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チート無しクラス転移〜〜Be chained(ベチーン)〜〜

キズミ ズミ

二章 8話 『オトナニナッタラ』






ヴァルドがスラム街の狭く、暗い一角で産声をあげた日、彼の両親は産んだ我が子の希少性に下卑た笑みを浮かべた。

ヴァルドは天稟を有して生まれてきたのだ。

天稟とは、先天的に持つ才能、また、神からの贈り物だとも呼ばれている。

なんにせよ、天稟を持った人間は極めて稀であり、彼の両親にしてみれば、トンビがタカを産んだ様な気分だったろう。

ヴァルドがおおよそ1歳に成長した時、ヴァルドは両親に売られた。

ヴァルドを買ったのはコルドバに別荘を置く趣味の悪い独り身の貴族だ。

ヴァルドを買ったその貴族は、奇妙な威圧と冷徹な瞳をした酷薄な人間だった。

幼いヴァルドはその貴族の別邸に連れて来られると、散々弄ばれた。

幼児には決して耐えることの出来ない苦痛と絶望を、ヴァルドはそこで一生分味わった。

ヴァルドが抵抗しようとすると、貴族は拳を振り上げてそれを制した。

殴られて、殴られて、殴られて、殴られた。

ヴァルドの乳歯は全てこの貴族により叩き折られた。

当時、3歳にまで成長したヴァルドには、その理不尽な暴力に対して、あまりに無力だった。

ヴァルドが5歳になったある日、某日、床に倒れ伏し、自らの血で高級な絨毯を染め上げている貴族を、ヴァルドは冷めた目で見下ろしていた。

凶器はナイフだった。

貴族は苛烈な人体実験だけで無く、ある程度の教養も与えていた。

それはあくまでもヴァルドの身を案じての老婆心で無く、どこまでも手前勝手な貴族の道楽に繋がるものだが、敢えて割愛する。

取り敢えず、知識を与えた貴族は、知識を得たヴァルドに寝首をかかれた。

それはヴァルドが初めて人を殺した日でもあり、初めて自分のために天稟を使ったある種の契機でもあった。

ヴァルドを睨みつける貴族の目から光が消えた瞬間、ヴァルドは低く嗚咽した。

ーーーーーーーヴァルドは2回目の産声をあげたのだ。



ーーーーーーーーーーーーーー

時代は戻り、現代。

「お前らァ!初めてネズミを喰った日ィ、覚えてるか・・・!」

ドスのきいた声で、ヴァルドは子分に問いかける。

応じこそしなかったものの、しかしヴァルドの言葉を聞いた子分たちは神妙な面持ちになり、遠い目をする。

それはミツキの傍でナイフを突きつけていたチンピラも同様だ。

「・・・悪かったなァ、子分が水を差しちまった。続きをしようぜ・・・!!」

気をとりなおし、構えるヴァルド。

「意味ありげな事言ってたな。どういう意味だ?」

オレは問いかけと同時にヴァルドに近づき、跳躍した。

軽く踏み込んだが、しかしヴァルドの頭上を越えた大ジャンプになった。

「どうって事ねェよ、まァオレ様が考えたスローガンってやつだ」

ヴァルドは天を仰ぐのでは無く、自分の背後に注意を向ける。

着地の瞬間を狙い撃つ気なんだろう。

「ネズミを喰うっていうのは、なんかの例えか?」

しかしそこにオレは現れない。

地面に足をつく必要が無いからだ。

オレの指から伸びる鎖は何にでもくっつく。

『トラ』の毛皮にも、壁にも、あまつさえ空気にもくっつく。

ヴァルドの頭上で未だ滞空、というより宙ぶらりんになっているオレはヴァルドの意表を突いた上空攻撃を敢行する。

指から伸びる2本目の鎖はオレの意思に呼応し、ヴァルドに巻きつく。

『トラ』ですらも脱出できない強靭な鎖だ。

勝負あった、オレは心の中でガッツポーズをするがーーーーーー

「イィや?文字通りだ。オレ様の子分たちはみんな、大なり小なり、極限の空腹でネズミすら喰らった事のあるヤツばっかだ」

鎖でがんじがらめになっているのにもかかわらず、ヴァルドの顔は不敵そのものだった。

「そりゃあ、随分人生経験豊富な事だな。含蓄のある話をもっと聞きたいところだが、投了だ。ヴァルド、あんたもう指一本動かないだろ?」

今のヴァルドは、例えるならミイラだ。

オレの指から伸びる鎖はどうやらかなり長くまで伸びるらしい。

