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薬師シャルロット

なつめ猫

勇者がやってきました(6)

 ゆっくりと雪が解けていく。
 川には、雪解け水が流れ込み支流から河川に向かい合流するたびに、水量も勢いも増していく。
 そう――。

 長い冬が終わり春の訪れを運んできたのだ。
 そして――。
 そうなれば、やる事は増えてくる。

「ラウリィさん、薬草を購入に行ってもらってもいいですか?」
「いいが――。そんなに使うモノなのか?」
「はい、気候の変動は子供やお年寄りにはきついものなのです。とくに気候の移り代わりの時には、風邪を引かれる方が増えますので――」

 私の言葉にラウリィさんは「分かった……公都エルンの前の市場でいいんだよな?」肩を竦めながら答えてきた。
 私は首肯する。

 彼は、事ある毎に居候してもらっているから薬を作る手助けをしたいと言ってきてくれている。
 でも、私が作る薬は、薬の領域を超えたポーションであって、それには回復魔術の行使が必要不可欠なのだ。
 薬を作った後に、回復魔術行使なんて聖教会の人に見られたら、どうなるか、まだ判断がつかない。

「なんだか無理ばかり言ってしまってごめんなさい……」
「いいさ。君の力に為りたいだけなんだから」
「――え!?」

 思わず、ドキッとしてしまった。
 そんな事を言われたことなんて、前世を含めてなかったから……。

「……気をつけていってらっしゃい――」
「アヤカ。君から、そんな風に言われたことは初めてだな」
「そ、そう? 私、きちんと言ってたはずだけど……」
「いいさ、俺は君のことが――」
「アヤカ様、そろそろ薬草の在庫も……」
「――ッ! では出かけてくるよ」
「……う、うん……」

 私は、恥ずかしさのあまり下を向いたまま、彼の言葉に答える。
 するとラウリィさんは、私の頭をやさしくポンポンと叩くと、私とエンハーサさんのアトリエから扉を開けて出ていった。

「アヤカ様、大丈夫でしたか?」
「大丈夫? エンハーサ、どうかしたの?」
「あの者は、魔王と敵対関係のある聖教会縁の者ですぞ? 少しでも気を緩めたら何が起こるか分かった物ではありませぬ」
「……大丈夫だと思うけど……」
「アヤカ様。貴女様のお力は大国が喉から手が出るほど欲しているものなのです。もっと自覚をして頂かねば困ります!」

 エンハーサさんの言うことも分かるけど……。
 半年も様子を見ていて、まったく変な態度を彼は見せてないし……。

 薬を作る作業まで手伝ってくれるって言ってくれているし。
 悪い人には見えない。
 だって私の力になりたいって言ってくれたし……。
 それに、たぶんさっき言いかけてたけど、もしかしたら私のことを――。
 そんな風に考えていたところで「アヤカ様、ラウリィはどこへ?」とエンハーサさんが問いかけてきた。
 一瞬、考えて込んでいたこともあり、彼が転移の魔術で買い物に行っているということを口にしそうになった。
 ラウリィさんからは、転移魔術は、あまり人には教えないほうがいいと言われていた。
 一度、ラウリィさんの前で使ったら、すごく怒られた。

 そしてラウリィさんは、秘密を教えてくれた。
 自分自身も転移魔術の使い手だと。
 そして、できれば、そのことを誰にも教えないようにと言われた。
 そう、二人だけの秘密だと。
 二人で秘密を共有しておけば安心だろう? と言われた。
 だから、ラウリィさんが転移魔術を使えることは秘密。

「――えっと、近くの森に採取をお願いしたの」
「そうですか……。くれぐれも用心してください。今は、貴女様を守る方は、居ないのですから――」
「分かっています」

 たしかに、彼が謎だらけ。
 いきなり大怪我でアトリエの前で倒れていたこと。
 でも居候を始めてから半年近く経つけど、ラウリィさんは変な行動をしていない。
 それに、私から離れるときは数時間だけで彼は転移魔術でお金を冒険者ギルドに下ろしにいくと言って戻ってくる。

「それでは、私は獣人同士の村会議に向かいますので、アヤカ様はお気をつけください」
「わかりました」

 エンハーサさんの言葉に私は頷く。
 そして、エンハーサさんがアトリエから出ていって、しばらく経つと扉を開けてラウリィさんが戻ってきた。

「今、戻った。エンハーサ殿は?」
「――え? えっと……村の会議に出ているから、たぶん夜までは戻らないと思うけど?」

 どうして、いきなりエンハーサの話をしてきたのか分からない。
 私が首を傾げていると。
 ラウリィさんは、背中に背負っていた籠一杯入った薬草を床に下ろしながら「そうだ。実は、君に伝えたいことがあるんだ」と言いながら私を見てきた。

「伝えたいことですか?」
「ああ、実は俺はどうしても君の手伝いをしたいんだ」
「――え? で、でも……」
「これを購入してきたんだが……」

 私の両手を掴むと彼は、私の手に小さな瓶を握らせた。

「これは……」
「それは肌荒れとかに効果がある薬だ。ある程度は魔術も含まれていて水の冷たさも軽減してくれると聞いた」
「そうなんですか……でも、どうして、ここまで?」
「決まっている。俺は君に命を助けられたんだ。だから――。君が何よりも大事なんだ」
「――え!?」

 心臓が一瞬、ドキッとしてしまう。
 私なんかのことをストレートに大事だと言ってくれた人は始めてだったから。

「だから、君が多くの薬草を使って薬を作っているのは大変だと言うのも分かる。秘伝の技術があるなら、さらに大変だろう。だから、少しでもいい。君の力になりたいんだ。俺は君が、大事だから――」

 そんなに率直に言葉を投げかけられると、どうしていいか分からなくなる。
 でも、回復魔術を見せるわけには……。

「それに、良く考えてくれ。私が来てから彼は薬草を煎じたことがあったか?」
「――え?」
「……そ、それは――」
「君が彼に遠慮しているのは見ていて分かる。だが、アヤカ、君は君だけの人生を歩むべきだと思う。誰かに縛られて回りが見えないなんて、そんなのは悲しくないか? 私なら君を幸せに出来ると思っている」
「……で、でも……」

 私は、ラウリィさんの迫力に負けて一歩ずつ下がっていく。
 そして気がつけば真後ろに壁があって――。
 目の前にはラウリィさんが居て――。

 彼は、まっすぐに私を見下ろして瞳を見つめてきている。

「大丈夫、悪いようにはしない。君は君のやりたいことをすればいいから。俺は、君の力になりたいんだ。それとも、俺みたいなどこの誰かも分からない人間は信用に値しないかな?」
「――! そっ! そんなことないです!」
「君を半年も見てきた。だからこそ、分かる。君は籠の中の鳥なんだ。だから、俺が君を解放してやることはすぐには無理だが、まずは君の重荷を減らしてあげたい。だから、いいよな? 手伝っても――」

 私は、彼の迫力に押されて思わず頷いてしまった。




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コメント

  • コーブ

    グイグイ来る~(^_^;)

    0
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