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チート無しクラス転移〜〜Be chained(ベチーン)〜〜

キズミ ズミ

二章 17話 『湯けむりでの述懐』




指示書に雷を当てる作戦が後日に流れ、コルドバへと帰る道すがらに、ミツキとこんな話をしていた、


『そういえば、ミキオ。この世界で一番強い人間って、誰だか知ってる?』

『え?いや、知らん』

問いかけられて、記憶を巡らせるがオレのインデックスにその様な項目は見つからなかった。

『搏撃卿のカムリって人なんだぁ』

『はくげききょー?』

言われてもやはりピンとこない名前だ。

ミツキはコクリと頷き話を続ける。

『うん。現状、その彼が暫定、異世界最強なんだぁ』

地球では、霊長類最強と謳われたトップアスリートが居たのを思い出した。

それに倣うならば、その、ナンタラ卿とやらも強さと人気を兼ね備えた人物なのだろうか。

『ほーん、そりゃスッゲェ強いんだろうなぁ。いつか会ってみたいな』

『絶対に会っちゃダメなんだ』

『え?』

いつになく語気強めのミツキの言葉に、オレは目を丸くした。

『異世界最強、『搏撃』のカムリ。もし出会ったら、すぐに逃げて。彼は、ボクらの天敵だから』

ミツキの声音は固く、オレを慮っているのは分かったが、やはりどこか威圧がある。

ふとミツキの顔を見ると、言い知れない感情が渦巻いているようで、それ以上言及するのは気が咎められた。

『・・・よく分からんけど、分かった。それで、その〜〜〜卿ってヤツの特徴はなんかあるのか?』

『搏撃卿ねぇ。彼はいつも琥珀色の鎧を着ているらしいんだぁ。常時、鎧を着続けてるから鋼鉄卿とも呼ばれているらしいよぉ』

ミツキはハァと息を吐き、質問に答える。

バレたか、ナンチャラ卿の名前をボカしたの。

『オーケー、取り敢えずアレだな。鎧を着ているヤツは全員警戒すれば良いんだな』

『極端な話だけどねぇ。まぁ、それで良いと思うよぉ』

琥珀色の鎧を着た、えっと、鋼鉄卿か。

よし、覚えた。今後、その鋼鉄卿には気をつけよう。


ーーーーーーーーーーーーーー


「待ってくれよぉ少年!想像してみてくれ、いい歳こいたオッさんがテンション上がって一人でバタフライしてる様を!!」

「地獄だな」

この世界に来て、今日で5日目。

5日目といっても、オレは3日目と4日目眠りこけていたわけだから、体感では大体3日くらい。

だから、これは多分、サボってしまった天罰なんだと思う。

鎧を着た人間に気をつける筈が、今、オレは全裸のオッさんに、涙ながらに懇願されていた。

ただのオッさんじゃないぶん、どうやら神はオレのことがよっぽど嫌いなようだ。

このオッさん。なんと顔が黒いモヤで覆われている、スーパー怪しいオッさんなのだ。

「同じ湯に浸かりたけりゃまずその放送コードに引っかかりましたみたいな謎のモヤを消せぇ!!」

「この顔のモヤは仕方無いだろぉ!色々あるんだよ!オッさんだから!」

どうやら交渉は決裂したらしい。

オレはある程度外に出ても問題ない格好に着替え直すと羽織っていたブレザーを手に掛けて銭湯を出て行こうとした。

「待て少年!」

「悪いなオッさん。せめて二度と会わないことを望むぜ」

オレはシタッと敬礼じみたポーズをとり、そのまま番台に向かう。

「風呂上がりに牛乳奢ってあげるから!!」

オレは歩みをピタリと止め、オッさんに振り変える。

「・・・・・・ほう」



「それじゃあ、乾杯」

オレとオッさんは湯船に浸かってお互いのビンをぶつけた。

「いっやぁ、まさか牛乳如きで買収されるとはなぁ、少年、意外とチョロい子か?」

顔に覆われたモヤでオッさんの表情は見えないが、声音からニヤニヤしてるのが分かった。

「うっまいなぁ!この味だよこの味!!」

まさか、異世界に来て銭湯に牛乳があるとは思わなかった。

が、牛乳は、意外と高価なのだ。

大衆浴場に置いてあるには不自然すぎるほどの高値にオレは今まで飲みたい衝動を抑え我慢していた。

「でも良いのかオッさん?好きなだけ牛乳飲んで良いって」

既にオレは牛乳のビンを3個開けてしまっている。

ここまで優しい、というかオレに都合が良いと逆に怪しい。

「良いんだよ、おじさん小銭なら沢山あるから」

「・・・それに、誰が好きなだけ飲んで良いと言ったんだ?」

「え?」

雲行きが怪しくなってきた、これは後から大金を請求されるパターンか・・・?

