薬師シャルロット
薬師シャルロット(5)
クレベルト王国の王城と隣接して建てられている後宮内の一室――元はシャルロット王女の部屋には、人影が5つ存在していた。
一人は、ベッドの上で寝ているルアル王妃。
もう一人は、ベッドの横で倒れている一人の幼女――シャルロット王女。
――そして……。
一人の男を挟むように対極する位置。
部屋の扉に体を寄り掛からせている男女。
クレベルト王国、クレイク・ド・クレベルトと、ルアル王妃の侍女であるメロウ。
この二人が、王妃と王女を庇うように立っている男を睨みつけていた。
「貴様は、何者だ! この国の王に向かって……このような狼藉! 許されると思うなよ!」
「そうよ! 未来の王妃たる、この私! メロウ・ド・アルフに対する不遜な態度! 許しがたいわ!」
二人は、怒りを滲ませた声色で目の前に立つ男に向けて叫ぶが――。
「くだらんな……」
二人の言葉を聞いた男は、赤い瞳に静かに怒りを湛えながらもスッと瞳を細める。
その動作だけで、叫んでいた二人の行動が止まり――。
「そうだな……。我の名前は――」
男は、口角を上げると唇を一舐めすると笑う。
唇から犬歯が見え、それは男が発する殺気と相まって一瞬で場を支配した。
その動作だけで。
その態度だけで。
その威圧感だけで――。
誰もが本能で理解する。
目の前にいる男が何であるかということを。
目の前にいる男がどんな存在であるかということを。
メロウは、「……あ、ああ……」と恐怖のあまり床に座りこみ呆然と男を見上げている。
そして、クレイクと言えば、何が起きたのか分からないといった表情のまま男を見ていた。
ただ、共通していることと言えば二人の瞳には、絶望という感情が色濃く浮き出ていた。
二人の表情を見た男は、言葉を紡ぐ。
「――我の名前は、魔を総べる者。すべての生きとし生ける者の敵対者にして、神をも食らいし存在。即ち、魔王サタンなり!!」
魔王の言葉を聞いた二人は、顔を青くしたまま、どうして……魔王が、北の大地から百年も姿を現さなかった魔王が、この場に居るのか理解が追いつかずにいた。
「さて、まずはクレイク。貴様は、我が領内に無断で立ち入ったばかりか、大陸協定違反とされる御禁制の退幼草を無断で取得したな? さらには自国の政治力を利用し大森林国アルフの兵士に取りに行かせたな?」
「――そ、それが! それが何の問題があるというのだ! 魔王領? そんなのはお前達、魔族が勝手に決めたことだろうが!」
「なるほど……。だがな――、貴様が指示したことに変わりはない。それに、退幼草は、昔から他人を思い通りに利用するための魔草である。貴様も王と言う立場上! 知らぬ存ぜぬでは通じぬぞ? そして……自らの子供を手駒にするために、退幼香を使用したことも、貴様に仕えていた王宮薬師エンハーサから証言を取っている。言い逃れはできんぞ?」
魔王が、そこまで語ったところで、クレイクの表情に笑みが浮かぶ。
「それは違う! 私は、ただ取ってきたに過ぎない!」
「ほう? どういうことだ?」
魔王の問いかけにクレイクは笑みを深くすると「退幼香を使ったのは、そこにいる侍女であるからだ!」と言を発した。
クレイクの言葉を聞いていたメロウは顔色を変える。
なにせ大の大人でも気絶しかねない殺気を向けられているのだ。
いつ殺されるか分からない心身への圧力は常人が耐えられる領域を遥かに超えており、クレイクが自分を切り捨てようとしていることを理解すると表情を一遍させた。
メロウも、自分がただ生き残りたいと必死なのであった。
だが……それは悪手にしかならないことを理解できない。
それほど、死への恐怖というのは正常な思考を鈍らせるまでに強烈であった。
「うそよ! だって、あなたが! クレイクが自分の娘を手駒にするから! 外交の道具に使うから調教しろ! ――って言ったんじゃない!」
「うるさい! 貴様のことなど知らんわ!」
「ひどい! それじゃ……私を――、ルアル王妃を殺してから、しばらく喪に服してから! 主が先立った可哀想な侍女ということで娶ってくれるって言ったのは全て、嘘だったの?」
