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薬師シャルロット

なつめ猫

シャルロットの優雅な一日

 魔術の修行が始まって、早いこと半年近くが経過していた。
 半年前から朝は、お母さまに起こされて始まる。
 始まると言っても目を覚ました後は、子供特有の寝ぼけた状態のまま、姿見の前の椅子に抱っこされて連れて行かれて座らされると色々と身嗜みを整えられていたりする。

 ほとんど意識がないから覚えてないけど……。
 一度だけ目を覚ましたときは、お母さまが鼻歌を歌いながら幼女の証である腰まで伸びている艶のある黒髪を、ブラシを使って梳いていた。
 その後は、カボチャパンツを履かされてフリルのたくさんついた子供用のワンピースを着せられて用意が完了する。

 そして、食事の用意が出来た頃に、ようやく私の意識がはっきりとしてくる。

 どうやら今日は、いつもより早く意識がはっきりしてきたみたい。

 お母さまが先にシチューを毒見? していた。
 呑んでからしばらくして、シチューを私に差し出してきた。
 私は、お母さまの膝の上に乗せられたまま、小鳥のように口を開けてシチュー口に含む。

 朝、昼、夜と、魔術の修行が始まった日から毎日、お母さまが先に料理を口にしてから私に食べさせるようになっていたのだ。

 私は、シチューを口に含んで飲み込んだとき、異変にきがついた。
 味がした……。

「おいしい――」
「――シャルロット!?」

 お母さまが、私の名前を呼んでくる。

「味が分かるの?」
「うん……」

 お母さまが、スープを掬うと私の口元まで運んでくる。
 口を開けてスープを飲む。
 やっぱり味がする。

「どう? おいしい?」
「うん、味が……味がするの……」

 自然と涙が零れてきた。
 今まで、半年間ずっと味がしない料理ばかり食べてきて、もう味覚は戻らないと思っていただけに……味がする。味覚を感じられるということが、どれだけ大切なことなのかをようやく理解することが出来た。
 それと、同時に――。

「お母さま、ありがとう……」

 自然と感謝の気持ちが言葉になって出てきた。

「いいのよ……、娘を大事にするのは親の務めだもの。それに孝雄さんも綾香が、少しでも良くなったと知れば、あの世で満足しているはずだからね」
「うん……でも、お母さま……また、私の名前、綾香って言っているよ?」
「――あ……」

 私の指摘に、お母さまが頬を赤く染めていた。

 半年前、空中遊泳から戻った私とお母さまは、周囲に要らぬ誤解を与えないように、お互いシャルロットと、お母さまで呼び合うことに決めて、それを実行に移していたけど。

 長年、染み付いた習慣というのは中々抜けないもので、気を抜くと、私はお母さんと言ってしまうし、お母さまは、私のことを綾香と語りかけてきてしまう。

 いまのところは、気をつけているから第三者に気付かれることは無かったけど、私が将来、王女として国を支えていくときには、きちんと間違えないようにしないといけない。

 ちなみに、王女としての教育や貴族としての心構えなどは、お母さんが寝る前に、子守唄代わりに聞かせてくれるけど、そこは、やっぱりお子様な体なだけあって、お布団に入ると、すぐに寝てしまう。

 まさに、寝る子は育つという具合で。

「シャルロット、今日は一日、魔術の練習を休まない?」
「――え?」

 色々と考えていた私は、突然のお母さまの言葉に首を傾げる。

「だって、ようやく味覚が戻ってきたのだもの。おいしいお菓子や料理を用意させるから、あとで、お茶をしない?」
「お母さま、魔王さんが待っているから……」
「むー……、魔王さんと私、どっちが大事なの?」
「えっと……」

 先に約束をしている魔王さんの方が大事だから……。

「魔王さんかな……」
「――!? 魔王に負けた……」

 お母さんは後ろから私を強く抱きしめてくると、沈んだ声で泣き出してしまった。
 なんか、とても居た堪れない……。
 でも、これはお母さんの我侭なわけで――。
 でも半年も、一生懸命、世話をしてくれたお母さんにも答えたい。

「どうすればいいの?」

 魔王さんとの約束も大事だし、お母さんの苦労にも答えたい。
 二つの合反することに私は迷ってしまう。

 その時、部屋の扉が数度ノックされると、部屋に魔王さんが入ってきて「シャルロット、そろそろ何時の魔術の修練の時間だ……が……いや、なんでもない……今日は、ゆっくりするといい――。
 だから、そんな顔で我を睨むのは止してほしいのだが?

「――え? お母さま?」

 振り返り見上げると、「どうかしたのかしら?」と、お母さまが私に微笑み返してきた。
 別に怒っているようには見えない。
 魔王さんは、きっと、私とお母さまの様子を見て気を使って言ってくれたに違いない。
 本当、出来る男の人は違う。

 魔王さんは、私とお母さまとのやり取りを見たあと溜息をつくと部屋から出ていった。
 そのあと、お茶会をした。
 最初は、私とお母さまだけだったけど、しばらくすると、仕事が終わったらしい魔王さんとアズルドさんが合流してきた。

 どうやら、アレスさんは、外で仕事をしているらしく、しばらくはお城には戻ってこられないみたい。

 ――でも、その日のお茶会で出たサンドイッチやマフィンやタルトは、とっても、おいしかった。
 こんな日が毎日、続けばいいのにと願わずにはいられない。




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コメント

  • コーブ

    よしよし♪

    0
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