薬師シャルロット
薬師シャルロット(7)
シャルロットを脇に抱え王妃の部屋から逃げ出したのだ。
そこには、すでに国を憂いる王の気持ちなど一遍も存在していない。
そんな彼の思考を遮るかのように一人の男が目の前に立ちはだかった。
「何者だ!」
「私です。アレスです」
クレイクの前に立ちはだかったのは、無表情なまま淡々と自分の名前を告げた男、近衛兵のアレス。
「アレスか! 魔王が追ってくるのだ! 貴様は、ここで奴を牽制し……な、なんのつもりだ?」
アレスは、腰から抜いたブロードソードを、自身が仕える国の王に向けながら手のひらに握っていた白い歯を見せながら「何のつもり? それは、私のセリフです」と、怒りを滲ませた声で、言葉を紡いだ。
「――貴様は、自分が何を言って、誰に剣を向けているのか理解しているのか?」
クレイクの言葉に、アレスは瞳を細め「誰に? 私は、大森林王国アルフからルアル王妃様に付き添い守るように、アルフ王から命を受けていたのですよ?」と、声色に怒気を孕ませながらもクレイクの言葉に答える。
「……そうか。どうりで――」
クレイクは唇を噛み締める。
「王妃様が、ある日を境にいきなり変わられてしまったのも、ようやく納得ができました。クレベルト国王陛下! 貴方は、ルアル王妃に隷属の指輪を使い意のままに操っていたのですね? そして、急死した前国王陛下の死にも貴方が関わっていますね?」
「何を言って……ッ! き、貴様!?」
アレスの後ろから姿を現したのは衰えきった男であった。
ただ、その姿を見た瞬間、クレイクの表情が一遍する。
「ば、ばかな……。どうして、生きて……」
「エンハーサ殿に、盛られた毒を解毒してもらったのですよ。クレベルト国王陛下、貴方は、目の前の利益を優先するばかりに、不審に思った私を牢獄に入れ毒入りの食事を食わせることで始末しようとした。それは、私が先代の国王陛下の急死に対する秘密を探っていたことに気がつき、目障りだと思ったからではないですかな?」
元、クレベルト王国宰相アズルドの言葉に、クレイクは動揺を隠せずにいた。
たかが王宮薬師風情がどうして、そこまで関与できたのか彼には理解できなかったから。
だからこそ、「馬鹿な? どういうことだ? 死体は確認……」などと、口が滑ってしまう。
そして彼は気がつく。
「死体は確認していない!? そうだ、エンハーサが伝染病にかかったと言って……」
ようやくクレイクは全てを察したのか、唇を強く噛み締める。
唇からは一筋に血が流れるが彼には痛みを感じる心の余裕すらない。
「貴様ら! この私を騙していたのか!」
怒りのあまり、クレイクは脇に抱えていたシャルロットを落とす。
そして、それは致命的な隙となって――。
「アレス殿、アズルド殿、もう大丈夫です」
「大丈夫だと!?」
クレイクが声をした方へ視線を向ける。
すると、エンハーサに抱かかえられているシャルロットの姿が目に入る。
「――しまっ!?」
「クレイク様、幼き頃から、感情が高ぶった時に物を投げ捨てる癖は治っておりませんな?」
エンハーサは、シャルロットが地面に叩き付けられ声を上げる前に、獣人特有のしなやかなバネと身体能力を生かして彼女を受け止めクレイクから離れていた。
アレスも、アズルドもクレイクの癇癪を引き出すための芝居であった。
「――さて、クレベルト国王陛下。貴方には、王たる資格どころかに親たる資格もない! 大人しく――」
「この私が大人しく捕まるだと? 私は、この国の王なのだぞ! 貴様らとは身分が違うのだ! 頭に乗るなよ! この雑種が!」
クレイクは怒りのあまり顔を真っ赤にすると叫ぶ。
