薬師シャルロット
エスケープ・プリンセス(4)
どこまでも深く意識が沈んでいく。
それは、深遠深き精霊のみが作り上げる場所。
ふと、視線を前方へと向ける。
そこには、鉄格子が存在していた。
「これは……」
私は、手を指し伸ばす。
触れることは出来ない。
触れることは出来ないけど、両手両足には鎖がついている。
「まさか、……ここが……。精神の牢獄なの?」
私が8年もの間、魔術の研鑽をしていた間。
魔王さんには多くの魔術を教えてもらった。
それは身を守る全てが大半であり、特に魔王さんは、精神系魔術への対応は念入りに教えてくれた。
何に使うか分からなかったけど……。
今なら、どうして魔王さんが精神系の魔術を教えてくれたのか分かる。
私の精神が何者かに囚われた時に対応できるように魔王さんは教えてくれたのだ。
頭の中で魔術構成をくみ上げていく。
誰が私に精神魔術を使ったのか分からない。
分からないけど……。
この程度の精霊魔術なら!
「砕けろ!」
精神魔術を、私の魔術が徹底的に破壊する。
そして精神魔術というのは術者と繋がっていて、魔術を破壊された人間は、そのダメージを全て反射され精神に損傷を追う。
「誰が、私に精神魔術を掛けたか知らないけど! 私とお母さまを目的に攻撃するなら、手加減はしない!」
私の意志と共に、精霊が作った精神世界の檻は粉々に砕け散り世界は白色に包まれた。
私は、ゆっくりと瞼を開けていく。
目に入ったのは自分の部屋。
そして――。
床の上に倒れているお母さまだった……。
「お母さま!」
私は、お母さまに近づく。
何度もお母さまの体を揺らす。
息はしている。
息はしているのに、まるで反応がない……。
「誰か! 誰かいないのですか!」
私は大声を上げる。
部屋の中で響き渡った声で、外に立っていた衛兵が部屋に入ってくる。
「シャルロット様! どうかなさって!?」
近衛兵は、倒れているお母さまを見て動きを止めた。
「はやく、エンハーサを連れてきて! 気がついたら、お母さまが倒れられて――」
「分かりました、すぐに!」
近衛兵は、走って部屋から出ていく。
――そして、しばらくしてから、エンハーサが息を切らせて部屋に入ってきた。
「シャルロット様! ルアル女王が倒れられたとお聞き……こ、これは!?」
「どうしたの? 早く!」
「シャルロット様、ルアル王女様は精神を牢獄に囚われております。これでは、もう……」
「どういうことなの? ねえ! エンハーサ!」
「かなり強力な精霊魔術により心が牢獄に囚われております。これでは、私の力ではどうにもなりません」
「――それなら!?」
「シャルロット様の回復魔術でも助けることは出来ません。これほどの精神魔術を解除できるのは、かなりの高位、それも伝説級精霊でしか……」
「そんな――」
私は解除できたのに……。
お母さまは……。
魔王さんが、どうして私に精神系魔術への対応を念入りに教えたのか、その必要性がようやく理解できた。
「私……そんな……お母さまを守れなかった……」
一生懸命、魔術を習ったのに……。
それを生かすことができなかった……。
「どうすればいいの――」
私は絨毯に座りこんでしまう。
「ルアル女王様!」
部屋の中にアズルドの焦りが内包された声が響き渡る。
彼はしばらく、呆然と部屋の中で佇んだあと……。
「――ッ……シャルロット様……」
「アズルド! 私、どうすれば……」
彼は、何度も深呼吸すると私に語りかけてくる。
「シャルロット様、貴女様には城を出ていただく必要があります」
「――え?」
私は、一瞬アズルドが何を言ったのか理解できなかった。
「シャルロット様の回復魔術は国を滅ぼしかねません。貴女様を目的に他国は冬が終われば行軍をする可能性もあります。魔王殿の寿命もいつまでか分かりません。ですから、貴女様は、魔王殿が連れ去ったということにします。これは、魔王殿が描いた最悪の選択肢でしたが……」