「ええい! 今は、そんな事を言っている場合ではないだろう? 魔王と言えば勇者ですら勝てない存在だぞ? まずは国王である私の身のほうが貴様よりも大事であろう!」
「うそつき……、王妃に……寝ている間に隷属の指輪をつけたのも……王女を調教したのも、全部――クレイク、あなたが……あなたが約束してくれたから!」
「口約束だけで、お前が全部、行動したんだろう! 私は悪くない! 魔王様! そういうことですから、私も被害者なのです! 全て侍女であるメロウが――」
「見苦しいぞ!!」
二人のやり取りを静かに聞いていた魔王の言葉が部屋の中に圧力として降りかかる。
「貴様は、言葉にしか出していないだと? 実行したのは別の者だと? そう言いたいのか?」
「――そ、そそ、そのとおりでございます!」
「ふむ……なるほど……」
魔王は、クレイクの言葉を聞くと口元を歪ませる。
「お前の言い分にも一理はある」
「――そ、それでは!?」
「うむ……。だがな――」
そこで魔王は、親指と人差し指で音を鳴らす。
すると空中に映像が浮かび上がり、クレベルト王都のみならず全世界の王都や都市が次々と表示されていき、その映像の中にはクレイクやメロウの姿が中継されている画面が表示されていた。
「こ、これは……これは、一体……」
理解が追いつかない魔術を見せ付けられたことでクレイクの表情は呆けていたが、「これは、遠距離の人間にも映像や音を届けることが出来る通信魔術だ」と魔王サタンが呟いた瞬間、クレイクの瞳が大きく見開かれ――。
「ま、まさか……」
言葉にならない言葉がクレイクの口から紡がれる。
いま、メロウを犠牲にして自分が生き残れれば、あとでどうにでもなると思っていたクレイクは、もっとも起きてはまずい事態に自分が放り込まれたことを理解して――。
そして、そんな思考を読みとったかのように魔王サタンは、クレイクに語りかける。
あくまでも尊大に。
あくまでも威圧的に。
そう、圧倒的強者として! 魔王サタンは「貴様の言い分、他国の人間や要人、そして自国の人間が聞いて、どう思うのだろうな?」と、クレイクに向けて言葉を発した。
一人は、ベッドの上で寝ているルアル王妃。
もう一人は、ベッドの横で倒れている一人の幼女――シャルロット王女。
――そして……。
一人の男を挟むように対極する位置。
部屋の扉に体を寄り掛からせている男女。
クレベルト王国、クレイク・ド・クレベルトと、ルアル王妃の侍女であるメロウ。
この二人が、王妃と王女を庇うように立っている男を睨みつけていた。
「貴様は、何者だ! この国の王に向かって……このような狼藉! 許されると思うなよ!」
「そうよ! 未来の王妃たる、この私! メロウ・ド・アルフに対する不遜な態度! 許しがたいわ!」
二人は、怒りを滲ませた声色で目の前に立つ男に向けて叫ぶが――。
「くだらんな……」
二人の言葉を聞いた男は、赤い瞳に静かに怒りを湛えながらもスッと瞳を細める。
その動作だけで、叫んでいた二人の行動が止まり――。
「そうだな……。我の名前は――」
男は、口角を上げると唇を一舐めすると笑う。
唇から犬歯が見え、それは男が発する殺気と相まって一瞬で場を支配した。
その動作だけで。
その態度だけで。
その威圧感だけで――。
誰もが本能で理解する。
目の前にいる男が何であるかということを。
目の前にいる男がどんな存在であるかということを。
メロウは、「……あ、ああ……」と恐怖のあまり床に座りこみ呆然と男を見上げている。
そして、クレイクと言えば、何が起きたのか分からないといった表情のまま男を見ていた。
ただ、共通していることと言えば二人の瞳には、絶望という感情が色濃く浮き出ていた。
二人の表情を見た男は、言葉を紡ぐ。
「――我の名前は、魔を総べる者。すべての生きとし生ける者の敵対者にして、神をも食らいし存在。即ち、魔王サタンなり!!」
魔王の言葉を聞いた二人は、顔を青くしたまま、どうして……魔王が、北の大地から百年も姿を現さなかった魔王が、この場に居るのか理解が追いつかずにいた。
「さて、まずはクレイク。貴様は、我が領内に無断で立ち入ったばかりか、大陸協定違反とされる御禁制の退幼草を無断で取得したな? さらには自国の政治力を利用し大森林国アルフの兵士に取りに行かせたな?」
