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薬師シャルロット

なつめ猫

過去の軌跡(後半)

 魔王さんは、ゆっくりと私を抱きしめていた腕を解くと私の肩を掴んできた。
 きっと、私は嫌われたと思う。

「自分が父親を殺したか……汝を縛り付けているのは、それであったか……」

 魔王さんは、ゆっくりと私の言葉を理解するように語りかけてくる。

「シャルロットよ、よく聞くがよい。我が出会った暁孝雄――貴様の父親は、そのように考えてはいなかったぞ?」
「――え?」

 私は顔を上げる。
 魔王さんの表情を見上げるような形になってしまった。
 彼の真剣な瞳が、私の瞳を捉えてくる。

「暁孝雄は、自身が死んだことも、そして神の見習いになっていたにも関わらず、その摂理に背き、汝を助けたことも、そして異世界に来て我に出会ったことも全て後悔はしていなかった」
「どうして……ですか……私が、生まれてこなければ……私が居なければ、お父さんもお母さんも誰も不幸にならなかったのに……」
「不幸か……」

 私の頭の上に、彼は大きな手を置くと遠くを見るような瞳で一人呟く。

「汝は、そのように考えるのだな」
「だって! そんなの……」

 私は魔王さんの胸を叩く。
 どうしようもないじゃない!
 私は、本を読むのが好きなだけであって誰かを嫌いとか、そんなことは無かった。
 ただ、気がつけば周りが距離を置いていた。

 学校のテストでも自然とテストの点数が取れただけ。
 だって、それは本を読んでいて知っていただけ。
 だから、答えられただけであって、特殊な勉強なんてしたことなんて無い。
 それなのに、周りは私のことを褒めて、それが子供たちの間の孤立感を増長させてしまった。
 だから……。
 私は自分の世界に――。
 自分が読んだ本の世界に……。

「そんなの……仕方ないじゃないですか……」

 その結果、求めた結果。
 その結果が、誰かが傷つき誰かが死んで誰かが泣くそんな救われない世界になったとしても……。
 それは、そんなのは……。

「どうしろというのですか……。これ以上、私にどうしろと!」

 私は魔王さんの胸元を叩く。

「シャルロット、汝は……自分が嫌いなのだな」

 魔王さんの言葉に、私は首肯する。

「私は、私が嫌い。誰かを傷つける自分が嫌い、そのことに気がつかずに暮らしていた私は、私が大嫌い!」

 私は魔王さんから離れる。

「どうして、自分の好きなことをしていただけなのに! どうして周りが勝手に私のことをこうあるべきだと決め付けて型枠に嵌めようとするのですか! 私は、ただ私が好きな物を――物語を読みたかっただけなのに! それなのに、どうして……どうして、こんなことになってしまって……」

 俯き、床を見ながら今ままで、自分の中に溜まっていたものを言葉にして吐き出す。

「私には! 私には守ってもらう資格も愛される資格もないです! 自分の都合だけで、自分の考えを押し付けるだけで、そんな自分勝手な私が……誰かに守ってもらうなんて、都合が良すぎます!」
「汝は何もおらんな」

 私が吐露した言葉を魔王さんは聞いたあと、静かに私に語りかけてきた。

「私が、分かっていない?」
「そうだ」
「私が! 何を分かっていないというのですか!」
「決まっておろう? 汝は自分の了見つまり自身の物差しでしか物事を見ておらん」

 魔王さんが何を言ったのか私には一瞬理解ができなかった。
 ただ、彼は立ち上がるとまっすぐに私のほうへ歩いてくる。

「貴様は、誰かが傷つき困って助けを求めて居る時に、その者を助けるのに理由が必要なのか? 何か見返りがほしいと思うのか?」
「それは……、誰かが嘆いているなら困っているなら助けるのが……」
「そうであろう? 誰かを助けるために理由など必要ない。偽善だと言う者が居るかもしれない。だが、それは心の内側から湧き出た想いであろう?」
「……」

 彼の言葉を聞いて、私は顔を上げる。
 理由は分からない。
 でも、想像はつく。
 彼の目は、まっすぐに私だけを見てきていた。

「親というのは突き詰めれば子の幸せを願うものだ。それは、願いであって想いであって言葉で到底現せるものではない。子供の笑顔は、笑う表情は親にとって何にも勝る至玉である。だから、汝が自身を、父親を殺したと攻め続けることは暁孝雄にとって、もっとも酷い裏切りになるのではないか? 汝が幸せになることこそが奴にとっての手向けになるのではないのか?」
「……私は……」
「奴は、千年前に転移してきたときに、世界の摂理に逆らったからと神の見習いとしての全ての力を失っていたらしい。ただ、暁孝雄は……一枚の武器を持っておった」
「一枚の武器?」
「そうだ。汝も見たであろう? 例の写真を――」
「……そうだ。それが奴の武器だ」
「……」

 
 私は何も言えず無言になってしまう。
 写真なんて武器にならない。
 それでも、魔王さんが言うなら何か特別な力が、あるのではないのかと勘ぐってしまう。

「納得がいかないようだな。あやつは、汝や王妃が未来において弾圧されることがない世界を作るために、世界を――全ての人間を相手にして戦ったのだぞ?」
「世界を? そんな力を? この写真が?」

 私は、驚いてしまう。
 多くの国々を相手にたった一人で戦えるほどの力が写真にあるなんて思わなかったから。

「何を言っておる? 奴は、自分の大事な者が傷つけられるのが嫌だからと、世界の仕組み、在り方を真っ向から否定したのだぞ? 何の力も無いくせにな――」
「何の力も無いのに……」
「そうだ。家族を娘が生きる未来を守るためだけに、暁孝雄は、その持てる全ての知力と智謀を使い勇者は、その結果、奴に詐称された結果、人間の手により倒された。そのことで戦線は停滞。魔王……つまり我が治める国の基礎を作り上げた」
「それって……」

 信じられない。
 そんなことが出来るなんて……。
 そんな……。

「理解したか? 奴の最大の武器は、汝を守るという意志だ!」
「でも、私には……そんな価値は……」

私の言葉に、魔王さんは私の額に人差し指を当てながら、「価値は自分で決めるものでもあろう。だが、本当の価値というのは――」と、言葉を紡いだあと、一瞬、間を空けると「他人が決めることだ」と、語りかけてきた。

「それじゃ、私はどうすればいいんですか!」
「暁孝雄は1000年後、娘が転生してきたら汝のことを頼むと言っておった。我は、そのことを一笑したが、暁孝雄は、我が汝により怪我を負うとまで言ってきたからな。半信半疑であったが……」
「それって……」
「そうだ、汝の炎の魔法で我が傷ついたとき、そのときに思い出したのだ。汝がどういった存在であるかをおぼろげに。だから、我は確認のために魔王領に戻ったのだ。仕事も溜まっていたからな。まさか、それが原因で最悪の結果を招くとは思っても見なかったが……」





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コメント

  • コーブ

    暁孝雄スゲー!!

    0
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