アズルドは唇を噛み締めると私を見てきた。
そして、エンハーサを見る。
「エンハーサ、シャルロット様の面倒を見てもらえるか? 決して、シャルロット様の正体がバレないようにシャルロット様に――」
「まって! アズルド! どうして、わたしが!」
「聞いてくだされ。遅かれ早かれ貴女様は、魔王殿が連れ去るという話になっていたのです。将来、必ず国を乱す可能性が在る方を……魔王殿は危険視していたのです」
「それって……私は必要ない人間……なの……。あっ! お母さまは、お母さまはどうなるの? ねえ!」
「女王様は、魔王殿に呪いを掛けられたということに致します。これも魔王殿の指示です」
「そんな……」
私は絨毯に座ったまま、魔王さんをどうして、お母さまがアレほど嫌っていたのか、ようやく理解できた。
魔王さんは、将来……。
近い未来。
私を――。
王宮から追放するために鍛えていた。
だから……。
だから……お母さまは私を守るために一生懸命だった。
私は、お母さまの手を握り締める。
「私……、お母さまを救うために強くなる。だから、待っていて――」
私だってエルフの血を半分と言えど引いている。
なら、私だって精霊と契約して精霊魔法を使えるようになるはず。
「アズルド」
「はい」
「この後の国の指針は、どのようになっていますか?」
「魔王殿の指示によりアレス殿が率いる解放軍により、魔王軍は撤退。しかるのち王家が再度、国を統治することになる予定になっています。その功績によりアレスは、近衛兵騎士団長へ就任すると共に全軍の指揮権を得る形に――」
「そうですか……」
本当に淀みなく、アズルドは、これからの国の運営を説明してくる。
そこには表では王家が統治することになっているが、実権はアズルドさんとアレスさんの2人が握る形になって――。
でも、私が居れば、私を手に入れるために諸外国が攻めてくることになる。
しかしアレスさんが魔王さんを追い返すという話になっていれば――。
「諸外国も下手には攻めてこない……」
私は、自分を納得させるように言葉を口にした。
魔王さんは何と言っていた?
そう――。
支配者は、支配者たる存在は……責任を取らなければならない。
それは、それこそが上に立つ人間に必要なモノ。
「わかりました。アズルド、すぐに手筈を整えてください」
「シャルロット様……。かしこまりした――」
アズルドさんは頭を下げてきた。
――そして、すでに手筈は整っていた。
すでにかなり前から用意されていたのだろう。
私は、その日のうちにエンハーサと共に隣国カサブランカに向けて旅立った。
そう、危険な冬の山を敢えて越える行軍。
それは犬の獣人であるエンハーサと、魔王さんに鍛えられた身体強化魔術を使うことが出来る私だからこそ行うことが出来た山越えであった。
それは、深遠深き精霊のみが作り上げる場所。
ふと、視線を前方へと向ける。
そこには、鉄格子が存在していた。
「これは……」
私は、手を指し伸ばす。
触れることは出来ない。
触れることは出来ないけど、両手両足には鎖がついている。
「まさか、……ここが……。精神の牢獄なの?」
私が8年もの間、魔術の研鑽をしていた間。
魔王さんには多くの魔術を教えてもらった。
それは身を守る全てが大半であり、特に魔王さんは、精神系魔術への対応は念入りに教えてくれた。
何に使うか分からなかったけど……。
今なら、どうして魔王さんが精神系の魔術を教えてくれたのか分かる。
私の精神が何者かに囚われた時に対応できるように魔王さんは教えてくれたのだ。
頭の中で魔術構成をくみ上げていく。
誰が私に精神魔術を使ったのか分からない。
分からないけど……。
この程度の精霊魔術なら!
