらいしかこんな事言わねぇだろ・・・」

オレは呆れ混じりにそう言うが、しかしこれでほとんど明らかになった事がある。

「やっぱ、お前鏡山じゃなーーーーー」

「それにしても平均20点って・・・、ワタシがとる一生分の不正解をミキオ、そのテストだけで凌駕してるんじゃない?ーーーあ、ゴメン、なんか言った?」

「いや、何でもないわ。お前は間違いなく鏡山マドリだよ・・・!!」

もうホント、記憶無いくせにジャストな事言うんだもんなぁ・・・。

「て言うと、その姿は鏡山の天稟か?」

「うーん・・・、多分?」

玉虫色の返事をして、鏡山はツインテールのひと束をつまみ毛先を弄ぶ。


「・・・とりあえず、川から出ろよ。足、冷えるだろ」

「あ、うん」

案外素直に従って、鏡山(?)は川べりに上がると銀髪を梳いて、明後日の方をみる。

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

お互いそこで会話が終わってしまい、気まずい沈黙が周りに淀んだ。

「・・・いつ頃から一人でいたんだ?」

オレが問うと、鏡山は少し言い澱み、

「3日前、かな。別に一人だったわけじゃ無いけど」

「?」

委員長から聞いた話だと、クラスメイトで合流してないのはオレとミツキ除くと瀬屑と鏡山。

とは言えまさか瀬屑と今までいた訳じゃ無いだろう。アイツは誰かと群れる性格じゃ無いし。

「その、猫と一緒にいた」

「猫ぉ!?」

「うん、しかも喋れて、その猫に魔法を教えてもらってた」

マジで大丈夫か、コイツ。

異世界で一人きり、心細くてイマジナリーフレンドでも作ったんだろうか・・・?

オレが可哀想なものでも見るような視線を送ると鏡山は不愉快そうに頬を膨らせる。

「あ、信じてないでしょ。ホントだよ?ほら」

鏡山の細い指先がオレの頬を伝い、お互いの息遣いが聞こえるほど接近した。

中身が男でも、今の鏡山は間違いなく女だ。

しかも、流れるような銀髪に淡青色の瞳が美しい、美少女だ。

図らずも顔面に血がのぼせ、紅潮を悟られないようにそっぽを向く。

「『リリーフ』」

と、突然オレの右頬に適度な温かみのある光が当てられた。

「なんだこれ、なんか頬の痛みが消えた気がする」

「右のほっぺ、怪我してたでしょ。だから回復魔法で治してあげたの」

「回復魔法!?魔法使えるのか!?」

目線がかなり近い場所で鏡山とぶつかる。

鏡山は半眼でオレを睨むと

「だから言ったでしょ。居心地が悪くてクラスメイトたちのトコから逃げ・・・はぐれた時に喋る黒猫にあってさ、魔法教えてもらってたの」

「何だよ喋る黒猫って・・・、何でもありだなこの世界」

会話が一区切りついた事を感じるとオレは「まぁ」と前置きする。

「なんつーか、そっちも大変だったっぽいけど、無事で安心したよ。じゃあオレはミツキ待たせてるから帰るな」

踵を返し、宿屋に向かう。

思えば随分長居をしてしまった。これ以上待たせるのは流石に悪いだろう。

が、土手道へと至る坂を登る前にオレは背中を摘まれて歩みを止めた。

「・・・なんだよ、鏡山」

「別に、ただその、仮にも今ワタシは女子な訳だからさ、こんな暗がりに置いてくとか、違うしーーーていうか、路頭に迷ってるクラスメイトに、何か言うことないの?」

鏡山はまだ何か言いたそうだったが、言いにくそうに口を尖らせている。

「・・・強く生きろよ」

「ぶん投げたねぇ!!」

激励の言葉は違ったか、じゃあ後何かあるのか?

「その、ワタシさ、魔法も使える訳だし、こんな有能な人材が今フリーなんだよ?どう?」

どう?と言われても。

よく理解していないオレにしびれを切らして、鏡山は「あぁ!」と地団駄踏むとーーーー

「ワタシをミキオの仲間に入れて!!」

「へ?」

月明かりの下、眉を吊り上げる美少女と、アホみたいに口を開けて驚くオレとのコントラストは、酷く不釣り合いで、実に滑稽だった。









どうも!キズミ ズミです!!


先日、この作品を読んでくれている僕の友達から、こんな質問を受けました。


「ミキオが雷に打たれそうになるあのシーン、ミキオ小高い丘の上で、しかも棒に括り付けられてるのに何で雷に当たらないの?」っていう質問です。


ええっと、まず、雷は高い所に落ちる性質があります。


あの時のミキオの状態であれば、まず間違いなくミキオは雷に打たれるでしょう。


が、あの雷は自然現象では無く、ホナミの天稟によって人為的に起こされた雷なので、ホナミの意思でのみ発生します。


つまり、あの雷は高い所に落ちる性質を持つ前に指向性による射撃が可能な雷撃、雷魔法に近いものなのです。


まぁ、とは言えある程度は前記の性質も持ってますのであそこまで雷がミキオに当たらないというのはミキオの豪運とホナミの熟練度の低さでしょう。


ミツキの計らいでいかにも雷が落ちそうな工夫(小高い丘の上で棒に括られる)を施されていたのですが、とある理由でミツキはその事を知っていたのであの格好をさせた理由は単純に面白いから、でした。


的な描写を入れなかったばかりに読者様に紛らわしい疑問を持たせてしまい、申し訳ありませんでした。


多分、これからもこんな感じの「あれ?おかしくね?」みたいなミスを沢山すると思うのでその都度、コメントなどで質問してくれると嬉しいです。


っていうのと、もう一つ。


閑話   『キャラ紹介』で、二戸生の天稟をうっかり書き忘れてました。


それを書き加えたのと、文末に用語一覧も載せておいたので、把握お願いします。


っていうのと、もう一つ(最後です)。


僕がこの小説を始めるキッカケになった友達がいまして、彼もこのノベルバで小説を書いてるんですよ。


で、この前話してたら『コラボしようぜ!』と持ちかけてきたので『オゥケィ!』と答えてしまいました。


今やってる二章が多分あと2話で終わるんですが、そこから三章には入らず、特別編、コラボ章に入ります。


コラボする作品は、Akisanの『クラス全員で異世界転移!?〜厨二病が率いる異世界ライフ〜』ってやつです。


小説なんてすぐに飽きると思っていたので設定考えるのがめんどくさくて序盤の展開を大体パク・・・インスパイアされました。(当人の合意の上なので、誤解なきようお願いします)。


なので是非、上記に書いた作品も、よろしくお願いします。フォローとか、してやってください(僕の二倍近くフォロワーいるけど)。


また、コラボ章は本編と全く関係が無いのでぶっちゃけ読み飛ばしてもオーケーです。


もしもコラボする計画が頓挫してつつがなく三章に入ってもそこは察してください。







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コメント

  • キズミ ズミ

    ( *• ̀ω•́ )b グッ☆

    1
  • Akisan

    コラボ行くぜぇ!

    2
  • 佐々木 雄

    コラボ、楽しみにしてます!

    1
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