薬師シャルロット
交錯する願いと思い(1)ラウリィside
ラウリィ=ベルナンド。
それが俺の名前。
貴族の妾の子として生まれた俺は、母と一緒に二人で慎ましく一般の人間と混ざって暮らしていた。
何せ、俺を嫡子として父親の実家は認めなかったからだ。
そして貴族の血を引きながらも18年近く平民として暮らしていた俺に、ある日、父親の使い者がやってきた。
その頃、貴族の間では不審な死が流行していたこともあり、跡継ぎだった正妻の男児と正妻が死んだのが原因らしい。
俺の母親は、元々は騎士爵の三女だったらしいが、騎士爵なんて国から大した俸給ももらえやしない。
領地はあるが稼ぎだって大したないから、長男が家を継いだあとの次男以降は、基本的に有力な村を治める家へ婿養子に入り、領主である騎士爵を持つ長男を支える役目をすることになる。
ただ、これは男だから出来るわけであって、女はそうはいかない。
長女は、同等の騎士爵へ嫁に入れる可能性もあるが、次女以降の場合には商人か豪農に嫁ぐ形になる。
豪商に嫁げるのなんて騎士爵では無理な話だ。
それでも嫁ぐことが出来るなら、騎士爵家よりもはるかに上の生活を営める。
まぁ、そう言ったシンデレラストーリーは、中々存在なんてしない。
だから、準侯爵より下の位の貴族。
その子供――。
三女三男以降の大抵は男子も女子も冒険者となって暮らすことになる。
腕さえあれば稼ぐことが出来るからだ。
ただ、俺の母親には、冒険者としての素質がなかった。
そんな素質もない女性が出来る事と言えば春を売ることくらいであり。
大した収入もなく親から離れて町で暮らす彼女が出あったのがアルノ=ベルナンドという貴族であった。
その頃の、アルノ=ベルナンドは、婚約相手もいない侯爵であった。
父であるアルノと母であるエリスは、すぐに恋に落ち――そして俺が生まれた。
ただ、それを祝福しない者もいた。
それがアルノ=ベルナンドの父親ルーカス=ベルナンドであった。
ルーカスは、侯爵の血に、騎士爵程度の血が混ざることを嫌がり、当主の権限に置いてルーカス=ベルナンドに婚約者を見繕ってきたのだ。
貴族同士の結婚というのは、家同士の結婚であり家長に逆らうことは出来ない。
それは騎士爵であっても貴族である娘であった母エリスもよく理解していた。
そしてルーカス=ベルナンドからは養育費としていくらばかりかのお金がもらえる条件で、父親であるアルノ=ベルナンドと別れさせられた。
貴族として生まれた時から、育てられてきた母エリスと違って、俺は町で亜人と共に暮らしてきた生粋の平民。
正直、血筋がどうとかは分からない。
ただ言えるのは、帝政国立軍事学校に通わせてくれた母が、どれだけ頑張っていたのか近くで見ていた俺は、貴族が大嫌いだ。
王族の血筋を引いている人間を見るだけで反吐がでる。
自分達の事しか考えない。
平民のことなんて何も考えずに、ただ搾取だけする社会のゴミ。
それでも、俺の中にある血は貴族であると、否応なしに突きつけられる。
何故なら、貴族というのは強い魔力を持つから。
魔力があるからこそ、帝政国立軍事学校を主席で卒業できたのだから……。
俺は父の使いであるという男を睨む。
目の前の男は仕立てのいい服を着ている。
家令の中でも上の者だというのが一目で分かった。
「アルノ=ベルナンド侯爵様が、ご子息であらされますラウリィ=ベルナンド様にお会いしたいとのことです」
「俺は会うつもりはなんてない。それに養育費だって返したはずだが?」
「これは侯爵家からの命令です。もし、背かれるようでしたら軍務大臣経由で、ラウリィ=ベルナンド様の兵隊長の役職を解くとのことです」
「…………分かった。ついていこう」
体を壊してまで稼いだお金で帝政国立軍事学校に通わせてくれた母さんの努力を無碍にすることは出来ない。
俺は外に用意されていた馬車に乗る。
馬車は細かいところまで彫刻が施されていて、帝政国の軍務大臣を輩出したこともあるベルナンド侯爵家に相応しい豪奢なものであった。
馬車は、しばらく走ると唐突に停まる。
「到着いたしました」
馬車の外から声が聞こえてくる。
俺は馬車から降りて、視線を前方に向けると信じられないほど大きな建物が視界に入った。
「これが貴族の屋敷ね……」
正直、生きている場所。
住んでいる場所が違いすぎて嫉妬心も浮かんでこない。
ただ、浮かんでくるのは怒りで――。
一言、自分の父親に言っておかないと苛立ちが治まらない。
