薬師シャルロット
薬師シャルロット(4)魔王サタン降臨!
メロウさんに手を握られ引っ張られたまま、後宮の入り口から建物の中に入る。
中は、ヒンヤリとして寒い。
何だが、少しずつ嫌な場所に向かっている気がする。
そんなとき頬に痛みを感じた。
「どうして、余計なことを言ったのですか?」
見上げるとメロウさんが、表情に苛立ちを含ませながら、ワタシの頬に手を振り下ろしてきた。
引っ叩かれた瞬間、口の中が切れたのか口の中に血の匂いが広がっていく。
それと共に、舌の上に硬い感触を感じた。
きっと、また歯が折れたと思う。
でも、それを言うとまた怒られるから……。
「ごめんなさい……」
「ごめんなさいで済んだら、誰も苦労なんてしないんです。本当にグズな出来損ないですね……こんなゴミを相手にしていると、こちらの品格まで下がってしまいそうです。ほら、さっさと回復魔術で怪我を治しなさい」
「ごめんなさい……ワタシのためにごめんなさい」
ワタシは、回復の魔術で口の中を治す。
でも折れた歯は治らない。
だから、回復の魔術でワタシが治ったのを見たメロウさんが歩き出したのを見て、私は通路に、口の中で転がしていた自分の歯を2本、メロウさんに聞こえないように吐き捨てた。
後宮の通路をしばらく歩く。
そして……ワタシは首を傾げる。
どこかで見たことがあったような木製の扉が目に映ったから――。
「ついてきなさい」
「ハイ」
ワタシが疑問を持つのはだめ。
だって、それは人形として疑問を持つのは間違っているから。
部屋の中に入ると、知らない男性とベッドに寝ている知らない女性がいた。
他には人の姿はない。
「クレイク国王陛下、シャルロット様を連れて参りました」
「ふむ――。ずいぶんと調教が進んだようだな……」
「はい。ほら、シャルロット! 国王陛下に……自分の父親に挨拶をするのよ!」
メロウさんに手を引かれたワタシは、知らない男性の前に立たされた。
ワタシはメロウさんに教えてもらったとおり、「出来損ないの人形シャルロットです。よろしくお願いします」と伝えた。
「――ふむ。メロウよ、こやつは、もしや人物の名前などの認識が出来ておらんのか?」
「はい、その方が後々、都合がいいかと思いまして」
「なるほど……。たしかに下手に肉親だと思われると厄介だからな」
知らない男性とメロウさんが何やら話をしている。
にくしんって……。
――にくしんって何?
少し疑問に思ってしまった。
でも、すぐにその考えを捨てる。
前は、余計なことを考えて、メロウさんに聞いては何度も湯船の中に頭を浸けられて気を失うまで離してもらえなかったから。
最初は、一日何十回も「疑問に持つな」と怒られたけど、今は、そういうのは殆どない。
すごく苦しかった。
でも、それは全て「シャルロット様のためですから、わかりますよね?」と言われたから、きっとワタシが悪かったと思う。
「ふむ……、まぁよいか……。シャルロット、この女がお前の母親だ。この者をお前が治療するのだ」
「はい……」
男性に抱き上げられて女性が寝ているベッドの上に下ろされた。
顔を見ると、とても顔色が悪いように見える。
「解析……」
魔術の発動と共に、目の前にいくつもの単語が表示されていく。
テロメアの減少、ニューロンの減退などが書かれているけど……。
いつもと違って、何となくだけど分かるけど、分からない……。
「さあ、シャルロットよ。その女を治せたのなら、この指輪をお前にやろう」
目の前の男性は、ワタシに凝った鎖のような意匠がついた指輪を見せてきた。
それは目の前の女性が右手に着けている指輪とまったく同じようなモノで……。
ということは……つまり、目の前で寝ている女性は……。
「おかーさま?」
「そうですよ、さっさと治療をしなさい!」
ワタシの言葉に重ねるように、メロウさんが回復の魔術を使ってくるように指示してくる。
だけど……。
テロメアや、ニューロンなどという言葉が、言語が霧に覆い隠されているようでよく思い出せない。
でも……。
魔術を使わないと怒られるし……。
「治癒!」
ワタシは両手で、おかーさまの右手を握り締めながら回復の魔術を発動させた。
そして――。
「……失敗のようだな……」
「――ッ!? 申し訳ありません! この出来損ないが……」
「よい。ついでに試しておくか?」
「何をでしょうか?」
男性は、メロウさんと話をしていると腰に差している刃物を抜いて、ワタシの腕に刃物をつきたててきた。
血が、ベッドの上、白いシーツの上に赤い染みのように広がっていく。
痛いよ。
叫ぶほど痛い。
痛いけど……口にしたら殴られる。
それに、回復の魔術が、きちんと使えるようになるまでは何回かメロウさんにやられたことだから……。
「シャルロットよ、自分の傷を治してみせよ」
「――は、はい……治癒」
ワタシは、解析を使ったあとに回復の魔術を発動させて傷を治す。
「ふむ……。ルアルを再利用できないのは仕方なかったが……、まぁ一人回復の魔術師がいるだけで、周辺諸国との外交は格段に楽になるだろう」
男性は満足そうに、一人呟いたあとメロウさんに指輪を投げ渡していた。
「メロウ、ルアルの処分は任せたぞ? そうだな……回復の魔術が効かずに病状悪化により死亡にしておけばよいだろう。シャルロットもそれでよいな?」
目の前に居る男性は、何を言っているのだろう?
