薬師シャルロット
薬師シャルロット(3)人形シャルロット
陽射しが顔にかかる。
ゆっくりと瞼を開けていく。
「――まぶし……痛い……」
ワタシは、咳き込みながら、自分の喉を触る。
そこで、ワタシは メロウさんに口答えをしたことを思い出す。
「……ううっ、痛いよぉ……」
首が痛い。
喉も痛い。
どうして……。
どうして……分からないから聞いただけなのに、どうして怒られたのか、ワタシには全然わかんない。
でも……。
「ワタシがいけない?」
だって、メロウさんが、ワタシがいけないって言っていたし……。
一々、疑問に思うのはいけないって言っていたから……。
ワタシはベッドから降りる。
部屋に置かれている姿見に向かって歩いていく。
足につけられた足かせが、歩くたびに音を鳴らす。
一週間前から、「頭が悪い子はつけないとダメです」と、メロウさんにつけられた鉄の球と鎖がついた足かせ。
とても重くて、歩くだけで両足に激痛が走る。
でも、メロウさんが来るまでに身支度しておかないと、「そんな事も出来ないのですか? この羽虫が!」と、怒られるからやらないといけない。
ワタシは、メロウさんの言うことを忠実に実行するだけの人形だから。
姿見の前に置かれている椅子に座って自分を見て、右頬が青くなっていた。
いつもよりもほほが、少し大きくなっている。
触ると、すごく痛い……。
一度、首を絞められてからと言うものの、メロウさんは、ワタシを立派な人形にしてくれるため、よく怒ってくれる。
きっと、それはすばらしいこと。
「えっと……解析」
寝ている間に、頭の中に刷り込まれた魔術を発動する。
すると、内出血、表情筋が腫れていると表示されていく。
言葉の意味は理解できないけど、何となく理解できる。
「治癒」
ワタシは、自分の顔に手を当てながら魔術を発動する。
何故か、魔術を発動する時だけ、見たことのない多きなガラス張りの建物や、馬を使わずに動いている人が乗った馬車のような光景が脳裏に浮かぶけど……よくわかんない。
魔術が発動すると、顔の腫れが見る見る引いていく。
ついでに両手両足の枷が嵌められている箇所にも「治癒」の魔術をかける。
光が両手両足を包んで一瞬で、真っ白な肌へと変わった。
なおったのを確認すると、すぐに髪の毛を梳く。
今日は、おかーさまを治療する大事な日。
ワタシみたいな出来損ないが、はじめて、この塔から出してもらえる日だから、きちんと身嗜みをしないと……。
髪の毛をアップ気味にしてから、ドレスを着る。
姿見で何度もチェックするけど、おかしなところはないと思う。
全部の支度が整うのと同時に、部屋の扉が開いてメイド服を着たメロウさんが入ってくると、ワタシの様子を観察している。
「少しは、ご自身で支度が出来るようになったようですね。出来損ないの人形――シャルロット様にしては上等です」
「こんな出来損ないに過分なお言葉ありがとうございます」
ワタシは、メロウさんにお褒め頂いたことを喜ばしく思いながらも、教えられた言葉どおり謝意を返す。
すると、メロウさんは満面の笑みを見せて「よく出来ましたね? えらいですよ? 私のお人形さん」と、ワタシの頭をやさしく撫でてくれた。
「でもね? 調子には乗らないようにね? 分かっているわね? シャルロット?」
「はい……調子に乗ってごめんなさい」
ワタシは、喜んだ自分を恥じた。
ワタシには生きている価値なんてないのに、何を人間みたいな感情を持っているのか……。
だから、ワタシは出来損ないなのに……。
「さあ、いきますよ」
何故か知らないけど、メロウさんは私の足枷と手枷を外してくれた。
でも、疑問に思ったらいけない。
だって人形は疑問に思ったらいけないから。
メロウさんに連れられて部屋から出て塔を降りる。
入り口から出ると。
見たことのない人が立っていた。
「シャルロット様、おひさしぶりです」
「……」
一切、話さないでいると目の前の男の人は眉を潜めてから近づいてくる。
