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薬師シャルロット

なつめ猫

交錯する願いと思い(2)ラウリィside

 帝政国の帝都。
 帝都には4つの区域が存在する。
 一つは、王城を中心とした国の管理を行う機関が集約されている場所。
 一つは、貴族が住まう貴族街と聖教会の帝政国本部が存在している場所。
 一つは、上級市民と呼ばれる商人や官僚などが住まう場所。
 最後にもっとも広いエリアが宛がわれているのが下級市民や、税金が払えない貧民街の場所。

 俺は、帝政国立軍事学校を出たあと、兵士として職務に携わっている。
 そんな俺の日課と言えば――。

「ラウリィ、せいがでるわね」
「ミランダか――。ああ、体が資本だからな!」

 俺は、貧民街を走りながら、放り投げられてきた赤い果実を受け取る。

「あんたが来てから治安が良くなったからね」
「すまない」

 俺は、もらった果実を口にする。
 果物特有の甘酸っぱい匂いが、口の中に広がっていく。

「それより、あんたのところに貴族が乗るような馬車が来たようだけど、大丈夫だったのかい?」
「まぁ……な――」

 俺は肩を竦めながら答える。
 正直、昨日のことを思いだすと遣り過ぎた感があるが、今更、どうにかなるようなことではない。
 俺は果物を芯まで食べると、ミランダに礼を言い貧民街の道を朝の鍛錬という形で走り始めた。



 鍛錬が終わり自宅の前に到着したところで「ラウリィ=ベルナンド様、軍務局から呼び出しが入っております」と、青色を基調にした金のエンブレムをつけた兵士が話かけてきた。
 青色を基調の金エンブレム。
 それは軍務大臣直属の情報部隊に属している証。
 昨日の事も含めて、ずいぶんと早い動きだと感心しつつも俺は、小さく溜息をつく。
 目の前の男が偽者である可能性が低いと思う。

「軍務局からか?」
「はい、すぐに出頭して頂きたいとのことです」
「それは誰かの指示で?」
「私には分かりかねますが、早急にとのことですので――」
「分かった」

 俺は首肯する。
 軍務局からの呼び出しに応じなければ、軍事法廷に掛けられてしまう。
 何も俺に非があるわけでもないから、それは、さすがに馬鹿らしい。



 2時間後、俺は軍務局の通路を歩いていた。
 軍務局に来るのは最初に兵士として就任した以来の2回目。

「やはり慣れませんか?」
「まぁ……な……」

 俺は男の言葉に答えながら思う。
 目の前を歩く男の言葉を聞く限り俺の素性を把握しているらしいな。 
 さすが軍務大臣直属の情報部隊に属しているだけある。

 ――コンコン

 考え事をしていると扉を叩く音が聞こえてきた。
 ふと目線を上げると、重厚な扉が視界に入ってくる。

「ラウリィ=ベルナンド様を、お連れしました」
「ご苦労――入れ」
「ラウリイ様、どうぞ――」

 男に促されて部屋に入る。

「待っておったぞ? ラウリイ=ベルナンド」

 俺は、すぐに頭を下げる。

「サークス閣下、お待たせしました」
「うむ――」
「じつはな、早急に対応したい案件があるのだ」
「早急に対応したい案件ですか?」

 俺の言葉に、サークス閣下が腕を組みなおすと。

「クレベルト王国の話は聞いているか?」
「はい、たしか……魔王サタンに侵略された国家と聞きましたが……」
「うむ、魔王の力は強く、我が帝政国の部隊ですらクレベルト王国との国境を越えることができん。そこで――少数精鋭の部隊を送りこみ魔王を倒すことを試みることになったのだ」
「待ってください! お、俺がですか?」
「そうなる」
「俺はそんなに強くは――」
「気にすることはない。ルーカス=ベルナンドからの紹介もあるのだ。貴行が貴族としての誇りを持って、癒しの力を持つ王女を救い出したいと直訴にきたと」
「――は?」

 俺は、首を傾げる。
 そんなことを言った覚えなんて無いのだが……。

「分かっておる。それにお主の同期からも仕事はシッカリとしていると報告は受けておる。もちろん俸給も、お主の実家には多く支払われることになる。気にすることはない」
「い、いや――、俺は……」
「勇者様、魔王を倒すために頑張りましょう!」
「――え?」

