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薬師シャルロット

なつめ猫

過去の軌跡(中編)

「邪教ですか……」

 私は、聖教会について詳しい知識を持っているわけじゃない。
 それでもラウリィさんを魔族と戦うために捨て石にし、聖女と呼ばれる女性が、パーティメンバーを治療せずに離脱したという話を聞いて、少なからず嫌悪はしていた。 

「人間の立場から見るのならば違うかも知れぬが、我々、亜人から見れば邪教に見えてしまうと言ったところだな」
「それは……、私から見ても邪教だと思います」
「汝は、ハーフエルフであるからな。いや……暁孝雄の娘であるというなら、汝は人間なのだろうな」
「魔王さん……」

 私は魔王さんのほうへ視線を向ける。
 彼に伝えなくてはならない。
 私とお父さんが感じる種族差別と、この世界の人間が感じる種族差別には決定的な差があることを。
 それは――。

「私やお父さんが暮らしていた地球という惑星には、知的生物というのは人間しか存在していませんでした」
「知的生物が人間だけ?」
「はい」

 私は魔王さんの問いかけに頷く。

「地球には言葉を話す生物というのは人間だけしかいないということになっていました」
「――ん? それはつまり、どういうことだ?」
「……多くの動植物は人間の都合のいいように作られ合成されていました」
「合成? キメラのようなものか?」

 私は、魔王さんの言葉に頷く。
 遺伝子を自由に操作し新たに品種を作る行為。
 それは言い方を変えれば人が新しい生物を作り出したと言っても過言ではない。
 そして、地球に住む人間は、そういった論理的観点を無視して効率を目指してきた。
 それが、犬の品種改良などと言ったものなのだろう。
 それと比べたら、この世界の聖教会のしていることは……。
 赤十字軍を出して多くの人間を殺していたキリスト教に通ずるものがあるのだろう。
 だけど、よく考えたら同族すら殺す行為は……。

「本当に救えない……」

 考えれば考えるほど、元の世界の歪さが鮮明と際立つ。
 落ち込みかけたところで、私は体を強く抱きしめられた。

「汝は、少し間が過ぎる癖がある。我は汝が、先ほど勇者のことで涙を流した時から理解した。汝は、とても心が優しいのであるな」
「そんなことないです……」

 私は、否定的な意味合いを込めて頭を振るう。

「私は臆病で、弱くて、戦うこともしないで、自分が傷つくのが嫌で――」

 魔王さんの胸元に額を当てながら私はさらに言葉を紡ぐ。

「なのに、言うことだけは一人前で、都合のいいことばかり! そんな卑怯者なんです!」

 心の内側に淀んでいた気持ち。
 それは、誰にもいえない言葉。
 だって、それは……、私がもっとも嫌悪する事実だから。

「どうして、そのようなことを……」
「私は! 私は! 魔王さんが言うような優しい人間ではありません!」

 自分の本当の思い。

それは、ずっと自分自身を偽ってきたこと。
 嘘で塗り固めてきた思い。
 そこに真実なんて存在しない。
 だって、私は自分が傷つくのが嫌で、本当の自分の気持ちを吐露するようなことをしなかったから。
 それでも、お父さんを知っているという言葉で、私は一瞬だけ心に掛けていた鍵が緩んでしまっていた。

「私は馬鹿です、偽善者です。私には何の価値もないのに……」

 何度も自分を戒めてきたのに、いまさら……もう、どうにもならないのに、まだ誰かを否定する価値が自分にあると思っていたのだから……。

「何の価値もない?」
「だって! お父さんを殺したのは私だから!」

 私は、自分がもっとも隠しておかないといけない事実を彼に、魔王さんに告げた。
 だって、彼は私のことを優しいと言ってくれたから。
 でも、そんなのは……。

 そんなのは、まやかしにすぎない。

 優しいなんて言葉を掛けてもらえるほど、私には、価値なんてないから――。
 あとから失望されるくらいなら……。
 最初から何もないほうがいい。
 お母さんだって、私のせいで……。





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コメント

  • コーブ

    この子は何処で自分自身と折り合いをつけるんだろう…

    0
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