チート無しクラス転移〜〜Be chained(ベチーン)〜〜
一章 6話 『決意は塵埃の中で』
疾風迅雷もかくやというスピードで、オレは怨敵である『トラ』へと向かっていた。
しばらく、全速力で走っていると、大草原の真ん中で、
一際目立つトラ柄の物体が目に入る。
近づくほどに、明瞭になっていく『トラ』の全貌だが、その『トラ』のすぐ目の前に、少女がへたり込んでいるのが見えた。
「アレは、委員長か!やばい、委員長まで喰われたら・・・!」
追想されるのは、上半身を無くしたあの残骸。
人であった頃の名残を微小に残したまま、今も草原に打ち捨てられたままの、唯一の親友。
「・・・・・・ッッ!!」
思い出したら、また涙が溢れてしまいそうだった。
だから前を向いて、ひたすらに疾走していた。
「・・・間に合ったッ・・・!」
それこそ、地球基準ではあり得ないほどの時速で走っていたので、委員長と『トラ』との間に滑り込み、急停止すると辺りに凄まじい量の砂塵が舞い上がった。
オレは『トラ』の対面に立っているはずだが、砂煙の中ではそのトラ柄は見えない。
そしてそれは眼前の『トラ』も同じだろう。
しかし、オレは、そして『トラ』は、たしかにお互いの存在を認識していた。
オレは、『トラ』を仇敵として。
『トラ』は、オレを害敵として。
お互い意識上の相違はあれども、戦うべき相手としての利害は一致していた。
一拍おいて、砂けむりも晴れないうちから『トラ』はオレに肉薄してきた。
「・・・ッッ!!」
ーーーーー速いッッ!!
ていうか、委員長から距離を離さなきゃいけない!!
もしも、オレがここで『トラ』を躱そうものならば、背後にいる委員長は『トラ』の牙の餌食になるだろう。
だから、敢えて避けず、真正面から『トラ』の攻撃を受け流した。
かじり付こうとしてきた『トラ』の顎下に滑り込み、喉輪をかけて渾身の力で腕を振るった。
「ぅおおおォォォォ!!、ラアァッッ!!!」
体制が悪く、十分に力を込めていないにもかかわらず、投げ払われた『トラ』は前足を浮かせ、無防備な腹を見せる結果になった。
刹那の好機を見逃さず、『トラ』の懐に入り込み、蹴殺さんばかりの力で『トラ』に蹴撃をお見舞いしてやった。
「グガァァァオッッッッ・・・・・・!!!」
強かに決まったミドルキックは『トラ』を5メートル以上後退させ、その顔貌を苦渋の表情にさせるほどだった。
オレは、『トラ』を圧倒している。
つい先ほどまで、敵とすら、餌とすら見られず屈辱的に生かされたオレがーーーーー
異形の怪物である『トラ』と、対等以上に渡り合っている。
その事実が、爽快感と共に、倒錯的な虚しさを孕んでいた。
元はと言えば、オレはほんの先ほどまでどこまでも無力だった。
それを悔いて、そしてこの人知を超えた力を、異能を得た。
だけれどもソレは、自らの能力と吞み下すには、あまりにも『トラ』という存在に近すぎた。
『トラ』は虎でも、トラでも無く、あくまで『トラ』だというように。
オレはいつのまにかオレではなく『オレ』という、異形の怪物に成り上がっていた。
胸を掻くこの虚しさは、人域を超えた者の弊害なのだろうか。
人として、得てはいけない異能を手にしてしまったペナルティなのだろうか。
何にせよ、責任者を糾弾するまでもない。
全てあの仮面の男の差し金であることは明白である。
「だったら・・・!早いとこ『トラ』をぶっ倒して、あの仮面の男に一発くれてやる!!」
決意は突飛なものだったが、勇気は奮い立った。
地面に拳を突き立て、再び砂の噴煙を上げるとオレは、
準備した。
すぐに『トラ』は砂塵の中からオレを見つけ出し、牙を晒して踊りかかった。
すんでのところで『トラ』の咬撃を躱すと一歩、二歩、三歩。
目測で10メートル程、『トラ』から距離を置くとーーーーーーー
