薬師シャルロット
シャルロット・ド・クレベルト
「アヤカ……?」
私の言葉が信じられないのか、彼は呆然と私に語りかけてきた。
そこでようやく、ラウリィさんが私のことをシャルロット・ド・クレベルトという答えに辿り着けていないことに気がついた。
それでも――。
一度、自分の身分を明かそうと決めた以上、嘘を言うわけにはいかない。
「ごめんなさい」
私は頭を下げる。
「本当に、クレベルト王国の……だが、どうして……こんなところに……」
「それを説明する前に、一つだけお願いがあります」
「お願い?」
「はい、このことは他の方には黙っておいて頂けませんか?」
「どうしてだ? クレベルト王国は魔王の手から騎士団長アレスとレジスタンスの手により開放されたのだろう? ――なら、クレベルト王国に帰れば君は王女として名に不自由なく暮らせるはずだろう?」
彼の言葉に私は否定的な意味合いを込めて頭を振るう。
「それは出来ません――」
「何故だ!? 君は俺と違って王族なのだろう? 魔王が居なくなった今、国許に戻ればいくらでも幸せになれ……」
私は自分の胸元に手を置きながら、顔を上げてラウリィさんを見る。
「本当に、そう思われますか?」
「――ッ!?」
本当は、言いたくない。
でも、彼は誤解している。
王族や貴族なんて、そんなに素晴らしい者なんかじゃない。
――でも、それでも……。
「ある方が教えてくれました」
「ある方?」
私は頷く。
「王と言うのは、民のためにその身を犠牲に出来ることだと――」
「それは、どういう……」
「私が使う回復魔術は、聖女が使う回復魔術をおそらく凌駕します」
私の言葉が理解出来ていないようで――。
彼は――ラウリィさんは、私を抱きしめていた腕の力を少しだけ抜くと私の瞳をまっすぐに見てきた。
「ラウリィさんは、勇者様ということでしたので魔術を使われたりしますよね?」
「――ああ、帝政国では、基本貴族が魔術を独占しているからな」
「そうですか――」
貴族が魔術を独占しているとは思わなかった。
でも、これである程度、納得できる。
この国に来てから魔術を使っている人が極端に少なかったのだ。
おそらく大陸最大の国土を持つ帝政国が魔術に明るい人間を率先して手に入れているとなると、やはり血筋にも影響があるのかと思ってしまう。
「答えにくいのに、嫌なことを聞いてしまってごめんなさい」
「どうして、謝る?」
「だって……、ラウリィさんは、貴族のことでたくさん大変な目にあったのに……」
「一々、気にしなくていい。それより話を進めてくれ」
「まず、魔術というのは想像力により発動する形をとっています」
「それは、知っているが? だから、想像力を強化するために詠唱や魔法陣などで想像力を補正しているのだろ?」
「はい。そして私は、あらゆる魔法行使に対してあらゆる魔法を高次元で使用することが出来るのです。そして、それは回復魔術であっても例外ではありません」
「――ということは、シャルロットは、全ての魔術を普通ではありえない強さで行使することができると?」
「……はい」
私の言葉に怪訝な表情をしたラウリィさんは、「俄かには信じられないな」と答えてきた。
彼の思っていることは、至極まともであり本来ならそれが普通の反応というのは分かっている。
だからこそ――。
私は、抱きしめられている彼の腕の中から出ると、近くの枯れ掛けている花に向けて回復魔術を発動させる。
植物が動物と比較して違う点は3つ存在している。
一つは、二酸化炭素と水と光から酸素や炭水化物を作り出すために必要な葉緑体。
一つは、細胞内の物質の分解や処理をする液胞。
そして最後には、細胞を守る動物性細胞とは明らかに異なる強い硬度をもつ細胞壁である。
これ以外は、とくに動物性細胞とは類似さいていると学術的には言われている。
それらを踏まえた上で回復魔術を枯れ掛けた花に掛けると一瞬で時を逆周りしていくように、瑞々しい花を咲かせた。
「ば、ばかな――蘇生魔法だ……と――?」
「厳密に言えば、組成魔法ではなく細胞単位での修復を行っただけですので、人には、どこまで通じるか分かりませんが――」
「それでも、それだけ素晴らしい力があれば多くの病を患っている人間を助けることが――」
「だからです。病気というのは生物が生きていく上で、避けては通れないものです。そんな中で一筋の助かる希望の道があったら、どうしますか?」
「それは――! そういうことか?」
「はい、善意で使われる分にはいいです。ですが、そうはなりませんでした。人間というのは、とても弱い生き物なのです。――ですから、私の回復魔術が世界的に知られた時には、多くの国々が軍隊を送ってきました」
「だが、それは君をクレベルト王国を魔王から開放するためだろう?」
「今となっては、私が火種で軍隊が動いたかどうかは分かりません。だた、一つ言えるのは、私の回復魔術というのは権力者からしたら喉から手が出るほど、欲しかったものだったのでしょう」
「それは、どういう……」
彼は戸惑いを含んだ声色で私に問いかけてくる。
「だって、実の父親が、実の子供を洗脳して人格を破壊して人形にしようとするほど、私とお母さまの回復魔術は、優れていたのですから――」
私は、ラウリィさんの目を正面から見ることが出来ず足元を見たまま、起きた出来事をゆっくりと言葉にして紡ぐ。。
ただ、魔王さんのことは伏せておく。
彼が勇者と名乗ったからには、あの怪我は魔王さんと関わりがあるはずだから。