その様子にエンハーサは溜息をつくと「幼き頃から、まったく変わっていない」と、悲嘆に暮れ溜息をつく様を見せる。
「どんなに叫ぼうが、クレベルト国王陛下! 大陸協定違反すら破った貴方は――」
「うるさい! うるさい! うるさい! うるさい!」
子供のように喚き散らすクレイクの言葉には、すでに国王としての威厳はどこにも存在しておらず、アレスはブロードソードを構えたまま、真っ直ぐにクレイクに近づいていく。
そして……。
ブロードソードが粉々に砕け散った。
「もういい……。この私が何もせずに何の対策もせずに、ただ、回復の魔術に頼って国を発展させてきたと思うか? いいだろう! 見せてやろう! これが!」
狂気の眼差しを、アレスに見せたクレイクは懐から、赤黒い小石ほどの大きさの物を取り出すと口に放りこみ歯で砕き呑み干す。
砕かれた物が喉元を通り過ぎると、クレイクの体が肥大化していく。
そして筋肉が膨れ上がり、衣類が裂け10メートルを超える巨人へと変化し終えた。
「クククク、ハーハハハハハ。もうよい! この体は始原の巨人が居た時代に存在した巨人と同等の力を持つ! どんな魔術でも私を、もう倒すことは不可能だ! まずはアレス、貴様を! 王に歯向かった貴様を殺してやる!」
「――ッ!?」
ブロードソードを砕かれたアレスは数歩下がるが、すぐに追い詰められ――。
「死ね!」
振り下ろされた足が、アレスを踏み潰そうとしたところで巨大化したクレイクの体が地面と水平に吹き飛ばされた。
「――おい、誰が逃げていいと言った?」
「……お、おまえは……魔王……」
「少し黙っていろ、砕けた武器の破片が体中に刺さっているのだろう? そこの薬師に見てもらうがよい。やつの相手は我に任せろ」
魔王サタンは、吹き飛ばした巨人化したクレイクを見ながら、1歩ずつクレイクに近づいていく。
そこには、すでに国を憂いる王の気持ちなど一遍も存在していない。
そんな彼の思考を遮るかのように一人の男が目の前に立ちはだかった。
「何者だ!」
「私です。アレスです」
クレイクの前に立ちはだかったのは、無表情なまま淡々と自分の名前を告げた男、近衛兵のアレス。
「アレスか! 魔王が追ってくるのだ! 貴様は、ここで奴を牽制し……な、なんのつもりだ?」
アレスは、腰から抜いたブロードソードを、自身が仕える国の王に向けながら手のひらに握っていた白い歯を見せながら「何のつもり? それは、私のセリフです」と、怒りを滲ませた声で、言葉を紡いだ。
「――貴様は、自分が何を言って、誰に剣を向けているのか理解しているのか?」
クレイクの言葉に、アレスは瞳を細め「誰に? 私は、大森林王国アルフからルアル王妃様に付き添い守るように、アルフ王から命を受けていたのですよ?」と、声色に怒気を孕ませながらもクレイクの言葉に答える。
「……そうか。どうりで――」
クレイクは唇を噛み締める。
「王妃様が、ある日を境にいきなり変わられてしまったのも、ようやく納得ができました。クレベルト国王陛下! 貴方は、ルアル王妃に隷属の指輪を使い意のままに操っていたのですね? そして、急死した前国王陛下の死にも貴方が関わっていますね?」
「何を言って……ッ! き、貴様!?」
アレスの後ろから姿を現したのは衰えきった男であった。
ただ、その姿を見た瞬間、クレイクの表情が一遍する。
「ば、ばかな……。どうして、生きて……」
「エンハーサ殿に、盛られた毒を解毒してもらったのですよ。クレベルト国王陛下、貴方は、目の前の利益を優先するばかりに、不審に思った私を牢獄に入れ毒入りの食事を食わせることで始末しようとした。それは、私が先代の国王陛下の急死に対する秘密を探っていたことに気がつき、目障りだと思ったからではないですかな?」