「飲んだんならアレな!恋バナしようぜ恋バナ!」

「・・・」

子供のようにキャッキャとはしゃぐオッさんを見て、もしかしてこの人ただのファンキーなだけのおっさんかと思い始めてきた。

「ーーーオッさんってこの街の人か?」

「ん?ああ、いや、コルドバには鎧を買うために来たんだ」

「鎧買えるのか!?」

何気なく問うたことだが、予想外の返答に目を剥いた。

「何驚いてんだよ少年、この街に来る人なんて大体それが目的だろ?」

「ここの武具とか、めっちゃ高いだろ。オッさん、実は金持ち・・・?」

僅かな戦慄を孕んだオレの声。

オッさんは黒いモヤの奥でニヒヒと笑うとお金のジェスチャーをつくる。

「こう見えてオッさん、イケイケのやり手冒険者さんなんだぜ?」

「マジかーーー・・・」

いやまぁ、そう言われればさもありなん。

中年を自称しているオッさんだが、ビール腹の中年のイメージとはかけ離れており、その体は厚い筋肉の鎧で覆われている。

そのムキムキボディには無数の古傷が刻まれていて、オッさんの冒険者遍歴を物語っているように見えた。

「どうしたんだよ少年、ビンが空いてるぜ。ほら新しいのやる飲め飲め」

オッさんに中身が満タンの牛乳ビンを受け取ると、オレはチビリと飲んで口を開いた。

「・・・実はさ、オレもこの街に武具を買いに来たんだ」

「ほー、少年の歳でこの街の武具をねぇ。なんだ少年、どこかの坊ちゃんか?」

オレは首を横に振る。

「なんて言うか、訳あって武具を絶対買わなきゃ何だけど、まるで手が出せなくてな」

「ミツキ・・・オレの友達も色んなトコで頑張ってくれてるんだけど、オレは何にも出来て無いんだ」

「それが何かな、悔しいっていうか、歯がゆい」

オレはおもむろにお湯を顔にかけると天井を仰いだ。

オッさんは手にしていた牛乳をグビリと一気に飲み干すと、タプンと頭から湯に浸かった。

オッさんが潜ってから数十秒、その間ブクブクと泡を出していた水面に突如静寂が訪れた。

オッさん、まさか溺れた!?そう思った次の瞬間、果たして、オッさんは泉の女神の様にユックリと上がってきた。

「少年、オレの頭のモヤ、これ触ってみてみ」

オッさんは首をもたげてオレの近くにモヤをやった。

オレは恐る恐るモヤに触れる。

と、オレの手は、本来オッさんの頭を触るべきなのに、虚空を掻いて、モヤの向こう側を通り抜けた。

「あれ?オッさん、頭が・・・?」

「おう、実はおじさん、だいぶ昔にやらかしちまってな、面倒くさい呪いを受けたんだ」

オッさんは水の溜まった牛乳ビンを指先で弄びながらそう言った。

「それって言うのもオレのヘマの所為でなぁ、唯一の親友はこんなバカを庇って変なヤツの手先になっちまって、オレはおめおめと生き残った」

「ーーーーーーーーーー」

オッさんの声のトーンはどこか暗く、言葉を紡ぐごとにだんだん尻すぼみになっていった。

「目覚めた時、ヒッデェ姿だったぜ。人の原型を留めてなかった。天稟が暴走したんだ。仲間は自分の魔力の限界まで闇魔法を使って、呪いをディスペルした。その時の反動でオレも、仲間も人じゃなくなっちまった」

