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薬師シャルロット

なつめ猫

揺れ動く動乱(2)

「回復魔術が使えない?」
「そうそう、でも……それよりも、綾香――。あなた、回復魔術が行使できて記憶が戻っているということは?」
「……うん、お父さんに言われて……」
「そう、そのまま記憶を転写するわけではなかったのね」
「転写というより、融合? だと思う。だから……メロウにされたことも覚えている……」

 私は、お母さんの言葉に答えながらも、シャルロットとして実の父親やメロウにされてきたことを思い出して、人間というのはあそこまで自分本位に他人を傷つけられるモノなのだと思い、恐怖からか自分の体を震わせる。

 その様子に気ついたお母さんが、私のことをギュッと強く抱きしめてきた。

「もう、大丈夫よ。全部、終わったから……男神――孝雄さんに、言われた最悪の運命は凌げたのだから……」

 お母さんの言葉に、私は素直に頷く。
 本当に、これで全部、終わったのかと思いながらも、まだ、どこか実感が沸かなかった。
 それは、シャルロットして生きてきた時間で見てきたもの、接してきた世界が限りなく狭かったからだと思う。
 だから、今一、判断がつかない。

 そんな時だった。
 部屋の外から声が聞こえてきた。

 何か言い争いをしているような声。
 しばらくすると、扉が開き――。
 中に男の人が入ってきた。

「感動のところ悪いが、すぐに話しをしたい」

 入ってきた男の人は黒髪に黒目の男性で――。

「魔王さん?」
「ああ、そうだ。すぐに現在の状況を君達に伝えたいと思う」

 私の言葉に、頷いてきた彼は、頷くと空中に手を這わせると、映像を映し出す魔術を発動させた。
 映像は、かなり上空から国全体を映し出していた。

「――これは、クレベルト王国ですか?」

 お母さんが、魔王さんに問いかけると、彼は「ああ、そうだ」とすぐに答えてきた。

「魔王さん、それで……すぐに話しをしたいというのは――」
「ああ、とりあえずルアル王妃、貴女と、ご息女であるシャルロット王女を助けることは、なんとか出来たわけだが、シャルロット王女の回復魔術のことが、世に知られてしまった」

 お母さんの言葉に、魔王さんは、私が回復魔法が使えるということが世界中に知られてしまったと語ってくる。
 ただ――。
 私には、その何が問題なのか分からない。
 すでに、お母さんが回復魔術を使えるというのは、周辺諸国は知っている訳で……。

「ふむ……。どうやら理解していないようだから噛み砕いて言おうか。この世界では回復魔術というのは、どういう原理になっているか分からないが、適した知識、適した医学、適した想像力を持たなければ、回復魔術を発動させたとしても、本来の力を発揮しないのだ。そして、力任せに――魔力の量にモノを言わせて回復魔術を発動させたとしても、術者の魂と命を削るだけになる」
「つまり……お母さんのテロメアとニューロンが減少していたのは……」

 私の言葉を聞いた魔王さんは一瞬、眉元を潜めていたけど、すぐに頷いてくれた。

「シャルロット、君の出自がどういったものなのか私には分からないが……、君はもしかしたら、この世界に無い知識を持っているのではないか?」
「……」

 私は、無言になってしまう。
 だって、答えれば、それが答えになってしまうから。

「やれやれ……。私は魔族であり回復の魔術に興味はないのだが……、たしかに百年程度しか生きられぬ脆弱な種族であれば、病気や寿命などが恐ろしかろう。だからこそ、人間というのは、回復魔術にそこまで執着するのだ。そうであろう? アルフの王女よ」
「――そうですね……」

 魔王さんの言葉を肯定するかのように、お母さんは頷いている。
 ただ、私は二人が何故、簡単に分かり合えたのか分からない。

 そんな私に気がついたのか、お母さんは私の頭を撫でながら、「エルフという種族は、長命な種族なの。そして木々とまではいわないけど、長い時を病を受けずに生きられるから、回復魔術に無頓着なのよ? だから、クレイクも私を妻として向かい入れることができたの」
「……そうなの?」
「ええ、でも彼は、ついでだったみたいだけどね……。本命はメロウだったみたいだし……」

 お母さんは、目を伏せたまま、語りかけてきた。

「……そう……なの――?」
「ええ、でも貴女が――シャルロットのためだもの。気にしなくていいのよ?」
「お母さん……」

 私とお母さんが見詰め合っていると、魔王さんが咳をしてきた。

「母子の語りは後にしてもらいたい。現在、クレベルト王国が置かれている状況を説明したい。簡単に言うならば、今現在、クレベルト王国は国王は、この魔王に殺された状況にあり、国を魔王軍が支配している状況になっている……と、いうことになっている」
「それって……」

 魔王さんが頷く。

「ああ、そうだ。つまり人間がクレベルト王国に攻め入れる大義名分が存在していることになる。そして目的は、回復魔術が使えるシャルロット王女、君を確保することだ」
「……わたしを……」

 彼の言葉を聞いて……他国の人間が私のことを狙っていると言われて思わず両手で耳を塞いでお母さんに抱きつく。

 メロウやクレイクにされた行為が、脳裏に横切ったのだ。
 あんなことをされたら、耐えられない。

「――それで娘を助けるためには、どうすればいいんですか!?」

 力の篭ったお母さんの声が聞こえてきた。

「そうだな。しばらく、この国は我が魔王領の一部とさせてもらいたい。そうすれば諸外国からの侵略に対して対応することを誓おう」
「それで……、娘は助かるのですね?」
「もちろんだ。支配者たる者として、約束をしよう」

 魔王さんの言葉に、お母さんは「わかりました」とだけ小さく答えた。




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