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チート無しクラス転移〜〜Be chained(ベチーン)〜〜

キズミ ズミ

二章 9話 『がんばれ』




「フゥーーーーーーー」

ヴァルドが深く息を吐くと、一直線にオレへと駆けてきた。

「ラァッ!!」

彼我の距離はわずかに数十センチ、ヴァルドが手を突き出しオレの襟元をムンズと掴むと脇腹に衝撃が走る。

「ゲガッ・・・!ゴホッ、エホッ!!」

後からくる鉛の様な痛みに耐えかねてオレは膝をついた。

「思った通りだなァ、お前、近接に弱ェだろ?」

無防備なオレを追撃する事もなく、ヴァルドは一、二歩下がってオレを見下ろす。

「ったりまえだろ・・・っ!喧嘩なんか、小学校以来だってのッ・・・」

そりゃ、そうだ。

ヴァルドはスラム街という法のアウトサイドで圧倒的な戦闘経験に裏打ちされた確かな戦闘技術を持つ、いわばストリートファイトの達人だ。

対してオレは、平和な日本で人生の9割9分9厘を過ごしてきた生粋の現代っ子。

仮面の男に貰った、人外の如き身体能力でも到底その差は縮まらない。

だからこそ、ヴァルドには見慣れない天稟を用いた翻弄をメインに戦ってきた。

「・・・・・・ッ!」

オレは指先を後方、壁の辺りに向けて、鎖を射出した。

一旦引いて、再びヴァルドを無力化する策を練ろうと思ったのだ。

「その手品は、もう見飽きたなァ」

ヴァルドは振りかぶって鉄骨を投げる。

凄まじい推進力で投擲された鉄骨はビュウと空気を穿ち伸ばしていた鎖の先へ着弾した。

「な・・・・・・ッ!?」

「お互いよォ、天稟の性能は出し尽くしたろ?こっからは殴り合いで行こうぜ・・・!」

ヴァルドの目は愉悦と、少しの狂気を孕んでいる。

「は、性格悪いって言われないか・・・?同じクラスになりたく無いタイプだわ、お前・・・」

弾かれる様に後方へ離脱。

手っ取り早い瓦礫を見繕って、投げた。

人外の力で放たれた瓦礫は空中で四散しながらも、ヴァルドに向かっていく。

「効かねェッての」

しかしヴァルドの体に触れた瞬間、瓦礫の散弾は全て何処かに消えていった。

ヴァルドが『収納』したのだ。

「なァ冥護人ォ、オレ様の子分、今周りにいるやつらだが、何人いると思う・・・?」

唐突な問いかけ。

それはしばしの停戦を意味していた。

オレはグルリと見渡す。

やはり、平均年齢は大分低い。

皆一様にヴァルドの身を案じて心配げな目でこちらを見ていた。

「・・・20人弱ってところか?」

「・・・そうか。実はオレ様もまだ把握して無かったんだ」

「いや、どういう事だよそれ」

コイツらのボスなんだろ。ヴァルド、まさか自分の子分をゴミみたいに扱う類のやつか・・・?

ヴァルドに疑念の目を向けるとヴァルドは背を少し反らした。

「・・・勘違いすンなよ?オレ様は自分の子分の名前も、顔も、なんだって知ってる」

「じゃあなんだって子分の数忘れてんだよ」

「・・・・・・50人いたんだ、元は」

 若干目を伏せて、ヴァルドは答えた。

なんというか、ヴァルド自身この問いの答えは本意じゃ無い様に思えた。

じゃあ言わなければ良かったのに、危うくそんな言葉を言いかけた。

でも言えなかった、察してしまったからだ。

「・・・・・・・・・」

「オレ様の天稟は、動かねェモンならいくらでも体ン中に詰め込める優れモンだ」

「この天稟さえありャァ、運送費は限りなくタダ。道中山賊だのにパクられる心配もねェ」

「鎧を運んで、よその街に売っぱらうにャァ、誰が適任だと思う?」

分かりきっている、つまりヴァルドはある程度の期間、この街に居ないのだ。

「・・・ヴァルド、あんたは、スラム街のボスだろ?このスラムに沢山の人が住んでるのは知ってる。だけどあんたの子分に手を出して、あんたの逆鱗に触れる様なやつは、いるのか・・・?」

