薬師シャルロット
退幼香
食事を摂ったあと、メロウさんが私に貴族としての心構えを学びましょうと、私を膝の上に乗せると読み聞かせてくる。
私は、あまり、そういったものには興味がなかったこともあり、上の空で頷いて聞いていた。
「シャルロット様は、こういう本は苦手ですか?」
「うんと……にがて――かな……」
だって、興味ないし……。
興味ないのを聞かされても、それは勉強と同じで身につかないと思う。
「そうですか……」
メロウさんが、少し落胆したように見えたのは気のせいだろうか?
それとも私のあまりのやる気の無さに根を上げたか……後者なら嬉しいんだけど……。
そう、考えていると部屋内に甘い匂いが立ち込めてきた。
「これは、御香?」
「はい、あまり根を詰めても仕方ありませんので、少し早いですがお昼寝に致しましょう」
「……まだ、だいじょう……あう……」
今日は、やけに意識がはっきりしていたから睡魔とは無縁だと思っていたけど、いつの間にか意識が掠れて瞼が強制的に落ちてくる。
「わたし……まだ……」
「大丈夫ですよ? シャルロット様。これは退幼香と言って、とてもいい子になれるお香ですからね」
「たいようこう?」
太陽香? また、すごい名前のお香が出てきた……な……。
私は、メロウさんの膝の上で、力尽きて眠ってしまった。
翌朝、目を覚ますと「おはようございます。シャルロット様」と、メロウさんがベッドに腰をかけて私の頭を撫でてきた。
お部屋の中は、甘いアロマが漂ってきていて、意識がハッキリとしないまま、メロウさんの胸に頭をうずめて私は眠りについた。
それからは、何日も夢うつつのまま、あまり役に立たない睡眠学習装置を枕元に置きながら寝ては起きて、ご飯を食べたら眠くなって寝る。
そんなことを繰り返す毎日。
「シャルロット様、今日もいい天気ですよ?」
「うん……まだねむいの……」
わたしは、まぶたをこすりながら大きなあくびをしてお部屋の中をきょろきょろと見渡す。
「ねえ? メロウ。きょうはなにをするの?」
「はい、今日はシャルロット様が、嫁がれる帝政国のお話でもいたしましょうか?」
「とつがれるってなに?」
「結婚することでございます」
「へー」
メロウさんは色々とものしりだな……。
「わたしがけっこんするの?」
「さようで御座います。クレイク国王陛下も、それを望んでいらっしゃいますので―ー」
「おとーさまも?」
「はい!」
わたしのことばにメロウさんがニコリと微笑んでくると私の頭を撫でてくる。
それがとっても心地いい。
「おかーさまも?」
「王妃様は、現在、病に伏せられておりますので……」
「そーなの?」
メロウさんが目を伏せて悲しそうな表情を見せてくる。
そんなメロウさんの姿を見ると、少し悲しくなってきた。
「おかーさまがね、わたしは回復の魔術がつかえるって言っていたの! だから、おかーさまは、わたしが治してあげるの!」
「そうなのですか? シャルロット様は回復の魔術が使えるのですか?」
「うん。おかーさまが、わたしは回復の魔術が使えるって! 言っていたの!」
「そうですか……。これはクレイク国王陛下にも伝えたほうがいいかもしれませんね」
「はにゃ? どーして、おとーさまに?」
「回復の魔術が使えるということは、この世界において稀有な才能なのです。ですから、それが使えるだけで他国との交渉が上手く行くのです。どんなに権力を持っている人間であっても、病にだけは勝てませんから」
「メロウの言っていること、むずかしく良くわかんないけど……わたし……誰かの力になれるの?」
「はい! それはもちろんです。さっそく回復の魔術の練習をしましょう!」
「はーい!」
わたしの力で誰かを助けられるなら、それが喜びだから……。
メロウさんがわたしの頭を撫でてきながら「順調ですね」と言っていたけど、よくわかんない。
でも、なんか分からないけど、こころのどこかで何か焦燥感のようなものがある。
「ねえ? メロウ」
「どうかいたしましたか?」
「うんとね……良く分からないけどね……何か大事なことを忘れているような気がするの」
「シャルロット様!」
「――な、なに!?」
突然、鬼気迫った様子でわたしに語りかけてきたメロウさんに、わたしは驚いてしまう。
「シャルロット様のお名前をフルネームで言っていただけますか?」
「わたしのなまえ?」
「はい!」
「えーと……シャルロット・ド・クレベルトなの」
わたしは首を傾げながら、どうしてシャルロットであるわたしに、名前を尋ねるような真似をしてくるのか訳が分からなかった。
でも、わたしの言葉を聞いたメロウさんは、優しく頭を撫でてくる。
「そうです。貴女はクレベルト王家第一王女シャルロット・ド・クレベルトです。それ以上でも、それ以下でもありません」
「う、うん……」
一瞬、見せたメロウさんの目はとってもこわかった。
いまは、そうでもないけど……。
きっと、わたしが悪いことを言ったから叱ってくれたのかも……。
「それでは、王族として貴族との関わりをどう折り合いをつけていくか学ぶとしましょう」
「うん!」
わたしは元気よく返事をする。
そうするとメロウさんは、やさしく抱きしめてきてくれるから。
私は、あまり、そういったものには興味がなかったこともあり、上の空で頷いて聞いていた。
「シャルロット様は、こういう本は苦手ですか?」
「うんと……にがて――かな……」
だって、興味ないし……。
興味ないのを聞かされても、それは勉強と同じで身につかないと思う。
「そうですか……」
メロウさんが、少し落胆したように見えたのは気のせいだろうか?