「――そ、それが! それが何の問題があるというのだ! 魔王領? そんなのはお前達、魔族が勝手に決めたことだろうが!」
「なるほど……。だがな――、貴様が指示したことに変わりはない。それに、退幼草は、昔から他人を思い通りに利用するための魔草である。貴様も王と言う立場上! 知らぬ存ぜぬでは通じぬぞ? そして……自らの子供を手駒にするために、退幼香を使用したことも、貴様に仕えていた王宮薬師エンハーサから証言を取っている。言い逃れはできんぞ?」
魔王が、そこまで語ったところで、クレイクの表情に笑みが浮かぶ。
「それは違う! 私は、ただ取ってきたに過ぎない!」
「ほう? どういうことだ?」
魔王の問いかけにクレイクは笑みを深くすると「退幼香を使ったのは、そこにいる侍女であるからだ!」と言を発した。
クレイクの言葉を聞いていたメロウは顔色を変える。
なにせ大の大人でも気絶しかねない殺気を向けられているのだ。
いつ殺されるか分からない心身への圧力は常人が耐えられる領域を遥かに超えており、クレイクが自分を切り捨てようとしていることを理解すると表情を一遍させた。
メロウも、自分がただ生き残りたいと必死なのであった。
だが……それは悪手にしかならないことを理解できない。
それほど、死への恐怖というのは正常な思考を鈍らせるまでに強烈であった。
「うそよ! だって、あなたが! クレイクが自分の娘を手駒にするから! 外交の道具に使うから調教しろ! ――って言ったんじゃない!」
「うるさい! 貴様のことなど知らんわ!」
「ひどい! それじゃ……私を――、ルアル王妃を殺してから、しばらく喪に服してから! 主が先立った可哀想な侍女ということで娶ってくれるって言ったのは全て、嘘だったの?」
「ええい! 今は、そんな事を言っている場合ではないだろう? 魔王と言えば勇者ですら勝てない存在だぞ? まずは国王である私の身のほうが貴様よりも大事であろう!」
「うそつき……、王妃に……寝ている間に隷属の指輪をつけたのも……王女を調教したのも、全部――クレイク、あなたが……あなたが約束してくれたから!」
「口約束だけで、お前が全部、行動したんだろう! 私は悪くない! 魔王様! そういうことですから、私も被害者なのです! 全て侍女であるメロウが――」
「見苦しいぞ!!」
二人のやり取りを静かに聞いていた魔王の言葉が部屋の中に圧力として降りかかる。
「貴様は、言葉にしか出していないだと? 実行したのは別の者だと? そう言いたいのか?」
「――そ、そそ、そのとおりでございます!」
「ふむ……なるほど……」
魔王は、クレイクの言葉を聞くと口元を歪ませる。
「お前の言い分にも一理はある」
「――そ、それでは!?」
「うむ……。だがな――」
そこで魔王は、親指と人差し指で音を鳴らす。
すると空中に映像が浮かび上がり、クレベルト王都のみならず全世界の王都や都市が次々と表示されていき、その映像の中にはクレイクやメロウの姿が中継されている画面が表示されていた。
「こ、これは……これは、一体……」
理解が追いつかない魔術を見せ付けられたことでクレイクの表情は呆けていたが、「これは、遠距離の人間にも映像や音を届けることが出来る通信魔術だ」と魔王サタンが呟いた瞬間、クレイクの瞳が大きく見開かれ――。
「ま、まさか……」
言葉にならない言葉がクレイクの口から紡がれる。
いま、メロウを犠牲にして自分が生き残れれば、あとでどうにでもなると思っていたクレイクは、もっとも起きてはまずい事態に自分が放り込まれたことを理解して――。
そして、そんな思考を読みとったかのように魔王サタンは、クレイクに語りかける。
あくまでも尊大に。
あくまでも威圧的に。
そう、圧倒的強者として! 魔王サタンは「貴様の言い分、他国の人間や要人、そして自国の人間が聞いて、どう思うのだろうな?」と、クレイクに向けて言葉を発した。
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コメント
コーブ
君はデビルーク星のデビルーク王かっ♪(笑)