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薬師シャルロット

なつめ猫

薬師シャルロット(8)

「貴様は……」

 体格が10メートルまで肥大したクレイクが、足元に腕を組んだまま佇んでいる男を見下ろしながら、憎憎しげに言葉を発する。
 その声量は巨体も相まって周囲に響き渡るが……。

「禁忌にまで手を出した者に、貴様呼ばわりされる謂れは無いのだがな……」

 静かに――。
 そう、ただ静かに魔王サタンが発した言葉。
 それは、巨大化したクレイクの声とは、まったく違う圧力を持って周囲に響き渡ると、その圧力を受けたアレスが、「――こ、これが……魔王の……」と、言いながら地面に膝をついた。

「強大な魔力を持つ者の言葉には、力が宿ると聞いたことがあるが、まさか……これほどの魔力が……」

 シャルロットを両手で抱かかえていた王宮薬師エンハーサも、魔王を見ながら呆然と言葉を紡いでいた。
 明らかに、自分達とは異質。
 圧倒的なまでの存在感の違い。

 自分達に魔王サタンの殺気が向けられていなくても分かってしまう。
 魔王サタンが、どれだけの力を持っているのかを……。

「さーて、貴様には言いたいことは山ほどあるが……。我も大体の事情は察している。だからこそ、どうしようかと考えたのだが……。丁度、良かったぞ? 人間の姿のままなら、幼子がトラウマを抱えてしまうかも知れなかったからな」
「何の話をしている!」

 巨人化したクレイクは巨大な腕を魔王サタン目掛けて振り下ろす。
 その腕は、魔王が立っていた地面ごと吹き飛ばし、あたり一面には砕けた土煙が舞い上がる。

「くくくっ、ハハハハハハッ! これだ! これが! 今の私の力なのだ!」

 巨人化しうた男は愉悦の表情を浮かべ笑うが、「何が、そんなに楽しい?」という声が辺りに降り注いだ時点でクレイクは笑うのを止め、振り下ろした自身の腕を見てから驚愕の表情を浮かべた。

「ば、ばかな……、こんな、馬鹿なことが……」
「信じられないのか? 自分の見た光景が? 自分の理解できないことが?」

 クレイクは、振り下ろした巨大な手を片手で受け止めている魔王サタンを見て後退していく。

「こ、こんな……」
「――さて、正当防衛も成立だな」

 魔王が言葉を言い終えると同時に、クレイクの右手が付け根から吹き飛んだ。
 空中で回転していく全長6メートル近くはあろうかという巨人の右手は、地面に落ちる前に無数に切り刻まれ焼かれ灰となって地面へと降り注ぎ風により吹き散らされていく。

「ギャアアアアアアアア。痛い痛い痛い――、ば、化け物……」
「そうだな。貴様と違う意味で化け物だ」

 クレイクは、目の前の男をようやく理解したのか、走りだそうとするが、そのまま地面に顔を打ち付けてしまう。

「な、なにが……。――わ、私の足はどこに……」
「貴様の足なら、たった今、消し飛ばしたところだ」
「ひいい! た、たすけて……」
「その言葉、貴様が踏み台にしてきた人間に聞いてくるのだな!」

 巨人化したクレイクの体は、不可視の力に押しつぶされるかのように、地面押し付けられて潰れた。

「さてと……、あとは……」
「クッ!」

 アレスは立ち上がると、血だらけのままシャルロットを守るかのように魔王の前に立ち塞がる。

「ふむ……、まあよい。興が冷めた。その娘、隷属の指輪は破壊したが長い間、退幼香を嗅がされた影響からなのか、感情が無くなっておるぞ? 王妃ならば何とかできるやも知れぬな」
「――なん……だと? 一体……魔王、貴様は何のために来たのだ?」
「言ったであろう? 気にくわないと。それだけだ。それ以外に、貴様ら人間に何かを伝える義理などない。せいぜい必死に足掻くが良い。王妃とやらの隷属の指輪も破壊しておいた。そろそろ目が覚めるであろう」
「ルアル様が? だが、ルアル様は、ずっと目を様去らなかったのに……」
「当たり前だ。メロウという女が精神系の魔術で王妃とやらの目覚めを阻害していたのだからな。急ぐとよい。時間はないぞ?」
「貴様に言われなくても!」

 アレスはすぐにエンハーサから、シャルロットを預かると王妃が寝ている部屋へ向かって走っていく。
 そして、部屋に到着し中に入ると、そこには目を覚ましたルアル王妃がベッドに腰掛けており……。
 アレスが抱いていたシャルロットを見るなり「アレス、娘をすぐにこちらへ」と語りかけていた。





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