チート無しクラス転移〜〜Be chained(ベチーン)〜〜
二章 14話 『クラスメイトたちは今』
串揚げ屋さんでバッタリ会ってから少し経ち、オレと委員長は近くの喫茶店でお茶していた。
テーブルを挟んで向かい合わせに座っている。
顛末としては、委員長がオレを喫茶店に誘い、促されるままに入店した感じだ。
ちなみに、先ほどから、オレと委員長との間に会話は生まれていない。
ただ店の一角で執事姿の初老が奏でている弦楽器の音色のみ、お互い聴いていた。
「ーーーー委員長って異世界に来てからどうしてたの?」
オレは注文したシチューをゴクリと飲んでから委員長に問うた。
委員長は少し苦笑したあと、自分のおさげを弄びつつ答えた。
「・・・『トラ』を倒した後、ミキオくんが突然居なくなってから、まず驚いたのはカエデが生き返った事です」
「さっきも言ってたけど、生き返ったってことは・・・?」
それはつまり、そういう事なのだろう。
秋山カエデ
男勝りな性格で、とりわけ委員長と仲が良かった。
委員長はコクリ頷くとまた口を開く。
「あの、仮面の男の説明を聞いた後、私とカエデは取り敢えず地図の通りにこの街に着いて、そこでクラスのみんなと合流しました」
「やっぱりみんな混乱している様で、次に何をするかって言う話し合いが中々進まなくてとても時間がかかりました」
そこで、ある違和感がオレの胸をついた。
もしも、クラスメイトを引っ張る存在であるその男が居たならば、そんなに長々と会議をするだろうか。
「話を遮ってゴメン。でも、その時浦島はいたの?」
浦島ダイスケ。
彼を一言で表すならば、クラスの清涼剤、という表現が最も似つかわしい。
委員長と同じ学級委員にして、メガネを掛けたイケメンである。
彼の性格ならば、路頭に迷うクラスメイトたちをまとめ上げ、最善の道に連れていくだろう。
しかし委員長は首をフルフルと振って。
「転移したあの日以来、ダイスケくんには一度もあっていません」
「・・・そう」
オレは記憶を巡ってみる。
教室から草原に転移した直後、あまりにも突然起きた事にクラスメイトたちが戸惑っている最中、あの時から浦島の姿は見えなかった。
「言い忘れてましたけど、ミキオくんが大トラを倒したって話をクラスのみんなにしたらスッゴイ驚いてましたよ?」
委員長が少しイタズラ気な笑みを浮かべて言った。
「う、うぅん・・・」
やはりなんて返していいか分からず口ごもる。
そんなオレの反応が面白かったのか委員長はクスクスと笑った。
「それで、話を戻しますね。1日目は結局宿をとっただけで終わっちゃって、情報収集は次の日にって事になったんです」
「で、次の日の朝起きたら、体が変な感じがしたんです」
すると委員長はアゴに手を乗せると閃いたように手をポンと叩き、両手を珍妙に動かした。
まるで、粘土を練る様な動きだ。
「・・・えい」
「痛っ!?」
いや、別に全然痛くはなかったが、胸に当たった予想外の衝撃にオレは驚いた。
「えっと、コレが変な感じの正体なんです」
「・・・つまり?」
「今、『非物質を物質化する能力』で空気を固めてミキオくんに投げました」
「・・・!?委員長、天稟出たの!?」
天稟とは、例えばオレの『体が鎖になる能力』だったり、ヴァルドの『何でも体に収納できる能力』だったりと、この世界に存在する『魔法』とは別個の異能の事だ。
委員長はコクリと頷き、話を続ける。
「結果から言いますと、2日目もまともに情報収集は出来ませんでした」
「私だけじゃなく、他の人も天稟が発現したからです」
「いきなり使えるようになったその能力に戸惑ったり、物凄い喜んで半狂乱してる人がいてまともに話し合いが出来なかったので」
委員長は目は少し濁っていた。
おい、てか半狂乱してたヤツ、どこの誰だよ。
オレとか天稟が初めて出たときなんか人間離れし過ぎた感じがしてちょっとしんみりしてたんだぞ。
まぁ、クラスメイトの性格的に一人しか思い当たらないが。
十中八九、高2にもなって厨二病真っ盛りのあの男だろう。
「その後も続々と天稟が発現していって、あ、2日目の夜、いきなりどしゃ降りになったの覚えてますか?」
2日目の夜、思い出したくもない、オレが酔っ払いきって人生最大の恥辱を自ら行った時だ。
「いや、覚えてないや。その日早く寝ちゃったし」
取り敢えずそう言っておこう。委員長も言及しないはずだ。
「ミキオくん、その日は随分とお楽しみだった様ですしね?」
「へ?いや、なんの話かな・・・?」
アレ、委員長なんかおかしいぞ?オレがやらかした例の惨事の事は、委員長は知らないはずだ。知らない、よね?
