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薬師シャルロット

なつめ猫

チート魔術師(1)

「あ、あの……」
「どうした?」
「――えっと、そのですね……女性の指を口に咥えるのは、如何なものかと思います……」

 私の言葉に、ラウリィさんは小さく溜息をつく。
 きっと手助けしたのに、メンドクサイ女だと思われたかもしれない。
 でも――、ここはきちんと言っておかないといけない気がする。

「どうして、分からないかな――」
「――え?」

 彼は、私のことを抱き寄せると「アヤカ。君だから、手当てをした。誰でも、今みたいな真似はしないよ。俺は君が好きだ」と、囁かれた。
 一瞬、フリーズする。
 彼が――ラウリィさんが何を言ったのか、分からないから――。
 ううん、分かってはいたけど。

 理解が出来なかった。
 だって、それほど重要なことだったから。

「あ、あの――。わ、私……」

 自分の気持ちを何て伝えていいか分からない。
 でも、彼に何か特別な気持ちがあるのなら――。

自分自身に問いかける。
でも答えは導きだされない。

前世で18年。
 転生してから17年暮らしてきたこともあって、精神年齢は見た目よりもずっと高いと思う……たぶん、きっと――。
 そんな私に、愛を囁かれても正直、何て反応していいのか。
 それに、色々なことがあって――。
 まだ、いっぱいやる事があって――。

「すまない。泣かせるつもりは無かった――」

 どう答えを返せばいいのか迷っていたところで、ラウリィさんが慌てた様子で私の頬にハンカチを当ててきた。
 そのハンカチには、綺麗な刺繍が施されていて一目で女性が作ったものだというのが、分かってしまった。
 何故なら、この世界で刺繍をするのは女性だけで。
 それは好きな男性に送る物として一般的だったから。

「――その刺繍……」
「刺繍?」

 私の言葉にラウリィさんは首を傾げると自身の手に持っていたハンカチを見て納得したような表情を見せた。

「刺繍がもらえる異性がいるのに、私に愛を囁いてきたのですか?」
「――え? ああ、違う。これは、俺の母親が作ってくれたものだ」
「ラウリィさんのお母さまのプレゼントなのですか?」
「ああ、そうだ」

 ラウリィさんに、お母さまからのプレゼントかと聞いたときに、一瞬だけ彼は陰りのある表情を見せていて、私はその表情を見過ごさなかった。

「あ、あの……、差し出がましいようですが、一度、お母さまのところに無事なご様子を見せに帰られた方がよろしいのではないですか?」

 彼は、私の問いかけに頭を振る。

「それは無理だ」
「どうしてですか? きっとお母さまも心配されています」
「俺の母親は、5年前に、もう死んでいるから」
「――ッ!?」

 彼は、なんとも無いような表情で私の疑問に答えてきた。

「ごめんなさい……、私……ハンカチがとても綺麗だったので……てっきり存命だとばかり……ラウリィさんは、5年間も大事に使っていたのですね。私、人の気持ちを考えないで最低なことを口走ってしまいました」
「――いや、君は悪くない……俺こそ済まない。それよりも、いつまでも割れた皿を床に散らばせておくと、また怪我をするかもしれないから先に片付けよう」
「……はい」

 そのあと、ラウリィさんと一緒に掃除を済ます。
 そして、汚れても問題のない紺色のワンピースに着替えたあと階段を降りていく。
 いつもの調合部屋の前には、すでにラウリィさんが待っていた。

 彼と目を合わせるのが若干心苦しい。
 きっと、それは迂闊なことを言ってしまった私に原因があるから。
 ラウリィさんは、気にしなくていいと言っていたけど、私を助けてくれたお父さんや、私を庇って意識不明の重体になっているお母さんの事を思うと、心が締め付けられる思いをいつも味わう。
 きっと私と同じくらい――。
 ううん、私よりも苦しい痛みを心に抱えているのかもしれない。

 でも、その事を彼に問えるわけがない。
 こんなことなら、最初に会ったときに怪我をした理由を含めて、エンハーサさんに言われたとおり身の上を聞いておくべきだった。

「それでは、薬の調合に入りますのでお部屋にどうぞ」

 ラウリィさんは、首肯してくる。
 そして、私の後を追って部屋に入ってくると、部屋の中を見渡していた。

 私は籠の中から薬草を取り出すと、すり鉢の薬草を入れて棒を使い磨り潰していく。
 葉から液体が染み出してきたところで、ガラス瓶の容器に注ぎ込む。
 そして両手で持ったまま、回復魔術を発動させる。
 付与する回復魔術は、細胞修復にテロメアの追加であり、発動した回復魔術は白い光を伴って薬瓶に吸収されていくと、ポーションが完成した。

「どうですか?」

 振り向きラウリィさんを見上げると、彼は唖然とした表情で私を見下ろしていた。




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