元、クレベルト王国宰相アズルドの言葉に、クレイクは動揺を隠せずにいた。
たかが王宮薬師風情がどうして、そこまで関与できたのか彼には理解できなかったから。
だからこそ、「馬鹿な? どういうことだ? 死体は確認……」などと、口が滑ってしまう。
そして彼は気がつく。
「死体は確認していない!? そうだ、エンハーサが伝染病にかかったと言って……」
ようやくクレイクは全てを察したのか、唇を強く噛み締める。
唇からは一筋に血が流れるが彼には痛みを感じる心の余裕すらない。
「貴様ら! この私を騙していたのか!」
怒りのあまり、クレイクは脇に抱えていたシャルロットを落とす。
そして、それは致命的な隙となって――。
「アレス殿、アズルド殿、もう大丈夫です」
「大丈夫だと!?」
クレイクが声をした方へ視線を向ける。
すると、エンハーサに抱かかえられているシャルロットの姿が目に入る。
「――しまっ!?」
「クレイク様、幼き頃から、感情が高ぶった時に物を投げ捨てる癖は治っておりませんな?」
エンハーサは、シャルロットが地面に叩き付けられ声を上げる前に、獣人特有のしなやかなバネと身体能力を生かして彼女を受け止めクレイクから離れていた。
アレスも、アズルドもクレイクの癇癪を引き出すための芝居であった。
「――さて、クレベルト国王陛下。貴方には、王たる資格どころかに親たる資格もない! 大人しく――」
「この私が大人しく捕まるだと? 私は、この国の王なのだぞ! 貴様らとは身分が違うのだ! 頭に乗るなよ! この雑種が!」
クレイクは怒りのあまり顔を真っ赤にすると叫ぶ。
その様子にエンハーサは溜息をつくと「幼き頃から、まったく変わっていない」と、悲嘆に暮れ溜息をつく様を見せる。
「どんなに叫ぼうが、クレベルト国王陛下! 大陸協定違反すら破った貴方は――」
「うるさい! うるさい! うるさい! うるさい!」
子供のように喚き散らすクレイクの言葉には、すでに国王としての威厳はどこにも存在しておらず、アレスはブロードソードを構えたまま、真っ直ぐにクレイクに近づいていく。
そして……。
ブロードソードが粉々に砕け散った。
「もういい……。この私が何もせずに何の対策もせずに、ただ、回復の魔術に頼って国を発展させてきたと思うか? いいだろう! 見せてやろう! これが!」
狂気の眼差しを、アレスに見せたクレイクは懐から、赤黒い小石ほどの大きさの物を取り出すと口に放りこみ歯で砕き呑み干す。
砕かれた物が喉元を通り過ぎると、クレイクの体が肥大化していく。
そして筋肉が膨れ上がり、衣類が裂け10メートルを超える巨人へと変化し終えた。
「クククク、ハーハハハハハ。もうよい! この体は始原の巨人が居た時代に存在した巨人と同等の力を持つ! どんな魔術でも私を、もう倒すことは不可能だ! まずはアレス、貴様を! 王に歯向かった貴様を殺してやる!」
「――ッ!?」
ブロードソードを砕かれたアレスは数歩下がるが、すぐに追い詰められ――。
「死ね!」
振り下ろされた足が、アレスを踏み潰そうとしたところで巨大化したクレイクの体が地面と水平に吹き飛ばされた。
「――おい、誰が逃げていいと言った?」
「……お、おまえは……魔王……」
「少し黙っていろ、砕けた武器の破片が体中に刺さっているのだろう? そこの薬師に見てもらうがよい。やつの相手は我に任せろ」
魔王サタンは、吹き飛ばした巨人化したクレイクを見ながら、1歩ずつクレイクに近づいていく。
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コメント
コーブ
いよいよだな♪