 振り返ると、そこには聖教会の白い衣装を身に纏った女性が立っていた。
 顔を隠していたから女性だとは思わなかったが、俺が驚いたことが気になったのか彼女は、ベールを外すと俺をまっすぐに見てきた。

 睫は長く淡く水面のように揺れ動く瞳。
 鼻筋は、スッと通っていて、彼女の桜色の唇から紡がれた言葉は、鈴の音を鳴らすように心地よく聞こえてくる。

「――き、君は……?」
「私は、聖教会の聖女ステラと申します。回復魔術を嗜んでおります」
「聖女……」
「はい、癒しの力を持つ王女を救いに行かれる勇者様の心意気に感銘を受けまして、傍に置いていただければと……」

 彼女の言葉に、まるで魔法に掛けられてしまったように俺は無意識に何度か頷く。

「うむ、それでは勇者ラウリィと聖女ステラの魔王討伐を祝おうではないか!」

 俺が無意識に頷いてしまったことで、話は纏まってしまったようだ。
 まぁ、彼女のような美しい女性と一緒に冒険が出来るなら良いのかもしれない。


 それからは、冒険者ギルドに所属している伝説のSランク冒険者や魔法王国の魔術師などを仲間に加え、俺達は魔物を倒しながらクレベルト王国に向かった。
 そして、帝政国とクレベルト王国との国境に迫ったとき新しい情報が舞い込む。
 それは、クレベルト王国は数年前に魔王から開放されたということ。
 アレスという男と話をしたが、そこまで強いという印象は受けなかった。

 そこで俺達は勘違いしてしまった。
 魔王は、たいした者では無いのでは? と――。
 そして、魔王領に入ったところで、俺達は魔王と呼べる者と邂逅した。
 魔王は魔物の王ということだけあって、会話が出来る巨大な龍であり、凄まじい強さを誇る化け物。

 次々と仲間が倒れていく。
 そして、気がつけば回復魔術が何時の間にか飛んでこなくなっていた。

 聖女がいたと思われる場所には転移魔術魔法陣が書かれた巻物が置かれていて……。
 彼女が逃げたのは、すぐに理解できた。
 仲間を救わねばと思ったところで――最後の仲間が、転移魔術が書かれていた巻物で姿を消す場面を目撃する。

「なんのつもりだ!」
「ラウリィ、これは人類が一つに纏まるために必要な事だ! すまない……」
「カーゼル!」

 俺は魔術師である男の名前を叫ぶ。
 男は、一瞬だけ表情を顰めると、姿を消した。

 そこから、俺は一人で龍と戦いながら必死に転移魔術の構築を行う。
 20メートルを越える巨大な龍から加えられる苛烈な攻撃は、次々と俺の体に傷を作り上げていく。
 戦闘中だったという事もあり、転移の魔術構築には時間が掛かってしまった。
 そして、転移の魔術を発動させた頃には、自分が致命傷を負っていたことに気がつく。
 それでも、俺は転移魔術を発動させた。

「こ、ここは……」

 自分が、どこに転移したのか分からない。
 座標をしておく時間が無かった。
 だから、自分が、どこにいるのか分からない。
 一歩一歩歩いていく。
 血が流れ出るのを止められない。
 四肢には力が入らず、歩みは遅い。

「もう――」

 俺は膝から崩れ落ちる。
 血で視界が良く見えない。
 ゆっくりと、意識が落ちていった。
 もう、目覚めることはない。
 自分の体だからこそ分かる。
 体が冷えていく。

「母さん……」

 俺は、最後の言葉を紡いで意識を落とした。



 木材が軋む音が聞こえてくる。
 それは誰かがその場に居るという証であり――。
 ゆっくりと瞼を開けていくと、一人の女性の姿が視界に入った。
 どこか幼さを残した大人の女性に成り立ての少女。
 聖女のように気の強そうな眼差しではなく、おっとりとした眼差しをしていて女性らしさを感じさせる肉体。

 窓から差し込む光が彼女の艶やかな黒く長い髪を照らしていて、どこか幻想的ですらある。
 思わず俺は、ここがどこなのか? と聞く前に女神なのか? と口走ってしまっていた。




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