既にヴァルドの体は大部分鎖に縛られ、顔すらもう半分も見えない。

「ウハハ、アホが、難しい言葉ばっか使ってんなや。こちとら大した教育もされてねェんだ。おうむ返しくらいしか出来ねェッての」

この世界にもおうむは居るのか、気になるところではあるが取り敢えず、ヴァルドの声音は込められた感情が判然としづらかった。

「勝負はついた。負けを認めろよ、これで後腐れなく、鎧はオレらの物だ」

「あめェンだよ・・・・・・!!」

突如、ヴァルドの体が膨張した。

いや、鎖ごしにそう見えただけであり、実際はヴァルドの体から生えた無数の鉄骨が暴力的にその存在を主張しているだけだったが。

とにかく、その鉄骨が鎖を穿ち、拘束を破綻させたのだ。

壊れた鎖があちらこちらに飛び散り、オレの勝利を無いものに変えていく。

「負けを認めろッつったか?ちげェよ、お前の番が終わっただけだろ。ここからはオレ様のターンだぜ・・・?」

「おうむ返しって、こういう事かよ・・・」

「ウハハ、勝負を続けようかァ!!」

ーーーーーーーーーーーーーー


ーーーー5歳のヴァルドは貴族の家を抜け出した後、スラム街へ向かった。

そこに何があるわけでもなく、当たり前だが両親が自分を待っていてくれる訳でも無かった。

ただ、足が向いた先が、思い立った先がスラム街だったのだ。

スラムの主な食料は、コルドバ住民が残した残飯が配給される。

当時、コルドバという街自体が繁忙していた為スラムでも食べるものに困らなかった。

しかしそれでも、曲がりなりにもキチンとした食事が与えられていたヴァルドにとって、いろんな食材がミックスされた様な残飯は吐き気を催すに充分な代物だった。

貴族の屋敷から、スラム街。

それは天国から一転、地獄にまで生活水準を落とす様なものだ。

そんな環境の中で、数年。

ヴァルド、10歳。

仲間ができた。多分同い年くらいの、金髪のお調子者だ。

名前は、キアルディ。何を間違ったか、まあ大方養育環境だろうが、キアルディの一人称は不遜にも『オレ様』だった。

「今日び、貴族でもそんな一人称使わないよ・・・」

ぼやく様に、ヴァルドが言った。

「あァ?なァに言ってんだヴァルド、貴族サマでも使わねェならオレ様は貴族以上って事だ!いつかスラムを抜け出してオレ様は大貴族になる男だからな!じゃあ今使っても問題ねェだろ?」

さも論理的に証明しましたよ、と言いたげな顔のキアルディ。

そんなキアルディに深くため息をついて、

「昨日、大人に生意気だって言われて、殴られて泣いてたのは誰?」

「なっ!?イィんだよ!オレ様らみてェな子供殴っていい気になってる大人たちはバカだ!!オレ様がデッカくなったらもっと度量のある、カッケェ大人になってやる。あと、泣いてねェからな!」

痛いところを突かれても物怖じせずに反論するキアルディに、ヴァルドは再び、ため息をついた。

「キアルディはなりたいものがいっぱいあって大変だね」

皮肉を含んだ物言いだったがキアルディは待ってましたとばかりに目を輝かせた。

「おう!オレ様は何にでもなれるからな!」

「ふぅん・・・」

「なァ、ヴァルド、お前は大人になったら、何になりてェんだ?」

なんというか、キアルディの質問はヴァルドには遥かに高次の事に思えた。

「オレは、特に無いかな。ほら、今日を生きるのに精一杯だからさ」

「はァ〜〜〜〜っ!!ッたくお前はこう、夢を持とうぜ!?」

「夢なんか見たって、お腹は膨れないだろ」

言うと、キアルディはわざとらしく頭をふり息を吐く。

「腹も膨れねェし、傷も治んねェけどよ?昨日の痛みなんざ吹き飛ばせるくれェデッカい夢を一個持ってりゃァ、明日の天気も変わってくるぜ?」

いつになく、もっともらしい事を言う。

ヴァルドはしばし黙考すると口を開く。

「ーーーーーーなんも思いつかない・・・・・・」

拍子抜けの返答に、キアルディはわざとらしくズッコけた。







どうも!キズミ ズミです!!


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