おかーさまは死んでないのに、どうして死亡って言っているのだろう?
でも、疑問に思ったら……。
思ったら……。
「いやです……」
知らないうちに声が出ていた。
「シャルロット!」
メロウさんの怒鳴り声が聞こえてくると共に、ワタシは床に叩きつけられたと思う。
ほとんど感覚がない。
「やりすぎだぞ!」
「申し訳ありません! ですが、この指輪を嵌めて回復の魔術を使わせれば問題はないかと……」
「――そうだな……」
二人の会話が、どこか異質に聞こえてくる。
それと同時に、どうしてワタシは、こんなに……。
「おかーさま……。だれか……たすけ……」
口から出かけていた言葉が途中で止まる。
右手には、おかーさまと同じ指輪がつけられていて……。
急速にワタシという存在が消えて……ワタシって……だ……れ……?
「――なっ!?」
「――えっ!?」
二人のご主人様の声と同時に、ワタシの右手に嵌められていた銀色の指輪が粉々に砕け散ると、声が降ってくる。
それは、荘厳で尊大で尊厳のある声。
「――まったく、人間というのはつくづく愚かな存在よ。自らの野望、欲望、利益のためならば他者を平気に踏みつけ、あまつさえ、自らの血を分けた子ですら利用するなど――恥を知るがよい!!」
怒りを滲ませるような声が耳元に聞こえてきたと同時に、二人のご主人様は部屋の入り口付近まで不可視の力で吹き飛ばされていく。
そして、ご主人様とワタシの間に一人の男性が姿を現した。
その風貌は、後ろからしか見ることが出来ないけど……。
漆黒の髪を短く切り揃えていた。
そして、身長も体格も、男性のご主人様よりも二周りは小さいはずなのに、どこか威風堂々としていて……威厳に満ちあふれているように見えた。
中は、ヒンヤリとして寒い。
何だが、少しずつ嫌な場所に向かっている気がする。
そんなとき頬に痛みを感じた。
「どうして、余計なことを言ったのですか?」
見上げるとメロウさんが、表情に苛立ちを含ませながら、ワタシの頬に手を振り下ろしてきた。
引っ叩かれた瞬間、口の中が切れたのか口の中に血の匂いが広がっていく。
それと共に、舌の上に硬い感触を感じた。
きっと、また歯が折れたと思う。
でも、それを言うとまた怒られるから……。
「ごめんなさい……」
「ごめんなさいで済んだら、誰も苦労なんてしないんです。本当にグズな出来損ないですね……こんなゴミを相手にしていると、こちらの品格まで下がってしまいそうです。ほら、さっさと回復魔術で怪我を治しなさい」
「ごめんなさい……ワタシのためにごめんなさい」
ワタシは、回復の魔術で口の中を治す。
でも折れた歯は治らない。
だから、回復の魔術でワタシが治ったのを見たメロウさんが歩き出したのを見て、私は通路に、口の中で転がしていた自分の歯を2本、メロウさんに聞こえないように吐き捨てた。
後宮の通路をしばらく歩く。
そして……ワタシは首を傾げる。
どこかで見たことがあったような木製の扉が目に映ったから――。
「ついてきなさい」
「ハイ」
ワタシが疑問を持つのはだめ。
だって、それは人形として疑問を持つのは間違っているから。
部屋の中に入ると、知らない男性とベッドに寝ている知らない女性がいた。
他には人の姿はない。
「クレイク国王陛下、シャルロット様を連れて参りました」
「ふむ――。ずいぶんと調教が進んだようだな……」
「はい。ほら、シャルロット! 国王陛下に……自分の父親に挨拶をするのよ!」
メロウさんに手を引かれたワタシは、知らない男性の前に立たされた。
ワタシはメロウさんに教えてもらったとおり、「出来損ないの人形シャルロットです。よろしくお願いします」と伝えた。
「――ふむ。メロウよ、こやつは、もしや人物の名前などの認識が出来ておらんのか?」
「はい、その方が後々、都合がいいかと思いまして」
「なるほど……。たしかに下手に肉親だと思われると厄介だからな」
知らない男性とメロウさんが何やら話をしている。
にくしんって……。
――にくしんって何?