ヴァルドはまなじりを歪める。

「あァ、いるぜ・・・!ゴミみてェになァ」

「・・・・・・ザイーダ組ってとこだ。ボスのザイーダもその子分も雑魚だが、数が多い」

「このスラムのボスになんのは、難しい事じゃねェ、一番強けりゃいい」

「一番強いやつが鎧の独占権が与えられ、富を専有する・・・!」

「オレ様はそんなスラムのゴミクソなルールが嫌いで、ボスにまでなってスラム中のやつらに転売した金を分配してやったんだが、ザイーダはそれが気に食わねェんだと」

「オレ様の組は基本オレ様以外戦えねェ、それに見りャ分かるだろ、大半が成人もしてねェ」

「ーーーーオレ様がココに帰って来るたびに、子分が減っている」

「何べん仇をとろうが、ザイーダ組を潰そうが、帰って来るたんびに・・・」

言葉に詰まって、ヴァルドは下を向いてしまった。

憎しみを、噛み殺しているような表情だ。

怨嗟の炎を胃の腑にしまい込んで、押し殺してどうにか自我を保っているように見えた。

握り込まれた拳には血が滲んでいて、己の無力を呪うヴァルドのソレは、どこかの、誰かに、よく似ていた。

いや、有り体に言ってしまえば、彼の姿はいつかのオレに重なった。

なす術なく『トラ』にミツキを殺された、あの時のーーーーー

「つまり、オレが、天稟を有し、圧倒的な強さを持つという冥護人の1人であるオレがヴァルドの子分になれば、ヴァルドは安心して他の街に行くことが出来る、と?」

オレが勝ったら、鎧を貰う。

オレが負けたら、ヴァルドの子分になる。

そういう契約で今ヴァルドとは試合結果本末転倒の殺し合い、いや勝負をしていたのだ。

先程は、追い返されそうになった寸前で、冥護人という事をカミングアウトし、唐突に勝負を持ちかけられた。

お互いの利害は一致していた。

「ーーーーーまァ、噂よりすこォしお前は弱ェかもだが、問題ねェ!!オレ様の子分の為に!お前の冒険はここで終わりだぜ、冥護人ォ!!!」

思い悩んでいた所に、現れた好機。

その凶悪な顔貌の裏に、本当は誰よりも優しいナニカがある事を、子分たちは知っていた。


ーーーーーーーーーーーーーー


ヴァルド、13歳。

その時、スラム街は空前の大飢饉に見舞われていた。

スラムを取りまとめるボスが変わり、そのボスの意向でスラムに新しい法が出来た。

要するにヴァルドたち弱者に与える食料は残飯ですら勿体無い、と言われたのだ。

新しいボスになってから、7日。

つまりヴァルド断食から、7日。

1週間前、最後に口にしたものは雑草を揉んで抽出した汁に魚の骨を入れた通称、残飯汁というものだった。

口内のいろんな所に刺さる骨の異物感を生臭い汁で流し込む、スラムではオーソドックスな食べ物だったが、腹持ちは悪い。

空腹が脳を支配した。

だから、こんな事をしてしまった。

「キアルディ・・・・・・ッ!」

ネズミを喰らってしまったのだ。

「ウハハ・・・やっべェ、やァッぱ腹ァ下しちまった・・・」

言わずもがな、ネズミには毒が有る、いや、毒というか寄生虫だ。

ましてや2人はネズミを生で喰らった。

ヴァルドは幸運にも何ともなかった。

しかしキアルディはーーーーーーー

「ーーーなァ、ヴァルド・・・」

「オレ様は昔、大貴族になるって、そう言ったよな・・・」

「うん・・・」

何年か前のことだ。それでも、ちゃんと覚えている、ヴァルドはキアルディの底抜けの明るさに何度も救われた、
キアルディの言ったことなら、何でも覚えている。