「文字通り、カミサマを呪ったよ。そっからは本当に地獄だった。オレは自分のこの姿も、親友がいないって現実も受け止めきれず、癇癪を起こして全部を拒絶した」

オッさんはビンを傾けて、徐々に水を垂らしていく。

「オレは結局、全部取りこぼした」

「未だに夢にみる。溶けていく希望も、瓦解した関係も、100年前の、あの日だって・・・!」

続く言葉は、無かった。

オッさんはひとしきり言い終えると、ハッと気づいたようにこちらを見てから、ゴホンと咳払いしてトーンを戻す。

「と、取り敢えずだ少年。こんなオレが言うのも何だけどって話なんだがなーーーーーー」

「生きてりゃ生きてる間だけ、オレらは見えない鎖に縛られ続ける」

「大人になって、がんじがらめになって身動き取れなくなる前に、今を自由に生きろよって事だ」

オッさんは言い切ると湯から上がって脱衣室に向かう。

「すまなかったな少年。詰まらない話に付き合わせちまった。オッさんはのぼせたから、もう出るわ」

ヒラヒラと手を振って戸に手をかけた。

と、オッさんは「あ」と言った後、オレを向いて問うた。

「少年、名前はなんだ?」

そういえば、まだこちらから名乗ってなかったなと遅まきに気づいて苦笑した。

「加藤ミキオ、ちなみに名字が加藤で名前がミキオだぜ?」

ランドソールでは名字と名前が逆、いわゆる外国チックな感じなのだ。

こう付け加えなければ、やや会話に齟齬が出てしまうのでこの世界では必須である。

が、オッさんはオレの名前を聞いた後、しばしフリーズして、こちらを凝視していた。

「ーーーーーーッ!?」

突如、背中をぶっ刺されたみたいな悪寒が体を席巻し、湯に浸かっているにもかかわらずオレは身震いした。

「加藤、ミキオ・・・?」

「そうか、もう、100年だから・・・。ーーーーなのか・・・」

オッさんがブツブツと何事か呟いて、拳を握っていた。

「お、オッさん・・・?」

オレがオッさんを呼びかけると、体を突く悪寒は嘘のようになりを潜めて、オッさんは糊塗したような態度で言った。

「あ、ああ。すまん、じゃあな、ミキオ。お前とは、多分また会う気がするよ」

言うとオッさんは脱衣室の方に消えていった。

数分後、銭湯の外から女性の叫び声が聞こえてきた。

聞き漏れた声に耳を傾けると、「露出狂!」だの「服を着ろモヤ男!」だの罵声が聞こえてきた。

「あのオッさんまさか服着ずに外でやがった!?」


ーーーーーーーーーーーーーー


コルドバの門を抜け、遥か遠くにある街へと続く道路の脇を、頭をモヤに覆われた男が歩いていた。

両手に何も持たず、鍛え抜かれた体を惜しげもなく大気に晒して唯一腰にタオルを巻いただけの珍妙な男だ。

「カァムゥリィィーーーーーーー!!!」

と、地平線の向こうから猪突の如く爆進し、男の方に向かってくるナニカがいた。

ナニカはモヤ男、カムリの前で急停止し、巻き上がった砂塵の中からヌラリとその全長を表す。

ナニカとは、一見巨人に見まごうほどの大きすぎる体躯を持ち、ギョロリとした瞳は愉悦に満ちていた。

「んだよオーゼか。よくオレを見つけられたな」

カムリがやや後傾姿勢になって大男、オーゼに語りかけるとオーゼはニヤリと不敵に笑い、大口を開いた。

「なぁに!我輩はカムリを探し、足の向くまま歩いてたらカムリを見つけた。なんら不思議がることは無いだろう!?」

「世界の広さナメんな」

カムリは辟易とした。

ーーーコイツマジか。ただの冒険者ならばまだしもオレとか割と世界中渡り歩いてるんだけどなぁ・・・。

「うむ!ここで出会ったのもまた必然!運命と呼んで然るもの!どうであろうかカムリ。我輩と一つ手合わせなど!?」

オーゼが食い気味にそう持ちかけるがカムリは首を横に振る。

「オレらもいい大人だしな、不本意ながら誉れ高い称号もついて回るんだよ。なぁオーゼいいのか?王前四腕オウゼンヨンカイナの名誉に泥を塗ることになるかも何だぜ?」

「オーゼンヨンカイナ?知らん。何だそれは」

「貰って一番喜んでたのお前だろ・・・」

「ガッハッハ、冗談だよ。成る程、たしかに賜っておったな。我が敬愛する王に要らん心労はかけさせたくは無い」

オーゼは闊達に笑い飛ばすと密かに構えた。

「さぁ、やろうぞ」

「直近の会話思い出してぇ!」

ーーーやっぱコイツ会話通じないんだよなぁ!

