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薬師シャルロット

なつめ猫

交錯する願いと思い(4)ラウリィside 

 アヤカと言う女性。
 彼女は、エンハーサという獣人を師として薬師の仕事をしている。
 それが、俺が登録した冒険者ギルドで得た情報の全てだった。

 どうして、俺が彼女のことを知りたいかと言うと。
 彼女と暮らし始めてから3ヶ月ほど経ったときに、彼女には男の影があることに気がついたからだ。
 本人から直接、聞いたわけではない。
 薪割りを早く終わらせた俺は、アヤカと一緒に暮らしている家に入るときに偶然聞いたのだ。

「もう5年も経つのです。彼も気にしてはいないでしょう」
「――で、でも……私、やっぱり……彼に会いたい――」

 その時のアヤカの表情と言ったら、俺の前で見せるような笑顔ではなく、どこか恋焦がれる少女のような表情を見せて。

 彼女の表情を見て俺は、愕然とした
 アヤカが、彼女が想いを寄せている男がいる事に――。
 だから、俺は周辺の村や町でさりげなく彼女の情報を集めたのだ。
 その結果、得られた情報は、エンハーサやアヤカは、この国の人間ではないかも知れないという事実。
 ただ、それも確実とは居えない情報だった。

 それでも推測は出来る。
 彼女が、この国に姿を現した理由。

 アヤカは、とても効果が高い薬を作れる。
 それは、秘伝の薬と言っていた。

 回復魔術を使える者が、聖女しかおらず他に使えた者がいたとしても流血を止めたり、見える範囲の傷口を治すことが出来る程度なのが現状なのだ。

 それなのに、彼女の薬を飲むと体の中から治療されていくのが分かる。
 これだけ薬効が高い薬なら、その希少性を理解した権力者に囲われる可能性だってあっただろう。
 だから、彼女は国から逃げだし、辺境である獣人の村に姿を隠した。

 そう考えれば、全ての辻褄が合う。
 あとは、エンハーサが言っていた5年という言葉。

 それさえ分かれば――。
 答えに辿りつくことは可能だ。
 そして5年前と言えば、クレベルト王国が魔王から開放された時期と重なる。
 つまり、アヤカはクレベルト王国の関係者。
 そして、エンハーサというのはクレベルト王国の王宮専属薬師というのは、すぐに調べがついた。
 そうなると、彼女は――。

 エンハーサの関係者であることに間違いない。
 そして彼というのは、間違いなく魔王に手傷を負わせてクレベルト王国を救った英雄と言われている男アレスだろう。
 たしかに、女性は英雄にあこがれるし、彼女がエンハーサの関係者なら、アレスを慕っていてもおかしくない!

 生贄にされた勇者と、救国の英雄。
 彼女には勇者ということは告げていない。
 仲間に裏切られ人柱にされかけ命辛々、逃げ出した無様な俺を見ればアヤカは蔑むかもしれないという恐怖が心に芽生えたからだ。

 普通の男ラウリィ。
 その言葉がどれだけ、軽々しく聞こえてくるのか――。
 こんなことなら貴族ベルナンド家のラウリィと明かして……。

 そこまで考えたところで俺は首を振る。
 あれだけ貴族や王族を嫌っていたと言うのに、何を考えているのか――。

 そこで思いつく。
 彼女が秘伝と言っていた技術。
 それを俺が見て手に入れることさえ出来れば、彼女も俺からの求婚を跳ね除けることが出来ないのではないのかと。
 秘伝であるなら、それは伴侶や子供にしか教えないものだろう。
 ――なら!

「馬鹿か、俺は――」

 俺は自分を叱咤する。
 自分が大事だと、大切な存在だと思った女性を、そんな力づくで手に入れて彼女が喜ぶわけがないだろうに――。
 第一、俺が納得できない。
 ――でも、それでも……。

 彼女の笑顔を見るたびに、照れる表情を見るたびに心が揺れる。
 想いが強くなり、強く抱きしめたくなる。
 必死に自制していた楔が、役割を果たさなくなる。

 アヤカを誰か別の男に取られたと思うと気が狂いそうになる。
 だから――。
 俺は巷で流行っている壁ドンを実行した。
 突然のことにアヤカは動揺を隠せないようで、驚いた表情で俺を見上げてきていた。
 思わず口付けしたくなるほどだったが――。

「大丈夫、悪いようにはしない。君は君のやりたいことをすればいいから」

 俺は一体、何を口走っているのだろうか?
 自分でも訳が分からない。
 必死にも程があるだろう。
 とりあえず……だ――。
 もう、こうなったら後は野となれ山となれだ!

「俺は、君の力になりたいのだ。それとも、俺みたいなどこの誰かも分からない人間は信用に値しないかな?」

 自分で言っていて嫌になる。
 こんな言い方は、彼女の負担にしかならないだろうに――。
 アヤカを前にすると、いつも態度が変わってしまう。
 俺は、本当に駄目な奴だなと自覚はある。
 だが、どうしても彼女は手放したくない。

「――! そっ! そんなことないです!」

 俺の言葉に、頬を薄っすらと赤く染めて答えてくるアヤカを見ると抱きしめたくなる。
 強く両腕で抱きしめたい。
 俺は、そんな衝動を強く押さえつける。
 今は、まだ、駄目だ!
 ――っていうか! いつなら! と自分自身に突っ込みを入れつつも彼女を見下ろしながら言葉を紡ぐ。
 もう、ここまで来たら後には引けないだろう! いくなら今しかない!

「君を半年も見てきた」

 そう、気になってからずっと見てきた。
 寝るときもお風呂に入っているときも買い物をしているときも洗濯や掃除や食事を作っているときだって、自然と視線はアヤカに向けられていた。
 ――って、これって俺、まるで巷で噂されているストーカーみたいだな。
 自分で自分の行動に突っ込みを入れつつも、仕方ないことだ! と免罪符のように自分に言い聞かせる。

「だからこそ、分かる。君は籠の中の鳥だ。だから、俺が君を解放してやることはすぐには無理だが、まずは君の重荷を減らしてあげたい。だから、いいよな? 手伝っても――」

 ――もう、自分が何を言っているのか意味不明だ!
 もう、駄目だ……。
 俺は心の中で絶望していると、アヤカは少し困った表情をして頷いてきてくれた。
 何となくだが、一歩進めた気がするが、それと同時に俺にも少し問題がありそうな気がしないでもなかった。




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コメント

  • コーブ

    絶賛 盛中♪(笑)

    0
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