少し疑問に思ってしまった。
でも、すぐにその考えを捨てる。
前は、余計なことを考えて、メロウさんに聞いては何度も湯船の中に頭を浸けられて気を失うまで離してもらえなかったから。
最初は、一日何十回も「疑問に持つな」と怒られたけど、今は、そういうのは殆どない。
すごく苦しかった。
でも、それは全て「シャルロット様のためですから、わかりますよね?」と言われたから、きっとワタシが悪かったと思う。
「ふむ……、まぁよいか……。シャルロット、この女がお前の母親だ。この者をお前が治療するのだ」
「はい……」
男性に抱き上げられて女性が寝ているベッドの上に下ろされた。
顔を見ると、とても顔色が悪いように見える。
「解析……」
魔術の発動と共に、目の前にいくつもの単語が表示されていく。
テロメアの減少、ニューロンの減退などが書かれているけど……。
いつもと違って、何となくだけど分かるけど、分からない……。
「さあ、シャルロットよ。その女を治せたのなら、この指輪をお前にやろう」
目の前の男性は、ワタシに凝った鎖のような意匠がついた指輪を見せてきた。
それは目の前の女性が右手に着けている指輪とまったく同じようなモノで……。
ということは……つまり、目の前で寝ている女性は……。
「おかーさま?」
「そうですよ、さっさと治療をしなさい!」
ワタシの言葉に重ねるように、メロウさんが回復の魔術を使ってくるように指示してくる。
だけど……。
テロメアや、ニューロンなどという言葉が、言語が霧に覆い隠されているようでよく思い出せない。
でも……。
魔術を使わないと怒られるし……。
「治癒!」
ワタシは両手で、おかーさまの右手を握り締めながら回復の魔術を発動させた。
そして――。
「……失敗のようだな……」
「――ッ!? 申し訳ありません! この出来損ないが……」
「よい。ついでに試しておくか?」
「何をでしょうか?」
男性は、メロウさんと話をしていると腰に差している刃物を抜いて、ワタシの腕に刃物をつきたててきた。
血が、ベッドの上、白いシーツの上に赤い染みのように広がっていく。
痛いよ。
叫ぶほど痛い。
痛いけど……口にしたら殴られる。
それに、回復の魔術が、きちんと使えるようになるまでは何回かメロウさんにやられたことだから……。
「シャルロットよ、自分の傷を治してみせよ」
「――は、はい……治癒」
ワタシは、解析を使ったあとに回復の魔術を発動させて傷を治す。
「ふむ……。ルアルを再利用できないのは仕方なかったが……、まぁ一人回復の魔術師がいるだけで、周辺諸国との外交は格段に楽になるだろう」
男性は満足そうに、一人呟いたあとメロウさんに指輪を投げ渡していた。
「メロウ、ルアルの処分は任せたぞ? そうだな……回復の魔術が効かずに病状悪化により死亡にしておけばよいだろう。シャルロットもそれでよいな?」
目の前に居る男性は、何を言っているのだろう?
おかーさまは死んでないのに、どうして死亡って言っているのだろう?
でも、疑問に思ったら……。
思ったら……。
「いやです……」
知らないうちに声が出ていた。
「シャルロット!」
メロウさんの怒鳴り声が聞こえてくると共に、ワタシは床に叩きつけられたと思う。
ほとんど感覚がない。
「やりすぎだぞ!」
「申し訳ありません! ですが、この指輪を嵌めて回復の魔術を使わせれば問題はないかと……」
「――そうだな……」
二人の会話が、どこか異質に聞こえてくる。
それと同時に、どうしてワタシは、こんなに……。
「おかーさま……。だれか……たすけ……」
口から出かけていた言葉が途中で止まる。
右手には、おかーさまと同じ指輪がつけられていて……。
急速にワタシという存在が消えて……ワタシって……だ……れ……?
「――なっ!?」
「――えっ!?」
二人のご主人様の声と同時に、ワタシの右手に嵌められていた銀色の指輪が粉々に砕け散ると、声が降ってくる。
それは、荘厳で尊大で尊厳のある声。
「――まったく、人間というのはつくづく愚かな存在よ。自らの野望、欲望、利益のためならば他者を平気に踏みつけ、あまつさえ、自らの血を分けた子ですら利用するなど――恥を知るがよい!!」
怒りを滲ませるような声が耳元に聞こえてきたと同時に、二人のご主人様は部屋の入り口付近まで不可視の力で吹き飛ばされていく。
そして、ご主人様とワタシの間に一人の男性が姿を現した。
その風貌は、後ろからしか見ることが出来ないけど……。
漆黒の髪を短く切り揃えていた。
そして、身長も体格も、男性のご主人様よりも二周りは小さいはずなのに、どこか威風堂々としていて……威厳に満ちあふれているように見えた。
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コメント
柴衛門
魔王さんのその心意気に痺れるッ憧れる!