「こんな・・・ネズミ喰って死にかけてるような・・・こんなゴミみてェな所で・・・ゴミみてェにくたばってるオレが・・・大貴族に、なれるわけねェだろうが・・・!!!」

息も絶え絶えで吐き捨てられた言葉に、ヴァルドは失望、絶望、どちらともつかない感情が渦巻いた。

あるいは弱音、ともすればこれがキアルディの本心なのかもしれない。

「な、なれるよッ!『攻城王』の話知ってるか!?貧乏貴族の四男だったオーゼ・バッバルーザは戦争中、1人で敵の城に乗り込んで武勲をたてたんだ!!戦争後、その城を貰って一国の王様にまでなったんだぞ!?できるよ!貴族にも、王様にだってなれる!!偉くなって、子供に優しく出来るようなカッコいい男になるんだろ!?キアルディの力と、オレの天稟があればそんな夢、すぐに叶えられる!!」

まくし立てた言葉に、どれだけの真意があっただろう。

キアルディの瞳はすでに虚ろを見ており、こちらの声が聞こえるのか分からないほど衰弱していた。

ヴァルドはなぜか、キアルディの姿と、ヴァルドが殺したあの貴族の姿が重なって見えた。

溜めた涙は行き場を失って下へ、下へと垂れていく。

ヴァルドの顔はグシャグシャになっていた。

「なァ・・・ヴァルド・・・大人になったら、何になりたい・・・・・・?」

聞き逃してしまうほどにか細い声で、キアルディは呟いた。

「オレはーーーーーーー」

キアルディの末期の言葉、応えてやりたかったが、ヴァルドの頭は既にパンクしそうになる程、いっぱいいっぱいだった。

こんな状況を作り上げた、新しいボスへの深い憎しみ。

唯一の親友を悼むやり場のない悲しみ。

ふと、思い立った。

こんな地獄を、他の誰かも見ているのだろうか。

ヴァルドとキアルディ以外の、ネズミを喰らった他の誰かも、無二の親友との決別に心を裂かれているのだろうか。

「オレは、強くなる。弱いやつを笑って護れるような、度量のデカイカッケェ男になる・・・!」

掠れた涙声で、絞り出すように言った。

精一杯、笑顔を作って言った。


「ウハハ・・・」

「ウハハ、ウハハハハ・・・!ウハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!・・・!!」

「ハァーーーーー・・・・・・がんばれ」

愉快でたまらない、そんな風にひとしきり大笑いするとキアルディは眠るように死んだ。

ストンと、キアルディの体から大事なものが抜け落ちた感じがした。

生きるのに必要なナニカ。

死ねば消えてしまうナニカ。

亡き親友を抱きかかえたヴァルドの手にはソレが生々しく伝わってきて、ヴァルドはキアルディとの思い出の分だけ、遠い空の果てまで届くだけの大声で、絶叫したーーーーーーー。



ーーーーこの時ヴァルドは、背後にいる細身で高身長の、冷然とした瞳を持つ少年の存在に気づかなかった。

およそ数年後、再開を果たすその少年にはーーーーー。







どうも!キズミ ズミです!!


VSヴァルドも大分佳境に入ってきました!

できれば、次の回で締めくくれれば良いんですが・・・(フラグ)。


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コメント

  • 佐々木 雄

    以前コメントもらった佐々木です。読むのが遅くなってすみません。
    めっちゃ面白いです。続きが凄く気になりますし、なにより僕の好きな感じの⋯⋯感じです。(文章力皆無)
    これからもお互い頑張りましょう!

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