薬師シャルロット

なつめ猫

思いの欠片(6)

「回復魔術者は、例外なく若い内に亡くなる……? これって、何かの物語みたく……代償が必要とか? そういったものが含まれていたりする?」

 あとは、白い光という項目が気になる。
 たしか、国王陛下と最初に適正を計ったときに、白い閃光が水晶球から迸ったはず。
 そう考えると、私の魔力適正は回復魔術ということになる。
 そして回復魔術者は、早期の段階で死ぬかもしれないと。

 でも、回復魔術が使えるから、どうして国王陛下は、私に会いに来なくなったのか……。

「――違う、たぶん……国王陛下は、回復魔術の適正を知らない可能性がある」

 よくよく考えてみればおかしい、
 だって、知っていたら会いに来なくなるなんて事はないと思うし、それに……、この部屋においてあった本には、回復魔術のことなんて何も書かれていなかった。
 それが平均的な魔術書の役割であったのなら……。
 そのことが弊害となって、回復魔術の適正を国王陛下が、知らなかったとしたら―ー。
 全ての辻褄が合う。

「……でも、代償が命を縮める行為だとすると――」

 あまり使いたくないというか、シャルロット本人の体である以上、私が死んだら彼女の体も死ぬ可能性が非常に高いから使ったらいけないと思う。
 そこで、私はふと気がついたことがあった。

 ――あの日。
 私が自殺未遂をした日、王妃様は、私を助けるために回復魔術を間違いなく使ってくれたと思う。
 それも、かなりの負担になった可能性がある。

「ハッ! も、もしかして……」

 メロウさんが王妃様の体は、あまり良くないと言っていた訳は……。
 その理由は、もしかして――。
 私のために、体調を崩した可能性があるってことじゃ……。

「なんという……こと……」

 私のために……。
 私なんかのために……。
 王妃様を助けないと! 
 彼女を助けないと――。

「シャルロット」
「――ッ、王妃様!?」

 思わず驚いてしまい声を上げてしまう。
 すると王妃様は、小さな言葉で「王妃様じゃないわよ? 親子なんだから。お母様でしょう?」と語りかけてきた。
 そして、後ろ手で扉を閉めて近づいてくるとベッドに座り私を抱きしめてきた。

「何かとても迷っているみたいだから心配できてみたの」
「そんな、もったいないお言葉です」
「もう! 私の体調が悪いのは、全て自分のせいだと思っているのでしょう?」
「……それは……だって――」

 言い淀んでしまう。
 そして――。

「お母様、もしかして――」
「ええ、隣の部屋から見ていたわよ? 表情がコロコロ変わって可愛かったけど、突然、沈んだ表情をするのは頂けないわね」
「……でも、私! お母様に迷惑をかけて――」

 そこまで言うと、王妃様は私の頭の上に手を当てて撫でてくる。

「今日は、もう寝ましょう!」
「え!? まだお昼前――」
「落ち込んだときには、寝て気分転換をするのがいいのよ?」

 王妃様が何を言っているのか意味が分からない。

「さあ、寝ましょう!」
「――あ、はい……」

 私の正体を、唯一知っている王妃様は、とても押しの強い方で、強く私を抱きしめてくると、そのまま横になってしまう。

「あ、あの……お母様! 近いです! とっても近いです!」
「大丈夫! 私は気にしないから!」
「私が気にしますから!」

 王妃様は私を強く抱きしめたまま瞼を閉じてしまった。
 私、お手洗い行ってないんだけど……。
 大丈夫かな――。

「はぁー……」 

 小さく溜息をつく。
 しばらくすると王妃様の寝息が聞こえてきた。
 すぐに寝てしまうあたり、やっぱり体調不良から疲れているのかもしれない。

 私は、本当にダメだな……と思ってしまう。
 それにしても……。
 抱きしめられて密着して初めて分かる。

「お母様、胸が大きい……と、言うか息が……息が、出来ない――」

 なんとか離れようとしたところで、小さく「シャルロット……」と、王妃様が名前を呼んだ声が聞こえた。
 そこで、私は動きを止める。
 しばらくすると、規則正しい寝息が聞こえてきた。
 やっぱり……王妃様は、自分の子供のことを――。
 シャルロットの事を思っているのかもしれない。
 それなら……。
 しばらくは、このままでもいいかも。

 それに、ひさしぶりにお母さんに抱かれているみたいで、とても安心する。


 ゆっくりと眼を空ける。
 まだ、日は明るい。
 そんなに寝ていた感じじゃないけど、不思議と頭はすっきりとしていた。

「良く寝ていたわね。どう? 疲れたは取れたかしら?」
「お母さま!?」
 声が上から聞こえてくる。
 上を見上げると大きな物体というか胸が二つあって、それが頭の位置に当たっていて、嫌がおうにも、その胸の大きさと柔らかさを実感させる。

「あ、あの……どうして、膝枕を……」
「膝枕がしたいからよ?」
「ど、どうして実の娘でもないのに、そんなに優しくするのですか?」
「だって、記憶を持ち越しただけだと思っているから。それとね、今は! 転生したけど、もう私の子供なのだから、優しくするのは当たり前なのよ? わかる?」
「なんとなく……」

 まったく、意味がわかりませんとはいえない私は、日本人風に曖昧に答えることにした。
 それにしても、王妃様は私が思っていたのと違って、とても行動的に見える。
 とても体が悪いようには思えない。

「それでは、食事にしましょう!」
「――え!? 食事ですか?」

 私の疑問に、「ええ、そうよ」と、王妃様は優しく笑顔を見せてきた。

「メロウ、すぐに食事の準備を――」

 王妃様がお声を張り上げると、すぐに部屋の中にメロウさんを筆頭に3人のメイドさんと、大きめのテーブルを持った男性が2名入ってきた。
 テーブルを担いできた男性は、私が普段食事で利用しているテーブルを片付けると大きめのテーブルを部屋の真ん中に設置して椅子を二つ並べていく。
 それが終わると、メイドさんがテーブルクロスを敷いた上に料理を色々と並べていく。

「王妃様、おわりました」
「ご苦労さまでした」

 王妃様が、労いの言葉をかけると全員が頭を下げてから部屋から出ていった。

「それじゃ、シャルロット」
「あ……はい……」 
「食事にしましょう?」

 王妃様は、私が挨拶を返す前に、ベッドから降りると私を両手で抱き上げてから、移動すると用意された椅子へと下ろした。
 そして、当然のごとく私の横の椅子に王妃様が座った。



 ……食事が終わったあと、私は姿見の前に座らされて髪の毛を、王妃様に梳かされている。

「――どう? 料理の味はしたかしら?」
「……ど、どうして――そ、そのことを?」
「だって、回復魔術師は、そういうものだから――」

 私は一瞬、首を傾げる。
 王妃様は、いますごく重要なことを言ったような……。
 私は料理の味がしない。
 つまり味覚障害のことを一言も誰にも言っていない。
 もちろん、それは王妃様に回復魔術をかけてもらう前に、発症したものであって、彼女が知るわけがない。
 なのに、それを知っているということは――。

「も、もしかして……」
「 回復魔術の中にはね、回復魔術をかけた相手の表層意識を読みとってしまうものもあるのよ?」
「――ええ!?」

 私は、驚いて王妃様の方を振り向く。
 すると後ろから私を抱きしめてきた。
 そして「少し、お話をしましょうか?」と語りかけてきた。




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