ーーーーーーオレは自分の左手人差し指を、思いっきり引っ張った。
ジャラジャラと、音を立てて伸びたオレの指、否、既に鎖へと変貌を遂げたソレは、意志を持つかのように『トラ』に巻きついた。
鎖はがんじがらめに『トラ』を縛り付け、動きを封じられた『トラ』は小刻みにしか体を動かせずにいた。
「グガァァァ!?ガァァァァァァァッッッッ!!!」
ーーーーーーーそうだ。コレが、この鎖こそがオレの虚しさの根本。
仮面の男に渡された。
人域を踏み外した異能だ。
人差し指から伸びた鎖は、一本で彼の『トラ』の動きを封じるほどに強靭であり、こんな鎖を、オレは多分体中から出すことが出来る。
・・・こんなオレを見て、誰がヒトだと思うのだろう。
怪物ではないか。
この『トラ』と同じように。
とはいえ、不本意ながらもこの異能は、この力は、悪しき『トラ』を挫く為の大きな助けとなっている。
だから、甘んじよう。
今はこの力を受け入れて、自らのものとして呑み下そう。
この異能を仮面の男に叩き返すまで、この異能はオレのものだ。
だからーーーーーー!!
オレは『トラ』の真正面に立つと、動けないでいる『トラ』を一瞥した。
『トラ』がオレの意思をどう汲んだかは分からない。
しかし『トラ』は自らの死期を悟ると小さく、鳴いた。
「じゃあな、『トラ』」
「もうお前の顔は、二度と見たくないよ」
左手人差し指で『トラ』に鎖を繋げたまま、右手の人差し指を引っ張った。
長く伸びる漆黒の鎖を大きく振りかぶり
「『鎖縄ーーーーーー黒鞭ッッ!!!』」
『トラ』の脳天へーーーーーーー振り落とした。
ーーーーーーーバチィィィィィィッッ!!!!
空気が弾けるような音が、大草原のどこまでも響き渡り、余韻さえ聞こえなくなった頃、頭部を失った『トラ』はゆっくりと大地へ、体を伏せた。
「・・・・・・加藤、君・・・?」
「ーーーーーーー」
達成感よりも、寂寥感のある決着に心がついていかず、しばし抜け殻のようになっていると、声をかけられた。
「委員長、と、秋山・・・?」
振り返ると、黒髪おさげのメガネ少女、委員長と彼女の友達、秋山カエデがオレを見ていた。
だから何の気なしに彼女らの名前を呼んだのだが、委員長はすぐにオレから秋山に視線を移し、信じられないものでも見るかのような顔をした。
「え・・・・・・?なんで・・・、カエデは・・・」
「委員ちょーーーーー」
どうしたのだろうと、委員長に再び声をかけようとして、ーーーーーープツリと、意識が途切れた。
「ーーーーーーーッッ!」
数瞬経って、意識が体に帰ってくると、周りには委員長も、『トラ』の死骸も、無かった。
「ミキオ?」
ふと、オレを呼ぶ声。
委員長では無い。
聞きなれた声が、背後からオレを呼んだ。
ーーーーーーいや、そんな訳無い。
ーーーーーーアイツの声が聞こえるなんて、有り得ない。
ーーーーーーだってアイツは、オレが無力な所為で・・・!
それでも、確かに聞こえたその声に一縷の望みを託して、振り向いた。
既に涙腺は臨界点を遥かに超えて、決壊していたと思う。
「ーーーーーーミツキ・・・!!」
そこには、在りし日の姿と変わらない、
唯一の親友が立っていた。
どうも!キズミ ズミです!
やっとこさ息の長かった『トラ』を倒せましたね!
ホント、長かったです。
『トラ』だけで1万字書くとは思いもしませんでした・・・。
ともあれ、これで次回、1章幕間を挟んで『トラ』編は終了です。
続く2章はもう少し冗長な感じを抑えて書きたいです!
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コメント
暇人001
サポートキャラクターがいきなり死ぬという展開がとても斬新で面白いと思いました!
これからも頑張って下さい!