「・・・『一人版人魚姫』」
「うわぁぁ!知られてたぁーーーー!」
なんで!?あの時のことはミツキとヴァルド組くらいしか知らないはずなのに!!
頭を抱えて天を仰ぐオレを見て委員長は満足気な顔になる。
「それでですね、そのどしゃ降りはホナミちゃんの『天候を操る能力』の所為なんですよ」
「話を戻そうとしないで!?ねぇ委員長なんでオレのその事知ってんだよ!」
委員長的には会話に一区切りつけて話を軌道修正しようと思ったんだろうがとんでもない。
「それは後から出てきますので聞いててください」
よく分からん窘められ方をしてオレは押し黙った。
ちなみに、北村ホナミ
ウチの学年でトップクラスの美少女でありながら、淡白な性格で誰かと親しく話している姿は見たことがない。
しかし運動神経、成績、共に優秀であり、クラスからも先生からも一目置かれている。
また、同じクラスに北村ムギヤという双子の兄がいる。
「それで3日目です。やっとこの日、各自の役割を決めて情報収集が出来たんです。ですけどーーーー」
委員長は目を伏せて顔に影を落とした。
「この世界で、私たち異世界から来た人たちのことをなんて言うか知ってますか・・・?」
「冥護人だろ?ってもあんまり言いふらすのはダメらしいよな。確か、この世界だと災厄の象徴とか揶揄されてるらしいしーーーーーーーまさか・・・!」
ヴァルドが好例だが、冥護人だとカミングアウトしたら確実に面倒なことになる。
しかしそんな事、異世界に来て間もない委員長たちが知っているはずも無く。
「この街とか、世界の事とか聞いてる最中にうっかり言ってしまったんです。丁寧に、自分の天稟まで見せて・・・」
ふと、気になった。
目の前にいた人間が冥護人だと知った時、街の人間はどういう反応をするんだろう。その答えはーーーー
「・・・大迫害を受けました。石を投げられたり口汚く罵られたり、それで街から出て行けと言われたんです」
若干唇を震わせて言う委員長。
それはどれだけ怖い事だったんだろう。
と、同時にオレの中で合点がいった。
串揚げ屋の周りで見た光景。壁はいたるところ欠け、地面には石が散乱しているあの光景は、彼女たちの迫害の跡だったのだ。
「・・・それで、どうしたの?」
オレは固唾を呑んで委員長の返答を待った。
そんな大迫害から、どうして今に至るのか、俄然興味が湧いたのだ。
「・・・・・・」
委員長はタップリと間をとって、口を開く。
「『調和のとれた不協和音』です」
「パラド・・・、なんて!?」
多分だが委員長、短くまとめようとして物凄い端折ったな!?