家令の案内で屋敷の中を歩いていく。
外から見たとおり、かなり広い作りになっている。
「ご子息のラウリィ=ベルナンド様を連れて参りました」
「入れ――」
中から低く落ち着きのある声が聞こえてきた。
扉を開けて中に入ると、まず眼に入ったのは高級木材マホガニーを加工して作ったと思われる椅子やテーブル。
これだけで、庶民の年収くらいはするだろう。
俺は、視線をテーブルと椅子からずらし正面に座っている男に向ける。
男も俺をまっすぐに見てきていてお互いの視線が一瞬、ぶつかり合う。
「ふむ――合格だな。ベルナンド家特有の灰色の瞳を持っている。今日からは、お前はラウリィ=ベルナンドと名乗るがいい。私の後継者と相応しいように、今後は貴族として学んでもらおう」
「――断る!」
「……なん……だと……? ラウリィ、貴様は誰に物を言っているのか分かっているのか?」
「分かっているさ」
俺は肩を竦めながら目の前の男を見る。
たしかに軍事関係の重役についているだけあって鍛えられた体つきをしているし魔術も、ある程度は出来そうだ。
だが、それよりも――。
「なら、何故!」
「どうして、母さんが死んだときに顔を出さなかった?」
「――私が顔を出せばいらぬ誤解を周囲に与えたかもしれないだろう? そうなれば由緒あるベルナンド家が――」
「穢れるとでも? ふざけるな!」
見ていて理解した。
話してすぐに分かった。
こいつはゴミだ。
自分の家を守るためには何でもする奴だ。
気に入らない。
むかつく。
「お前なんて親父でも何でない! ベルナンド? くだらない! そんな家名に従って惚れた女一人守れない人間が俺の父親だってだけで虫唾が走る!」
俺は、母さんが苦労して俺を育ててきたのをずっと見てきた。
だから、何もしない父親と貴族にずっと苛立ちを募らせて――。
その溜めていた鬱憤を父親にぶつけた。
後で、どうなろうと知ったことか!
「俺は、こんな家に価値なんて認めないし、お前の事も父親として認めない。軍から排斥したいなら好きにしろ! そうなったら俺は冒険者として暮らすからな」
言いたいことは言ってやった。
俺は執務室の扉を蹴破り部屋から出ると侯爵邸を後にした。
それが俺の名前。
貴族の妾の子として生まれた俺は、母と一緒に二人で慎ましく一般の人間と混ざって暮らしていた。
何せ、俺を嫡子として父親の実家は認めなかったからだ。
そして貴族の血を引きながらも18年近く平民として暮らしていた俺に、ある日、父親の使い者がやってきた。
その頃、貴族の間では不審な死が流行していたこともあり、跡継ぎだった正妻の男児と正妻が死んだのが原因らしい。
俺の母親は、元々は騎士爵の三女だったらしいが、騎士爵なんて国から大した俸給ももらえやしない。
領地はあるが稼ぎだって大したないから、長男が家を継いだあとの次男以降は、基本的に有力な村を治める家へ婿養子に入り、領主である騎士爵を持つ長男を支える役目をすることになる。
ただ、これは男だから出来るわけであって、女はそうはいかない。
長女は、同等の騎士爵へ嫁に入れる可能性もあるが、次女以降の場合には商人か豪農に嫁ぐ形になる。
豪商に嫁げるのなんて騎士爵では無理な話だ。
それでも嫁ぐことが出来るなら、騎士爵家よりもはるかに上の生活を営める。
まぁ、そう言ったシンデレラストーリーは、中々存在なんてしない。
だから、準侯爵より下の位の貴族。
その子供――。
三女三男以降の大抵は男子も女子も冒険者となって暮らすことになる。
腕さえあれば稼ぐことが出来るからだ。
ただ、俺の母親には、冒険者としての素質がなかった。
そんな素質もない女性が出来る事と言えば春を売ることくらいであり。
大した収入もなく親から離れて町で暮らす彼女が出あったのがアルノ=ベルナンドという貴族であった。
その頃の、アルノ=ベルナンドは、婚約相手もいない侯爵であった。
父であるアルノと母であるエリスは、すぐに恋に落ち――そして俺が生まれた。
ただ、それを祝福しない者もいた。
それがアルノ=ベルナンドの父親ルーカス=ベルナンドであった。
ルーカスは、侯爵の血に、騎士爵程度の血が混ざることを嫌がり、当主の権限に置いてルーカス=ベルナンドに婚約者を見繕ってきたのだ。
貴族同士の結婚というのは、家同士の結婚であり家長に逆らうことは出来ない。
それは騎士爵であっても貴族である娘であった母エリスもよく理解していた。