それとも私のあまりのやる気の無さに根を上げたか……後者なら嬉しいんだけど……。
そう、考えていると部屋内に甘い匂いが立ち込めてきた。
「これは、御香?」
「はい、あまり根を詰めても仕方ありませんので、少し早いですがお昼寝に致しましょう」
「……まだ、だいじょう……あう……」
今日は、やけに意識がはっきりしていたから睡魔とは無縁だと思っていたけど、いつの間にか意識が掠れて瞼が強制的に落ちてくる。
「わたし……まだ……」
「大丈夫ですよ? シャルロット様。これは退幼香と言って、とてもいい子になれるお香ですからね」
「たいようこう?」
太陽香? また、すごい名前のお香が出てきた……な……。
私は、メロウさんの膝の上で、力尽きて眠ってしまった。
翌朝、目を覚ますと「おはようございます。シャルロット様」と、メロウさんがベッドに腰をかけて私の頭を撫でてきた。
お部屋の中は、甘いアロマが漂ってきていて、意識がハッキリとしないまま、メロウさんの胸に頭をうずめて私は眠りについた。
それからは、何日も夢うつつのまま、あまり役に立たない睡眠学習装置を枕元に置きながら寝ては起きて、ご飯を食べたら眠くなって寝る。
そんなことを繰り返す毎日。
「シャルロット様、今日もいい天気ですよ?」
「うん……まだねむいの……」
わたしは、まぶたをこすりながら大きなあくびをしてお部屋の中をきょろきょろと見渡す。
「ねえ? メロウ。きょうはなにをするの?」
「はい、今日はシャルロット様が、嫁がれる帝政国のお話でもいたしましょうか?」
「とつがれるってなに?」
「結婚することでございます」
「へー」
メロウさんは色々とものしりだな……。
「わたしがけっこんするの?」
「さようで御座います。クレイク国王陛下も、それを望んでいらっしゃいますので―ー」
「おとーさまも?」
「はい!」
わたしのことばにメロウさんがニコリと微笑んでくると私の頭を撫でてくる。
それがとっても心地いい。
「おかーさまも?」
「王妃様は、現在、病に伏せられておりますので……」
「そーなの?」
メロウさんが目を伏せて悲しそうな表情を見せてくる。
そんなメロウさんの姿を見ると、少し悲しくなってきた。
「おかーさまがね、わたしは回復の魔術がつかえるって言っていたの! だから、おかーさまは、わたしが治してあげるの!」
「そうなのですか? シャルロット様は回復の魔術が使えるのですか?」
「うん。おかーさまが、わたしは回復の魔術が使えるって! 言っていたの!」
「そうですか……。これはクレイク国王陛下にも伝えたほうがいいかもしれませんね」
「はにゃ? どーして、おとーさまに?」
「回復の魔術が使えるということは、この世界において稀有な才能なのです。ですから、それが使えるだけで他国との交渉が上手く行くのです。どんなに権力を持っている人間であっても、病にだけは勝てませんから」
「メロウの言っていること、むずかしく良くわかんないけど……わたし……誰かの力になれるの?」
「はい! それはもちろんです。さっそく回復の魔術の練習をしましょう!」
「はーい!」
わたしの力で誰かを助けられるなら、それが喜びだから……。
メロウさんがわたしの頭を撫でてきながら「順調ですね」と言っていたけど、よくわかんない。
でも、なんか分からないけど、こころのどこかで何か焦燥感のようなものがある。
「ねえ? メロウ」
「どうかいたしましたか?」
「うんとね……良く分からないけどね……何か大事なことを忘れているような気がするの」
「シャルロット様!」
「――な、なに!?」
突然、鬼気迫った様子でわたしに語りかけてきたメロウさんに、わたしは驚いてしまう。
「シャルロット様のお名前をフルネームで言っていただけますか?」
「わたしのなまえ?」
「はい!」
「えーと……シャルロット・ド・クレベルトなの」
わたしは首を傾げながら、どうしてシャルロットであるわたしに、名前を尋ねるような真似をしてくるのか訳が分からなかった。
でも、わたしの言葉を聞いたメロウさんは、優しく頭を撫でてくる。
「そうです。貴女はクレベルト王家第一王女シャルロット・ド・クレベルトです。それ以上でも、それ以下でもありません」
「う、うん……」
一瞬、見せたメロウさんの目はとってもこわかった。
いまは、そうでもないけど……。
きっと、わたしが悪いことを言ったから叱ってくれたのかも……。
「それでは、王族として貴族との関わりをどう折り合いをつけていくか学ぶとしましょう」
「うん!」
わたしは元気よく返事をする。
そうするとメロウさんは、やさしく抱きしめてきてくれるから。
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コメント
柴衛門
恐ろしや…
コーブ
怖えーっ!!催眠学習恐るべし(-""-;)