あと、なぜか今、親文字とルビが同時に見えたんだけど、どうなってんだよ。
「リュウトくんが自分の天稟につけた名前で、要するに、『記憶をいじれる能力』です」
「その天稟で、街の人たちの記憶を操作して私たちが冥護人だって言う記憶をなくさせたんです」
・・・色々突っ込みどころはあるが、まずは二戸生リュウトという厨二病の紹介をしよう。
もう何度もいったと思うが、性格は厨二の一言で事足りる。
体育祭を『聖戦』だの修学旅行先の京都を『シュヴァルツ何ちゃら』だの画数の多い漢字に変換するのが大好きなヤツだ。
まぁ、典型的なクラスに一人はいるイタいヤツだが、しかし、意外に彼の評価は高い。
何故か?それは彼の強すぎる個性に目を瞑れば基本的には中性的な容姿を持ったいいヤツだからだ。
数ある学校行事の多くに精力的に取り組み自分から率先して汚れ役を買って出る姿は、彼のイメージを大きく塗り替えた。
結果、二戸生リュウトは良い意味でのネタキャラとしてクラス内での地位を確立した。
「次の日、4日目になってミツキくんに会いました。そこで、その、プフ・・・っ、ミキオくんの『一人版人魚姫』を聞いたんです・・・ッ!」
「ーーーミツキィ・・・・・・」
委員長は口元を隠し、笑いをこらえている。
一方、オレはこの場にいないミツキに怨嗟を漏らし、テーブルに突っ伏した。
「委員長・・・、まさかと思うけどさ、オレのそれ知ってるのってーーーーー」
「す、すいません。クラスのほとんどの人に言っちゃいました」
「殺してくれぇ・・・!!」
クラス内で積み上げて来たオレの立場が音を立ててガラガラと崩れていった。
とはいえ、考えてみればミツキ以外のクラスメイトと大した親交を持っていた訳でもないのでそこまでの立場変動はない気もするが。
ていうか、なんかみんなスゲェ天稟出てんだなぁ・・・。
『記憶をいじる能力』、『天候を操る能力』、漫画とかなら間違いなく強キャラが持ってそうな異能だ。
そう思っていると委員長から尋ねられた。
「ところで、ミキオくんの天稟ってなんなんですか?」
「・・・委員長、知らないっけ、『トラ』と戦った時出したんだけど」
「いいえ、あの時は土煙が凄くって、大トラが倒れた所からしか見えなかったんです」
「あぁ、そう・・・」
正直、この流れで天稟をお披露目するのは気が咎めた。
が、委員長の期待の視線に押され、オレは自分の指を引っ張った。
ジャラジャラと音を立てて鎖に変貌するオレの人差し指に委員長の視線が注がれた。
「ーーーーー・・・・・・。・・・わぁ」
ミツキよりも薄い反応!!
「えっと、これだけですか・・・?」
「い、いや、まだ鎖が動いたり・・・」
オレの意思に呼応して鎖がピョコピョコ動く。
「・・・・・・でおち・・・」
つい口から漏れてしまったのか、委員長は咄嗟に口をつぐんだ。
でもミキオ知ってるよ?言葉って吸い込めないんだ・・・。
オレはうなだれた。
ここまで委員長の話を聞いて分かったことがある。
秋山カエデ、彼女も『トラ』に殺されて、そして、生き返った。
それはつまり現在出されているミッション『武具を一式揃えよ』にクリア出来なければ、秋山はペナルティを受けてしまう。
『トラ』を倒し、金貨250枚という報酬を得たオレでさえ既に武具調達は暗礁に乗り上げている。
ましてや、彼女たちの所持金は金貨一枚。
まぁ、金貨が250枚あろうが1枚しかなかろうがこの街の武具の平均的な値段は金貨450枚なのでどちらにせよ絶望的だが。
「委員長は、てか秋山はミッションどうするの?」
言外に、ヤバイだろ。て感じの雰囲気を漂わせる。
しかしーーーー
「あ、はい。お陰様で無事クリアしました」
シレッと委員長はそう言った。
どうも!キズミ ズミです!!
例によって分量が膨れ上がりましたので今回は2話同時掲載されて頂きます。
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