私の言葉が信じられないのか、彼は呆然と私に語りかけてきた。
そこでようやく、ラウリィさんが私のことをシャルロット・ド・クレベルトという答えに辿り着けていないことに気がついた。
それでも――。
一度、自分の身分を明かそうと決めた以上、嘘を言うわけにはいかない。
「ごめんなさい」
私は頭を下げる。
「本当に、クレベルト王国の……だが、どうして……こんなところに……」
「それを説明する前に、一つだけお願いがあります」
「お願い?」
「はい、このことは他の方には黙っておいて頂けませんか?」
「どうしてだ? クレベルト王国は魔王の手から騎士団長アレスとレジスタンスの手により開放されたのだろう? ――なら、クレベルト王国に帰れば君は王女として名に不自由なく暮らせるはずだろう?」
彼の言葉に私は否定的な意味合いを込めて頭を振るう。
「それは出来ません――」
「何故だ!? 君は俺と違って王族なのだろう? 魔王が居なくなった今、国許に戻ればいくらでも幸せになれ……」
私は自分の胸元に手を置きながら、顔を上げてラウリィさんを見る。
「本当に、そう思われますか?」
「――ッ!?」
本当は、言いたくない。
でも、彼は誤解している。
王族や貴族なんて、そんなに素晴らしい者なんかじゃない。
――でも、それでも……。
「ある方が教えてくれました」
「ある方?」
私は頷く。
「王と言うのは、民のためにその身を犠牲に出来ることだと――」
「それは、どういう……」
「私が使う回復魔術は、聖女が使う回復魔術をおそらく凌駕します」
私の言葉が理解出来ていないようで――。
彼は――ラウリィさんは、私を抱きしめていた腕の力を少しだけ抜くと私の瞳をまっすぐに見てきた。
「ラウリィさんは、勇者様ということでしたので魔術を使われたりしますよね?」
「――ああ、帝政国では、基本貴族が魔術を独占しているからな」
「そうですか――」
貴族が魔術を独占しているとは思わなかった。
でも、これである程度、納得できる。
この国に来てから魔術を使っている人が極端に少なかったのだ。
おそらく大陸最大の国土を持つ帝政国が魔術に明るい人間を率先して手に入れているとなると、やはり血筋にも影響があるのかと思ってしまう。
「答えにくいのに、嫌なことを聞いてしまってごめんなさい」
「どうして、謝る?」
「だって……、ラウリィさんは、貴族のことでたくさん大変な目にあったのに……」
「一々、気にしなくていい。それより話を進めてくれ」
「まず、魔術というのは想像力により発動する形をとっています」
「それは、知っているが? だから、想像力を強化するために詠唱や魔法陣などで想像力を補正しているのだろ?」
「はい。そして私は、あらゆる魔法行使に対してあらゆる魔法を高次元で使用することが出来るのです。そして、それは回復魔術であっても例外ではありません」
「――ということは、シャルロットは、全ての魔術を普通ではありえない強さで行使することができると?」
「……はい」
私の言葉に怪訝な表情をしたラウリィさんは、「俄かには信じられないな」と答えてきた。
彼の思っていることは、至極まともであり本来ならそれが普通の反応というのは分かっている。
だからこそ――。
私は、抱きしめられている彼の腕の中から出ると、近くの枯れ掛けている花に向けて回復魔術を発動させる。
植物が動物と比較して違う点は3つ存在している。
一つは、二酸化炭素と水と光から酸素や炭水化物を作り出すために必要な葉緑体。
一つは、細胞内の物質の分解や処理をする液胞。
そして最後には、細胞を守る動物性細胞とは明らかに異なる強い硬度をもつ細胞壁である。
これ以外は、とくに動物性細胞とは類似さいていると学術的には言われている。
それらを踏まえた上で回復魔術を枯れ掛けた花に掛けると一瞬で時を逆周りしていくように、瑞々しい花を咲かせた。
「ば、ばかな――蘇生魔法だ……と――?」
「厳密に言えば、組成魔法ではなく細胞単位での修復を行っただけですので、人には、どこまで通じるか分かりませんが――」
「それでも、それだけ素晴らしい力があれば多くの病を患っている人間を助けることが――」
「だからです。病気というのは生物が生きていく上で、避けては通れないものです。そんな中で一筋の助かる希望の道があったら、どうしますか?」
「それは――! そういうことか?」
「はい、善意で使われる分にはいいです。ですが、そうはなりませんでした。人間というのは、とても弱い生き物なのです。――ですから、私の回復魔術が世界的に知られた時には、多くの国々が軍隊を送ってきました」
「だが、それは君をクレベルト王国を魔王から開放するためだろう?」
「今となっては、私が火種で軍隊が動いたかどうかは分かりません。だた、一つ言えるのは、私の回復魔術というのは権力者からしたら喉から手が出るほど、欲しかったものだったのでしょう」
「それは、どういう……」
彼は戸惑いを含んだ声色で私に問いかけてくる。
「だって、実の父親が、実の子供を洗脳して人格を破壊して人形にしようとするほど、私とお母さまの回復魔術は、優れていたのですから――」
私は、ラウリィさんの目を正面から見ることが出来ず足元を見たまま、起きた出来事をゆっくりと言葉にして紡ぐ。。
ただ、魔王さんのことは伏せておく。
彼が勇者と名乗ったからには、あの怪我は魔王さんと関わりがあるはずだから。
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