かつてオーゼの師を務めていたことがあるが、コイツはそのくせアホみたいに強いから扱いに困る。

「ふむ、しかし我ら王前四腕などという称号を頂いておるがしかし、メンバー全員が一堂に会した事は一度も無いな」

「あぁ、考えてみればそうだな、『霊猫』はちょくちょくウチ来てよもやま話してくるけど」

「うむ、かの『霊猫』は真の識者であるな。時折我が公国まで出向いて子供らに魔法の知識を説いて回っているらしいぞ」

オーゼがウムウムと頷く。

「で、『王玩』の方は、まだ王国の地下牢に幽閉されてるのか?」

「うむ、我輩としては昔の禍根などスッパリ切り捨てて盃でも酌み交わしたいのだがな」

「いやぁ、あいつはそれ以前に会話が成り立つかどうかだろ」

カムリが胡乱な感じでやんわりと否定する。

「あとは、番外、『夜伽』だろうか・・・あ」

言って、オーゼは咄嗟に口を手に当てた。

己の失言を悟ったのだ。

「『夜伽』・・・か」

「う、うむそうだ!最近、『夜伽』が動き出したと小耳に挟んだぞ!」

「そうか、タイミング悪りぃなぁ・・・。いや、見越したのか」

カムリは目を明後日に向けて、ざわつく動悸を抑えた。

不規則な動きでたゆたうモヤは渦巻き、どこか不穏な感じをオーゼが察した。

「さて、と。そろそろ我輩と一戦交える気になっただろうか!?」

意気軒昂に、オーゼは再び持ちかけるが、カムリの反応は芳しく無い。

ーーーとりわけ、今のカムリは少し、気が昂っていた。

「今回は随分、しつこく誘ってくるな」

「うむ、しかしカムリ、貴様も案外、満更ではないのではないか?」

「今の貴様、物凄い顔してるぞ」

言われてカムリは気づいた。

先ほどから近づく者全てを圧倒する、求心的な何か。そんな威圧を孕んだ気配を、図らずもカムリは漏らしていた。

「顔は、見えない筈なんだけどな・・・」

カムリはモヤを傾けてボヤく。

「ーーーーー冥護人に会ったんだ」

「ほう、確かに例の『大虐殺』から丁度100年かーーーあー今日はまたどうにも・・・」

オーゼは参った様に頭を掻いて、カムリに頭を下げた。

「済まないカムリ、陳謝する。どうも、今日は口が滑る」

カムリの前では絶対に言ってはいけない、いわゆるタブーという物が存在する。

一つは、王前四腕、番外、『夜伽』の事。

そしてもう一つは、100年前の『大虐殺』の事である。

とりわけ、『大虐殺』の後、誰かがカムリにつけた『冥護人殺し』、『同胞殺し』という異名は本当に、絶対的なタブーになっている。

とはいえ、『大虐殺』の真相を知る者は、今となってはほとんど居ないので大した注意もいらない筈なのだが。

「ーーーところで」

カムリはオーゼが持っている縄にくくりつけられた少年を指して問うた。

「お前の持ってるソレは6分の5人間型ストラップか?」

カムリはくくりつけられた少年の小柄さを皮肉ったのだが意識の無い少年には知る由もない。

「ああ、アズミの事か!そこの森でバッタリ会ってな、活きが良かったのでとってきた」

「山の幸みたいにいうなよ・・・」

「出会い頭に襲ってきてな、二、三発叩いても倒れないのでヒヤリとさせられたぞ」

単純な腕力に於いて、この世界でオーゼに勝てる者は居ない。

「だから我輩うっかり本気で一発殴ってしまった」

「よく五体満足で居られるな・・・」

カムリはダラリと力無く括られたアズミに呆れ混じりの敬意を表した。

と、オーゼは何か思い出した様にポンと手を打って

「そうだカムリ、貴様も我が供にならないか!当てのない流浪の旅だ」

「ヤだよ。つか、そんな事してる場合じゃないんだよ」

カムリはにべもなく断る。

「貴様は会うたびに性格が変わるからな、旅の道中、貴様のキャラが変わる変遷を辿ってみたかったのだが」

オーゼはフゥムと唸った。

「ところで、なぁカムリ。ずっと気になっていたのだが、貴様、何故半裸なのだ?」

「コルドバにはお忍びで来てるからな。ほら、オレが搏撃卿の装備で来たら叫ばれたり、サイン求められたりするだろ?」

「その格好でもある意味叫ばれたりサインを求められると思うがな」

いわんや、黄色い歓声ではまずなく、サインが調書になる事はうけあいだが。

おもむろに、カムリは大空にたゆたう入道雲を仰いで、かつて後頭部だった所を掻いた。

途端、突然カムリの脳裏に去来したのは、かつての親友。

「ーーーミツキ、お前は、何がしたいんだよ」


ボヤくように、また懐かしむようにカムリは呟くと次の瞬間、モヤは渦巻き、首を傾げた。

「ミツキって、誰だっけ・・・?」







どうも!キズミ ズミです!!


今回の話はクライマックスの為の布石になっております。


その為アホみたいな文字数で読みにくかったりするでしょうが勘弁してください。僕も疲れたんです・・・。


話は変わりますが、キャラプロフィールの件で、何か付け加えたい項目がありましたらコメントの方で是非教えてください。


お願いします!!



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コメント

  • キズミ ズミ

    ご指摘ありがとうございますm(__)m

    これからも頑張ります!!

    1
  • 佐々木 雄

    王前四腕が王前4腕になっているところがありました。
    今回も面白かったですよ。ファンです。

    1
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