そしてルーカス=ベルナンドからは養育費としていくらばかりかのお金がもらえる条件で、父親であるアルノ=ベルナンドと別れさせられた。
貴族として生まれた時から、育てられてきた母エリスと違って、俺は町で亜人と共に暮らしてきた生粋の平民。
正直、血筋がどうとかは分からない。
ただ言えるのは、帝政国立軍事学校に通わせてくれた母が、どれだけ頑張っていたのか近くで見ていた俺は、貴族が大嫌いだ。
王族の血筋を引いている人間を見るだけで反吐がでる。
自分達の事しか考えない。
平民のことなんて何も考えずに、ただ搾取だけする社会のゴミ。
それでも、俺の中にある血は貴族であると、否応なしに突きつけられる。
何故なら、貴族というのは強い魔力を持つから。
魔力があるからこそ、帝政国立軍事学校を主席で卒業できたのだから……。
俺は父の使いであるという男を睨む。
目の前の男は仕立てのいい服を着ている。
家令の中でも上の者だというのが一目で分かった。
「アルノ=ベルナンド侯爵様が、ご子息であらされますラウリィ=ベルナンド様にお会いしたいとのことです」
「俺は会うつもりはなんてない。それに養育費だって返したはずだが?」
「これは侯爵家からの命令です。もし、背かれるようでしたら軍務大臣経由で、ラウリィ=ベルナンド様の兵隊長の役職を解くとのことです」
「…………分かった。ついていこう」
体を壊してまで稼いだお金で帝政国立軍事学校に通わせてくれた母さんの努力を無碍にすることは出来ない。
俺は外に用意されていた馬車に乗る。
馬車は細かいところまで彫刻が施されていて、帝政国の軍務大臣を輩出したこともあるベルナンド侯爵家に相応しい豪奢なものであった。
馬車は、しばらく走ると唐突に停まる。
「到着いたしました」
馬車の外から声が聞こえてくる。
俺は馬車から降りて、視線を前方に向けると信じられないほど大きな建物が視界に入った。
「これが貴族の屋敷ね……」
正直、生きている場所。
住んでいる場所が違いすぎて嫉妬心も浮かんでこない。
ただ、浮かんでくるのは怒りで――。
一言、自分の父親に言っておかないと苛立ちが治まらない。
家令の案内で屋敷の中を歩いていく。
外から見たとおり、かなり広い作りになっている。
「ご子息のラウリィ=ベルナンド様を連れて参りました」
「入れ――」
中から低く落ち着きのある声が聞こえてきた。
扉を開けて中に入ると、まず眼に入ったのは高級木材マホガニーを加工して作ったと思われる椅子やテーブル。
これだけで、庶民の年収くらいはするだろう。
俺は、視線をテーブルと椅子からずらし正面に座っている男に向ける。
男も俺をまっすぐに見てきていてお互いの視線が一瞬、ぶつかり合う。
「ふむ――合格だな。ベルナンド家特有の灰色の瞳を持っている。今日からは、お前はラウリィ=ベルナンドと名乗るがいい。私の後継者と相応しいように、今後は貴族として学んでもらおう」
「――断る!」
「……なん……だと……? ラウリィ、貴様は誰に物を言っているのか分かっているのか?」
「分かっているさ」
俺は肩を竦めながら目の前の男を見る。
たしかに軍事関係の重役についているだけあって鍛えられた体つきをしているし魔術も、ある程度は出来そうだ。
だが、それよりも――。
「なら、何故!」
「どうして、母さんが死んだときに顔を出さなかった?」
「――私が顔を出せばいらぬ誤解を周囲に与えたかもしれないだろう? そうなれば由緒あるベルナンド家が――」
「穢れるとでも? ふざけるな!」
見ていて理解した。
話してすぐに分かった。
こいつはゴミだ。
自分の家を守るためには何でもする奴だ。
気に入らない。
むかつく。
「お前なんて親父でも何でない! ベルナンド? くだらない! そんな家名に従って惚れた女一人守れない人間が俺の父親だってだけで虫唾が走る!」
俺は、母さんが苦労して俺を育ててきたのをずっと見てきた。
だから、何もしない父親と貴族にずっと苛立ちを募らせて――。
その溜めていた鬱憤を父親にぶつけた。
後で、どうなろうと知ったことか!
「俺は、こんな家に価値なんて認めないし、お前の事も父親として認めない。軍から排斥したいなら好きにしろ! そうなったら俺は冒険者として暮らすからな」
言いたいことは言ってやった。
俺は執務室の扉を蹴破り部屋から出ると侯爵邸を後にした。
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コメント
コーブ
漢と書いて男!!(≧▽≦)