薬師シャルロット

なつめ猫

真相解明(中編)ラウリィside

「……何を根拠に――」
「アヤカから、いや――シャルロット・ド・クレベルト王女に話を聞いたからな」
「話を聞いた?」

 エンハーサの言葉に俺は頷く。
 俺は語る。
 アヤカから聞いた王女として生きていた時代のことを――。
 話が進むに連れエンハーサの顔色が悪くなっていく。

「精神魔術というのは精霊の力を扱うことが出来るエルフにしか発動できない魔術のはずだ。そして、彼女は精神魔術で母子ともに攻撃されたと言っていた。そして、アヤカが目覚めたときには、傍らに居たのは母親だけで、他に侵入者はいないと言っていた。つまり、可能性として高いのは、精神魔術を使った術者はアヤカの母親であるルアル王妃の可能性が高い。何故なら、精神魔術は発動に必要なのは相手の体に触れているか、近くにいた場合にした場合に限られるからだ。そしてアヤカが精神魔術を跳ね返した後、ルアル王妃が寝込んでいたことを考えると、話は繋がるだろう?」

 俺の言葉を聞いていたエンハーサは、小麦が入った麻袋の上に座ると、俺にも袋の上に座るように指差してきた。
 その様子から、どうやら俺の話を聞くことにしたようだ。
 それと同時に、問いかけた言葉の内容が真実である可能性が非常に高くなる。

「なるほどのう」
「そのことは、シャルロット様には?」
「言えるわけがないだろう? 彼女の様子から察するに心にも大きな傷を負っているのは分かる。それは、癒すことが出来ないほどの大きな傷跡だ。アヤカは強そうに見えるが、実際は、何でもない魔力が強く魔術が使えるだけの普通の女性だ。むしろ、彼女のような心弱い娘が王家の女性である方が、意味が分からない。まるで、一般庶民の女性が形を変えて王家に生まれただけのようだ」
「ふむ……」

 エンハーサは、両腕を組みながら頷くと「それで、話をして聞きたいというのはそれだけかの?」

 俺は否定的な意味を込めて頭を左右に振る。

「――ここからが本題だ。魔王に支配されてから数年間、彼女はルアル王妃と一緒に同じ部屋で暮らしていたと聞いた」
「……」

 沈黙を肯定として受け取り、俺は言葉をつむぐ。

「まず、気になった点が一つあった。アヤカとルアル王妃は、本当に軟禁されていたのか? という点だ。彼女の話を聞く限り城内の移動は限定的だったが許可されていたと聞いた。問題は、魔王が、それを許可していたかも知れないという事実だ。俺だってクレイク国王が殺されたのは聞いたし、知っている。だが、彼女たちは無事どころか、かなり厚遇されていたと俺は思っている。どうだろうか?」
「……勇者ラウリィ=ベルナンド、お前は、それを聞いてどうするつもりだ?」
「俺は、彼女のことを知りたいから聞いているだけに過ぎない。だから、別に聞いても、どうということもしない」
「……」

 俺の言葉を聞いたエンハーサは、少し考え込むと。

「分かった。退幼香という物を勇者ならば知っておろう?」
「ああ、知っているが……」

 突然、語りだしたエンハーサの言葉を聞いて俺は首を傾げる。
 どうして、退幼香などという大陸で使用禁止になっている草の名前が突然出てきたのか、その意味が分からなかったからだ。

「シャルロット様を、クレイク国王は都合のいい命令だけを聞く操り人形に作るために、退幼香の原材料が自生する魔王領に進入したのだ」

「魔王領に? それよりも……今、なんて――」
「言ったであろう? シャルロット様を自分の都合のいい人形に仕立てあげるために、精神を壊そうと退幼香を使っておったのだ」
「……彼女は、奴隷の指輪で洗脳されそうになったとしか、言っていなかったが――」
「それは、すべてをそのまま伝えれば、君に哀れまれると思っていたからではないのかな?」
「それは……」

 俺は、エンハーサの言葉を聞きながらアヤカが、そう思うのだろうか? と考える。
 彼女は、そんなことを思うようには、どうしても思えないからだ。
 考えられる可能性としては、退幼香を説明することで何らかの不利益が生じる可能性が存在すること。

 ただ、それはアヤカ本人でしか分からないことだが……。
 予測することは出来る。

「彼女に――アヤカに魔術の基礎を教えたのは魔王なのではないのか? それと、国許からアヤカを出したのは、彼女が実の母親が精神魔術をかけたことを隠すことと、そしてアヤカが魔術を跳ね返したことでルアル王妃が寝込んだ本当の理由を隠そうとしたのではないのか?」

 俺の言葉にエンハーサの瞳が大きく見開かれたのを見て、俺は唇を噛み締めた。





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