「アレス、これからシャルロット様は、王妃様の治療をされるのですから、その前に余計な心乱れがあってはなりません。安易に私以外の人間が近づかないようにと、クレイク国王陛下からのお達しです」
「……国王陛下から? それは近衛兵の俺であってもなのか?」
「当然です」
「……だが、その様子は……」
「いきますよ? シャルロット様。彼はアレスです。貴女のことを心配しているのですよ? 声をかけましょうね?」
「ハイ、アレス。何時もワタシをマモッテくださってアリガトウゴザイマス」
ワタシはメロウさんに言われていたとおりの言葉を口にする。
するとメロウさんが握っていた私の右手が強く握り締められた。
よくわからないけど、間違ってしまったみたい。
でも、何が悪いのかわからない。
「――まて! 3ヶ月前と別人のようではないか?」
「別人? 気のせいです。それにシャルロット様は、回復の魔術も使えるようになったのです。そのためには多少、おかしいところが出てきても、仕方ありません」
「おまえ……」
「ヤメテ、アレス。わるいのは全部、ワタシ、だからイイノ」
「シャルロット様……」
どうして彼がここまでワタシごときに気を使うのか分からない。
でも疑問に持つことはいけない。
人形なのだから。
「アレス、国王陛下の指示に従わない者は国賊として処理されるわよ? 気をつけるようにね」
「――くっ!」
アレスって人が表情を怒りに歪めたのは分かった。
「ヤメテ! 怒らないで! きょうは、おかーさまを治療できる大事な日なの! 治せたら、おとーさまが指輪をくれるの! おかーさまとおそろいのやつなの!」
「――指輪?」
「もう、いいでしょう? いくわよ、シャルロット!」
メロウさんは、口早にまくし立てるとワタシの手を強く握り締めて歩き出した。
おかーさまのいる建物――後宮に向かって。
ゆっくりと瞼を開けていく。
「――まぶし……痛い……」
ワタシは、咳き込みながら、自分の喉を触る。
そこで、ワタシは メロウさんに口答えをしたことを思い出す。
「……ううっ、痛いよぉ……」
首が痛い。
喉も痛い。
どうして……。
どうして……分からないから聞いただけなのに、どうして怒られたのか、ワタシには全然わかんない。
でも……。
「ワタシがいけない?」
だって、メロウさんが、ワタシがいけないって言っていたし……。
一々、疑問に思うのはいけないって言っていたから……。
ワタシはベッドから降りる。
部屋に置かれている姿見に向かって歩いていく。
足につけられた足かせが、歩くたびに音を鳴らす。
一週間前から、「頭が悪い子はつけないとダメです」と、メロウさんにつけられた鉄の球と鎖がついた足かせ。
とても重くて、歩くだけで両足に激痛が走る。
でも、メロウさんが来るまでに身支度しておかないと、「そんな事も出来ないのですか? この羽虫が!」と、怒られるからやらないといけない。
ワタシは、メロウさんの言うことを忠実に実行するだけの人形だから。
姿見の前に置かれている椅子に座って自分を見て、右頬が青くなっていた。
いつもよりもほほが、少し大きくなっている。
触ると、すごく痛い……。
一度、首を絞められてからと言うものの、メロウさんは、ワタシを立派な人形にしてくれるため、よく怒ってくれる。
きっと、それはすばらしいこと。
「えっと……解析」
寝ている間に、頭の中に刷り込まれた魔術を発動する。
すると、内出血、表情筋が腫れていると表示されていく。
言葉の意味は理解できないけど、何となく理解できる。
「治癒」
ワタシは、自分の顔に手を当てながら魔術を発動する。
何故か、魔術を発動する時だけ、見たことのない多きなガラス張りの建物や、馬を使わずに動いている人が乗った馬車のような光景が脳裏に浮かぶけど……よくわかんない。
魔術が発動すると、顔の腫れが見る見る引いていく。
ついでに両手両足の枷が嵌められている箇所にも「治癒」の魔術をかける。