「砕けろ!」
精神魔術を、私の魔術が徹底的に破壊する。
そして精神魔術というのは術者と繋がっていて、魔術を破壊された人間は、そのダメージを全て反射され精神に損傷を追う。
「誰が、私に精神魔術を掛けたか知らないけど! 私とお母さまを目的に攻撃するなら、手加減はしない!」
私の意志と共に、精霊が作った精神世界の檻は粉々に砕け散り世界は白色に包まれた。
私は、ゆっくりと瞼を開けていく。
目に入ったのは自分の部屋。
そして――。
床の上に倒れているお母さまだった……。
「お母さま!」
私は、お母さまに近づく。
何度もお母さまの体を揺らす。
息はしている。
息はしているのに、まるで反応がない……。
「誰か! 誰かいないのですか!」
私は大声を上げる。
部屋の中で響き渡った声で、外に立っていた衛兵が部屋に入ってくる。
「シャルロット様! どうかなさって!?」
近衛兵は、倒れているお母さまを見て動きを止めた。
「はやく、エンハーサを連れてきて! 気がついたら、お母さまが倒れられて――」
「分かりました、すぐに!」
近衛兵は、走って部屋から出ていく。
――そして、しばらくしてから、エンハーサが息を切らせて部屋に入ってきた。
「シャルロット様! ルアル女王が倒れられたとお聞き……こ、これは!?」
「どうしたの? 早く!」
「シャルロット様、ルアル王女様は精神を牢獄に囚われております。これでは、もう……」
「どういうことなの? ねえ! エンハーサ!」
「かなり強力な精霊魔術により心が牢獄に囚われております。これでは、私の力ではどうにもなりません」
「――それなら!?」
「シャルロット様の回復魔術でも助けることは出来ません。これほどの精神魔術を解除できるのは、かなりの高位、それも伝説級精霊でしか……」
「そんな――」
私は解除できたのに……。
お母さまは……。
魔王さんが、どうして私に精神系魔術への対応を念入りに教えたのか、その必要性がようやく理解できた。
「私……そんな……お母さまを守れなかった……」
一生懸命、魔術を習ったのに……。
それを生かすことができなかった……。
「どうすればいいの――」
私は絨毯に座りこんでしまう。
「ルアル女王様!」
部屋の中にアズルドの焦りが内包された声が響き渡る。
彼はしばらく、呆然と部屋の中で佇んだあと……。
「――ッ……シャルロット様……」
「アズルド! 私、どうすれば……」
彼は、何度も深呼吸すると私に語りかけてくる。
「シャルロット様、貴女様には城を出ていただく必要があります」
「――え?」
私は、一瞬アズルドが何を言ったのか理解できなかった。
「シャルロット様の回復魔術は国を滅ぼしかねません。貴女様を目的に他国は冬が終われば行軍をする可能性もあります。魔王殿の寿命もいつまでか分かりません。ですから、貴女様は、魔王殿が連れ去ったということにします。これは、魔王殿が描いた最悪の選択肢でしたが……」
アズルドは唇を噛み締めると私を見てきた。
そして、エンハーサを見る。
「エンハーサ、シャルロット様の面倒を見てもらえるか? 決して、シャルロット様の正体がバレないようにシャルロット様に――」
「まって! アズルド! どうして、わたしが!」
「聞いてくだされ。遅かれ早かれ貴女様は、魔王殿が連れ去るという話になっていたのです。将来、必ず国を乱す可能性が在る方を……魔王殿は危険視していたのです」
「それって……私は必要ない人間……なの……。あっ! お母さまは、お母さまはどうなるの? ねえ!」
「女王様は、魔王殿に呪いを掛けられたということに致します。これも魔王殿の指示です」
「そんな……」
私は絨毯に座ったまま、魔王さんをどうして、お母さまがアレほど嫌っていたのか、ようやく理解できた。
魔王さんは、将来……。
近い未来。
私を――。
王宮から追放するために鍛えていた。
だから……。
だから……お母さまは私を守るために一生懸命だった。
私は、お母さまの手を握り締める。
「私……、お母さまを救うために強くなる。だから、待っていて――」
私だってエルフの血を半分と言えど引いている。
なら、私だって精霊と契約して精霊魔法を使えるようになるはず。
「アズルド」
「はい」
「この後の国の指針は、どのようになっていますか?」
「魔王殿の指示によりアレス殿が率いる解放軍により、魔王軍は撤退。しかるのち王家が再度、国を統治することになる予定になっています。その功績によりアレスは、近衛兵騎士団長へ就任すると共に全軍の指揮権を得る形に――」
「そうですか……」
本当に淀みなく、アズルドは、これからの国の運営を説明してくる。
そこには表では王家が統治することになっているが、実権はアズルドさんとアレスさんの2人が握る形になって――。
でも、私が居れば、私を手に入れるために諸外国が攻めてくることになる。
しかしアレスさんが魔王さんを追い返すという話になっていれば――。
「諸外国も下手には攻めてこない……」
私は、自分を納得させるように言葉を口にした。
魔王さんは何と言っていた?
そう――。
支配者は、支配者たる存在は……責任を取らなければならない。
それは、それこそが上に立つ人間に必要なモノ。
「わかりました。アズルド、すぐに手筈を整えてください」
「シャルロット様……。かしこまりした――」
アズルドさんは頭を下げてきた。
――そして、すでに手筈は整っていた。
すでにかなり前から用意されていたのだろう。
私は、その日のうちにエンハーサと共に隣国カサブランカに向けて旅立った。
そう、危険な冬の山を敢えて越える行軍。
それは犬の獣人であるエンハーサと、魔王さんに鍛えられた身体強化魔術を使うことが出来る私だからこそ行うことが出来た山越えであった。
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コメント
コーブ
ウンウン!!逞しくなりました♪