光が両手両足を包んで一瞬で、真っ白な肌へと変わった。
なおったのを確認すると、すぐに髪の毛を梳く。
今日は、おかーさまを治療する大事な日。
ワタシみたいな出来損ないが、はじめて、この塔から出してもらえる日だから、きちんと身嗜みをしないと……。
髪の毛をアップ気味にしてから、ドレスを着る。
姿見で何度もチェックするけど、おかしなところはないと思う。
全部の支度が整うのと同時に、部屋の扉が開いてメイド服を着たメロウさんが入ってくると、ワタシの様子を観察している。
「少しは、ご自身で支度が出来るようになったようですね。出来損ないの人形――シャルロット様にしては上等です」
「こんな出来損ないに過分なお言葉ありがとうございます」
ワタシは、メロウさんにお褒め頂いたことを喜ばしく思いながらも、教えられた言葉どおり謝意を返す。
すると、メロウさんは満面の笑みを見せて「よく出来ましたね? えらいですよ? 私のお人形さん」と、ワタシの頭をやさしく撫でてくれた。
「でもね? 調子には乗らないようにね? 分かっているわね? シャルロット?」
「はい……調子に乗ってごめんなさい」
ワタシは、喜んだ自分を恥じた。
ワタシには生きている価値なんてないのに、何を人間みたいな感情を持っているのか……。
だから、ワタシは出来損ないなのに……。
「さあ、いきますよ」
何故か知らないけど、メロウさんは私の足枷と手枷を外してくれた。
でも、疑問に思ったらいけない。
だって人形は疑問に思ったらいけないから。
メロウさんに連れられて部屋から出て塔を降りる。
入り口から出ると。
見たことのない人が立っていた。
「シャルロット様、おひさしぶりです」
「……」
一切、話さないでいると目の前の男の人は眉を潜めてから近づいてくる。
「アレス、これからシャルロット様は、王妃様の治療をされるのですから、その前に余計な心乱れがあってはなりません。安易に私以外の人間が近づかないようにと、クレイク国王陛下からのお達しです」
「……国王陛下から? それは近衛兵の俺であってもなのか?」
「当然です」
「……だが、その様子は……」
「いきますよ? シャルロット様。彼はアレスです。貴女のことを心配しているのですよ? 声をかけましょうね?」
「ハイ、アレス。何時もワタシをマモッテくださってアリガトウゴザイマス」
ワタシはメロウさんに言われていたとおりの言葉を口にする。
するとメロウさんが握っていた私の右手が強く握り締められた。
よくわからないけど、間違ってしまったみたい。
でも、何が悪いのかわからない。
「――まて! 3ヶ月前と別人のようではないか?」
「別人? 気のせいです。それにシャルロット様は、回復の魔術も使えるようになったのです。そのためには多少、おかしいところが出てきても、仕方ありません」
「おまえ……」
「ヤメテ、アレス。わるいのは全部、ワタシ、だからイイノ」
「シャルロット様……」
どうして彼がここまでワタシごときに気を使うのか分からない。
でも疑問に持つことはいけない。
人形なのだから。
「アレス、国王陛下の指示に従わない者は国賊として処理されるわよ? 気をつけるようにね」
「――くっ!」
アレスって人が表情を怒りに歪めたのは分かった。
「ヤメテ! 怒らないで! きょうは、おかーさまを治療できる大事な日なの! 治せたら、おとーさまが指輪をくれるの! おかーさまとおそろいのやつなの!」
「――指輪?」
「もう、いいでしょう? いくわよ、シャルロット!」
メロウさんは、口早にまくし立てるとワタシの手を強く握り締めて歩き出した。
おかーさまのいる建物――後宮に向かって。
「恋愛」の人気作品
書籍化作品
-
-
23252
-
-
549
-
-
353
-
-
15254
-
-
768
-
-
55
-
-
6
-
-
59
-
-
2
コメント
コーブ
おやおや~~